とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part16

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匿名ユーザー

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5日目 後編 その2


第15学区。 ここは学園都市でも最大級の繁華街である。
百貨店や飲食店が数多く立ち並び、放課後軽くデートするにはうってつけの場所だ。

そしてここにも一組のカップルが存在する。
ただしこのカップル、他とは少し様子が違う。
ツンツン頭の少年の方は周りを常に警戒しキョロキョロしていて、
常盤台の制服を着た少女の方は壊れかけのロボットのように動きがギクシャクしている。
中に老人でも入っているのだろうか。

「…なぁ美琴。 俺達周りからちゃんとカップルに見えてっかな?」
「どどどどどうかしらね!!? ま、まぁアレなんじゃない!?
 男女のペアが歩いてるだけでそれっぽく見えるんじゃないの!?」
「そっか……ならいいけど。
 (ステイルや建宮の連絡はまだか……絹旗も情報が入ったら電話くれるって言ってたけど大丈夫かな?)」
「て、ていうか周りからどう見られてるかなんてどうでもいいじゃない!!
 た、大切なのはお互いのき、き、気持ちでしょっ!?
 あたし達がカカ、カップ…ルだと思ってれば…何も問題…ない……じゃない……」
「そうはいかねぇだろ。 折角恋人(役)になって(敵を引き付けるために)デートしてるんだから、
 周りからカップルだと思われなきゃ意味無いだろ?」
「なっ!!!?」

上条のあまりに積極的な台詞に、赤い顔をさらに赤くする御坂。今なら通常の3倍の速度が出せるかもしれない。
普段の上条なら絶対に言わないような台詞なのだが、舞い上がっている御坂はその違和感に気付かない。

と、そこへ聞き慣れた声が聞こえてきた。

「そしたらよぉ、麦野のヤツ思いっきり原子崩しぶっ放してきたんだぜ? マジで死ぬかと思ったよ。」
「つーかデート中に思いっきり寝る彼女もどうかと思うぞ?」
「バッカ!そこが滝壺のカワイイとこだろうが! てかお前こそどうなん?郭ちゃんとうまくいってんの?」
「…何でそこで郭の名前が出てくんだよ、縁起でもねぇ。 俺はあの警備員のお姉さん一筋だっつの!」
「お前まだ黄泉川のこと諦めてなかったのかよ!! お姉さんっつーよりオバサン一歩手前じゃねぇか!!」
「んだとぉ!!? いくらテメェでも、もう一度俺の天使をオバサン呼ばわりしたらタダじゃおかねぇぞ!!!」
「ててて天使ぃ!!? えっどゆこと!? 撲殺天使ってこと!?」

言い争っている男が二人。
一人は分からないが、もう一人の茶髪の男は、

「浜面?」
「んあ? よう大将! ……相変わらず女の子引き連れて……」
「誰だ?」
「あー…そう言や、はじめましてだったか。 こっちの大将が上条当麻。ほら、この前言っただろ?」
「あぁ……すげぇモテまくって、酒池肉林のドンチャン騒ぎしてる人ってこの人か。 リア充って本当にいるんだな。」

浜面は一昨日の間違った知識【もうそう】を、そのままこの男に伝えたらしい。
こっちはこっちで面倒くさい誤解が広がっているようだ。


「その横にいるのが御坂美琴。」
「は、はじめまして……」
「御坂って…常盤台の超電磁砲!? お前LEVEL5の知り合い多くね!?」
「いや、まぁ、色々事情があんだよ…… で、コイツは服部半蔵。 俺がスキルアウトだった頃の仲間だ。」
「俺はお前がスキルアウトのリーダーになることを、まだ諦めた訳じゃ無いけどな。」
「服部ってまさか……」
「あ、やっぱ気付いたか。 そうコイツって実は―――」
「フクベエ?」
「そっち!? いや、確かに俺にとってコイツは友達だけども!!」

などと、どうでもいいことを聞いている場合ではない。

「あ、そうだ。 二人ともこの辺りで怪しいヤツ見なかったか?」
「……何かあったのか?」

浜面達の表情が険しくなる。
浜面も服部も、上条程では無いにしろそれなりの修羅場を潜り抜けている。
上条は何気なく言ったつもりだったが、そこから僅かな真剣味を二人は嗅ぎ取ったのだろう。
だが上条は先程、「狙われているのは恐らく自分一人である」という結論に至ったため、
浜面達を巻き込まないように、事件のことを言わずに説明する。

「あ、いや…そういう訳じゃないんだけど……ほら! 学園都市【ここ】って物騒なヤツが多いだろ?
 だから何があっても美琴を守れるようにさ。 一応聞いただけだよ、一応。」
「!!!」

上条の甘い言葉に、御坂はもはや限界寸前である。
そして浜面達は、「これが女にモテる秘訣なのか」と感心している。

「ア、ア、ア、アン…タに守って…もらわなく…たって…
 あた、あたしはLEVEL…5なんだから………別に…平気なん…だから………」

何だか御坂が後ろでゴニョゴニョ言っているが、声が小さくて上条の耳には届いていないようだ。

「で、別にいなければそれに越したことは無いんだけど……心当たりとかってないか?」

すると服部が腕を組みながら答えた。

「そういや昨日だけど見たぞ。 すげぇ怪しいヤツ。」
「!! どんなヤツだ!?」
「いや、何かパンツ一丁で走り回ってる男がいたんだよ……
 あっ! アイツどっかで見たことあると思ってたら今思い出した!!
 横須賀だよ横須賀! 浜面は知ってるだろ!?」
「あぁ、俺達とは別グループだったスキルアウトか。 たしかモツ鍋とかって異名の。」
「そうそう! モツ鍋の横須賀!!
 けどアイツならもう捕まってると思うぞ? 俺が風紀委員に通報しといたから。」
「……何でそこで警備員に通報しねぇんだよ。 うまくいけば黄泉川に会えたかもしれないのに。」
「バ、バッカ野郎!! そんなのキンチョーしちまうじゃねぇか!!」

何と、あの時モツ鍋さんを通報したのはこの純情少年半蔵くんだったようだ。
随分どうでもいい伏線を回収したものである。

どうやらこの二人は、事件とは全く関係が無さそうだ。
上条達は浜面達と別れ、デートを再開した。




上条と御坂はファンシーグッズの専門店にいた。
上条一人ではまず間違いなく、足を踏み入れることは無いだろう。
ただしこのお店、ゲコ太やらキティやらピカチュウやら、対象年齢12歳以下のキャラクターグッズが多い。
少なくとも中学2年生の御坂には、少々子供っぽい場所だ。
が、御坂は目をキラッキラさせていた。 ヨロシク仮面を見たマサルさんと同じ目をしている。

「カカカ、カッワイィ~~~!!!」

御坂は巨大ゲコ太のヌイグルミに抱きつき、モフモフし始めた。 お店の人にはいい迷惑である。
と、同時に反対側からも抱きつく人物がいた。

「この可愛らしさは犯罪です、とミサカは顔をスリスリさせます。」
「御坂妹か!?」
「はい。私は御坂美琴お姉様の体細胞クローン 検体番号10032号 単価にして18万円
 貴方から貰ったあだ名は御坂妹【プライスレス】
 現在無職【ニート】です、とミサカは懇切丁寧に自己紹介します。」
「いや…知ってるけど………」
「ア、アンタ何してるのよ!」
「その言葉をそっくりそのままお返しします、とミサカは返事をしながら再び顔をスリスリさせます。」
「やめとけって、一応コレ商品なんだから。」

上条に止められ、渋々ゲコ太から離れる御坂妹。
その後二人の目を真っ直ぐ見つめ、改めて問いかけた。

「お二人は何をしていたのですか、とミサカは再び質問します。」
「何って……」

言いかけて上条はハッとする。
御坂妹は基本的に無表情だ。
だがそれでも三ヶ月近くの付き合いがある。そしてそれは、今の上条にとって人生の半分以上の時間だ。
彼女ら妹達に、徐々に個性が出始めたことも相まって、多少は表情が読めるようにはなってきた。
だからこそ分かる。 御坂妹の表情は、期待と不安の混ざったような、そんな切ない感じなのだ。
そしてその顔は今日散々見てきた。
姫神や吹寄等クラスメイト。神裂や五和等イギリス清教組。
そう、魔術か能力によって無理やり上条【じぶん】に想いを寄せさせられている
(と上条は思い込んでいる)少女達と表情なのだ。
上条は苦虫を噛み潰すような思いで質問に答える。


「何って…デートだよ。 見ての通りな。」
「!!! では…お二人は付き合っているという認識で宜しいのですか、とミサカは確認を取ります。」
「ああ、間違いねぇよ。 だよな?美琴。」
「しょ、しょうね……」

御坂はろれつが回っていない。 今ならサワーをシャワー、ローソンをローションと言ってしまうだろう。
今まで何とか我慢してきたが、もはや漏電寸前である。

二人が恋人同士になったことを知り、御坂妹はキュッと唇を噛んだ。
それでも彼女はいつも通りの無表情で、いつも通り無機質な言葉を言う。

「そうですか。 それはおめでとうございます、とミサカはお二人に祝福の賛辞を贈ります。」

だが上条には、彼女が今にも泣きそうな顔をしているように見えた。

「あぁ…ありがとな……」

そう言って上条は御坂妹の頭を撫でる。
それは幻想殺しが効くかもしれないから、という理由だけでなく、何となくそうしてあげたかったからだ。
御坂妹は一瞬上条の顔を見て、すぐに俯いた。
そして迷いを振り払うかのように明るく聞いてきた。

「ちなみに貴方はお姉様のどこが好きなのですか、とミサカは少しイジワルな質問をします。」
「ぅえっ!!?」

思わぬ質問に上条はたじろいだ。
助けを求めて御坂の方をチラッと見るが、御坂も興味があるようで顔を赤くしたままこちらをじっと見ている。
上条は頭をガリガリ掻いた後、御坂が好きな理由【せってい】を必死で考える。
だがそれは、自分が思っていたよりも、意外なほどにすんなりと口から出てきた。

「美琴って何て言うか…危なっかしいんだよ。 悩みを自分一人で抱え込んで、独りで解決しようとするからさ。
 だからせめて俺くらいは支えてやりたいって言うか……
 どこが好きってよりも、俺が自分から一緒にいてやりたいって感じかな。
 悪い、うまく言葉にできねぇわ。」

それは上条が今考え付いた嘘なのか、それとも本心なのか、それは分からない。
ただひとつ言えることは、とうとう御坂が限界を超え、本日二度目の気絶【ふにゃー】したということだ。



店の外にあるベンチに御坂は座らされ、上条はその横で頭を抱えていた。
幸い漏電が広がる前に上条が右手で御坂の頭を触ったため、店の中に被害はでなかった。
だが騒ぎを聞いた店員が何事かと駆けつけてきたため、上条は御坂を抱えて非難す【にげ】るはめになったのだ。
今頃は御坂妹が、うまく誤魔化してくれていることだろう。

(何か分かんねぇけど、最近よく漏電するなぁ……)

例のごとく、自分のせいだという自覚は無い。

(それにしても御坂妹までとはな……俺は一日に何回女の子を傷つけなきゃならねぇんだ?
 あーくそ! ステイル達の連絡はまだかよ!!
 犯人ぶっ倒せば洗脳も解けて、全部無かったことにできんのに!!)

一応傷つけていることは自覚しているようだが、無かったことにはできないだろう。
大嘘憑き【オールフィクション】でもない限り。 だって洗脳なんかされてないんだから。
だがそう思っていない上条にとって、仲間からの連絡が唯一の頼りなのだ。
なにしろ幻想殺しすら発動しない時があるのだから。

と、そこへタイミングよくケータイの着信音が鳴り響く。
ステイルからだ。
ここでは雑踏の音でよく聞き取れないため、少し離れた路地裏で通話ボタンを押す。
御坂をあのままにするのは気がかりだったため、ギリギリ目の届く距離ではあるが。

「ステイルか!? どうだった!?」
『……吸血殺しの彼女に魔力の痕跡は無かったよ。』
「ってことは相手は能力者に絞られたってことでいいんだな!?」
『それでいいんじゃないかな。』

何だかステイルにやる気が感じられない気がする。
まぁ能力に関してはステイルは門外漢だ。 自分の役目はここまでとでも思っているのだろう。

「そっか、ありがとな。」
『君に礼を言われると気色が悪いね。』
「じゃあ気色悪いついでにもう一ついいか?」
『何だい?』
「姫神の様子はどうだ?」

一瞬沈黙が流れる。
聞こえなかったのかと思い、もう一度同じ事を言おうと上条が口を開こうとした瞬間、

『それは、明日になれば分かるんじゃないかな。』

と、ステイルが言い残しそのまま電話を切られた。
気になる言い方ではあったが、さほど深刻そうな声ではなかった。
とりあえず向こうは大丈夫そうだ。


そもままケータイをしまおうとした時、再び着信が入る。
今度は建宮からだ。

「建宮か!? さっきステイルから連絡があったんだけど、犯人は能力者みたいなんだ!!」
『だったらビンゴかもしれないのよ!!
 聞き込みして分かったんだが、お前さん達がいた公園の外で、妙な動きをしていた奴がいたらしいのよ。
 ……まぁその目撃者ってのもミニの浴衣着て、やたらと露出が多くて、
 おまけに全身デコレーションまみれの、自称「くの一」っつー怪しい人物だったけどな。』
「……確かに怪しいけど目撃者のことはいいや。 それより妙な動きって?」
『テレビのリモコン振り回してブツブツ言ってたらしいのよ。
 後はそうだな…常盤台って所の制服を着てたらしいのよな。』
「常盤台!!? いや、ちょっと待てよ!?
 常盤台には美琴の他にもう一人LEVEL5がいたはずだ!!
 確か食蜂って名前で、能力は…『心理掌握』!! 学園都市最強の精神操作系能力者だ!!」
『!!!』
「絹旗も、そいつクラスのやり手の仕業だって言ってたし、マジでビンゴかも!!」
『……今から乗り込むか?』
「いや…常盤台がある『学舎の園』は基本的に男子禁制で警備も厳重だ。
 こんな時間に男が忍び込んだら、こっちがとっ捕まるのがオチだろうな。」
『ならどうするのよ? 相手が出てくるまで待つのか?』
「今日はもう最終下校時間になっちまうし……
 明日美琴に連れ出してきてもらおう。 同じ学校の生徒なら簡単だし。
 それに、まだソイツが犯人だと決まった訳じゃないから手荒な真似もしたくない。」
『…分かったのよ。なら動くのは明日だな?』
「あぁ……あっ!! それと建宮!!」
『?』
「その、神裂達のこと頼めるか!?」
『どういう意味なのよ?』
「だから…美琴の事で傷つけちまったからさ……」
『……了解。フォローを入れとけばいいのよな?』
「ああ! サンキュー!」

こうしてようやく事件の糸口をつかんだ上条。
このことを御坂にも報告しようと、彼女のもとまで駆けつけようとする。
しかし、その横には知らない男が立っており、
その男と御坂は、楽しくおしゃべりしているように見える。

(……誰だ? アイツ………)

その瞬間、上条は何だか無性にイラつくのを感じていた。




目が覚めると、店の外のベンチに腰掛けていた。

(あれ…?あたしどうして……? あぁそっか…またやっちゃったんだ……)

目覚めて早々に、「せっかくのデートだったのに」と御坂は自己嫌悪に陥っていた。
そんな彼女に、何とも空気の読めない男が話しかける。

「むっ!? そこにいるのはいつぞやの、根性のある嬢ちゃんではないか!!
 どうした? 腹でも痛いのか?」
「ゲッ…アンタは……」

彼の名前は削板軍覇。こう見えてもLEVEL5の第七位だ。
しかし彼の能力は、ぶっちゃけ謎である。
あの木原一族ですら匙を投げる程の複雑かつ繊細な能力らしく、本人ですらよく分かっていない。
謎の衝撃波(らしきモノ)を放出したり、変な爆発を巻き起こしたり、何故か銃弾が効かなかったり、
どういう訳か電撃を叩き落としたり、何でか分からんが音速の2倍で動けたりする。
ムチャクチャである。
この80年代のバトルマンガのような超人的な能力を、「根性」の一言で片付けるのだから恐ろしい。
もしここが学園都市ではなく、ジャスティス学園の世界だったのなら、
彼は何の違和感も無く周りに溶け込めたことだろう。

御坂と削板は、以前一悶着起こしたことがあるが、お互いにLEVEL5であることはおろか、名前すら知らない。

「アンタこんなトコで何してんの?」
「うむ! 実は第2学区で『オブジェクト』とかいう兵器が開発中でな、
 俺はその耐久テストに行っていたのだ! 中々根性のある仕事だろう?
 ……っと、このことは機密事項だったか? まぁいいか。
 それにしても俺のすごいパンチを300発食らってもビクともしないとは、
 かなり根性のある兵器【ヤツ】だったぞ!!」

確かに、生身で兵器と戦えて、砲弾が当たってもかすり傷程度で済む能力者など、
風斬氷華と一方通行を除けば彼しかいないだろう。
とはいえ、前者はどこにいるか分からない上に、世間一般的にはいないことになっているし、
後者は間違いなく断られるどころか、下手をすれば殺される。

彼は彼で何かとんでもないことに巻き込まれているらしいが、面倒なので別にいいや。
このオブジェクトと呼ばれる兵器が、後に戦争の道具として世界中で使われることになるのだが、
それは今から数十年も先の話だ。

「それで? 何で今は第15学区にいるのよ。」
「腹が減ったからだ。 ここはうまい店が多いからな。」
「さっきの話丸々関係ないじゃない!! 機密事項なんでしょ!?
 あたし意味も無く聞いちゃったわよ!?」
「まぁ些細なことだ。気にするな。」
「気にするわよ! って言うか気にしなさいよ!!」


と、ワーワー楽しくおしゃべり(?)している二人に、上条が声をかけた。

「お楽しみの所申し訳ありませんが! お宅はどこのどちらさんなのでごぜぇますかねぇ!?」

上条にしては珍しく、妙にトゲのある言い方だった。
御坂が説明しようとすると、

「ん?何だお前は。 …ははーん、分かったぞ。さてはお前、この嬢ちゃんにナンパしようってんだな?」
「ふざけんな! ナンパしてんのはテメェじゃねぇか!!」
「ナニッ!? 俺はナンパしてたのか!?」
「いや、知らねぇけども!!?」
「白昼堂々ナンパするだけでなく、そのことを俺に擦り付けるとはけしからん奴だ!
 来い! 俺がその腐った根性叩き直してやる!!」
「…訳の分からんことを……あと白昼どころか、もう暗くなりかかってんだが……」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよアンタ達!!」
「安心しろ嬢ちゃん! お前は俺が守ってやる!」

その一言に、上条は益々ムカムカしてくる。

「上等だ特攻服野郎! とっとと来やがれ!!」
「ならば遠慮なく行くぞ! 食らえ!すごいパーンチ!!」

削板の拳から、何だか分からない「なにか」が出る。
だが原理など分からなくても関係無い。
その右手は、異能の力ならば問答無用で打ち消すのだから。

得意の念動砲弾が忽然と消えたことに、一瞬唖然とする削板。
その隙を突いて上条の渾身の右の昇龍拳【アッパー】が炸裂した。
銃弾も超電磁砲もオブジェクトの砲弾すらも効かなかった削板の体だが、上条の拳はきれいに決まった。
しかし削板も負けてはいない。
魔術や能力を過信して自分の体を鍛えていないような連中なら、今の一撃でKOとなるのだが、
削板はズザザッと数㎝後ろに下がっただけで、片膝すらついていなかったのだ。

「中々効いたぞ! ナンパ野郎にしては根性のある一発だった!!」
「かってぇな……右手の方がイカレそうだ。」

周りがザワザワし始める。能力者同士のケンカなど、野次馬達のかっこうの娯楽【まと】だ。
だがこれだけ騒ぎになれば、風紀委員や警備員が出てくるかもしれない。そうなったら面倒だ。
どうすればいいかと御坂は考える。

(ど、どうしよう……止めるにしたって二人ともあたしの電撃効かないし…… 何かないかしら…?)

能力【からだ】で止められないのなら言葉【くち】で止めるしかない。
しかし、彼女がとっさに思いついた言葉は、あまりに恥ずかしいものだった。

「今度こそ食らえ! すごい左ストレートオオォォォ!!!」

だがやるしかない。

「その幻想をぶち殺ぉぉす!!!」

二人が同時に拳を突き出す瞬間、御坂は思いっきり叫んだ。

「や、やめて! あたしのために争わないでっ!!!」

思わぬ一言に、二人は「急に何言ってんだアイツ?」という表情になる。
もう少し早ければ二人は止まったかもしれないが、遅かった。
突き出した拳は急には止まれない。ドゴッ!という鈍い音とともに、見事なクロスカウンターが炸裂した。

いや、確かに御坂のために二人が争っていたことに間違いは無いのだが……



「え~と…まさかお知り合いだったとは……何て言うか、本当にすみません………」
「いや、俺の方こそ悪かった。早とちりするとは、俺もまだまだ根性が足りんな。」

そこは「根性」ではなく「修行」ではないだろうか。

あの後三人は、野次馬達から逃げるようにその場を離れた。
御坂のあの一言により、見物人達はさらに盛り上がってしまったからだ。
今時、マンガの中でも滅多に聞けない台詞を生で聞けたのだから、まぁ無理もないが。

上条と御坂はすぐにでも逃げたかったのだが、削板が「俺は逃げも隠れもしない!」
と、訳の分からない意地を張り動こうとしなかったので、二人が引きずってきたのだ。

「…今思えば、この人あの場に置いてきてもよかったんじゃない?」
「…いやでも、それはそれで後々後悔しそうじゃねぇか?」

色々ヒドイことを言われているが、当の削板本人は全く気にしていない。
彼にはそんなことよりも大事なことがあったのだ。

「あっ!! 忘れていたが、俺は腹が減ってるんだった!! そんな訳で俺は何か食ってくる。じゃあな!!」

そう言い残し、彼はあっという間に見えなくなった。

「な、何だったの? あの人……」
「さぁ……」

まさに嵐のような男だった。



落ち着いたところで、上条は改めて建宮からの情報を御坂に話す。
ただし、洗脳云々の所は御坂は知っている(と上条は思っている)ので、そこははしょる。

「美琴、明日何とかして食蜂って人を連れてきてくれないか?」
「……なんで急に食蜂さんの名前がでてくるのよ。」

途端に不機嫌になる御坂。
以前にも言ったが、御坂は食蜂を快く思っていない。
だがそれよりも、二人っきりの時に他の女の名前が出るのが気に入らなかった。

「もしかしたら、ソイツが犯人かもしれないんだ。」

犯人という言葉に御坂は反応した。
何をやったのかは知らないが、食蜂が上条に何かしらのちょっかいを出した、というのは直感で分かった。
なるほど。それなら今日の放課後に助けてくれたことも納得できる。
向こうだって御坂【こっち】のことを快く思っていないくせに。

(あたしを助けたフリして、コイツに近付こうとした訳ね。
 友達に手ぇ出したら許さないって釘を刺してた筈だけど……
 ま、まぁ今は友達じゃなくて、こ、ここ、恋人なんだけどね!!?)

心の中でもアレやコレやと忙しい娘である。
それにしても、概ね御坂の思っている通りなのだが、根本の所で何か間違っている気がする。
いや、確かに食蜂は絹旗を洗脳して、二人の仲を邪魔しようとはしたのだが。

「分かったわ。 明日何とかして食蜂さんを引っ張り出してみる。」
「あぁ、頼むな。」
「……っと、もうこんな時間ね。そろそろ帰りましょうか。(本当はもう少しアンタと一緒にいたいけど……)」
「送ってかなくて平気か?」
「大丈夫よ。あたしを誰だと思ってんの? それじゃあね。」

こうして恋人(役)になったその初日のデートは幕を閉じた。
そしてついに敵(?)の尻尾も掴んだ。
決戦は明日。
いよいよ全ての決着がつこうとしていた。

(それにしても、御坂とあの男が一緒にいた時、何であんなに気持ちがざわついたんだろ…?)

その答えも、明日出るのだろうか―――





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