とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part18

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5日目 佐天編 その2


病院内に激しい爆音が響き渡る。
何しろ争っているのは、超能力者の第一位と、第三位と同じDNAを持つ大能力者だ。
ベッドが飛び交い、窓は割られ、蛍光灯も落ちてくる。
こんな妖怪大戦争を、入院中の黒夜や、戦闘力5以下の佐天と初春とカエル顔の医者は止められない。
しかも黒夜に至っては、番外個体【パンストたろう】の電撃の流れ弾が当たり気絶してしまうというオマケ付きだ。
そのせいで彼女は入院が長引く事になる。

そんな状況なのに病室の半壊程度で済んだのは、打ち止め【みふえ】のおかげだ。
彼女はケンカしている二人に、何度もやめるように言ったのだが、二人は聞き入れてくれなかった。
そこで彼女は、二人がケンカしている事に対してか
それとも自分の意見を聞いてくれないことに対してかは分からないが、悲しくなり急に泣き出したのだ。
そしてついでに、無意識なのか意識したのか、一方通行【ゆりこ】への演算補助も遮断した。
そのおかげで、「悲しみ」という負の感情の波をモロに受けた番外個体も急に泣き出し、
一方通行はその場に倒れ、モゾモゾと動き出した。
黒夜が気絶したのは、二人にとってはラッキーだったかもしれない。
こんな姿を見られた日には、確実に爆笑された挙句、向こう半年はネタにされるだろう。

急に泣き出した兄(?)妹、モゾモゾしだした白髪の女性(?)、気絶した入院患者、
惨状となった病室、騒ぎに気付き群がる野次馬達、それらを冷静にテキパキと処置していくカエル顔の医者。

「…何なの? この状況。」
「わ、私にも分かりませんよ。」

ずっとポカンとしていた二人の脳が、ようやく動き始めたようだ。
それを見てカエル顔の医者が話しかける。

「申し訳ないが、ナースステーションからもう2~3人ほど看護師を呼んできてくれないかな?
 ナースコールもこのように壊れてしまったみたいだからね?」
「あ、は、はい! 私が行ってきます!」

風紀委員としての責任感からなのか、初春は率先して手を上げた。
そして野次馬の波を掻き分けながら彼女は病室を出て行く。
一方、佐天はやる事が無いので、とりあえず病室の隅に突っ立っている。

(う~ん…あたしも手伝いたいけど下手に手を出すのはマズイし、
 せめて邪魔にならない様に病室から出たいけど……勝手に出ても大丈夫かな?)

という訳でその場から動けずにいたのである。 と、そこへ、

「おや? またお会いしましたね。」

聞き覚えのある声がした。
声のほうへ振り向くと、野次馬の中に、花束を持った海原がいたのだ。

「う、海原さん!? どうしてここへ!?」
「いえ、自分は見舞いに来たのですが、人だかりがあったもので気になりまして……何かあったのですか?」
「あー…うー…ま、まぁいいじゃないですか! それよりお見舞いって、ご家族の方ですか?」

佐天は説明が面倒だからと強引に話題を変えた。

「家族…そうですね。 ショチトルと言うのですが、彼女は自分にとって妹のような存在です。」

ショチトル。その名前を聞いて佐天は一瞬息が止まった。
それは学芸都市で出会ったあの少女と同じ名前だ。
偶然かもしれない。名前が同じなだけかもしれない。
それでも佐天は確かめずにはいられなかった。

「海原さん! そのショチトルって人の所に案内してください!!」

海原は少し躊躇したが、佐天のその真剣な表情に何かを感じ取ったのか、一言、「分かりました。」と頷いた。


「ここです。」

海原に連れてこられたのは大きめの病室。患者のネームプレートには二人の名前が書かれている。
「トチトリ」。そしてもう一人は「ショチトル」だ。
若干強張っている佐天に、海原は緊張をほぐそうと話しかける。

「それにしても、ショチトルから『学芸都市で出会った日本人の少女』の事は聞いていましたが、
 まさか貴方だったとは……いやはや、世間というのは広いようで中々狭いですね。」
「あたしだってビックリですよ! 海原さんとショチトルが兄妹だったなんて!」
「あ、いえ…妹のようだとは言いましたが、本当の兄妹という訳では……」
「でも全然似てないですよね。 肌の色も違うし、『ショチトル』って名前も日本人っぽくないですし。」
「…あの、ですから……」
「…ひょっとして、複雑なご家庭なんですか? 例えば、二人は血が繋がっていない兄妹とか。」
「もういいです。それで。」

基本的に彼女は、人の話を聞くのが苦手らしい。
海原も説明するのが面倒になったらしく、諦めた。

海原は、病室のドアをコンコンとノックをする。すると、中からバタバタと慌ただしい音がした。
何かを急いで片付けているのだろうか。
音が止み、少しするとドアが開いた。

「すみません! ちょっと相方が着替えていたもので…って、なんだお前か。」

そう言って出てきたのは、車椅子に乗っている少女。だがショチトルではない。
ということは、トチトリという名前のもう一人の入院患者だろう。

「申し訳ありません。今日は自分の他に、もう一人ゲストがいるのですが。」
「……? 誰だ…って、お前は!!!」

トチトリは海原の後ろにいた佐天を見て、驚きのあまり大声を出した。

「何だ急に。 騒々しいぞトチトリ。」

そう言って顔を出したのは、不機嫌そうなもう一人の入院患者。
ちなみに彼女が不機嫌なのは、せっかく海原が見舞いに来てくれたというのに、
もう一人余計な誰かが一緒について来たのが分かったからだ。

「ショチ…トル…?」

聞き覚えのある声を聞き、ショチトルはバッ!とその余計な誰か【さてん】の方へ顔を向ける。

「お…お前…は……」

その様子を見て、海原はトチトリの車椅子に手を掛ける。

「さて、我々は一旦席を外しましょうか。 積もる話もあるでしょうし。」
「わ、分かった…けど、大丈夫なのか?」
「あの二人なら何の問題もありませんよ。」

そう言って海原とトチトリは病室を後にした。


「えっと…何から話せばいいのかな……ひ、久しぶりだね?」
「そ、そうだな。」

残された二人はぎこちなく会話をし始める。
実はこの二人、あの後大覇星祭の時に再会しているのだが、その事を佐天は知らない。

「……元気だったか?」
「あ、うん! あたしはいつだって元気だよ!
 ショチトルこそあの後大丈夫だったの? ……って、入院してるのに大丈夫も無いよね……ゴメン…」
「いや平気だよ。 この入院もたいした理由じゃない。心配する事はないさ。」

嘘である。
ショチトルはとんでもない理由で入院している。が、それを佐天に言ったところで仕方がないのだ。

「あっ! そう言えば、なんかすごく慌てて着替えてたみたいだけど、どうしたの?」
「あぁ、普段私は民族衣装を着ているんだが、医者が診察に来たと思って焦ってな。
 急いで化学繊維の寝巻き【こっちのふく】に着替えた訳だ。なにしろ目立つからな。
 ……どうにも化学繊維の服は肌に合わん。」
「……あの時のエロ水着も、バリバリ化学繊維の塊だったと思うけど。」

ぶふぉっ!!っとショチトルは吹き出した。

「アアアアレはお前が勝手に!! てか人のトラウマをほじくり返すな!!」

嫌な過去を思い出され、ショチトルは佐天に噛み付いた。
だが佐天は大して悪びれた様子もなく、「結構似合ってたのになー」と、のんきな事を言っている。
これ以上この話題に触れていたくないらしく、ショチトルはコホンと咳払いし、話を変えた。

「と、ところでお前…その…エツァリとはどういう関係なんだ…?」
「……? エツァリって…誰それ?」

しまった!と、ショチトルは口を滑らせた事に後悔した。
エツァリとは、先程までいた海原光貴の本名である。
いや、まぁ、本物の海原光貴もいるので、その辺はややこしいのだが。
しかし、なぜ彼が海原に成り済ましているのか、
その辺りを説明するのは非常に厄介なので、ショチトルはとっさに誤魔化した。

「ねぇねぇ、エツァリって誰誰?」
「い、言い間違えただけだ! ほら、『ミツキ』と『エツァリ』って響きも似てるだろ!?」
「似てないよ……」
「ミツキ → ムィツァクィ → ムェツァルィ → エツァリ ……ほらな?」
「いやいやいや!強引だよ! 2番目と3番目の間が特に!!」
「失礼、噛みました。」
「違う、わざとだ……」
「噛みまみた!」
「わざとじゃない!?」
「ええい!そんな事はどうでもいい!! とにかく、お前とアイツはどういう関係なんだ!?」
「ど、どうって言われてもなぁ……昨日スキルアウトに襲われそうになったところを助けてもらったってだけだし…
 ほら、あたしってスライムも倒せないくらい弱いから。」
「あんなもん、ひのきのぼうで一発だろ。
 っていうか物理攻撃【たたかう】が駄目でも能力【メラ】くらいなら使えるんじゃないのか?
 お前も学園都市の人間なんだから。」
「使えないよ。あたしLEVEL0だもん。」
「第四波動もか?」
「……ショチトルは知らないだろうけど、あたしそのネタで何百回とイジられてるんだよね………」
「ス、スマン……」


「とにかく、あたしと海原さんはショチトルが考えてるような関係じゃないから、安心してよ。」
「あ、安心って何だ! 私はお兄…エツァ…光貴の事などなんとも……」
「まったまた~、お兄ちゃんのことが大好きなくせに~」
「んなっ!!?」

ショチトルの浅黒い顔が真っ赤に染まる。
それを見て佐天はにししと笑い、その後ふっと真剣な表情になった。

「……でも海原さん、他に好きな人がいるよ?」
「…知っているさ。どこぞの中学生にうつつを抜かしていると聞いたことがある。」
「……つらくない?」
「多少はな。だが奪われたら奪い返せばいいだけの話だろう?」
「でももし!もしもだよ!? ショチトルの大好きな友達も海原さんの事が好きだったら!?」

佐天はショチトルに、自分と御坂達の事を重ねていた。
もし、大好きな友達【みさか】が自分の好きな人【かみじょう】の事を好きだったら。
それは、昨夜佐天が寝ずに考えた事なのだが、結局出てきた答えは「諦める」しかなかったのだ。
だが、ショチトルの出した答えは、全くの逆だった。

「関係ないだろ。 愛と友情は全くの別物だ。」
「ぅえっ!!? いやいや、関係なくはないでしょ!!
 もしかしたら、その友達とはもう二度と仲良くできなくなるかもしれないんだよ!?」
「その程度で壊れる友情なら、初めから無かったのと同じだ。」
「いや…でも……」
「こ・の……ホビロン!!!(『ほんとに びっくりするくらい 論外』の略。
              東南アジアの卵料理『ホビロン』が、グロくて生理的に受け付けないことから命名。)」
「あれっ!?何でだろ! 生まれて初めて聞く言葉なのに、ものすごく聞き慣れた感がある!!」
「ぐじぐじ考えるな! 好きなら好きと言えばいい! 重要なのはお前の気持ちだろう!?
 言わずに悩むくらいなら言ってから悩め!!」
「!!!」

ショチトルには分かっていた。先程の質問が、佐天の抱えている悩みであることなど。

「だから…頑張れ!!」

だからこそ応援するのだ。自分と同じ立場の佐天を。
佐天はプッと吹き出した。ショチトルのあまりのシンプルな考え方に、悩んでいるのが馬鹿らしくなってきたのだ。

「あはははは! それもそうだね! グダグダ悩むなんてあたしらしく無かったよ!
 うん、明日告白してみる! だからショチトルも頑張ってね!?」
「う…あ…お、おう……」

ショチトルは歯切れの悪い返事をする。
佐天に偉そうな事を言った手前、自分だけやらないとは言えなかったのだろう。
それにしても、佐天の好きな相手が、かつて自分が在籍していた組織の標的だった、
あの「上条当麻」だったと知れば、ショチトルは相当驚くことだろう。


「じゃあな。」
「ル・イ・コ!」
「?」
「仲のいい友達は、あたしのこと『ルイコ』って呼ぶよ? ま、一番の友達は『佐天さん』って呼ぶんだけどね。」
「……逆じゃないのか?」
「あはははは! 言われてみれば確かにそうだね!」

ショチトルもフッと薄く笑った。

「またな、ルイコ。 今度結果を聞かせろよ。」
「いいよ! その代わり、その時はショチトルの方の結果も聞くからね!?」
「う…あ…お、おう……」

こうして、友達となった二人は別れた。

病室を出ると、そこには一番の友達が立っていた。

「あれ? 初春、いつからそこにいたの?」
「えっ!? い、いつからって……い、今北産業ですよ!!」
「あ、そうなんだ。 いや~実は昔の友達に会っちゃってさ、まぁ昔って言っても、4ヵ月くらいなんだけどね?」
「へ、へぇ~、そうだったんですか……」

と、相槌を打っている初春だが、実は先程の佐天とショチトルの会話を丸々聞いている。
あの後、看護師を連れてきた初春は、病室に佐天がいないことに気が付いた。
カエル顔の医者から、佐天が行った場所を聞きだして追いかけたところ、
とある病室から、車椅子に乗った浅黒い肌の少女と、その車椅子を押すさわやか系のイケメンが出てきたのだ。
だがドアは半開きになっており、その隙間から彼女は、まぁ、覗いた訳である。
一応は悪いと思ったらしいが、好奇心が勝ったのだから仕方ない。
そしてその結果、知ってしまったのだ。佐天の気持ちを。

(ま、まさか佐天さんに好きな人がいたなんて! しかも告白は明日!
 これは御坂さんや白井さんも呼んで応援しなければ!!
 面白がってるんじゃありませんよ! 友達だからです!!)

断言しよう。彼女は面白がっている。
それにしても、佐天の好きな相手が、御坂の好きな相手でもある、
あの「上条当麻」だったと知れば、初春は相当驚くことだろう。
こうして、ややこしい事態がさらに輪を掛けてややこしく加速していくのであった。

上条は犯人を捕まえられるのか。
御坂はいつ勘違いに気付くのか。
佐天の告白はどうなるのか。
全ては、明日に掛かっていた―――





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