上条当麻の突撃!! ウチのクリスマス
クリスマスを翌日に控えた12月24日、上条当麻は肩を落として家路についていた。
「明日はクリスマスだというのに、なーんにも予定がない。はぁ……」
上条は現在高校三年生。おまけのおまけにもひとつおまけでなんとか進級させてもらったのだ。上条が進級できたのは担任の努力やクラスメートの優しさやとある超能力者の指導のお陰であることを上条は知っている。
それはさておき一昨年のクリスマスは祝ったり騒いだりしている余裕など無く、世界中を飛び回っていてクリスマスどころでは無かった。その翌年のクリスマスはクラスメートや上条勢力の仲間とワイワイ騒いで過ごした。だというのに
「なんで今年は皆予定が入ってるんだよ?今年もみんなでワイワイ過ごすとばかり思ってたのに」
それには訳がある。去年のクリスマスで『誰かと二人で過ごさないのか』と問われた時上条が『そうなれば良いんだけど』と答えたせいで上条には誘いたい相手が居るのだと皆が勘違いして上条に気を遣ったからだ。
「インデックスはステイル達と過ごすってイギリスに行っちまうし、家に帰っても一人……寂しい……」
吐く息は白い。独りであるという事が余計に空気を冷たく感じさせる。何か暖かいものでも飲もうと考えた上条はいつもの自販機へと向かった。
「あいつ、こんな所で何やってんだ?」
いつもの自販機へとやって来た上条が目にしたものは,キョロキョロと辺りを見回す御坂美琴だった。誰かが辺りを通る度にビクッと反応し、求めていたものと違うと分かると残念そうな顔をしてまたキョロキョロと辺りを見回す。しばらくの間眺めていたが、あまりにも挙動不審だったので声をかけることにした。
「捜し物は見つかりましたか? 御坂さん」
「それがまだなのよ。まったく、何処ほっつき歩いてんだか……ってうわあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!?」
「うわあぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!? いきなり大声を出すな!!」
「アンタが急に現れるからでしょうが!! そんなことより!! アンタ!! 今日の予定は!?」
「……へ?」
「……へ? じゃなくて!! 今日はなんか予定あるかって聞いてんの!!」
「……未定です」
「……未定?」
「その通り。今年の上条さんのクリスマスの予定は未定です。きっと誰も来ない一人きりのクリスマスです……はぁ……」
独りでクリスマスを過ごすことを思い出して本日何度目か分からないため息を吐く上条。その傍らでは、
「そっか、何も予定入ってないんだ……よーしだったら」
何やらぶつぶつと呟いていたが、
「アンタ!! 今日の晩は窓の鍵を開けたままにしておきなさい!!」
ズビシィ!! と上条を指差して妙な事を言い出した。
「ヤダ」
「何でよ!?」
「だって泥棒が入って来るかもしれないし」
「入ってなんか来ないわよ!! 何階に住んでるのよアンタは!!」
「だって二年前の夏休み最後の日に窓から侵入したって言ってた奴が居たんだよ!!」
「二年前の夏休み最後の日……」
何かを思い出した美琴が急に頭をブンブンと振り出した。あぁそういえばこいつと恋人ごっことかしたなーと上条がぼんやり考えていると、いつの間にか復活した美琴が
「兎に角!! 今日の晩は窓の鍵を開けたままにしておきなさい!! さもないと……」
「さもないと……?」
「ふふっ」
「怖えよ!! 何する気だよ!?」
「気にしない気にしない♪ ちゃんと開けておけば悪いことにはならないから」
「おい!? 待てよ!! 気になって今夜眠れなくなるだろうが!!」
言いたいことを言って美琴は去って行った。残された上条は
「とりあえず帰ろう……」
家路を急ぐのだった。
気が付けば夜だった。
「時間の進み方おかしくないか!? なんか前にもこんな事有ったような……たしか二年前の夏休み最後の日に」
気にしても仕方ないので気のせいだと思うことにした。
食事を済ませ、後は寝るだけとなったところで美琴に言われたことを思い出した。
「危ねえ、すっかり忘れてた。御坂に何されるか分からねえし、泥棒が入ってくることも多分、きっと、おそらく無いはずだし、一応開けとこう」
鍵を開ける時に、外を見てみれば、友達で集まって騒いだり、家族で出かけたり、様々なクリスマスの過ごし方をしている人々が見えた。
それが余計に、今自分は独りなのだという事を感じさせる。
「……もう寝るか。寝て過ごすクリスマスっても良いだろ」
寂しさを忘れようと電気を消し、ベッドに潜り込み、目を閉じた。眠ってしまえば何とかなると考えて、
気付いた。
コツ、コツと誰かが近付いてくる。しかもベランダ側から。
(誰も来ないクリスマスだと思ってたのに泥棒が来るのかよ!!)
上条が少しパニックに陥っている内に足音は上条の部屋のベランダで止まった。
(こうなったら返り討ちにしてやる!!)
上条が物騒な事を考えている内に人影はガラス戸を開け室内へと侵入し、上条の側へとやってきた。寝ているかを確認しているのだろう。そして部屋の照明のスイッチを入れたところで上条は飛び起き人影に掴みかかった。
「捕まえた!! 覚悟しろこの泥…棒……?」
「きゃあぁぁぁぁああ!? アンタ起きてたの!?」
飛び起きた上条が見たものは、サンタのコスチューム(スカートの丈の短い奴)に身を包んだ御坂美琴だった。
恥ずかしそうに身を捩りながら美琴は、
「か、感想とか意見とか、無いの!?」
なんて事を聞いてきたので思ったことを素直に口にした。
「えーと、とりあえずメリークリスマス。来年は玄関から入ってきてくれ。あとエロイ」
「あ、うんメリークリスマス。来年もいいの? あと恥ずかしいからエロイいうな」
「独りはやっぱりさしいしな。御坂さえ良ければ、だけど」
「良いに決まってるじゃない!! でなきゃこんな格好しないし今日の予定だって聞いたりしない!!」
「そっか。……ところで御坂さん?」
上条は部屋を見渡しながら疑問に思ったことを口にした。
「何?」
「ブレゼントは?」
プレゼントらしき物が無いのだ。
「ああ、私」
「……ん?」
「プレゼントは、私」
「……」
「もらって?」
可愛らしく首を傾げられた時、上条の中で何かが弾けた。
「御坂……」
ぐいっと美琴を抱き寄せた。突然の事に戸惑う美琴の耳元に
「今はこれで我慢してくれ。でもいつか、きっと御坂を貰うから」
そっと呟いた。
「それってどういう……?」
「さーてもう遅いし今日は寝るか!! あ、もう遅いし泊まっていけ、御坂」
「え……? そんなに遅い時間じゃないと思うけど?」
「独りは寂しいから居てくれって事だよ……あ」
「ふーん、つまりアンタは高校三年生にもなって独りが寂しいんだ。それでこの美琴さんに甘えさせて欲しいんだ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる美琴。しまったと思ったときにはもう遅い。
「仕方ないわねー。甘えん坊さんの当麻くんの為にも美琴おねーさんが泊まっていってあげましょうねー」
「子供扱いすんな!! もういい!! 俺は寝る!! お休み!!」
そう美琴に告げ、布団を敷き、(ベッドは美琴に譲った)寝転がって目を閉じる。そういえばさっきまで感じてた寂しさはすっかり無くなったなーとか、来年もこうして一緒に過ごせたらなーと考えている内に睡魔がやってきた。美琴が頭を撫でてくれている。その感触を味わいながら上条は眠りに落ちていった。
「ん……朝か……?」
布団から抜け出し部屋を見渡しても美琴の姿は無かった。
美琴が眠っていたであろうベッドに触れてみてもすっかり冷え切っている。
「あの格好は目立つだろうし、人目に付かない朝の早い時間に帰ったんだろう」
上条の脳裏をよぎったのは昨日の事。もしかしたら今から誘えば美琴と二人で過ごせるのではないか
「今日は俺が御坂の予定を聞いてみるかな。それでもし何も無ければ……それはまた後で考えれば良いか」
携帯を操作しながらそんな事を考えていた上条だが、美琴との通話中にクラスメートたちの訪問、インデックスの帰宅等、二人だけでのクリスマスはもう少しの間お預けになったのだった。