とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part15

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匿名ユーザー

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5日目 後編


この世は何が起こるか分からない。
人生の転機とは唐突にやってくるものだ。

とある不幸な少年は、魔道書を記憶しているという少女を助けた事で、科学と魔術の抗争に巻き込まれていく事になった。
最強を求めた少年は、今まで殺してきた人形と瓜二つな少女を助けた事で、学園都市の更なる闇へと堕ちていく事になった。
チンピラだった少年は、たった一人の愛する少女を助けた事で、学園都市を敵に回す事になった。
突然死神のノートを拾う事もあるかもしれない。組織の新薬の実験台にされ、子供になる事もあるだろう。
実家の蔵の地下に、大妖怪とそれを滅する槍が封印されている事だって、十分にありえるのだ。

だから驚くべきことじゃない。
「昨日までそんな素振りを全く見せなかった男から、突然告白される」なんてことは。
たとえそれが意中の相手だったとしても。
その二人が唐突に恋人同士になったとしても、別に驚くことではない。きっとよくあることなのだ。

そんなよくある二人の上条と御坂。
たった今恋人となった二人は、同じベンチに座っている。ただそこには、大分距離がある。
まぁ確かに告白直後だ。気まずいのも無理はないだろう。
そんな二人はそれぞれ思いにふけているようだ。これからのことを考えているのだろう。

(どどどどうしよう!!! すごくうれしいけどアイツの顔まともに見れない~~~!!!
 こんな時はどうすればいいんだっけ!?
 えっとえっとたしか、相手の顔に「人」って書いてカボチャを三回飲み込めばいいんだっけ!?
 あ~も~!! 全然頭が回らない~~~!!!)

みさかは こんらんしている!
わけも わからず じぶんを こうげきした!
少々テンパリすぎな感はあるが、御坂の反応は分かる。
問題は上条だ。
「ついに ねんがんのカノジョを てにいれたぞ!」なはずなのに、何だか浮かない顔をしている。
彼は御坂とは全く違う事を思っているようだ。 彼氏彼女の事情は違うのかもしれない。

(恋人役はこれでいいとしても、これからどうするかだな……
 とりあえずその場しのぎにはなるが、根本的な解決にはなっちゃいねぇ。
 かと言って、動きようにも情報が少なすぎる。
 手がかりといえば、精神系の魔術師か能力者。一度に大勢を操れる。……それくらいか。
 しかも目的が全く読めないのも厄介だよな。 女の子を使って俺に告白させて何のつもりだ?俺の純情弄ぶやん?
 せめて魔術に詳しい味方がいればいいんだが…… あ~くそ! 土御門がやられてなきゃな~!!)

君は一体何を言うとるのかね。
彼は架空の敵を勝手に作り、勝手にピンチに陥っている。
つーか純情弄んでんのはお前なんだが。


「おーいたいた! 久しぶりなのよ上条当麻! ……ってそれほどでもないか」

迷走中の上条のもとに、ある男が話しかけてきた。 その光沢のあるクワガタのような特徴的な髪型の男は、

「た、建宮!? 何で学園都市【ここ】に!?」
「まぁちょっと野暮用なのよな。」

そう言いながら、建宮は御坂の方をチラリと見る。

(んー…この子が上条当麻のことを好きなのは間違いなさそうなのよ。
 けどこれくらいなら、女教皇様と五和にもまだまだチャンスがあると見た!!
 お嬢ちゃんには悪いが、恋ってのは奪ってナンボの世界なのよ!!)

なにやら燃えている建宮。 お願いだから、これ以上事態をややこしくしないでくれないか。

「野暮用って?」
「あー…実はアレなのよ。みんなしてお前さんに会いに来たんで、俺はその付き添いみたいなものなのよ。」

みんな、というワードに上条は嫌な予感がした。

「誰が来てんの……?」
「女教皇様に五和。それにオルソラ嬢、シェリー、アニェーゼ、レッサー。あとはステイルなのよ。」

言いながら建宮はケータイを取り出した。

「もしもしステイルか? ああ、上条当麻を発見したのよ。
 そうそう……えっ?違う違う。 その猫地蔵の呪いにかかったって人は別人なのよ。 うんそう、似てるだけ。」

どんな会話してんだよ、と思いながらも、上条は益々嫌な予感を募らせる。

(まさか、神裂達まで!? 学園都市の中だけの問題じゃねぇのか!?)

事態はさらに深刻化する。主に上条の頭の中で。
すると反対側から、ちょいちょいと右腕の袖を引っ張られた。

「どうかしたのか?美琴。」
「ぅえっ!? あ、い、いや、その…誰なのかなって……」

やはりまだ会話がぎこちない。
ただし、ぎこちないのは御坂側だけで、告白した張本人は実にあっけらかんとしている。

「そう言えば美琴は会ったことなかったな。 アイツは建宮斎字っつって、まぁ、あっち側の人間だ。」
「…あっちって……魔術師ってこと…?」
「まぁな。けど仲間だから大丈夫。いいヤツだから安心しろって。」
「そう……」

御坂は魔術師に対して、あまりいいイメージを持っていない。
初めて触れた魔術が、「ガラスの靴」や「森の住人」だったのだから無理もないが。
これがもし「竜破斬【ドラグ・スレイブ】」や「光の白刃」だったら、また違った印象を受けたかもしれない。
いや、どちらにせよ、いい印象は受けないか。

「もうすぐ来るみたいなのよ。」

電話をし終わった建宮は、自販機に寄りかかりながら話しかけた。

(さて、みんなが来る前に、ある程度情報を引き出しとくとするか。)

尋問開始。

「まず聞きたいんだが、二人は付き合ってるのか?」

その質問に御坂はビクンと跳ね上がるが、上条は冷静に答えた。

「……何でそんなこと聞くんだ?」
「ただの興味……と言いたいが、こっちにも事情があるのよ。」

事情。その言葉に、上条は「やはりか」と先程の嫌な予感を確信へと変える。

「待て建宮。 そのことは全員揃ってから説明しよう。
 ステイルも来てるんだろ? アイツにも協力してもらいたい。」
「………?」

上条の目は真剣だった。 建宮はこの目を何度か見ている。
法の書を巡る事件の時、アドリア海の女王に乗り込む時、そして後方のアックアと戦った時。
上条はいつも、何か大切なものを守る時にこの目をしていたのだ。
冷やかしに来た建宮だったが、その目を見て何かを感じ取り、仲間達の到着を黙って待つことにした。

(まさか、学園都市で何か起きているのか? だとしたらこんなことしている場合じゃないのよ……)

こうしてまた、めんどくさい誤解が広がっていくのであった。


しばらくしてステイルらと合流した上条と御坂は、今はそれぞれ男子チームと女子チームに別れている。

「精神操作か……随分と厄介だね。」
「本当に右手は反応したのよな?」

ステイルと建宮は、神裂達が操られていないことを知っている。
上条の教室で起こった事だけを聞けば、神裂達同様、御坂への嫉妬心から起こした行動であろうことは予測できる。
しかし、それでは絹旗に幻想殺しが発動したことが説明できない。
やはり何か事件がおきている事は間違いなさそうだ。 全く、食蜂さんが余計なことをしなければ……

「ああ、間違いねぇ。 しかもその絹旗って子とはほとんど面識が無い。ほぼ無関係だ。
 つまり敵は、俺の近くにいる人間なら、誰彼構わず平気で巻き込むようなクソ野郎だってことだ。」
「お前さんがハワイで戦り合った魔術師はどうなのよ?
 確かグレムリンの中にそういう魔術を使うヤツがいたはずよな。」
「いや、サローニャじゃないと思う。
 アイツは大勢の人間を一度に操れないし、そもそもこんなことできる状態じゃないからな。
 ステイルは何か心当たり無いか?」
「その手の魔術師なら何人か知っているが……学園都市に来ているとは考えにくいね。
 それ以前に、土御門すら簡単に操るヤツが動いているなら、必要悪の教会に何の情報も入ってこないのはおかしい。
 となると犯人は………」
「能力者…か?」
「その可能性が高いと言っているだけさ。
 犯人が意図的に情報を遮断しているかもしれないから、断定はできないけどね。」
「結局は何も分からないってことか……」
「とりあえず僕は、吸血殺しの子に、魔力の痕跡が無いか調べてくるよ。 魔術を使ったのなら何か分かるはずだ。
 ただ、もしこれが能力によるものなら僕にはお手上げだけどね。」
「なら俺は、怪しそうな能力者を洗い出しておくのよ。 心配しなさんな。隠密行動は天草式の十八番なのよ。」
「じゃあ俺は、引き続き美琴と恋人のフリをしながら、敵の出方をうかがう。 二人とも、くれぐれも気をつけてくれよ!」
「……その前に、本当にあの子とは恋人の『フリ』なのよな?」
「ああ、美琴もそれを承諾してくれてる。」
「それを聞いて安心したのよ。(後で女教皇様と五和に言ってやろう。)」

上条はそこで二人と別れた。

(それにしても、あの神裂まで洗脳するとは……敵がそれだけ強力ってことか。
 もしこの状態が、魔術や能力なんかじゃなかったら、上条さんはどれだけ幸せ者か……
 なんて、あるわけ無いよな……ははは…不幸だ……)

確かに、お前の鈍感さは不幸だよ。
現実を幻想と勘違いし、その幻想すらもぶち殺すあたり、流石はフラグメイカーにしてフラグブレイカーである。


一方、男子チームとはまた違った緊張感に包まれている女子チーム。
とても気まずい。
御坂は、五和とレッサーは知っているが、他のメンバーは知らない。
というか、レッサーが上条と知り合いだったというのは驚きだが、今はまぁいい。
6人中3人の乳がデカイのもどうかと思うが、それもまぁいい。

御坂が上条から頼まれたことは、「この女性陣に事情を説明してくれ」というものだった。
上条の考えは、
「今、神裂達が抱えている感情は、何者かによる洗脳で植え付けられたモノ。
 だからまずはそれを説明して、それでもダメなら『御坂が上条の彼女だ』と暴露して、諦めてもらう。」
というものなのだが、洗脳云々を知らない御坂にとって事情を説明するということは、
「上条の友人達に、『自分が上条の彼女です』と自ら自己紹介する」
ということなのだ。
最終的にやることは変わらないのだが、モチベーションが大きく違う。

(でででできるわけ無いでしょうがっ!!! どんな羞恥プレイなのよっ!!!)

まぁ、御坂の性格なら当然こうなるだろう。
いつまでもマゴマゴモゴモゴしている御坂に痺れを切らしたのか、この中で一番男らしいシェリーが、
誰もが聞きにくかったことを直球で聞いてきた。

「………なぁ、お前は上条当麻のコレか?」

そう言いながら小指を突き立てるシェリー。
それを見て御坂は、真っ赤になりながらも小さく頷いた。

「ぁ…あの……その…えと………はい………」

それを聞き、大なり小なりショックを受ける乙女達。

(何だ…やっぱりか……来て損したわね………)
(そりゃそうですよね……彼になら、彼女の一人くらいいてもおかしくねぇってな話ですよ………)
(や、やはり祝福するべきですよね……しかし、何故こうも胸が痛むのでしょう…?)
(諦める…べき……なので…ございましょうか………)
(あー!! 私の完璧な「人類イギリスに補完計画」がぁ~~~!!
 ……ん? それなら彼女さんも一緒に働いてもらえばいいんじゃないですか?
 すごい閃き!! レッサー天才!!)

一部さほどショックを受けていない人物もいるが、それはまぁ特例だ。
特に、「上条のためなら死んでも構わない」と本気で思っている五和などは、

「あ……は……ははは…は………」

完全に放心状態だ。そして危険な状態でもある。
アックア戦を思い出してもらえばお分かりになると思うが、彼女はヤンデレになれる才能を秘めている。
が、別になって欲しい訳ではない。
彼女には、殺した両親を埋めるために巨大な穴を掘ってほしいわけでも、
腹を掻っ捌いて、妊娠しているかどうか確認してほしいわけでもないのだ。

と、そんな状況の中、男子チームから一人になった上条が、ノコノコ歩いて来やがった。
コイツのせいでえらい騒ぎである。

上条は神裂達の顔を一通り見るが、やはり様子がおかしい。

(やっぱりダメだったか……)

ダメなのはお前の頭なのだが。
上条は絹旗の例もあるため、一人一人の頭を撫でてみた。
しかし、彼女たちが顔を赤くするばかりで、幻想殺しは一向に反応しない。
今回も姫神たちの時のように不発したらしい。
上条は溜息をついた後、御坂の肩に手を回しこう言った。

「みんな、もう聞いたとは思うが、俺はこの美琴と付き合っているんだ。
 だからみんなの気持ちには応えられない。本当にゴメンな。」

あの鈍感だった上条からは、想像もつかないような衝撃の言葉が、その本人の口から出てきた。
御坂から聞いたのとは訳が違う。
想い人である上条本人から聞くというのは、先程とは比べ物にならないくらいショックなのだ。
アニェーゼはうっすら涙を浮かべ、五和は走り去ってしまった。
奇しくも教室で起こったことを、そのまま再現する形になったのだ。
これが全て勘違いによるものなのだから、彼女たちも浮かばれない。

「ま、まぁそういうことらしいので、今日はもうお開きってことでいいんじゃないですか!?」

重い沈黙に耐えかねて、レッサーがこの場を何とかしようとする。
ここで「人類イギリスに補完計画」がどうとか言わないあたり、流石のレッサーも空気を読んだようだ。
レッサーの言葉を聞き、一人、また一人と彼女達はこの場を離れていく。
最後に神裂が、
「幸せに……なってくださいね………」
と言っていたのが、妙に印象的だった。


取り残された二人はしばらく沈黙し、再び思いにふけていた。

(今のってやっぱり、みんなコイツのことが好きだったってことよね………
 あたしなんかで本当にいいのかな……ううん! コイツが選んでくれたんだもんね!
 自信持たなきゃ!! か、か、彼女として!!!)

一方、上条も思うところがあるようだ。

(教室のことといい、さっきといい……明らかに俺を狙ってるよな……
 となると美琴を巻き込むのはやっぱ危険か?
 いやでも、美琴が一緒にいないと「恋人がいる」って言い訳はできないし………)

悩んだ上条は、改めて御坂に決定権を委ねることにした。 断られたらその時はその時だ。

「美琴!」
「ひゃ、ひゃいっ!!?」

突然呼ばれて御坂は飛び上がった。

「こっちから頼んでおいてなんなんだけどさ……その、本当にいいのか?
 俺の恋人(役)なんて……色々危険なこともあるしさ。」

危険。その言葉に御坂はピクッとする。
この男がいままでどれだけ危険な戦いをしてきたのか御坂は知っている。
自分の命を省みず、どれだけ多くの人を救ってきたのかを知っている。
かくいう御坂だって、その中の一人なのだから。
記憶を失おうが、右腕をぶった切られようが、何度死に掛けても彼は足を止めなかった。
そんな彼だからこそ、多くの女性が心惹かれたのだろう。

「もし美琴が嫌だったらさ、今からでも考え直して―――」
「いや!!!」

それまでのおどおどした態度とは一変し、御坂は自分の気持ちをはっきりと言葉にした。

「考え直せって何よ!! アンタがあたしのこと、ひ、必要って言ったんじゃない!!
 アンタの性格なんて百も承知なのよっ!!
 これからだってアンタは危険なことに首を突っ込むんでしょ!?
 ホントは止めたいけどアンタは止まんないんでしょ!? 分かってんのよそれくらい!!
 だからあたしが支えてやるっつってんの!!
 そういうところも受け入れてアンタのか、か、彼女になるって言ってんのよ!!!
 それくらい分かりなさいよこの馬鹿!!」

息を切らしながらも御坂は自分の気持ちを曝け出した。
それは全く嘘偽りの無い、純粋な彼女の想いである。
素直になれない彼女がここまで言うには、相当の勇気が必要だっただろう。
それを聞いた上条は、

(美琴……そこまで俺を心配してくれてたのか………俺はいい友達を持ったなぁ……)

などと、もうお前マジで死んだ方がいいんじゃないかと言いたくなるような感想を述べているが、
上条自身も気付いていない。
赤くなりながらも自分への想いをぶちまけた御坂を見て、
自分の頬もほんのり赤みを帯びていることに、彼は気付いていない―――

「よ、よし! じゃあ何の問題も無いってことで、気を取り直してこれからちょっと街をぶらつくか!!
 (ステイル達の連絡はまだだ。 俺達にできるのはカップルのフリして敵の出方を待つことだけだもんな。)」
「そ、それって、デ、デートって…こと?」
「そりゃそうだろ。恋人(役)なんだから、デートしない方が不自然だろ?」
「そ、そうよね!! ここ、恋人だもんね!!」

こうして二人は公園を後にした。
この何ともいえない、アンジャッシュのコント状態はまだまだ続くようだ。

「あっ、ポケットに入れっぱなしだったけど……いちごおでん食べるか?」
「…いや、いらない………」





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