とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part10

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第9話『走れ、上条』


「……あーそうそう結標のやつが私のテーブルに来たのよ。そっからもう記憶がない……かな?うん、覚えてないわね。はい、じゃあここから説明して?ほら早く。」

 ソファに座っている美琴はかなり早口で隣の上条にそう言い放った。
 だが上条は質問に答えずに美琴を見る。

「……お前さ…なんでそう急かすわけ?」
「な、なんでって……早く真相が知りたいからよ!他に急かす理由なんてないでしょっ!」
「ふっふ~ん、上条さんをなめるなよ?」

 そう言いながら上条はニヤリと笑う。
 美琴は全身でこのままではまずいと感じたが遅かった。

「俺のキスの権利をほしがったことを思い出したからだろ?んでそれについて俺に聞かれたくなくて早く話を進めようとしたんだろ?」
「………あぅ…」

 思いっきり図星、今日の上条はキレキレだった。
 せっかくバレないようにしていたのに意味がない、美琴は上条と目を合わせないようにするのが精一杯だ。
 そうやって美琴が必死に平常心を保とうとしているのに、上条は相変わらずとんでもないことを言い出す。

「もう可愛いなミコッちゃんは~!!そうだキスしてやろうか?」
「ッッ!?ミコッちゃ……って何言ってんのよ!キスもしていらないから!!それより私はここまでしかちゃんとした記憶がないんだから早く何があったか話してよねっ!!」

 迫ろうとする上条と両手で押し、必死に貞操を守る美琴。
 相手が上条なのだから別に嫌というわけではないが、もうちょっといいムードの方が嬉しいに決まっている。
 美琴に押された上条はというと、ここはおとなしく引き下がった。
 と、思ったら……

「わかったわかった。全く……夜は素直だったのに……」
「…………ちょっと待った。」

 美琴の耳におかしな単語が聞こえた。それは上条から発せられた言葉。
 それは『上条が言った』からおかしいのではなく、それ自体がおかしい言葉だ。

「?どうしたんだ?」
「いや、あのさ……『夜は素直だった』……って、どういう意味?」
「…………」

 上条はその問いかけに対し何も答えない。少し顔を赤くするだけだ。
 それが余計に美琴を混乱に陥れる。

「ちょ、ちょっとなんとか言いなさいよ!!まさかアンタ私を抱いたって言うんじゃないでしょうね!!」

 混乱するあまりとんでもないことを口にしてしまったが美琴は気づけていない。それほどテンパっているのだ。
 すると上条は少し顔を赤くして

「え……抱いたって…そりゃ、まあ………抱いたけど…」
「抱いっ!………わかったぁ!!!アンタ偽物でしょ!!!!!!!」

 美琴は勢いよく立ち上がり、上条を指差した。
 上条は何を言おうと口を開きかけたが、美琴はそれよりも早かった。

「まず私とアンタがこ2人でね、寝てたってこの状況が怪しいわよ!!それに妹とか麦野とかが倒れてた理由、黒子が番外個体と寝てたこと、制服が濡れてたことも全部怪しいわ!!」
「………」
「それに一番怪しいのは今日のアンタよ!!頭なでたり妙に勘が良かったり、抱きしめようとしてきたり、挙げ句の果てには私のことだ、だ、だ……………ぃたって言ったり絶対偽物でしょ!?さあ正体を見せなさい!!さあ早くっ!!!」

 怒鳴りちらしたため息を切らす美琴。
 美琴が怒鳴っている間上条は黙って聞いており終わった後もしばらく黙ったままだった。
 あまりにも上条が何も言わないので落ち着きを取り戻した美琴は

(え……?なんで何も言わないの…?てっきり『偽物ってそんなわけねーだろ!』とか言ってくると思ってたのに……まさか…ほんとに…!?)

 美琴としては恥ずかしさをごまかすための冗談だった。
 だがその冗談が現実になってしまうのかと思ったとたん、美琴の心拍数は過去最大級に上昇し額に冷や汗が浮き出るのを感じた。
 そして上条は言う。

「正体ねぇ……わかりましたよ、その前に昨日何があったか全部話しますよ。御坂さん?」

 言い終わった上条はもう一度ニヤリと笑った―――――


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


上条「あー……えらい目に遭った…」

 上条はぐったりとした様子で舞台裏の隅っこのベンチに腰をかけていた。
 寮監に首を刈られてから1時間が経過、しかし大きく削られたHPは全くと言っていいほど回復していない上、何度もフルボッコに遭っているので体中が痛い。
 まだ倒れないの自分自身でを賞賛したくなる。まあさっきまで気絶していたのだが。

上条「それにしても……みんな元気だな。」

 11時を回ったというのに会場内はまだまだ騒がしい。
 会場内のいたる所で騒ぎ声が聞こえ、酒で酔っぱらった人も大勢いるようだ。パーティの参加者は未成年が大半だが、当然のようにアルコールの入ってる飲み物を飲んでる。
 また舞台上ではカラオケ大会が始まっており、今現在は建宮がウルフ○ズの『ガッ○だぜ』を熱唱している。結構うまいほうだ。
 もはや主役そっちのけで盛り上がりまくっている状態で、このままだとこのパーティは朝まで続くだろう。

 ちなみにこれまでの最高得点は97点、闇咲逢魔が歌った『千の風に○って』だ。かなりうまかった。
 こうして騒ぎまくる参加者たちだが、上条にはもう騒ぐ元気なんてない。

上条「俺は体力残ってないしもう無理だな……てか今日何回ボコボコにされたっけ?確か…御坂の手を握ったとき、プレゼントタイムのラスト、質問タイムではしびれて倒れて……んでビンゴ大会のラストでは首を刈られた、と………あれ?今日って俺を祝うパーティだったんじゃ?」

 今日1日を振り返ってみるとかなり不幸だった気がしてならない。

 確かにプレゼントは嬉しかったし料理は豪華で美味しかった。
 だが冷静に考えれば祝ってもらった以上にボコボコにされた気がする。つまり釣り合っていないということだ。
 さらに上条は今日の目的を未だ達成できていない。

上条「つーかあれだけのことがあったのにまだ御坂にお礼言ってない……」

 そう、美琴に手を握られさらには抱きしめる、などといろいろあったにも関わらず今だまともに話していない。
 ロシアまで来てもらったお礼を言えていないのだ。
 上条はため息をつく。

上条「はぁ……あんなことしちまったし絶対御坂怒ってるよな……でもお礼言わないわけにはいかないし…」

 あんなこと、とは当然誤って美琴を抱きしめてしまったことだ。

 上条はもちろん美琴が嬉しすぎて気絶したなんてこれっぽっちも思っていない。
 自分に抱きしめられたことが嫌で嫌で仕方がないから気絶したのだと勘違いしていた。
 まああのタイミングで気絶されたら鈍感な上条が勘違いするのも無理はない。

 上条は悩んだ。
 今日美琴にもう1度会うべきか、会わないべきか。
 美琴は抱きしめられたことに対して怒っている。(本当は怒っていないが…)
 怒っているのなら今日は会ってもろくに話を聞いてくれないかもしれない。
 だが今日会わなければ、昨日までのように避けられ続けてまた会えない日々が続くかもしれない。

 悩んだ末、上条が出した結論は

上条「……よし!!いつまでもグダグダ考えててもしょーがねーし、礼言いに行くか!!」

 上条は張り切って立ち上がり、舞台裏から会場内へと飛び出した。
 しかしすぐ1つ問題があることに気づいた。

上条「……御坂って…どこにいるんだ?」

 これだけ大勢の人がいるのだ。上条が移動している間に美琴も移動していてはどても会えるとは思えない。
 それに上条は本日の主役、適当に歩けば歩いただけ話しかけられたりして美琴を探すどころではなくなるだろう。

上条「……残された方法は電話…って怒ってたら出るわけないよ「あー上条さんなのー。」な…………誰でせう?」

 一歩目を踏み出した途端に名前を呼ばれた。
 声がした方向に顔を向けるとそこには見知らぬ少女がこちらを指差して立っていた。
 まさか記憶喪失前の知り合いか?などと思い、緊張しかけたがその緊張はすぐに解けることになった。

初春「え?あ!春上さんお手柄ですよ!!どうも初めまして、私は初春飾利といって御坂さんの友達です!!あ、こっちは佐天涙子さんと春上衿衣さんです。」

佐天「ちょっと初春!自己紹介くらい自分でするって!!どうも初めまして佐天涙子です!!」

春上「そうなの、私御坂さんの友達なのー。」

上条「御坂の……?どうもはじめまして。上条当麻です。」

 なんだかよくわからないがとりあえず挨拶はしておく上条。
 そんな上条を前に初春と佐天のテンションは上がりまくっていた。

初春「それでですね!今ちょっとお時間ありますか?」

上条「え?いや俺今から御坂に会いに行こうと思ってたんだけど……」

佐天「ッ!!?そ、それ本当ですか!?」

上条「え?ほんとだけど……なんかまずかった?」

 やっぱり美琴は尋常じゃないほど怒っているのか、上条は一瞬にして怖くなった。
 しかし初春は笑みを浮かべると

初春「まずくありません丁度いいです!御坂さんも上条さんに話があるって言ってたんですよ。じゃ、早速御坂さんがいるところに案内するんで付いてきてください。」

上条「ほんとか!?いや~助かるよ。ありがとな。」

 こうして上条は初春、佐天、春上の後ろについて美琴の元へと向かった。
 主役が会場を歩いているのだから引き止められたりするのではないかと上条は思ったが、
 今はカラオケでかなり盛り上がっていたり飲んだくれて酔っぱらっている人が多いのでそういうことはほぼなかった。

 また上条は知らない、初春たちががうまいことやって美琴に告白させようとしていることを。

初春「はい!あそこです!」

 少し会場内を歩いてから到着した丸テーブルを初春が指差す。
 確かにそこには美琴の後ろ姿があった。

初春「じゃ、私達はこれで失礼します!」

春上「失礼しますなのー。」

佐天「思う存分話しちゃってください!!それではっ!!」

上条「ああ、ありがとな。」

 上条を美琴の元に送り届けた美琴の友人3人は人ごみへと去っていった。
 これは初春と佐天の作戦だった。
 少しの間上条と美琴を2人っきりで話をさせいい雰囲気になれば3人が美琴の元へ行き少し助言をして上条に告白させようというものだ。

 そんなことを知る余地もない上条は1つ咳払いをしてから美琴の右隣のイスに座る。
 相変わらず会場内はうるさいが、上条はそれを気にせずに美琴に話しかける。

上条「御坂……怒ってるか?」

美琴「………」

上条「ごめん、そりゃ怒ってるよな。あれだけ多くの人前で抱きついちまったんだもんな。でもわかってくれ、あれはわざとじゃないんだ。」

 上条はまず抱きしめてしまったことを謝った。だが美琴は俯いたまま何も反応してくれない。
 正直かなり気まずいがそれでも上条は話すことを止めない。

上条「それからもう1つ言いたいことがあったんだ。ほら、ロシアまで来てくれただろ?ごめんな、あの助けを断っちまって。それから―――」

 これは上条が美琴にずっと言いたかったこと。ようやく言えたからか上条は安堵の表情を見せた。
 そしてもう1つ。

上条「ありがとな、わざわざ俺のために来てくれて嬉しかったよ。だからお礼とお詫びが言いたくて常盤台の寮にまで行ったんだ。こんなに遅くなっちまったけど……本当にありがとう。」

 上条は心から美琴にお礼を言った。
 だがやはり美琴は何も反応しない。ただただ俯いて黙っている。

上条「………まあ、言いたかったのはそれだけだ。抱きついたことは……ほんとにごめんな。」

 何も反応してくれないということはかなり怒っているのだと上条は解釈した。
 そして上条は立ち上がりその場を後にする―――

上条「ッ!」

 だが何か腰に違和感を感じ美琴のほうに振り返った。

美琴「待ちなさいよ……」

 美琴は座ったまま右手で上条の服の裾をつまんでいた。
 だがやはりうつむいたままでどんな表情をしているのかは上条にはわからない。

上条「御坂……怒って…ないのか…?」

美琴「怒ってる……?そんなわけないでしょ?」

上条「ほ、ほんとか!?……よかった…」

 上条はほっと胸をなで下ろした。
 しかしここで上条は美琴の様子がおかしいことに気づいた。

上条「……?御坂、お前なんか顔赤いぞ?」

 俯いているといっても頬くらいは見える。その頬が明らかに赤く染まっている。
 もちろん血とかじゃない。

美琴「そりゃ……赤くもなるわよ。だって……」

上条「だって……?」

 そして美琴は勢いよく顔を上げ―――――




美琴「私は当麻のことがだーい好きなんだもん♪」

上条「…………………………は?」



 まさかの告白、しかも満面の笑みだ。
 そんな美琴を前にした上条は体を美琴とは逆方向に向ける。

上条(いやいやそりゃねーよ。今のは幻覚幻聴。御坂が俺に告白なんてありえねーって。)

 ありえないこと現実に頭を軽く左右に振る。
 また上条は知らないが人ごみでは初春、佐天が呆然としている。2人にもなぜこうなったのか全くわからないのだ。

美琴「ちょっと~当麻~?無視しないでよ~。顔が赤いのは当麻の側にいるとドキドキが止まらないからなのよっ!」

上条「さて……俺も一曲歌ってくるかな…」

 上条が現実逃避に走ろうとしていると美琴は不満に思ったようで両手で上条の右腕を掴み

美琴「いいからここに座りなさいってば!」

上条「おおぅ!?」

 上条は強引に腕を引っ張られイスに座らされた。
 すると美琴は目を輝かせ上条の左腕に抱きつく。

美琴「えへへ~当麻好き好き~だ~い好き♪」

上条「ちょ、御坂サンっ!?」

 上条はわけがわからなかった。今の美琴は誰がどう見てもおかしい。まず普段上条は名前で呼ばれることはないし、デレデレすることもありえない。

上条「な、何がどうなって……ん?」

 上条がふとテーブルの上に視線をやると、そこには何本かのビンが置かれていた。
 ビンのほとんどは栓が空いておりグラスにはまだ液体が残っている。
 ここに到着したときにはただのジュースだと思って全く気にしなかったがよく見てみると……

上条「まさかお前……………酒飲んだのか…?」

美琴「な~に?当麻も飲みたいの?これ美味しいのよ~。」

 そう言って美琴は左手で未開封のビンを1本手に取り、上条に渡した。

 上条が渡されたビンの注意書きを読んでみると『学泉都市製でなんとなんと!いくら飲んでも酒臭くなりません!』とか書いてある。
 確かに美琴から酒の臭いは一切しなかった。
 むしろこう抱きつかれるとなんだか良い匂いがする。

上条「……なんで酒なんか飲んだんだよ…」

美琴「なんでってあわきが親切に持って来てくれたのっ!ね!あわき?」

 と、美琴が声をかけた先には

上条「結標!?大丈夫かおい!!」

結標「ふぇい?あーらいしょーふよ~。私をたれたとおも……グー…」

 そこには相当酔っぱらった様子の結標がいた。
 美琴が気絶して寝ていたベンチで横になっていたため上条の位置からは見えず、今まで気がつかなかった。
 これだけ酔っていては今日はもう復活できないだろう。

 本当は結標は美琴を酔わせてその隙に上条を狙おうと思っていたのだが、ミイラ取りがミイラになったいうわけだ。

 それはともかくすべて問題は解決した。美琴は酒を飲んでいた。
 だから酔っぱらってこの状態になってしまったのだとわかった。

 そして上条は安心した。
 安心した理由は簡単、美琴の性格がおかしくなったことに事件性がなかったからだ。

上条(魔術かなんかかと思ったら酒かよ……好きっていうのも酔ってるからか。ていうかこの様子だと俺の話全く聞けてねーな。)

 さっき言ったお礼と謝罪の言葉が無駄になったかと思うと少し悲しくなる。

 しかし上条はもっと早く気づくべきだった。
 何も問題は解決していないということを―――


浜面「ああーーーー!!!!!!!!!!!何してんだ上条!!!!!」

上条「はっ!?」

 スピーカーから大音量で浜面の声が会場内に響き渡った。とりあえずうるさい。
 上条がベンチに座ったまま舞台上を見るとそこには今から歌うところだったらしい浜面仕上がマイク片手にこちらを指さしていた。

 問題は上条を指さしているということ。
 それによって一斉に上条に視線が集まった。

上条「あ」

 上条は全力でまずいと思った。
 なぜならば

美琴「当麻~好きー、もう離れたくなーい♪」

 今上条の右腕には酔っぱらって性格が180°変わってしまっている御坂美琴がくっついているのだから。

上条「……俺死んだな。」

 今日1番の殺気を当てられ冷や汗が吹き出す。
 一方通行と番外個体が仲良く爆笑してるの見ると若干殺意が湧く。
 そんな上条の元にあの人物が現れた。

黒子「お姉様!!??!?」

上条「げっ!白井……」

 まるで般若のような形相の黒子は美琴と上条の側にテレポートしてきた。素で怖い。
 鉄の矢でも投げられるのではないかと上条が恐怖に怯えていると、黒子は顔をいつもの表情に戻してから誰もが予想しない言葉を発した。

黒子「……お姉様……わかりましたわ、そんな幸せそうな顔を見せられてはもう無理ですわね。2人の仲を認めますわ。」

上条「へ?」

 黒子のセリフにざわつく場内、黒子を知らない人からは『認めるってお前にそんな権利ないだろ』的な言葉が聞こえてくる。
 また上条の位置からは美琴の友人である初春、佐天が目が飛び出すほど驚いているのが見えた。
 だが上条は黒子の言っている意味がわからない。

上条「認めるってどういうこと?」

黒子「……そういえば上条さんはまだお姉様の気持ちに気づいていないのでしたわね。」

 やはりわからない。
 上条の頭の上にはクエスチョンマークが何個も浮かんでいた。それだけ黒子の言うことの意味が分かっていないのだ。
 上条は黒子の言うことの意味を必死に考える。

上条(御坂の気持ち……どういうことだ?考えられることと言えば、友達でいたい、ライバルでいたい……ひょっとして嫌われてる?)

 そう考えるのが上条クオリティ。
 明らかに間違ったことを考えたということは黒子にもわかったようで大きなため息をついていた。

黒子「まぁ…いずれ気づいてくれることを願ってますわ。そういえばお姉様は酔っているようですがフボッ!!?」

 ふいに黒子の口にビンが突き刺さった。

美琴「ほら~黒子~アンタも飲みなさいってば~、遠慮いらないわよ~?」

 美琴だ。美琴がテーブルの上にあったまだ中身の残っているビンを直接黒子の口につっこみ飲ませている。
 黒子は若干の抵抗は見せたが抵抗むなしくビンに入っていた酒半分をすべて飲み干した。
 飲み干したのを確認した美琴はビンを黒子の口から抜きそこらへんに投げ、再び上条の腕に抱きついた。

黒子「おにぇーしょま?な、なにょおなしゃるんで……?」

 もはや日本語になっていない。せっかくのいい場面が台無しになった。
 黒子はふらふらと千鳥足で数歩歩いたかと思うと、結標が寝ているベンチに倒れ込んだ。当然結標の上に、だ。

上条「白井!?大丈夫か?おい御坂お前いくらなんでもやり―――――」

 そこまで言って上条の言葉は途切れた。
 黒子を心配して隣のベンチに視線を移したところで上条の頬に何か柔らかいものが触れたからだ。
 その柔らかいものはゆっくりと離れた。

美琴「いっちゃダーメ!当麻は私のモノなんだから♪」

上条「み、み、み、美琴サン……イマナニヲ……」

美琴「何って……キスよ~♪ほんとは口にしたいんだけね。って当麻今私のこと名前で呼んでくれた?嬉しい!!」

 美琴は勢いよく上条の体に抱きついた。抱きつかれた上条は顔を真っ赤にして硬直する。
 頬にキスなら以前インデックスにもされたことはあったがあれは事故、こうやって意図的に可愛い女の子に抱きつかれほっぺにキスなんてされれば、いくら鈍感な上条でも心は揺れ動く。

上条「御坂まずいって……は、離れて……ん?」

青ピ「か~み~や~ん~……人前で何をいちゃいちゃしとるんや~?」

 ただならぬ殺気軍団の中から戦陣をきったのはデルタフォースの一角、青髪ピアス。
 その特徴的な青髪が逆立って見えるのは気のせいだろうか。
 青ピは指をボキボキと鳴らしながらゆっくりと近寄ってくる。

上条「待て!冗談抜きでマジで待て青ピ!今のは誤解だ!御坂は酔ってるだけで俺たちはそういう関係じゃない!」

青ピ「酔ってる?」

上条「ああ!ほらビンとか落ちてるだろ?だから御坂が俺を好きだっていうのはウソでキスしたもの酔っぱらった勢「そんなことないわ」い……」

美琴「私は本気で当麻のことが大好きよ?それに好きじゃない人にキスするわけないでしょ?」

 上条が必死に難を逃れようとしているところに水をさす美琴。そして美琴は上条に抱きつく力を強めラブラブ光線を発射する。
 そんなことをすれば皆さんの機嫌は最高潮に悪くなるに決まっている。

上条「は、はは………逃げるぞ御坂っ!!」

美琴「ふえ?わっ!」

 上条は美琴をお姫様だっこすると一目散に走り出した。
 一番近い出口まで約30メートル、決して長い距離ではないが上条にとってはその少しの距離が何十キロにも感じられた。

 後ろからは嫉妬と憤怒の感情を露にした集団がものすごい勢いで迫っている。


               捕まったら、死ぬ。


上条「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 上条は全力で走った。
 しかしさすがの上条も人1人だっこして走っているのだ。追いつかれないほうがおかしい。
 出口まで残り10メートルというところまできて神裂に追いつかれた。無言なのが余計怖い。

上条「うおっ!」

 その聖人の右手はがっちりと上条の服を掴んだ。もう逃げることはできない。

上条(ああ……終わった……)

 上条は死を覚悟した、しかし次の瞬間

神裂「ッ!?」

上条「おおお!!?な、なんだ!?」

 突然の複数のイスやテーブルが神裂を襲い、それらを神裂が弾いたので手が上条から離れた。
 さらに上条と美琴を守るかのようにどこからかとんできたテーブルが追っ手の道を塞ぐ。

建宮「な、何が起こったのよ!?」

レッサー「イスにテーブル!?どこから飛んできたんですか……!?」

??「そのテーブルなどはわたくしの能力、『空力使い(エアロバンド)』で操作しましたわ。」

青ピ「!?だ、誰や…?」

 驚いている一同がその声のした方向を見てみると、そこに立っていたのはなんともド派手なドレスを来て手に扇子を持っている少女。
 だが助けてもらった上条はその少女に見覚えがなかった。

上条「えーと……どちら様…?」

婚后「常盤台中学2年、婚后光子ですわ!御坂さんはわたくしの大切な友人……少し手助けさせていただきました。」

 なんとここでまさかの婚后光子。なんともド派手な登場である。
 婚后の後ろには心配そうに湾内と泡浮が見守っている。

 また人ごみの中には

佐天「婚后さん……むちゃするなぁ……」

初春「まあ婚后さんのおかげで御坂さんは逃げられたからいいじゃないですか!上条さん、早く逃げてくださーい!!」

 上条と美琴を応援する初春と佐天、無言だが春上も2人に急げ的な手振りをしている。

上条「なんかわかんないけどものすごく助かった……ありがとなっ!!」

婚后「お礼はいいから早く行ってくださいませんか?いくらこのわたくしでもこの人数を長く抑えることはできませんので。」

上条「わ、わかった!」

美琴「ありがとー!」

 そして自由になった上条は再び走りだす。
 残り7メートルを一気に走りきりドアを足で蹴って開け、会場を飛び出した。

上条「よしこのまま……え?」

 上条は思わず止まってしまった。なぜならばなんとそこには

小萌「だからタバコはダメだと言っているのですよ~!!早くアナタが大量にゲットしたタバコを含めて全部渡すのです!!」

ステイル「うん……やはりこのタバコが1番うまい。あ、貴女もどうです1本?」

 タバコをスパスパ吸っているステイルと、それを必死で止めようとしている小萌先生の姿があった。ステイルは全く小萌先生を相手にしていない。
 いつからここにいたんだ?と、思ったが2人を見た上条に名案が閃いた。

上条「先生!ステイル!!」

小萌「あれー?上条ちゃんじゃないですか。あ、そうだ聞いてください!ビンゴ大会でタバコをゲットしたことを含めてタバコについて注意しているのですが全く聞いてくれないのですよ!!」

上条「ステイル、いい加減やめとけ。(絶対止めないだろうけどな…)」

 なんだか小萌先生がかわいそうに思えた上条はステイルに注意をしてみるが、赤髪の神父は聞く耳を持たずにタバコを吸い続ける。
 そんなステイルを小萌先生は睨む。だが残念ながら全然怖くない。

小萌「……先生は諦めませんからね。……そういえば上条ちゃん、今カラオケしてるんじゃなかったんですか?それにその女の子は一体…?」

美琴「どうも!当麻の彼「違うから。」女………グスッ……」

上条「な、泣くな!!って、それどころじゃないんですよ先生。悪漢に追われているんです!!それでもうすぐこの扉から出てくる人を少しでいんで食い止めといてください!!ステイルもな!」

小萌「あ、悪漢!?ま、任せてください上条ちゃん!可愛い生徒さんを守るためならなんてことないのですよ!ほらアナタも協力するのですよー!!」

ステイル「なんでボクが……と言いたいところだけど今日はものすごく気分がいい。手伝ってあげないこともないよ。」

上条「ありがとうございます!!あ、俺は外へ行ったって言っといてください!!」

 ステイルにまで敬語でお礼を言う上条、それほどありがたかった。
 ちなみにステイルが機嫌がいいのはタバコをゲットできたからだけではなく、インデックスとかなり話をすることができたからだ。
 そして上条は美琴を抱え、頭の王冠を揺らし再び走りだす。

美琴「??どこ行くの当麻?」

上条「舞台裏だよ!外に出たと見せかけてこっちに隠れるんだ!」

 上条は自分で自分のことを超頭いいと思った。
 実はこのロビーからでも舞台裏に行ける通路があるのだ。

 こうして大慌てで舞台裏へ移動、意外なことに移動している間に会場内から人がなだれ出たような音や声は聞こえなかった。
 また舞台裏は誰もいなかったためか電気は少ししか灯っておらず、結構薄暗い。

上条「あー…疲れた…にしても俺を追いかけて外に出てくると思ったのに…みんなは何してんだ?これじゃせっかくの俺の作戦が…」

 美琴をイスに座らせ自分は舞台裏からこっそりと会場内の様子を観察する。
 とりあえず尋常じゃないくらい殺気立っていることはわかった。

上条(見つかったら確実に死ぬな……ずっとここに隠れとこ。)

 とりあえず舞台裏で待機することを決定、美琴にそれを伝えるために振り返ると

美琴「ねーねーとーま!どう?このメガネ?似合う?」

上条「え…あ、お前それは…」

 風斬がくれたメガネをかけて遊んでいた。
 実はプレゼントタイムの時にもらったモノは全て舞台裏においてあるのだ。

美琴「ねぇ…どうなの?」

 美琴はメガネをかけたまま上条に迫り、可愛らしく首を傾げる。
 その仕草に上条の中で何か電撃が走った。

上条「に、似合ってるよ…」

 不覚にも美琴を可愛いかも、と思ってしまった。いや不覚にもって別に悪いことではないのだが。
 言われた美琴はというとものすごく嬉しそうだ。

美琴「ほんとに!?えへへ~嬉しーなー…」

 満面の笑みを見せて頬を紅く染める美琴。
 なんだか和む。
 しかしそんな時間は長く続かない。

??「いたぞー!!上条だーっ!!!!!」

上条「っ!?」

 どこからかはわからないが上条を見つけたという叫び声が聞こえた。
 それと同時にものすごい轟音が鳴り響く。なんの音かはわからないがとりあえず身の危険を感じる。

上条(こ、こえぇぇぇぇぇぇえええー!つーかなんで見つかった!?どこにも人影は見えないし……)

 改めて舞台裏を見渡してみたがやはり誰もいるように思えない。
 だが見つかったことは確実、どうするかを瞬時に思いめぐらせる……前に美琴が心配そうに声をかけてきた。

美琴「見つかっちゃったの…?」

上条「え、ああそうっぽい。だから逃げるしか…ってお前何してんの?」

美琴「何ってここに隠れることできないかな~と思って。2人くらい入れるっぽいし♪」

上条「いやそれは……無理だろ甲冑の中は……」

 なんと美琴は上条がアックアにもらった甲冑の中に隠れようというのだ。しかも2人で。
 そんなことを言われてはいろいろと想像してしまう。

上条(いや確かにこの甲冑はかなりでかいよ?でもな、2人は絶対きついだろ……し、しかも御坂と入るってことはいろいろと当たったり……)

 酔っているせいで超笑顔で無邪気な美琴、そしてその前で顔を真っ赤に紅潮させ鼻血を出しかける上条。思わず美琴から顔を背けた。
 すると美琴が不思議に思ったのかふらふらしながら近づいてきて

美琴「ん~……何よ顔真っ赤じゃない!!も~当麻ったら照れちゃってかわい~♪ほらもう1回キスしてあげるっ!」

上条「い、い、いいやいいから!!上条さん別にそんなことしてほしくないからっ!いいから逃げようぜ!」

 頬にキスしようとする美琴から逃げるように遠ざかった。
 そんな上条に美琴は不満な表情を見せる。

美琴「むー……」

上条「むー、じゃねぇよ。まず逃げないと……にしても誰も来ない……?」

 確かにおかしい、もう上条を見つけたという声が聞こえてから2分は経っている。
 それなのに一向に誰も舞台裏には現れなかった。

美琴「みんな私たちを2人っきりにしようと思って空気読んでくれてるんだね!」

上条「絶対違う。何かの間違いで実はバレてませんでしたー、ってオチなのか―――」

 上条は気づいた。誰かが舞台裏に入って来た。入り口は薄暗く、上条が立っている位置からははっきりと見ることができない。
 すると上条より早く美琴がその入ってきた人物を認識した。
 だが美琴が口にしたのはここに今入ってくるのはまずありえない人物。

美琴「え……?当麻…?」

上条「な、何?俺?」

 上条は美琴の言葉に耳を疑い目を凝らす。
 だが上条の目に映った人物は当然のごとく自分とは違った。
 薄暗い入り口付近から光が当たるところまで歩いてきたのは紙袋を持った1人の優男。
 上条はその男を知っていた。

上条「……海原…お前か…」

海原「どうも、お久しぶりですね。」

 男の名は海原光貴、中身はアステカの魔術師エツァリで美琴に好意を持っている少年だ。
 彼はさらに上条と美琴に近づき、10メートル前くらいの所で立ち止まった。
 上条は突然現れた海原に少し驚きつつも尋ねる。

上条「みんなに見つかったと思ったんだけど……ひょっとしてお前が何かしてくれたのか?それになんでここに?」

海原「会場内の人についてはその通りです。まあ時間もないことですし詳しいことは今度話すとしましょう。そしてボクがここに来た理由ですが……単刀直入に言いますよ。」

 そこで海原は一旦言葉を切る。
 そして少し間を空けてから上条に一言。

海原「―――――御坂さんを渡してください。」


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