中編
上条は美琴の真横、ゼロ距離でぴったりくっつくようにして座り、話しかけた。
「…ちょっと今から俺は好きにしゃべってるから、適当に聞き流してくれ。
この距離が嫌なら、好きに離れていいし、席を立とうと構わねえ。俺はここにいる」
美琴は泣き止んだようだが、動かない。タオルを顔に押し付けたままだ。
「…ちょっと今から俺は好きにしゃべってるから、適当に聞き流してくれ。
この距離が嫌なら、好きに離れていいし、席を立とうと構わねえ。俺はここにいる」
美琴は泣き止んだようだが、動かない。タオルを顔に押し付けたままだ。
上条は両手を組んで、肘を腿の上に置いたやや前傾姿勢を取り、話し始めた。
「俺さ、…お前との記憶は、自販機に二千円札を飲み込まれていて、お前が話しかけてきた時からなんだ。」
(…!)
美琴の心に衝撃が走る。
「御坂妹も現れたりして、そりゃもう大混乱さ。その後、シスターズの一人が殺されたのを見ちまって…
お前んトコに忍び込んで事情を知って、…そうだ、俺はお前に白状しなくちゃならないことがある」
「橋の上でお前はこう問いかけた。『ソレを見てアンタは私が心配だと思ったの?私を許せないと思ったの?』と。
そこでは確かに『心配に決まっているだろ』と答えたし、ウソじゃない。でも」
一旦、言葉を切った。
「橋の上のお前を見るまでは、『許せない』と思っていたんだよ。そんな冷酷非道な女だったのかと」
「俺さ、…お前との記憶は、自販機に二千円札を飲み込まれていて、お前が話しかけてきた時からなんだ。」
(…!)
美琴の心に衝撃が走る。
「御坂妹も現れたりして、そりゃもう大混乱さ。その後、シスターズの一人が殺されたのを見ちまって…
お前んトコに忍び込んで事情を知って、…そうだ、俺はお前に白状しなくちゃならないことがある」
「橋の上でお前はこう問いかけた。『ソレを見てアンタは私が心配だと思ったの?私を許せないと思ったの?』と。
そこでは確かに『心配に決まっているだろ』と答えたし、ウソじゃない。でも」
一旦、言葉を切った。
「橋の上のお前を見るまでは、『許せない』と思っていたんだよ。そんな冷酷非道な女だったのかと」
美琴はそれ自体には衝撃を受けなかった。あの資料だけだとそう思うに決まっているし、だからこそ聞いたのだ。
「そう、橋の上に佇んでいるお前を見るまでは。あの絶望を形にした表情を見るまでは。
そして俺はコイツを救う、守ってやると心に決めた。二度とあんな顔をさせねえ、ってな」
上条はうつむいた。
「だけどさ」
美琴はハッとした。上条の声が、崩れた。
「そう、橋の上に佇んでいるお前を見るまでは。あの絶望を形にした表情を見るまでは。
そして俺はコイツを救う、守ってやると心に決めた。二度とあんな顔をさせねえ、ってな」
上条はうつむいた。
「だけどさ」
美琴はハッとした。上条の声が、崩れた。
「情けねえよなあ。俺の一言で、お前にまたあの絶望の顔をさせちまった」
上条が…泣いている?
「何を偉そうに御坂を守る、だよな。…二度とさせねえと誓っておいて、テメエでやらかしたんだからな」
美琴からは上条の顔は見えない。しかし泣いていることは、分かる。
「本当に、スマン…」
上条が…泣いている?
「何を偉そうに御坂を守る、だよな。…二度とさせねえと誓っておいて、テメエでやらかしたんだからな」
美琴からは上条の顔は見えない。しかし泣いていることは、分かる。
「本当に、スマン…」
少し間を置いて、上条はまた話し始めた。声のトーンは戻りつつある。
「何でもかんでも記憶喪失のせいにするつもりはないけど、俺は、人に…深く関われない。
分かんねーんだよ。俺に向ける好意が、前の俺に対してなのか、今の俺に対してなのか…
例えば、お前も知るインデックス、いるだろ。…アイツは俺に懐いてくれてるが、」
上条は目元を拭った。
「…俺はアイツをどう助けたのか、知らない。命の恩人だと聞かされちゃいるが、覚えていないんだ。
俺はアイツが何歳かも知らない。いつ知りあったのかも知らない。知ってるのは前の俺だけなんだ」
美琴は、衝撃の告白に驚く。
「何でもかんでも記憶喪失のせいにするつもりはないけど、俺は、人に…深く関われない。
分かんねーんだよ。俺に向ける好意が、前の俺に対してなのか、今の俺に対してなのか…
例えば、お前も知るインデックス、いるだろ。…アイツは俺に懐いてくれてるが、」
上条は目元を拭った。
「…俺はアイツをどう助けたのか、知らない。命の恩人だと聞かされちゃいるが、覚えていないんだ。
俺はアイツが何歳かも知らない。いつ知りあったのかも知らない。知ってるのは前の俺だけなんだ」
美琴は、衝撃の告白に驚く。
ふーっ、と上条はため息をつく。
「記憶を失った俺が目覚めたとき、初めて現れたのがインデックスだったんだ。とうまは私を助けてくれた、と。
推測だが、アイツを救った際に、記憶を失う衝撃を食らったんだろう」
上条は両手を組み直すような仕草をした。
「俺が記憶を失っている事を知ったら、自分のせいだと知ったら、インデックスはもう俺に呪縛されてしまう。
それは絶対にダメだ。俺がやろうとしていた事、俺がやるべき事、その結果は俺が負うべきものだ。」
「記憶を失った俺が目覚めたとき、初めて現れたのがインデックスだったんだ。とうまは私を助けてくれた、と。
推測だが、アイツを救った際に、記憶を失う衝撃を食らったんだろう」
上条は両手を組み直すような仕草をした。
「俺が記憶を失っている事を知ったら、自分のせいだと知ったら、インデックスはもう俺に呪縛されてしまう。
それは絶対にダメだ。俺がやろうとしていた事、俺がやるべき事、その結果は俺が負うべきものだ。」
美琴は思い出していた。上条への想いを確信した、あの深夜の街灯の下での会話を。
「…話が逸れちまったな。お前との話に戻る。
お前の中にある俺との出会い、そのイメージは俺の中にはない。
過去に、俺とお前にどう関わりがあったのか分からない…
さっきの『LV5のお前のプライドをズタズタにした』というコトバも、実のところ推測だ。
何をしたかも分かっちゃいねえ。」
お前の中にある俺との出会い、そのイメージは俺の中にはない。
過去に、俺とお前にどう関わりがあったのか分からない…
さっきの『LV5のお前のプライドをズタズタにした』というコトバも、実のところ推測だ。
何をしたかも分かっちゃいねえ。」
「シスターズの件から始まり、絆はそれなりにお前とは結べていったと思う。
そして、恋人ごっこや大覇星祭や罰ゲームや事件等を経て、俺の中で感じ取れていたのは…信用、だった。」
いや、信頼かな…ま、どっちでもいいか、と上条はつぶやく。
「電撃一つにしても、他の奴には即死級のモノをお前は俺に放つ。…俺が絶対止めると信用して。
白井をテレポーターから助けた時だって、最後は俺に任せてくれた。信用して。」
上条は一息入れて、続ける。
「でも、感情に関してだけは分からなかった…失った記憶のこともあって、判断しようがなかった。
嫌いなら、無視すればいいだけなのに、お前は絡んでくる。
好きなら、お前ならストレートに来るんじゃないかとも思う。
だから…」
一瞬、後ろの美琴を見るような仕草をする。
「だから、俺は…言葉にするとちょっと違う気もするが、『兄貴』みたいに思われているのかな、と思ってたんだ。」
そして、恋人ごっこや大覇星祭や罰ゲームや事件等を経て、俺の中で感じ取れていたのは…信用、だった。」
いや、信頼かな…ま、どっちでもいいか、と上条はつぶやく。
「電撃一つにしても、他の奴には即死級のモノをお前は俺に放つ。…俺が絶対止めると信用して。
白井をテレポーターから助けた時だって、最後は俺に任せてくれた。信用して。」
上条は一息入れて、続ける。
「でも、感情に関してだけは分からなかった…失った記憶のこともあって、判断しようがなかった。
嫌いなら、無視すればいいだけなのに、お前は絡んでくる。
好きなら、お前ならストレートに来るんじゃないかとも思う。
だから…」
一瞬、後ろの美琴を見るような仕草をする。
「だから、俺は…言葉にするとちょっと違う気もするが、『兄貴』みたいに思われているのかな、と思ってたんだ。」
ここで、初めて美琴は小さく喋った。「…兄貴。」
「…ああ、宿題を聞いてくるようなダメ兄貴、人のプライドをズタズタにする兄貴、好きか嫌いかと問われると
『好きじゃない』と即答される兄貴、でも…兄妹であるが故に、信用だけは揺るぎない、といったような」
「…ああ、宿題を聞いてくるようなダメ兄貴、人のプライドをズタズタにする兄貴、好きか嫌いかと問われると
『好きじゃない』と即答される兄貴、でも…兄妹であるが故に、信用だけは揺るぎない、といったような」
「俺が言った『好きでもないのにお見合い』ってのは、こういった思いから出たものだけど。
正直深い意味で言ったわけじゃない、が、言い訳にすぎねえよな。お前をここまで傷つけたんだ…」
美琴は上条の言う意味を理解した…が。
正直深い意味で言ったわけじゃない、が、言い訳にすぎねえよな。お前をここまで傷つけたんだ…」
美琴は上条の言う意味を理解した…が。
「…少なくとも私にとっては、兄貴じゃない…。」
「…そうか、そうだよな。やっぱりもうそこからズレて」
「だって、兄貴なら、夢になんて出てこない!」
「え?」
「アンタが夢に出てきて、デートしてくれたり、抱きしめてくれたり!目覚めたら悔しくて!でも1日幸せで!」
美琴の声はタオルでくぐもっていたが、明確に聞こえた。
「それのどこが兄貴よ!それはッ…!」
「…そうか、そうだよな。やっぱりもうそこからズレて」
「だって、兄貴なら、夢になんて出てこない!」
「え?」
「アンタが夢に出てきて、デートしてくれたり、抱きしめてくれたり!目覚めたら悔しくて!でも1日幸せで!」
美琴の声はタオルでくぐもっていたが、明確に聞こえた。
「それのどこが兄貴よ!それはッ…!」
美琴は上条を射抜くように見つめて叫ぶ。上条も左肩ごしに振り向いた。
「アンタぜんぜん私のことわかってないじゃない!記憶とか関係なしに!
なにが好きならストレートよ。冗談じゃないわ!
こんな電撃娘、アンタ以外のどこの誰が相手できるってのよ!
私の力を恐れる人、受け止められない人と一緒になれるわけないじゃない!
ううん、こんなチカラの話なんてきっかけに過ぎなくて、
もう理由が上げられないほど好きなのにっ!
私は…私はアンタに否定されたら、もうそこで終わりなの!
アンタの代わりなんてどこにもいないっ!ストレートに、なんていけるもんですかっ!」
「アンタぜんぜん私のことわかってないじゃない!記憶とか関係なしに!
なにが好きならストレートよ。冗談じゃないわ!
こんな電撃娘、アンタ以外のどこの誰が相手できるってのよ!
私の力を恐れる人、受け止められない人と一緒になれるわけないじゃない!
ううん、こんなチカラの話なんてきっかけに過ぎなくて、
もう理由が上げられないほど好きなのにっ!
私は…私はアンタに否定されたら、もうそこで終わりなの!
アンタの代わりなんてどこにもいないっ!ストレートに、なんていけるもんですかっ!」
上条は凄まじいまでの言葉の奔流に圧倒される。
「ええ、ついに言っちゃったわよ。
脅迫よねこういうの。
つきあってくれなきゃ死ぬ、って言ってるようなモンよね?
あーあ、だから今のままの関係でいきたかったのに…な…」
美琴の言葉はだんだんと力を失っていき…
そして、またタオルを目に当て、肩を震わせている。
「ええ、ついに言っちゃったわよ。
脅迫よねこういうの。
つきあってくれなきゃ死ぬ、って言ってるようなモンよね?
あーあ、だから今のままの関係でいきたかったのに…な…」
美琴の言葉はだんだんと力を失っていき…
そして、またタオルを目に当て、肩を震わせている。
『―――そんなお姉様にとって重要なのは、自分を対等に見てくれる存在と、まぁこんな所だと思いますのよ』
白井黒子の言葉が思い浮かぶ。
俺は、御坂の中でここまで大きい存在になってしまっていたのか…。
好き嫌いを超越した、必要不可欠な存在。
そんな中学生の女の子に、俺のことを好きじゃないんだろう、と言ったんだな。
くそっ、鈍感にも程がある。ほとばしるほど泣いて当たり前だ。
白井黒子の言葉が思い浮かぶ。
俺は、御坂の中でここまで大きい存在になってしまっていたのか…。
好き嫌いを超越した、必要不可欠な存在。
そんな中学生の女の子に、俺のことを好きじゃないんだろう、と言ったんだな。
くそっ、鈍感にも程がある。ほとばしるほど泣いて当たり前だ。
(言ってしまった…全部)
これでもう自分は空っぽだ。全部こぼれてしまった。
ああ、でも涙だけは無くならないなあ、と美琴はタオルに顔をうずめてぼんやり考える。
でも自業自得だ。
あーあ、せっかくの元旦をぶち壊しちゃって、親もあちらの親もたまったモンじゃないわね。
なんかもう、このまま消える方法は…
これでもう自分は空っぽだ。全部こぼれてしまった。
ああ、でも涙だけは無くならないなあ、と美琴はタオルに顔をうずめてぼんやり考える。
でも自業自得だ。
あーあ、せっかくの元旦をぶち壊しちゃって、親もあちらの親もたまったモンじゃないわね。
なんかもう、このまま消える方法は…
(え?)
頬を押さえられたかと思うと、額に暖かいものが押し付けられた。
「…!」
タオルをずらして見ると、上条の唇が離れていくところだった。
「ええっ!」
美琴がのけぞる。
「お前、オデコしか見せてねーんだから、しょーがねえだろ。ま、親も見てるしオデコ以外は厳しいけど…」
「キ…スした?」
「…ああ。カミジョーさんはこれ以上失言は許されないし、実際言葉じゃ足りないし。態度で。」
「ど…どうして?」
「どうしてとか意味不明。さっさと美鈴さんとこいって化粧直して貰ってこい」
そう言って、上条は美琴を腕をとって立ち上がらせ、そのまま引いて美鈴の所へ連れて行く。
頬を押さえられたかと思うと、額に暖かいものが押し付けられた。
「…!」
タオルをずらして見ると、上条の唇が離れていくところだった。
「ええっ!」
美琴がのけぞる。
「お前、オデコしか見せてねーんだから、しょーがねえだろ。ま、親も見てるしオデコ以外は厳しいけど…」
「キ…スした?」
「…ああ。カミジョーさんはこれ以上失言は許されないし、実際言葉じゃ足りないし。態度で。」
「ど…どうして?」
「どうしてとか意味不明。さっさと美鈴さんとこいって化粧直して貰ってこい」
そう言って、上条は美琴を腕をとって立ち上がらせ、そのまま引いて美鈴の所へ連れて行く。
美鈴は腕組みしながら苦笑いしている。
「あら~、美女台なしね。おっけー、あたしに任しといて」
「んじゃ任せました美鈴さん」
上条は手を振ってベンチに戻る。美琴は相変わらず両手でタオルを顔に当てたまま呆然としている。
「あら~、美女台なしね。おっけー、あたしに任しといて」
「んじゃ任せました美鈴さん」
上条は手を振ってベンチに戻る。美琴は相変わらず両手でタオルを顔に当てたまま呆然としている。
「王子様のキスはどうだった?オデコだったのが残念だったけど」
「え、えと、どういうことなの?キスとか、わかんない」
美琴はまだ何が起こっているのか把握できず混乱している。
「オデコにキスぐらいでオタオタするな!」
美鈴は美琴の胸をビシッと指差す。
「話はわかんないけど、美琴ちゃんが告白したんなら、当麻くんは受け入れた、って事だわよ」
(きっちり2人でケリつけるあたり…子供は勝手に育つものねー)
「え、えと、どういうことなの?キスとか、わかんない」
美琴はまだ何が起こっているのか把握できず混乱している。
「オデコにキスぐらいでオタオタするな!」
美鈴は美琴の胸をビシッと指差す。
「話はわかんないけど、美琴ちゃんが告白したんなら、当麻くんは受け入れた、って事だわよ」
(きっちり2人でケリつけるあたり…子供は勝手に育つものねー)
「あらあら~、雨降って地固まる、かしらねー」
「そうみたいですね。父親としては大変複雑ですが、ね」
「いい娘に育ってますな。喜怒哀楽がはっきりしていて、真っ直ぐだ」
「彼もいい男ですね。ちょっとプレイボーイぽくなりそうな気はしますが」
「あらあらー、私的には否定できないところを突かれちゃいましたわ、ね?刀夜さん」
「母さん、その振り方はやめなさい…」
「そうみたいですね。父親としては大変複雑ですが、ね」
「いい娘に育ってますな。喜怒哀楽がはっきりしていて、真っ直ぐだ」
「彼もいい男ですね。ちょっとプレイボーイぽくなりそうな気はしますが」
「あらあらー、私的には否定できないところを突かれちゃいましたわ、ね?刀夜さん」
「母さん、その振り方はやめなさい…」
上条は御坂母娘がホテル内に戻るのを目で追いつつ、
(とはいえさすがに俺の心が御坂一色という段階じゃねえ…)
下手をすると、その場しのぎだったのかとドロ沼になりかねない。
そしてインデックスや記憶喪失など、抱える問題も多い。
美琴が中学生と言う精神的に引っかかる所もある。
(とはいえさすがに俺の心が御坂一色という段階じゃねえ…)
下手をすると、その場しのぎだったのかとドロ沼になりかねない。
そしてインデックスや記憶喪失など、抱える問題も多い。
美琴が中学生と言う精神的に引っかかる所もある。
「ま、でも、2人で解決していけばいいんだよな。焦ることはねー…」
よっ!と立ち上がり、父親たちの所へ向かった。
よっ!と立ち上がり、父親たちの所へ向かった。