とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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匿名ユーザー

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Let's_go_shopping!


 10月になって2度目の土曜日。
 佐天からメールを受け取った美琴は、セブンスミストへと向かっていた。

「あ、御坂さん! こっちですよー」
 約束の時間よりは15分ほど前なのだが、セブンスミストの前ではすでに佐天が待っていた。
「ごめん待った?」
 大きく手を振る佐天に、美琴は小走りで駆け寄る。
「いえいえ。私も今着いたところですよ」
「そう。黒子も初春さんもまだみたいね。黒子ってば起きたらもう居なかったから、てっきり先に来てると思ったんだけど……」
 キョロキョロと辺りを見回す美琴。
 しかし、佐天は首を傾げて言った。
「白井さんなら今日は来ませんよ?」
「へ?」
「初春も白井さんも、今日は来ません」
「でも確かメールには4人って……」
 ポケットから携帯電話を取り出し、受信BOXを開く。
 佐天からのメールを選択して開けば、

『今度の土曜日、パーティ用の仮装コスチュームを4人で買いに行きましょう!』

「……、」
 表示した画面を佐天に見せる。
「ほら。やっぱり4人って書いてあるわよ」

 美琴は佐天からメールが届いた時のことを思い出す。
 補習中だという佐天から突然このメールが届いたのは一昨日。白井と初春と一緒にファミレスでお茶していた時のことだった。
「あ、佐天さんからメール」
「佐天さんは何と?」
「うーん。明後日一緒にパーティ用の衣装を買いに行こうってさ。4人って書いてるし、2人にも届いてない?」
「ちょっと待って下さい。今確認してみます」
 白井と初春が携帯電話を取り出して確認する。
 2人は顔を見合わせて頷くと、美琴へと向き直った。
「買い物、楽しそうですね」
「申し訳ありませんがお姉様、佐天さんにお返事して下さいな」
 にっこり微笑む2人。白井の方は何故か笑顔が固い気もするが、おそらく気のせいだろう。
「いいわよ」
 (私たちの分もまとめて)佐天さんに返事して欲しいと言う白井に、美琴は快く頷いてその場で返信した。

 と、そこまで思い返した美琴は、改めて佐天に問いかける。
「少なくともあの時は、黒子と初春さんも一緒に行く予定だったでしょ?」
「んー御坂さん。そもそも私、一度も白井さんや初春と一緒に行くなんて書いてないと思うんですけど」
「え? でも4人って言えば……」
「そうかもしれませんが、『誰』とは書いてないでしょう?」
「そりゃそうだけど。じゃあこの4人って一体……」
 言われてみれば確かに、白井と初春の口からはっきりと聞いたわけではない。美琴が勝手にそう思い込んで解釈していただけだ。
 小難しい顔になって考え込む美琴に、佐天はにっこり微笑む。
「まぁまぁ、そう難しく考えないで下さい。さっき連絡ありましたし、2人ももうすぐ来るはずですから」

 難題に挑むかの如くメールの文面に釘付けになっている美琴の横で、佐天はキョロキョロと辺りを見回す。
 それから1分も経たない内に、待ち人を見つけた佐天はパァっと顔を輝かせた。
「こっちですよー!」
 美琴を迎えた時同様に、大きく手を振って相手を呼ぶ佐天。
 その声に反応して振り向いた美琴の目に映ったのは、

「待たせちゃったかにゃー? カミやんの不幸体質のせいで結局ギリギリになっちまったぜい」
「いえいえ大丈夫ですよ。私たちもさっき来たばかりです」

 チャラそうな金髪サングラスの少年と、その後ろで疲れた顔をしているウニ頭の少年であった。


「ちょ、ちょっと佐天さん!! 何これどういうことか説明して欲しいんだけど!?」 
「へ? だから、今日は4人で買い物だってメールに書いたじゃないですか」
「なっ!? まさか最初からそのつもりで!?」
「どのつもりかは知りませんが、最初からこの4人のつもりでしたよ?」
 悪びれる様子もなく、飄々と答える佐天。そのニヤニヤとした顔は、悪戯の成功を喜ぶ子供のようだ。
「じゃ、じゃあ何でこの4人なのよ?」
 叫びだしたい衝動を堪え、あくまでも冷静を装って問い掛ける美琴。
 そんな美琴の疑問に答えたのは、意外にも上条であった。
「あれ、お前聞いてないのか? まだ衣装用意してないのがもう俺たちだけらしいぞ」
「は?」
「青ピは元から衣装持ってるらしいし、婚后たちは特注したって俺はコイツから聞いたけど?」
「そうなんだにゃー。白井さんと初春さんは風紀委員の活動が早く終わった日に2人で買っちゃったらしいぜい」
「そういうことです。だからこの4人なんですよ、御坂さん」
 上条と土御門の言葉を受けて、にっこりと微笑む佐天。
 しかし、美琴は顔を引き攣らせ、心の中で思い切り叫んだ。
(絶対嘘だーっッッ!!!!! っつかこの馬鹿! 何でこんないかにも嘘ですって感じの設定で納得しちゃってんの!?)
 とは言えど、もしも上条がこの佐天たちの企みを見抜くような少年なら、もともと美琴の気持ちをスルーすることもないだろうから、
 こればかりは仕方がない。
「まぁまぁ、そんな理由どうだっていいじゃないですか。4人全員揃ったことですし、買い物始めましょう♪」
 真っ赤な顔で口をパクパクさせる美琴を面白いと思いながら、佐天は集まった面々に向かってにっこりと笑った。

 4人がやって来たのは、例のハロウィンフェアの会場である。
 新しく入荷したようで、先週よりも多種多様なコスチュームが揃っていた。
「じゃあ早速、それぞれ気になる服を選んで試着してみましょう」
「それがいいと思うぜい。見てるだけと着た時では印象も変わるからにゃー」
「お? よくお分かりじゃないですか土御門さん」
「なーに、こんなのは常識だぜい?」
 ざっと見ても50着以上あるサンプル衣装がズラリと並ぶ試着エリアで、佐天と土御門が意気投合する。
 試着エリア自体は、夏にデパートなどでよく見かける水着売り場や浴衣売り場の特設コーナーみたいな感じだ。
 ごくごくシンプルな魔女コスチュームから、誰が着るのだろうと好奇心が掻き立てられるようなトンデモ衣装まで、
 本当に多種多様なコスチュームがそこに揃っていた。
「私はこれにします」
 佐天が手にしたのは紫を基調とした魔女っ子衣装だ。
「俺はこれにするかにゃー」
 土御門が選んだのは新○組モチーフと思われる和風コスチュームだ。ハロウィンとは関係なさそうな衣装だが、確かに面白そうではある。
「カミやんは何かいいの見つかったかにゃー?」
「んー。よく分からないってのが本音だな」
 頭をポリポリ掻きながら答える上条は、目の前に並ぶ色とりどりな衣装に困惑しているようだ。
 そんな上条の様子を目にした佐天は、自分の隣に立つ美琴と上条を交互に見て、あることを閃いた。
「だったら!」
 佐天が美琴の背中をポンと上条の方に押す。
「だったら御坂さんの意見を参考にしてみてはいかがです?」
「へ!? ちょ、ちょっと佐天さんいきなり何言って!?」
「お、佐天さんナイスアイディアなんだにゃー。第三者の意見は貴重だぜい」
 佐天の提案を土御門が後押しする。
 さすがは御坂さん応援隊、完璧なチームワークだ。


 一方の美琴は、佐天のせいで上条の目の前まで押し出されてしまったため、急な展開に再び顔を赤くしていた。
 しかし、そんな様子に全く疑問を抱かない上条は、目の前の美琴に向かって話し掛ける。
「あーそれもありだな。御坂、お前はどう思う?」
「ふぇ!? ど、どう思うって?」
「だから、上条さんに似合いそうな衣装はどれだと思いますかってことですよ。美琴センセー的にはどれがいいんだ?」
 上条は手近にあった衣装を適当に選んで、美琴がよく見えるように掲げた。
 右手には狼男、左手にはミイラ男の衣装を持っている。
「え、えっと、そうねー美琴さん的には……」

 まず、美琴は狼男の衣装に注目した。そして、その衣装に身を包んだ上条を想像する。
(狼男って満月の夜に男の人が変身しちゃうのよねー。もしもこの馬鹿がいきなり狼男になっちゃったら……え、いきなりここで!? 
 そんなの無理よ無理っ! で、でもアンタになら襲われても……ってストップ! やっぱり初めてが公園だなんて危な過ぎるわっ!!)
 訂正。想像ではなく、妄想である。
 一体何が危ないのか知らないが、今の美琴が危ない人なのは確かだろう。

「えーっと、御坂さん? いきなり固まってどうされたんでせうか?」
「……ハッ!? あ、いや何でもないわよ!? 何でもっ!! まぁ、狼男はちょっと危険じゃないかしら?(私には刺激が強すぎるものっ!)」
「危険な衣装ってあるのか?」
「け、結構あるもんよ?」
「ふーん。俺には違いとかわからないけどな。じゃあ、こっちは?」
「ミイラ男ね。どれどれ……」

 上条に促されるまま、美琴はもう一つの衣装に注目する。そして、先程と同じような妄想を繰り返して、
(み、見えないからってそんな……私は他の人からも見えちゃうんだからね? ……え、そ、そりゃダメじゃないけど……)
「こっちもダメでせうか?」
「ふぇ!?」
 不安げな上条の問い掛けで、美琴は我に返った。
「あ、そ、そうねっ! 危険過ぎるわっ!!」
 顔を真っ赤にして、鼻息荒く答える美琴。今の美琴に白井の変態さについてとやかく言う資格はないだろう。

「じゃあ一体、美琴センセーは上条さんに何が似合うとお思いで?」
「そ、そうね……アンタに似合いそうなのは……」
 これ以上の妄想は身を滅ぼすと気付いた美琴。
 気合を入れ直して、上条の衣装選びに取り掛かる。
「んーこれは色が違うし、これはデザインがイマイチね。このコンセプトはなかなかだけど何かが足りない気もするし……」
 10種類以上の衣装を次々とチェックしていた美琴は、ある一着で手を止めた。
「ねぇ。これなんてどうかしら?」
「おっ? やっと良さそうなのが見つかったか?」
「うん。王道だけど、アンタにはこれが一番しっくりくるんじゃないかと思うの。どう?」
 それはヴァンパイアの衣装だった。小道具の牙もセットらしい。
「ああ、いいと思うぞ。お値段も手頃で上条さんにはピッタリだと思われます。ありがとな、御坂」
 にかっと笑う上条。美琴が大好きな上条の表情の一つだ。
「こ、これくらいどうってことないわよ。それに、本当に買うか決めるのは試着してからでしょ?」
 素直になれない美琴は、頬を染めながらもツンとした答えを返した。


 美琴と上条がそんなやり取りをしていたすぐ側で。
 そんな2人の様子を見守っている者たちがいたことを忘れてはいけない。
 言わずもがな、『御坂さん応援隊』の佐天と土御門である。

「いいですねいいですね」
 目をキラキラと輝かせて興奮しているのは、応援隊の隊長でもある佐天だ。
「御坂さんのあのリンゴ具合! 耳の先まで真っ赤ですよ! いやー思わず食べちゃいたくなる可愛さですっ」
「あれでもまだ気付かないカミやんは、鈍感さギネスで断トツ1位間違いなしなんだにゃー」
 やれやれといった様子で、土御門が肩をすくめる。
「間違いないですね。しかしまぁ、御坂さんがあそこまでいい反応をしてくれるとは……
 あれ、間違いなくコスプレ上条さんを妄想してますよねー♪ 何かイケナイコトを考えている時の白井さんに通じるモノがあるような……」
「俺も青ピを思い出すぜい……。まぁとにかく、御坂さんの方がカミやんを意識しまくりなのは確かなんだにゃー」
 遠い目をする2人。類は友を呼ぶらしいが、お互いに随分と奇妙な友を持っているものだ。

「おーっ、結局あの衣装に決まったみたいですね」
「みたいだにゃー」
 応援隊が見守る中、ようやく美琴が一着のコスチュームを選び出した。
「んーヴァンパイアかぁ。確かに似合いそうですけど、面白みはないですね」
 どんなトンデモ衣装を期待していたのか、佐天はつまらなさそうだ。
 しかし、そんな佐天を怪しい笑みを浮かべた土御門が嗜める。
「いや、そう判定するのはまだ早いと思うぜい? 髪型をオールバックにすれば雰囲気も変わって化けるに違いないにゃー」
「オールバックですか!? ……なるほど確かに! ホスト系ヴァンパイアの出来上がりですね!! 土御門さん、ナイスアイディアですよっ」
 先程までとは一転して、表情を輝かせる佐天。
 上条当麻、パーティ当日の彼はオールバックに決定である。

「ところで土御門さん。今日の作戦はあくまでも『コスプレ御坂さんで上条さんを意識させちゃおうZE☆』ですよね?
 その点における本日の成果はまだ0ですが……どうします?」
「だにゃー。そろそろ仕掛けるべきだぜい」
 ニヤリと顔を見合わせる応援隊。
 2人して目的に利用出来そうな衣装を探し始める。
「あ、これなんかどうです?」
「いいと思うぜい。でもこっちもなかなかだと思うんだにゃー」
「確かに! どうしましょうか……」
 候補に上がった2つの衣装を前に唸る佐天。どちらも捨てがたい。
 しかし、その解決策はまたしても土御門によって打ち出された。
「だったら選ばせればいいんだにゃー」
「え? でも御坂さんの性格を考えれば素直に着てくれるとは考えにくいんですけど……」
「選ぶのは御坂さんじゃないぜい? もう一人、適任者がいるんだにゃー」
 土御門が視線だけで、その『適任者』を示す。
 それを見た佐天は、
「あーなるほど……そうですよね。選んでもらっちゃえばいいんですよね」
 その意図を理解し、意味ありげな笑みを浮かべた。
 2つの衣装を抱え、悪戯を企む子供のような佐天は言う。
「佐天涙子、出ますっ!」
 巨大ロボで戦場に赴くような勢いで、佐天はターゲット2人の元へ向かった。


「上条さん、衣装決まったみたいですね」
 2人の元に駆け寄った佐天は、明るい声で話し掛けた。
「ああ、御坂のおかげでな。上条さんはヴァンパイアを試着しようと思います」
「王道だけど似合うと思うのよね。佐天さんはどう思う?」
 まだ頬が染まっているものの、美琴の様子は先程までに比べてかなり落ち着いていた。
 時間の経過とともに、上条の側にいることにも慣れてきたようだ。
 だが、しかし。
「いいと思いますよ。でも、御坂さん」
 そんな美琴を、佐天は再び追い詰める。
「次は御坂さんが衣装を選ぶ番です。 どうぞお好きな方を選んで下さいっ!」

 ジャジャーン! と佐天によって提示された2つの選択肢。それは、
「「なっッッ!?!?!?!?」」
 思わず絶句する美琴と上条。
 それもそのはずで、佐天が持ち出したその衣装とは、
「こちらの可愛らしいメイド服が『黒猫ロリメイド』で、こちらのファンシーな服が『キャンディープリンセス』っていうそうです♪」
「そそそそんなの恥ずかしくて着れるわけないじゃない!?」
「なんか堕天使降臨の記憶が呼び起こされそうなんですけどっ!?」
 上条の脳裏に思い浮かぶ第三の天使の姿。
 それもそのはずで、佐天が持ってきた2つの衣装にはこんな札が付いていた。

『大好評シリーズに待望のロリシリーズ登場☆ 黒猫ロリメイド』
『お菓子が欲しいならここにあるよ♪ キャンディープリンセス』

 前者は間違いなく、あのゲテモノメイド服シリーズの新作だ。
 後者はシリーズものではないようだが、『私を食べて』がコンセプトらしく、これまたゲテモノには違いない。

「まぁまぁ、御坂さん。一度試着してみて下さいよ。気に入るかもしれませんよ? このファンシーな衣装とか、御坂さん好みじゃないですか?」
 ニヤニヤ顔で勧める佐天。
 確かに彼女の言う通り、『キャンディープリンセス』は少女趣味満載な衣装で、美琴の好みに合致するものがあった。
 ただ、フリルやキャンディーなどの可愛らしい装飾が多い一方で、露出度も半端なく高い。
「むむ無理っ! だってこれ布面積少なすぎるわよ!?」
「うーん。そうですか?」
 笑顔ですっとぼける佐天は、そのまま上条へと視線を移す。
「上条さんはどう思います? どちらを着た御坂さんが見たいですか?」
「へ!?」
 突然自分へと向けられた矛先に、上条は慌てて答える。
「い、いやーそういうのはやっぱり本人の意思を尊重した方がいいと思うぞ?」
「上条さんだってさっき御坂さんに衣装選んでもらったじゃないですか。
 迷ってる御坂さんに、今度は上条さんがアドバイスしてあげる番だと思いますけど?」
「いやでも俺は御坂みたいに衣装見ただけで似合うとか判断出来ないし……」
 上条がそう口にした瞬間、獲物を見つけた猛獣の如く、佐天の瞳に鋭い光が宿った。

「そうですか」
 残念そうな佐天の声音。
 諦めてくれたと思い、上条と美琴の両方は心底ホッとした。……のも束の間。
「じゃあ仕方がないですね」
 先程とは打って変わって明るい佐天の声音。加えて不自然なほどに微笑むその様子。
 ナニカマズイ、そう美琴が感じ取った瞬間。
「やっぱり御坂さんには2着とも試着していただきましょう♪」
「ふにゃあ!?」
 佐天から放たれたトンデモ宣告に、美琴は素っ頓狂な声を上げた。


 あの後、土御門が加わり2人がかりで説得されていた美琴。
 言うまでもなく、2人の矛先は対美琴の最終兵器となる上条にも向いていた。

「カミやんも本当は見たいはずだぜい? 男なら誰だって拝みたいはずだからにゃー」
「ですよねっ! 御坂さんのコスプレ姿ですよ? 白井さんなら卒倒モノですよ? そりゃ見たいですよね? だって男のコだもんですよね!?」
「そ、そりゃ、上条さんだって興味津々ではありますよ? し、しかしこれはちょっと……(なんか刺激が強すぎるような気が……)」
「ならば、はっきりと言うべきです! 見たいの一言を! 男らしく、さあ!」
「そうだぜい。……ハッ!! まさかカミやん。実は女のコに興味がないのか……? だからあれだけフラグを立てても全く回収しないのか?
 そうなのか? そうなんだな? カミやんはオネエだったんだにゃー!?」
 まさかの上条オネエ疑惑浮上。
 これには当然、上条も真っ向から否定する必要があったわけで、
「んなわけねーだろ! わかりましたよわかりましたわかりましたから素直に言ってやろーじゃねーか!!」
 プッツンと上条の中で何かが切れた。
 拳を固く握り、美琴の目を見据え、上条は腹に力を込めて言う。
「御坂!」
「ふぁい!?」
「私、上条当麻は、美琴たんが黒猫やお姫様になるところが見たくて見たくて仕方がありませんっッッ!! 是非2つとも試着して下さいっッッ!!」
「ふぇええええっッッ!?」

 最終的にはこの上条の「見たい」発言に、美琴が押し切られる形となった。
 そして、4人がそれぞれの衣装を持って試着室に入って、今に至る。

「意外と似合ってるじゃねーか」
「カミやんもなかなかだぜい? さすがは御坂さんだにゃー」
 女子の着替えが遅いのは世の常。
 少年2人はすでに着替え終わり、試着室の外に出てきていた。
 髪色やサングラスのせいで見た目チャラそうな土御門だが、意外にも和服が似合っていた。
 まぁ、土御門が陰陽師の一族であることを考えれば、本来はこういった和服の方が常なのかもしれない。
 上条の方も、土御門の言うように、美琴が見立てた通りに似合っている。

 少年たちに2分程遅れて、魔女っ子になった佐天が現れた。
「あ、お2人とも素敵じゃないですか!」
「佐天さんも素敵だぜい」
「ありがとうございます」
「佐天も出て来たし、後は御坂だけか……」
「あれ? 上条さん、随分と楽しみにしてるんですねぇ。きっと御坂さんもすぐに出て来ますよ。まずはどちらの服を選んだのか楽しみですよねーっ♪」
 しかし、この佐天の予想は外れることとなる。
 それから2分が過ぎても、美琴が試着室の中から出てくることは無かった。


 3分が過ぎようとした時。
「あーもうっ! 我慢の限界です!」
 待ちきれなくなった佐天は、美琴が使っている試着室の前で仁王立ちした。
「御坂さん、もう着替え終わってますよね? カーテン開けますよ!」
 すると、中から慌てふためく美琴の声が返ってきた。
「ま、待って佐天さん! まだ着替え終わってないの……」
「そんな嘘は通用しませんよ。今から10秒数えますから、その間に出てきて下さい。
 でないと、たとえ本当に御坂さんが素っ裸でもカーテン開けちゃいますからね!」
「ええっ!? そ、そんなっ!!」
「はーい、10、9、8、……」
「ちょ、ちょっと佐天さん数えるの早くないっ!?」
「7、6、……」
 美琴の抵抗も虚しく、はっきりとカウントを続ける佐天。
 残り約5秒で、間違いなくカーテンは開け放たれる運命にある。
「5、4、3、2、1、」
 まだ美琴は出て来ない。
 けれど、上条や土御門も注目する中、ついにカウントは終わる。
「0!」
 声と同時に、佐天はカーテンを開け放った。
 開け放たれたカーテンの向こうに立っていたのは、素っ裸の美琴

「っ!?」
「……これはこれは」
「ほほう」

なわけがなく。

 そこに立っていたのは、ロリメイドとなった美琴であった。
 余程恥ずかしいのか、熟したリンゴ以上に真っ赤な顔は俯きで、両手は短いスカートの裾を掴み、足は内股になっている。
「ね、ねぇ、もう脱いでいいわよね?」
「まだに決まってるじゃないですか。ていうか御坂さん、耳と尻尾もしっかり装着してくれなきゃ困ります」
「え、試着なんだしこれで十分だと……」
「十分じゃありません。この服は『黒猫ロリメイド』なんですから。ほら、これをこうして……」
 美琴が足元に放置していたセットの猫耳カチューシャと尻尾を、佐天が無理矢理取り付ける。

 こうして真の『黒猫ロリメイド』が誕生した。
 メイド服自体は極めてありがちなデザインだが、鈴付きのチョーカーとヒョコっと可愛らしく生えているような猫耳や尻尾が、
 普通のメイド服とは一味違うことを示している。
「やっぱりロリは偉大だぜい」
 舞夏一筋なはずの土御門でさえ、何かぐっとくるものがあったらしい。
 何がロリなのかはよくわからないが、あのゲテモノシリーズにしては珍しく普通のメイド服と言えるだろう。
「カミやんも、何か感想はないのかにゃー?」
 ニヤニヤと笑う土御門が問い掛けたが、上条は答えなかった。
 というより、答えられなかった、の方が正しいかもしれない。
「……、」
 そう、上条は目の前に突然現れた『黒猫ロリメイド』に魅了されていた。それはもう言葉を失う程に。
 応援隊の『コスプレ御坂さんで上条さんを意識させちゃおうZE☆』は、見事に成功していたのだ。


「ちょ、ちょっと……アンタが見たいって言ったんでしょ? 何か言ったらどうなのよ……」
 消え入るような声ではあったが、美琴が上条に向かって口を開いた。
 何とか上条の顔を見ようとしてはいるようだが、恥ずかしさのせいで完全に顔が上がっていない。
 いわゆる上目遣いになっている。
「っ!? お、おま、それは反則……っ!」
 思わず上半身を反らして、上条が美琴から逃げる。そうでもしなければどうにかなりそうな破壊力を、今の美琴は秘めていた。
 潤んだ瞳での上目遣い。加えて、スカートの裾をギュッと握っているせいで、面積が広がった絶対領域。
 美琴の無意識攻撃、上条への効果は抜群なようだ。
「ど、どうして後退るわけ!?」
「どうしてってお前それはっ!」
 まさか「可愛過ぎて理性が飛びそうだから」なんて、口が裂けても言えない上条。
 ヒクヒクと頬を不自然に動かしながら、美琴の視線に耐える。

「上条さーん? 見とれちゃうのはわかりますけど、ちゃんと言葉にしないとダメですよー?」
 ニヤニヤと上条の顔をのぞき込む佐天。
「綺麗だーとか可愛いーとか撫で回したーいとか、何か感想あるでしょう? てか言葉がダメならいっそ行動に出てもいいんですよ?」
「行動!? そんなデンジャラスなこと上条さんは致しませんよっ!?」
 しかし、佐天の言うことも間違いではない。
 上条の一言で試着を決めてくれた美琴に、上条が一言感想を言うのは礼儀であろう。
 言葉で言えないのならせめて態度で示せという佐天の言い分にも一理ある。
「……、」
 拳を固く固く握り、何やら覚悟を決めた上条。
 一歩一歩、カクカクとした動きではあるが、美琴の目の前へと歩を進める。
「ななな何よ? まさか文句でもあんの? しょ、勝負なら受けて立つわよ?」
 美琴本人はキッと睨んでいるつもりなのだが、潤んだ上目遣いでは怖くない。
 そんな美琴の顔をじっと見据え、上条は口を開く。
「文句なんてない」
「……え?」
「文句なんてない全くないあるわけがない」
「え、えっと……アンタ何言って……?」
 じっと美琴を見据えて言葉を紡いでいた上条だが、さすがに耐え切れなくなったようで、視線を横に外した。
 そして困ったように上条の顔を見詰めてくる美琴に対して、一言。
「御坂にすごく似合ってるから」
 頬を赤らめて告げた。
「っ!!」
 これには美琴も言葉を失う。嬉しさのあまり昇天しそうだ。

 上条の顔をまともに見ることが出来ず、再び俯いてしまった美琴。
 しかし、やられてばかりではない。勇気を振り絞って、自ら話し掛ける。
「じゃあどうして?」
「へ?」
「どうしてその…視線を反らすの?」
「っ!? それは……」
 再び繰り出される上目遣い攻撃に、上条は汗をかき始める。
「やっぱり似合わないからじゃないの? 見に耐えないとか?」
 自分で言ったことに表情を曇らせる美琴。
 言葉にしてしまったことで、それが真実であるかもしれないという不安が生まれたのだ。
「そっか…そうなんだ……」
 上条の返事がないことから、美琴のテンションは目に見えて落ちてゆく。
 悲しそうなその表情に、上条がギクリと反応する。このままでは泣かせてしまうかもしれない。
 だから、
「あーもう不幸だー!」
 突然、頭を抱えて叫んだ上条。
 そして、ガシっと美琴の両肩を掴んで言う。
「似合ってるっていうのは嘘じゃねえ! 不覚だけど可愛いとも思う! だけど」
 予想外の上条の言葉に、驚いて目を丸く見開く美琴。
 そんな美琴に対して一瞬の躊躇いを見せてから、上条は最後まで言い切る。
「だけど目のやり場に困るから……頼むから今すぐ脱いで下さいっ!」

 その後、『脱いで』の部分に過剰反応した初心な少女が盛大に漏電したので、この日のショッピングは2つ目の試着をすることなくお開きとなった。






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