とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

Let's_make_a_pumpkin_pie!


 10月末となった土曜日。
 明日はいよいよハロウィンパーティ当日だ。

 そんな土曜の10時頃に、美琴はとある自販機前に来ていた。
 別に蹴りに来たわけではない。とある人物との待ち合わせである。
「アイツいつまで待たせるつもりよ……」
 待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。もうちょっとで30分経つ。

 イライラし始めた美琴が久々に自販機を蹴ってやろうとか思い始めていた、その時。
「ごめーん。待ったー?」
 どこかで聞いたようなセリフが、そのセリフに似合わない男の声で聞こえてきた。
「待ったー? じゃ、ないわよ!!」
 電撃炸裂。ふざけたセリフとともに登場した待ち人を、美琴が問答無用で迎撃した。
「うおっ!? あっぶねー……冗談が通じない奴だなぁおい」
「アンタ、それが人を1時間も待たせた人間の言うセリフかしら?」
「いや、そりゃ悪かったけどさ。にしたって電撃は割に合わないって……て待てよ。1時間てお前、約束時間の30分前から待ってたのか?」
「そ、そうだけど……立ち読みしてた漫画が思ったより早く読み終わっちゃったから早く着いただけよ何か文句ある!?」
 息継ぎせずに言葉を並べ立てたせいで、少々息が荒くなる美琴。
 興奮したせいで、額からは青白い火花が散っている。
「いや文句とかないからその火花をどうかお納め下さい」
 迷わずその場で美しい土下座を決める上条。土下座の美しさを競う大会があれば、必ず優勝出来るに違いない。
「ふんっ。最初から素直にそうやってれば良かったのよ、馬鹿」
「申し訳ございませんでした、姫」
「もういいから立ちなさい。ただでさえ時間押してるんだから、早くアンタん家に行くわよ」
 情けなく土下座している上条に、美琴が右手を差し伸ばす。
 その手を取って立ち上がった上条は、美琴が左手に下げている袋に気付いた。
「それは?」
「ん? あ、これ? エプロンとかレシピとかよ」
「ああ、じゃあ俺が持つよ」
 上条は美琴が持っていた袋をヒョイと取り上げる。
「そんなのいいわよ」
「いいって。遅れたお詫びな」
 ニカっと笑って歩き出す上条の後を、美琴が慌ててついて行く。
 はぐれるわけにはいかない。なぜなら、
(やっと当麻の家に行けるんだ……!!)
 今日は美琴が初めて、上条宅を訪れる日なのである。


 先週、佐天から一斉送信されたメールにはこう書いてあった。

 ★ ★ ★

みなさーんっ
いよいよ来週は待ちに待ったハロウィンパーティですね!
というわけで、今日は役割分担を発表します☆

土御門さん&青ピさん

クラッカーを人数分お願いします。
他にも面白そうなパーティグッズがあれば是非!

婚后さん&湾内さん&泡浮さん

何でもいいのでお菓子をお願いします。
たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか
たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか
たとえば、パスティッチェリア・マニカーニとか!

御坂さん&上条さん

手料理担当

白井さん&初春&佐天

手料理担当

初春との独断ですが、ヨロシクお願いしますねw
手料理班はキッチンの広さとスキルの都合上、2つに分けてます。
作るものは相談して決めましょう★

ではではっ

 ★ ★ ★

 それは美琴にとってあまりにも衝撃的内容であった。
 読み終わった瞬間は、学区を越えてまでして手に入れた限定ゲコ太マスコットを、思わず握り潰してしまいそうになるくらい。
(あ、アイツと2人でててて手料理!?)
 しかも、2人が住んでいる寮の関係上、必然的に美琴が上条宅へ赴いて料理することになるわけだ。

 その翌日、佐天から電話が掛かり、互いの役割分担の詳細を決めた。
 美琴と上条に任された料理は、パーティのメインとも言えるもの。
『私たちは簡単なご飯ものを作るので』
 電話の向こうから聞こえる、佐天の明るい声。それが告げたのは、
『御坂さんたちはパンプキンパイを作って下さい♪』
 実にハロウィンらしいお菓子の名前だった。


 他愛もない会話を交わしていると、程なくして上条の寮へと着いた。
 先を行く上条の後を、美琴はドキドキしながらついて歩く。
 すると、とあるドアの前で上条が立ち止まった。
「ここが俺の部屋。さっきから言ってる通り、常盤台の寮とじゃ広さの綺麗さの比べ物にならないからな」
「わ、わかってるわよ」
 表札にある確かな「上条」という文字。その文字をじーっと見詰める美琴の頬は、みるみる赤くなってゆく。
(いつか私も上条美琴に……)
「おい、何突っ立ってんだ? 早く入れよ」
「ふぇ?」
 美琴が我に返れば、上条はすでに中に入っていて、美琴のためにドアを開いている状態であった。
「あ、う、うん」
 美琴が入った瞬間、背後でガチャンという音がする。上条が鍵を掛けたのだ。
「っ!!」
 緊張で背筋がぞくっとした美琴だが、上条は何も気にすることなく部屋へと上がる。
「ここが洗面所だから。手洗ったら早速始めようぜ」
「わ、わかったわよ。よーし……」
 何やら一人意気込んでから、美琴は靴を脱ぐ。
 部屋中に満ちる上条の匂いに、頭がくらっとするも同時に安心感を覚えた。
(せ、せっかくのチャンスだもん。料理が出来るってとこ、アピールするべきよね)
 脱いだ靴を綺麗に揃えて置き直し、手を洗うために洗面所へと入る。
 先に手を洗った上条が、すれ違い様に壁に掛けてあるタオルを指差した。
「あのタオル使えばいいから」
「あ、うん。ありがとう」
 しかし、手を洗い終えた美琴はタオルに手を伸ばしたところで固まる。
「……、」
 タオルがすでに湿っている。先に上条が使ったのだから当然そうなるわけだが、問題はそこではない。
(アイツ、顔も洗ってた)
 そう、暑かったのかは知らないが、上条が水で顔を洗ってタオルで拭いていた。ということは、
(これを触れば間接的にアイツの顔を触ったも同じっッッ!?)
 恋愛初心者、御坂美琴。
 彼女にとってこのハードルは高かった。

「やっと来たか。随分と遅かったな?」
「う、うっさい。女の子には色々とあるのよ」
「ふーん。まぁ、いいけどさ」
 結局、1分程固まった後に美琴はキッチンへ現れた。言うまでもなく、顔はリンゴのように赤い。
「お前のエプロン、そこに置いてあるから」
 そう言う上条はすでに自分のエプロンを付けていた。シンプルな青いエプロンで、ポケットなどが付いている実用的なタイプだ。
 一方、美琴のエプロンは実用的とはいえないデザインだった。可愛さ重視の薄いピンク色のエプロンで、白レースまで付いている。
「へぇ、なんか意外だな」
「どういう意味よ?」
「いや、てっきりカエル柄かと思ってたからさ」
「わ、私だってこういうのも持ってるわよ!」
 珍しくカエル柄でないのは、今日を意識しての選択だ。
 子供っぽいものが少女趣味になっただけで実際あまり大差はないのだが、美琴にしては大きな進歩と言えるだろう。


「よし。御坂が持ってきてくれたレシピもあるし、早速始めるとしますか」
「材料と器具は揃ってるわよね?」
「ああ。お前のメール見て、指示通りに出しておいたぞ」
 得意げにキッチンに並んだ調理器具を見せる上条。
「材料は……」
「卵やバターは冷蔵庫の中。調味料とカボチャはこっち」
 レシピを見ながら美琴が最終確認を行う。
「うん、下準備もバッチリ。バターもちゃんと2cm角で切ってくれてるし。さすが自炊してるだけのことあるわね」
「まぁな。でも、菓子作りは初めてだからさ。お手柔らかに頼みます」
「美琴センセーに任せなさいっ♪」
 何かすることがあるというのはいい。
 料理をするという目的があるおかげで、美琴は先程までのように過剰に上条を意識せず、リラックス出来るようになっていた。
「じゃあ、まずはどうするんだ?」
「水と卵黄を合わせて混ぜて。出来たら冷やしておいてね」
「お前は?」
「薄力粉とバターを混ぜるわ。あ、今からするのは生地作りね」
「おう」

 バターが米粒大になるまで美琴が混ぜ終わった後、上条が混ぜた冷水と卵黄を混ぜたものを加えた。
 生地を一纏めにするのは、上条が自ら進んで引き受けた。
 それをラップフィルムで丁寧に包み込んだ美琴は、冷蔵庫の扉を開けて言う。
「ひとまずこれで終わり。続きは1時間後、生地が冷えてからね」
「へ? もう終わりなのか?」
「冷えてからに型に敷くの。冷えてた方がさっくりとした生地が作れるらしいわよ」
 美琴はレシピに書かれたワンポイントアドバイスなる箇所を指差す。
「確かに。でもさ、御坂」
 上条はレシピに目を通して首を傾げた。
「こうなるって知ってたなら、生地づくりは俺が昨日の内に終わらておいた方が良かったんじゃないか? 
 このレシピを見る限り、生地を型に敷いた後にも最低1時間冷やすって書いてあるし、出来れば1日冷やした方がいいとも書いてあるぞ」

 もっともな上条の疑問。
 しかし、美琴は平然と答える。
「いいのよ、これで。この時間はお昼ご飯作るし、次の1時間だって他にすることあるし」
「へ? 昼飯、作ってくれるのか?」
「え、いらないの? 明太子クリームパスタ作るつもりなんだけど……」
 そう言って、美琴はエプロンを入れていた袋を指差す。
 どうやら中にはパスタの材料も入っていたらしい。
「いや、食べる! でも、次の1時間は? 何するつもりなんだ?」
「そんなの決まってるじゃい」
 美琴はさも当然といった様子で答える。
「アンタの宿題を片付けるのよ。どうせ今週もまた大量に出されてるんでしょ?」
「うっ!? なぜそれを御坂さんが知ってるんでせうか!?」
「聞かなくったってわかるわよ。いつものことじゃない」
「うっ……返す言葉がありません」
 高校生が中学生に宿題のことを指摘されるとはこれ如何に。
 とは言っても、相手は学園都市第3位にして大学レベルの授業を受けている少女。学力の差は明らかだ。
「わかったらエプロン外して、アンタは宿題に取り掛かりなさい。パスタは私1人で作れるから」
「了解であります……」
 土曜の昼前より始まった上条と美琴のパンプキンパイ作り。
 どうやら今日は美琴センセーの家庭教師dayでもあったようだ。


 お昼に食べた美琴お手製の明太子クリームパスタは絶品だった。
 本人曰く簡単な料理らしいが、上条が作るそれよりも遥かに美味しかった。
「ごちそうさまでした。いやいや本当に美味かったですよ」
「そう言ってもらえると作りがいあるわ」
 喜んで完食してくれた上条に、美琴はにっこりと微笑みかけた。
 口周りに少しクリームソースが付いている上条を、とても愛おしく感じる。
「そろそろ1時間経ったし、生地作りに戻りましょうか」
「おっ、もうそんな時間か」
 上条は2人分の皿を持って立ち上がると、キッチンへと運ぶ。
「洗うのは俺がするからさ。生地の方頼んでいいか?」
「いいわよ。そっちが終わったら手伝ってね」
「もちろんですよ」

 冷蔵庫から取り出した生地を、美琴はパイ皿より一回り大きくなるように麺棒で伸ばす。
 その途中で、洗い物を終えた上条が交代した。
「これくらいでいいか?」
「うん、いい感じ」
 出来上がった生地を型に敷き込むのは美琴の役目になった。
 上条曰く、「不幸な俺がやったら生地が破れるに違いない」ということらしい。
「これでパイの部分は完成か?」
「ううん、まだ」
 パイ皿からはみ出た生地をナイフで切り取りながら、美琴が簡潔に答えた。
「本当はこれで完成でもいいんだけどさ。せっかくのハロウィンだし、ちょっと手の込んだことしてみようかなって思うんだけど」
「どうするんだ?」
「ここにある余ってる生地と、そこに置いてある星形の型抜きを使うの」
「この型抜き、お前が持ってきたのか?」
「うん。まぁ、見てなさいって」

 美琴の手によって、余っていた生地から次々と可愛らしい星が生まれる。
「ね、卵黄ちょっと用意して」
「卵黄?」
「いいから、早く」
 上条が指示通りに卵黄を用意すると、美琴はそれを型に敷いた生地の周囲に塗り始めた。
 そして、それを接着剤代わりに、先程作り出した星を貼り付けてゆく。
「出来たっ!」
 最後に型ごとラップフィルムをして、美琴は再び生地を冷蔵庫に戻した。
「これでパイ部分は完成よ。最低1時間だけど、長ければ長いほどいいから、アンタの宿題を片付けてから次の作業に移りましょう」
 上条の方へと振り返り、にっこりと家庭教師モードへ移行する美琴。
「まずはさっき頑張ってたところ、見てあげるわ」
「是非お願いします、美琴センセー」

 この週末、上条が小萌先生から頂戴した宿題(と+αな課題たち)は、美琴の助けをもってしても3時間掛かってしまう多さだった。
 ちなみに、美琴1人でならば1時間足らずで片付けられる内容だったが、あくまで上条が理解出来るまで説明した結果が3時間なのだ。
「陽が大分傾いてきたわねー」
「そうだなぁ……って! もう16時前じゃねーか!?」
「まぁまぁ、これで明日も心置きなく騒げるんだからいいじゃない」
 にっこりと微笑む美琴が、上条には一瞬マリア様のように見えた。
 いやそれどころか、神様の御加護さえ打ち消すという右手を持つ上条にとって、課題という現実的な苦しみに共に立ち向かってくれる美琴は、
 実際のマリア様以上に尊い存在と言えるかもしれない。
「さてと。課題も全部片付いたことだし、作業に戻りましょうか。生地も3時間冷やせば十分だしね」
 美琴は脱いでいたエプロンを再び身に付けた。
「フィリング作るから、カボチャの種と皮を取り除いてくれる? 終わったらレンジで2分半ね」
「おー、了解」
 忘れない内に提出物を学生鞄の中へと入れ、上条も再びエプロンを身に付ける。
 2人のパンプキンパイ作りは、今再びスタートした。


 上条が裏ごししたかぼちゃに、美琴がサワークリーム、グラニュー糖、シナモンパウダーを順に加える。
「パイ生地出してくれる?」
「おいよっ」
 冷蔵庫から冷えたパイ生地を取り出す上条。
 滑らかになるまでフィリングを混ぜ合わせていた美琴は、出来上がったそれをパイ生地へと流し込む。
「ね、オーブン予熱してくれたのよね?」
「ああ。180℃だろ?」
「うん。じゃあこれを中に。タイマーは45分ね」
「わかりました美琴センセー」
「い、今はもう先生じゃないわよ馬鹿」
 ちょっと頬を赤らめて否定する美琴だが、まんざらでもないようだ。
 どのような形であれ、想い人に名前を呼ばれるのは嬉しいらしい。

 パイをオーブンに入れた後、2人は調理器具の後片付けを始めた。
 しかし、それも5分程で終わってしまい、今日1番の沈黙が2人を包む。
「……、」
「……、」
 料理も終わり、課題も終わり、あとはパイの焼き上がりを待つのみ。
 することがなくなってしまった今、美琴は例のタオルを目の前にした以来のテンパり具合を見せていた。
(ど、どうしよう……すごく緊張するんだけどっ!?)
 一方の上条も、見た目はともかく内心は心臓バクバクである。
(こんなしおらしい御坂、御坂じゃねえ! コイツこんなに可愛かったか!?)
 いや、それは恋する乙女に失礼じゃないか上条当麻。

 現在、美琴は上条と一緒に上条のベッドにもたれ掛かって座っていた。
 理由は簡単で、上条の部屋に椅子なるものがないからである。
 ちなみに、2人の間は30cmほど空いている。
「ね、ねぇ。テレビ付けてもいいかしら?」
「も、もちろんいいぞ。どうぞお付け下さい。何かいい番組やってるといいな」
 少しでもこの空気を変えようと、テレビを付ける2人。
 どうやら恋愛ドラマの再放送をしているようだ。しかも、ちょうど山場らしい。
『ヒロシさん……』
『もう君を離さないよ。君は僕のモノだ!』
『ヒロシさんっッッ!!』
……付けたタイミングが悪かった。
「「っ!?」」
 突然液晶画面いっぱいに映るとある男女のキスシーン。
 慌ててテレビを消した美琴であったが、それが余計に空気を重くした。
「「……、」」
 あからさまな過剰反応は、「意識してます」と言っているも同然なのだ。

「あ、あのな御坂」
「な、何よ?」
「気にしなくていいから、さ」
「な、何のことかしら? 別に私は何も気にしてないんだけど?」
 ツンとした態度をとる美琴。
 仮にもしここで、
『そんなこと言われたって意識しちゃうに決まってるじゃない! だって私、当麻のことが大好きなんだからっ!』
……とでも言えれば新たなカップルが誕生したのかもしれないが、残念ながら美琴がそんなに素直なわけもない。
「いや、気にしてないんならいいんだけどさ」
 ツンとした美琴に、ちょっぴり残念そうな笑顔を向ける上条。
(意識してたのは俺だけだったのかな……)
 そんなわけはない。ないのだが。
 鈍感な上条と素直になれない美琴は、互いの気持ちを読み取ることがなかなか出来ない。


 そのまま気が付けば40分経っていた。
 オーブンがアラームを鳴らして焼き上がりを告げる。
「あ、焼けた」
 キッチンへと戻り、オーブンを開ける美琴。
 開ける前からいい匂いが漂っていたが、焼き加減も完璧であった。
「わぁ! 美味しそうに出来たじゃない。ちょっとー、アンタもこっち来て見てみなさいよー」
 しかし、上条からの返事はない。
 不信に思ってベッドの方を見てみると、
「……、寝てる?」
 そう、上条は頭をベッドの上に乗せて寝てしまっていた。
 実は焼き上がる数分前から寝てしまっていたのだが、テンパっていた美琴は全く気付いていない
「もう、仕方ないわねー」
 肌寒い季節だ。このままだと風邪をひいてしまうかもしれない。
「ほら。まぁ、アンタ今日はよく頑張ったものね。お疲れ様」
 ベッドの上から毛布を引き抜き、上条へと掛けてやる。
 そしてキッチンへ戻ると、冷蔵庫を開けた。
「……なるほどね。よし、決めた」
 再びエプロンを身に付ける美琴。
 上条がまだ寝ているのを確認してから、美琴は再びキッチンに立った。



 上条が目を覚ますと、外は真っ暗になっていた。
「……あれ?」
 掛けた覚えのない毛布を見て、すぐに美琴がいることを思い出す。
「やべ! 寝ちまったのか俺!?」
 キョロキョロと辺りを見回すが、人の気配はない。どうやら美琴はもう帰ってしまったようだ。
「悪いことしたな……電話して謝るか」
 時計を見れば20時を回っていた。3時間ほど眠ってしまっていたらしい。

 キッチンへ行けば、冷蔵庫にメモ用紙が貼り付けてあった。
『パンプキンパイ、冷蔵庫の中で冷やしてます。白い箱のがそうだから、明日絶対忘れないように! 美琴』
 冷蔵庫を開けてみれば、確かに白い箱が入っていた。箱の側面には、なめらかな筆記体で『pumpkin pie』と書いてある。
「筆記体書ける奴ってカッコイイよなぁ」
 そんなことを呟きながら、冷蔵庫の扉を閉める。
 その際、上条はメモの続きがあることに気付いた。
 メモは告げる。
『P.S. 簡単なものだけど晩ご飯作っといたから食べて』

「晩ご飯?」
 冷蔵庫を再び開けるが、それらしきものは見つからない。
 どこにあるのかと周りを見回せば、調理台のところにラップフィルムが掛けられたそれが見つかった。
「これは……!」
 それは、美琴お手製の肉じゃがだった。
 まさに昨日、上条自身が肉じゃがを作るつもりで買っていた食材を、急遽晩ご飯を作ろうと思い立った美琴が使ったのだ。
 まだ温かいことを考えると、美琴は先程作り終わって帰ったところに違いない。
 再びレンジで温める必要もなく、上条はそれをそのままテーブルへと運んだ。
「いただきます」
 その肉じゃがは昼のパスタ同様、上条が作るそれよりもずっと美味しかった。
 何が違うってそりゃ美琴の愛が詰まってるから……というわけでなく、きっと上条にはわからない隠し味やポイントがあるに違いない。
 もちろん、上条が感じ取っているかは別として、美琴の愛がたっぷり含まれているは本当だろう。
「美味しい……アイツ絶対いい嫁さんになるだろうなぁ」
 そのアイツはお前の嫁になることを望んでいるんだよ、上条当麻。
 ……というようなツッコミを入れてくれる人がいれば良かったのだが、そんな都合の良い展開はない。
 しかし。
「勉強も見てもらって、こんな美味しいご飯も作ってもらえて、上条さんは本当に幸せ者ですな。御坂もビリビリさえしなきゃ可愛い女の子なんだもんなぁ」
 食べ終わった上条は、そんなことを呟くいて頬を染める。

 応援隊の作戦通り、恋する美琴の手料理は確かに上条の胃袋を掴んだのみならず、その鈍感な心をもちょっぴり動かせたようだった。


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