小ネタ 義理じゃないなら…? 御坂美琴編
2月13日 御坂美琴は悩みに悩んでいた。
ここはデパートの食品売り場。目の前にあるのはチョコレートの山。
そう、明日はバレンタインデーなのである。
(ア、アイツには何かとお世話になってるし、ぎ、義理チョコくらい渡すのは当然よね!?
変な意味とかじゃなくて、あくまでお礼! 「いつもありがとう」って感謝の気持ちよ!
うんうん、人としてその心を忘れちゃいけないわよね! け、決して変な意味とかじゃなくて!!)
心の中で、誰に対してなのか分からないが、必死に言い訳をする。
美琴はとりあえず、目の前にあるチョコレートの箱を手にとってみた。
(う~ん……こっちのは高級感があるけど、あまり高いの贈ると「重い」って思われちゃうかもしれないし……
ってか、ほほほ本命だと勘違いされても困るしね!?
かといって安すぎるのもどうかと思うし…こういうのってハート型のが多いのよね。
そんなの渡したら、ほほほ本命だと思われちゃうじゃない!!)
考えすぎである。義理だろうが本命だろうが、バレンタインのチョコなんて7割はハートの形だろう。
だが美琴にとっては大問題らしく、アレでもないコレでもないと、小一時間ほどチョコレートコーナーを占領しているのだ。
ちなみに白井へのチョコは、「これでいっか」と、2秒で決まったらしい。
その間、キッズ向けのコーナーにて、「ゲコ太チョコレート」なる物を発見したのだが、流石にこれは無いと思ったらしい。
まぁ結局は自分用として、買い物かごに入れた訳だが。
そろそろ決めないとお店の人に迷惑がかかるころ、美琴の目にある物が止まった。
それは、バレンタイン向けにデコレーション加工された他のチョコとは違い、
業務用かと思わせる、ただただ直方体のシンプルなチョコだった。真ん中にはでかでかと「徳用」と書かれている。
これはいわゆる手作り用だ。
「コイツを溶かして好きなようにカスタムすれば、手作りチョコの出来上がり!
これで気になるあの人もアナタにメロメロだYO!」
という売り文句に、若干イラッとはしたが、手作りという響きに美琴は心惹かれた。
(手作りか……そう言えばクッキー渡した時も「手作りがベスト」とか何とか言ってたわよね……
で、でもそんなのあげたら、ほほほ本命だって誤解されちゃうんじゃ!?)
またそれか。
(い、いやでも、本人の希望は尊重するべきよね!! アイツが「手作りを食べたい」って言うなら仕方ないわよ! うん!
ま、まぁホワイトチョコで「義理」って書けば大丈夫よね!?)
自分を無理やり納得させ、美琴は手作りする事を決意した。
というより、実は始めからそうするつもりだったのではないだろうか。
(てかアイツってミルクとビターどっちが好きなのかしら……ナッツとかも入れた方がいいのかな?
それとデコレーション用に使う、ちっちゃいチョコも買っとこう。
あとはメッセージカードと……あっ!ラッピング用のリボンと包装紙も買わなきゃ!!
……って! 何かアイツにチョコ作るのを楽しみにしてるみたいじゃない!!!
違うわよ!?あくまで義理なんだから!! 変な意味とかじゃないんだから!!!)
だから、誰に対して言い訳してるんだこの娘は。
「…で、ウチに来た訳ですか」
「ご、ごめんなさい……」
美琴が今いるのは佐天の寮だ。
例のごとく、常盤台の寮の厨房では色々と面倒なのだ。
「ま、あたしは別にいいですよ? あたしも初春にチョコ作る予定でしたし。
あっ!もちろん御坂さんと白井さんの分もありますから!」
「ありがと、佐天さん」
「いえいえ! ようやく御坂さんが告白する決心したんですから、そりゃもう全力で応援させてもらいますよ!」
ぶっふぉう! と美琴は盛大に吹き出した。
「ここここ告白!!? 違う違う違う!! これはあくまで義理!義理なの!」
「ふ~ん、こんなに気合入れて色々買って来たのに義理なんですか。 へぇ~……」
佐天はニヤニヤしながら買い物袋を漁る。
確かに傍から見れば、明らかに本命チョコを作るくらいの準備の多さだ。
「だ、だから違うの!! それは…えと…アレのためで……
だから…アイツのためとかじゃなくて……とにかく違うの!!!」
顔を真っ赤にし、半分涙目になりながら必死に(内容0の)言い訳をする美琴はとても微笑ましいが、
これ以上いじめたら流石に可哀相かな?と、佐天は追撃するのをやめてあげた。
「それで、どんなのを作るつもりなんですか?」
「えっと……見た目はシンプルで、でも実は中身が凝ってる。みたいなのにしようかと……」
「んー…何か漠然としてますね。 具体的な種類とかは?例えばトリュフとか生チョコとか」
「あ、それなら決めてるの。 チョコレートケーキにしようと思って。そのために薄力粉と卵も買ってきたから」
(それ全然シンプルじゃないです!)
やはり気合入りまくりである。
始めに「重く思われたくない」だとか、「本命だと勘違いされたくない」だとか色々言ってなかったか?
数時間後 スポンジも焼け、デコレーションも完了した。
あとは冷蔵庫で冷やしておけば、立派なチョコレートケーキの完成だ。
「さて、と。 私の方は終わったし、佐天さんのトリュフ手伝おうか?」
「あっ、じゃあお願い―――」
言いかけて、佐天はある事を思いついた。
「い、いや! こういう事は自分でやらないと気持ちがこめられませんから!!
それよりメッセージカードがありましたけど、この間に書いちゃったらどうですか!?」
「で、でも……」
「こっちは大丈夫ですから!! 筆記用具はあっちの部屋にありますので!!」
半ば強引にキッチンから追い出された美琴は、何も書かれていないカードと睨み合っている。
(「いつもありがとう」…これは普通すぎよね。 「これからも頑張んなさいよね」…上から目線すぎ…私、何様?
「勘違いすんな!」…それじゃ感謝なんて一つも伝わらないわよね…… 「誠にありがたく思っており…」武士か!!
「ホントは私~、いつもは嬉しいって思ってるんだぞ☆」いやいや、誰だコレ!?
「いつも言えなかったけど、今日は勇気を出して言うね? 私は、アンタのことが好―――」って、違ぁぁぁぁう!!!
これはあくまでも義理チョコなのだからして!!! 決して変な意味は無いのだからして!!!)
相変わらず心の中で騒がしい娘である。
一方、美琴をキッチンから追い出す事に成功した佐天は、冷蔵庫からまだ固まっていないケーキを取り出した。
美琴がさっきまで作っていたそのケーキには、ホワイトチョコででっかく「義理」と書かれている。
佐天は先程まで美琴が使っていたチョコペンを手に取り、「義理」の下に、ちっちゃく「じゃないから」と書き足した。
そして何事もなかったかのように冷蔵庫に戻したのだ。
なんちゅう悪い【おもしろい】事をしてくれてんだ、この娘は。
(さ~て、明日どうなるかな~♪)
鼻歌交じりでトリュフチョコ作りに戻る佐天。
ほんまにこの子は悪い子やで。
明日はバレンタイン当日。
この「義理じゃない」チョコレートケーキを見て、上条は何を思うだろうか?