とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part06

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匿名ユーザー

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第5話 積極的に


 上条が美琴を抱きしめた時から、時間は2時間ほど巻きもどる。
 ここは第7学区の街中。
 結標の能力で飛ばされた直後の美琴は、1人呆然と立ち尽くしていた。
 やや斜め下を向いているため、通行人からは見えていないが彼女の顔は真っ青で、生気が全く感じられない。
 そんな状況で、美琴は声を絞り出すように呟く。

「そっか……あの2人…付き合ってたんだ……」

 上条は結標と付き合っていた、その事実が美琴に重く、とても重くのしかかっていた。
 まあ事実といっても勘違いなのだが、それを知らない美琴は悲しみに暮れる。

(アイツ……結標のどこを好きになったんだろ……)

 性格だろうか、見た目だろうか、それとも別のところだろうか。
 そして自分には何が足らなかったのか。
 なんで付き合っているのが自分ではないのか。
 悔しい、悲しい、苦しい、つらい、美琴を襲う絶望感は想像を絶するようなものだった。

(私…アイツのことこんなに好きだったんだ……自分でもびっくりね…)

 絶望感が大きいということは、それだけ上条を好きだったということ。
 しかし、もう上条と自分が結ばれることはない。
 美琴は今にも大泣きしてしまいそうだった。
 しかしこんな街中の人目のある場所で泣くわけにはいかないと思い、必死に我慢していると、あることを思い出した。

「あ…そうだ携帯…アイツにメール送ったんだっけ…」

 確かに学校を出る前に、上条に『今日ヒマ?』とだけ打ったメールを上条に送っていた。
 それだけならまだいい。
 だが、美琴が結標の能力により飛ばされたことを心配して、上条からメールが送られてくる、もしくは電話がかかってくる可能性がある。

「……」

 ふいに聞こえたバチッ!という電撃音、美琴が自らの能力で携帯電話を壊した音だ。
 今、上条に会うわけにはいかない。というより会いたくない。
 電話やメールにより、会ってしまう可能性があるため、美琴は迷い無く携帯を壊したのだ。
 ならば電話に出ないでおく、又はメールを見なければいいじゃないか、と思うかもしれないが、美琴はとにかく上条と会う手段を残したくなかった。

(まぁ…アイツは私のことなんて気にしないわよね…なのに携帯まで壊して……バカみたい…)

 本気で泣きそうになり、無意識のうちに携帯を握りしめる力が弱くなっていく。
 今から何を目標に生きていけばいいのか、美琴にはわからなかった。
 この悲しみの大きさを知ることができるのは美琴本人だけであり、他に誰も知ることなどできない。
 と、そこへ一人の少女が通りかかった。

「あれ?御坂じゃないかー。こんなことろで何してるんだー?」
「え…つ、土御門…」

 今にも泣きそうな美琴に声をかけてきたのは、メイド姿の少女、土御門舞夏だ。
 メイド姿はいつも通りだが、珍しく掃除ロボットに乗っていない。

「土御門……アンタが掃除ロボットの上に乗ってないなんて珍しいわね……」
「ちょっと今急いでてなー、掃除ロボは便利だけど速度は遅くて……って御坂?なんか元気ないけどどうしたんだー?」
「あ…いや……」


 隠していたつもりだが、舞夏には美琴に元気がないことがわかってしまったらしい。
 だが、『好きな人に彼女がいて落ち込んでいる』などと言うわけにいかないので、美琴は慌てて元気なふりをする。

「そ、そんなことないわよ。それよりなんで急いでるの?」
「ああ、兄貴から電話がかかってきて早く寮に来いって言われたんだー。実は上条当麻が関係してるんだけどなー。」
「えっ!?アイツが!?また何か事件なの!?」

 美琴は思わず声を荒げた。
 上条と結標が付き合っていることが頭から吹き飛んだ瞬間だった。
 美琴の声に舞夏は多少驚いた様子だったが、すぐに話始める。

「……事件と言えば事件だなー。実は兄貴が変な薬を飲ませたせいで…」
「ど、どうなったの…?」
「『フラグ体質』が強化されて、女の子がみんな上条当麻のことを好きになってしまうらしいんだー。」
「ええっ!?そ、それほんと…………ん?」

 舞夏の話を聞いた美琴はあることを思いついた。

「女の子はみんなアイツのことを好きに……もしかして結標も…?」

 舞夏の話が本当なら、十分可能性はある。
 先ほど結標は“上条と付き合っている”と言っていたが、薬の影響を受け、上条を好きになっているのかもしれない。
 だとすれば、まだ自分にチャンスはあるということだ。

(もしかしてもしかすると……いや!絶対そうよ!!アイツが付き合ってるなんて聞いたことなかったし、結標は薬の影響を受けてたのよ!)

 光が見えた。
 この時点で美琴は、結標と上条は付き合っていないと確信し、胸を撫で下ろす。
 またよほど安心したのか、先ほどの暗い表情が一転、目映い笑顔がこぼれた。
 ここに上条がいたら写真を取り出すだろうが、舞夏は不思議そうだった。

「…今度は急に明るくなったけどどうしたんだー?」
「なんでもないわよ、ありがとね土御門!………あれ?でも私もさっきアイツに会ったけど、なんともなかったわよ?」
「え…?おかしいなー…」

 なぜか話が噛み合わない。
 土御門の言う『女の子なら誰でも上条を好きになる』ということが本当なら、美琴も上条に惚れてしまっているはずだ。
 なのに美琴がなんともないというのはおかしい。
 不信に思った舞夏が兄に電話をし、再び説明を受けることに。
 そして数分後。

「なるほどなー。そういうことかー。」

 兄との電話を終えた舞夏は、なぜかニヤニヤしながら美琴を見る。 
 舞夏は何を聞いたのか、嫌な予感がしてならない。

「な、何よ…何かわかったの?」
「ああー。上条当麻のことを好きになるのは“普段上条のことを好きではない女性”らしいぞー。」

 舞夏はそこで一旦言葉を区切り、ニヤリと笑みを浮かべた言う。

「御坂は上条当麻のことが普段から好きだから、いつも通りに話すことができたんだと思うぞー?」
「んな!?」

 美琴にとっては予想外の舞夏の奇襲。
 ボンッ!と美琴の顔は赤くなった。

「ち、ちがっ、違うわよ!?私はアイツのことなんて別に…」
「もうバレバレなんだから隠さなくていいぞー。じゃ、私は兄貴の寮へ急ぐからもう行くからなー。」
「違うからね!!好きなんかじゃないんだから!!」


 立ち去ろうとする舞夏と最後まで言い争う美琴。
 そして笑いながら舞夏も去って行った。
 一人になり、ようやく落ち着いたところで、改めて今の状況について整理してみる。

「えーと…アイツは今結標と一緒にいるのよね…ていうことはやっぱり探したほうがいいのかな…ん?待てよ…」

 ここで美琴は1つ考えついた。
 今、上条は薬の効果によって、女の人に好かれるようになっている。
 結標の行動から考えると、薬の影響を受けた女の子は結構積極的にアタックするようだ。
 だが美琴は元から上条のことが好きなので、舞夏の話が本当なら、いつも通り接することができるだろう。
 ということは…

「………今アイツに会えば惚れたふりをして抱きついたりとかできるんじゃ…?」

 すごいことを思いついてしまった。
 これぞ合理的に上条といちゃいちゃできる最強の方法だ。
 妹とかなら絶対実行する。

「い、いやでもそれは恥ずかしいような…ていうか人としてダメかな…」

 美琴は真剣に悩んだ。
 上条に会いに行くことは決定しているが、その際普通に接するべきか、それとも惚れているふりをするべきか。
 ぶっちゃけると惚れているふりをする方向へ気が傾いているのだが、問題があった。

(う~ん……卑怯かなー…)

 確かに惚れているふりをする、というのは卑怯かもしれない。
 上条といちゃいちゃしたいと考えている女性は世界各国に星の数ほどいるのだから。
 だが、一度上条を他の人に取られるという絶望を味わった美琴は、たとえ卑怯な手を使ってでも、上条と結ばれたかった。
 もうあのような絶望感を味わいたくない、上条を他の人に渡したくない。
 そんな感じで考えに考えた末、美琴が出した結論は…

「………よし、会いに行こう。」



 ♢ ♢ ♢


「ねぇ君!一人みたいだけど…今ヒマ?」
「ヒマなんでしょ?だったら俺らと遊ぼうぜぇ~!」

 と、下品な台詞でナンパをしているのは、頭の悪そうなスキルアウトの2人組。
 その声の先に立っているのは、二重まぶたでショートヘアの可愛らしい少女。
 そう、上条に恋する乙女の一人、五和だ。

(上条さんを捜しに町へ来たのに…なんでこんなことに…)

 どうしてこう上手くことが運ばないのか、五和は深いため息をついた。
 正直なところ、こんな2人組など五和の敵ではない。
 しかし、建宮より“なれべく目立つな”と言われている手前、叩きのめすわけにはいかない。
 どう対処すべきか、五和が困っていると、スキルアウトの一人が五和が反応しないことに腹を立てたらしく、五和の腕を掴んだ。

「おい…シカトしてんじゃねぇぞ!!」
「え、ちょ、ちょっと!離して…」
「うっせぇ!いいから来い!!」

 これぞ逆キレである。
 振り払おうとする五和にさらに機嫌を悪くし、掴んでいる力が強くなる。

(さすがにこれ以上は……建宮さん、やっちゃってもいいですよね?)

 我慢の限界、五和が2人の不良を思い切りぶちのめしてやろうとした時だった。

「その手を離さんかいコラァァァァアアアア!!!!!」
「は?なんごっはぁ!!」

 謎の大声を共に、五和の手を掴んでいないほうのスキルアウトが吹っ飛んだ。
 あまりの唐突な出来事に五和とスキルアウトは仲良く目を丸くする。 
 一体何が起こったのか、五和は目の前の状況を理解するのに多少時間がかかったが、

(え、えーと…この人がドロップキックを…?)

 “この人”とは、吹っ飛んだスキルアウトがいた場所に立っている一人の少年のことだ。
 長身で青い髪の少年は五和の腕を掴んでいるスキルアウトを睨みつける。
 睨まれてビビったスキルアウトは、五和の手を離し、その少年を殴りにかかるが

「お、おい!てめえ!!何しやがっふぅ!!」

 まさに秒殺。
 もう一人のスキルアウトはその少年の鉄拳により、地面にひれ伏す形となった。

 当然、五和はこの青髪の少年を知らない。
 普段学園都市に住んでいないのだから当たり前だ。
 だが、彼が何者であろうと助けてもらったことは確かなので

「あ、あの…ありがとうございます…」
「いやいやお礼なんていらへん……って、今度はあっちのほうで女の子が困っとる声が!!今行くでぇ!!!」

 と、言ったかと思うと、名も知らない青髪の少年はものすごい勢いでどこかへ走っていってしまった。
 名前を聞く間もなかった。

「……な、なんだったんだろう…今の人…」

 残された五和はしばらくの間呆然と少年が走って行った方向を見つめていたが、

「ああっ!そうだ、上条さんを捜さないと!!」

 本来の目的を思い出し、再び上条捜索のためその場から走り出した。


 ♢ ♢ ♢


「い、いたー!!」

 美琴は以前上条と偽デートで訪れたホットドッグ屋の近くで思わず大声を出した。
 周囲の人の視線が集まったが、そんなことを気にしている場合ではない。

(いた!いた!!いた!!!ついにアイツを見つけたわよ!!)

 探し始めて1時間、遂に念願の上条を見つけたのだ。
 この1時間、本当に長かった。
 なんで携帯を壊したんだ、と自分自身にいらだちながら街中を走り回っていた。
 苦労した分、出会えた喜びは大きい。
 しかし、上条は美琴に気づいていないらしく、誰かと熱心に電話をしている。

「一体誰と……まあそんなことどうでもいいわ!!」

 本当に今は電話の相手を気にしている場合ではない。
 早速『惚れているふりをして上条といちゃつこう』作戦を実行しようと思い、上条がいる方向へ一歩踏み出したのだが

「……なんて声かけよう…」

 上条に声の掛け方がわからない。
 普通に声をかけるのなら別に問題はない。
 しかし今は『増強剤の効果を受け、上条に惚れている』と、いう設定で話しかけなければならないのだ。

(惚れてるふり……実はこれってすごく難しいんじゃないの!?)

 直前になって、ことの難しさに気がついた美琴は、一度上条から見えないところへと移動した。
 そこで改めて、どうやって話しかけるべきか考えるのだが、特にいい案は浮かばない。

(し、強いて言うなら、可愛い言い方でアイツの下の名前を呼ぶのがいいんだろうけど……) 

 上条を下の名前で呼ぶ、つまり『当麻』と呼ぶということなのだが、今まで『上条』とすら呼んだことがないのに、いきなり『当麻』はハードルが高過ぎる。
 そんなことをすれば、頭が沸騰すること間違いない。
 しかし、今日の美琴はいつもと違った。

(アイツに抱きつけるチャンスなんて、これからあるわけないし…名前を呼ぶくらいなら……)

 『結標と上条が付き合っていた』と誤解したときの絶望感からか、美琴は勇気を振り絞る。
 物陰から顔だけを出し、上条の様子を伺う。

「って、まだ電話してるし…」

 上条を見つけてから数分が経っているにもかかわらず、上条は電話を終える気配がない。

「電話長いなー……それに私に全然気づいてないわね……………と、とぅまのバカ…」

 と、美琴は上条に聞かれないことをいいことに、上条の名前を本当に小さく、小さくつぶやいた。
 上条とは30メートル以上離れているのだから、絶対に声が聞こえるわけがない。
 そう思っていたのだが

「ッ!?」

 美琴は驚くと同時に、再び物陰に隠れた。
 当然、この行動には意味がある。
 反対方向を向いていた上条が突然こちらを振り返ったのだ。

(な、なんで!?これだけ離れてるのに…まさかさっきのが聞こえたの!?いや…さすがに偶然よね。こっちに他に知り合いがいたとか…)

 そう考えた美琴はもう一度木の陰から顔を出す。
 するとそこには

「わわっ…」
「おお!やっぱり御坂!!」

 上条だった。
 また、なぜかはわからないが、上条は目を輝かせこちらを見ている。


(な、なんで私がここにいるってわかったの!?まさかホントにさっきのが聞こえて……)

 だとすればかなり恥ずかしい。
 さらに“聞こえた”と思ったとたん、顔が熱くなった。
 まるで顔の中で何かが沸騰しているのではないか、と思うくらい熱い。

「ん?どうした御坂?具合でも悪いのか?」
「あ、いや…」

 目の前の上条は心配そうにこちらを見ていた。
 どうやら顔が赤くなっているため、体調が悪いと勘違いされたようだ。
 しかし、これで上条に近づくことはできた。
 後は名前を呼び、薬の影響を受けているふりをするだけだ。

(…うわ…すっごく緊張するんだけど……)

 喉が渇く。
 まるで太陽が照りつける砂漠を歩いているかのようだ。
 それほどの緊張だったが、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
 美琴は意を決して、上条の名を呼ぶために、乾いた口を開く。

「えと、あの…と、とぅまぁ…」

 ありったけの勇気を振り絞り、かすれるような声で、美琴は上条の名前を呼んだ。
 上条に聞こえたどうかなどわからない。
 だが、目的を達成することはできたのだ。美琴は達成感に包まれ……てはいなかった。

(あわわわ……よ、呼んじゃった…本人の前で名前を…想像してたより、すっっっっごい恥ずかしい……)

 本人の前で名前を呼ぶという行為が、これほど大変だと思わなかった。
 美琴は慌てて俯き、顔の火照りが治まるのを待つ。
 が、火照りは治まるどころかますます勢いを増してきた。

(……ど、ど、どうしよう…なんだコイツ、とか思われてないかな…)

 顔を上げるのが、怖い。
 名前を呼ぶだけでなく、呼んだ後がこれほど大変だと思っても見なかった。
 しかしいつまでも俯いているわけにはいかない。

(……大丈夫よね?な、名前を呼んだくらいで嫌われたり…しないよね?)

 それくらい大丈夫、美琴はじぶんに言い聞かせ、再度勇気を出して、前を向いた。

「………?」

 目の前に映ったのは奇妙な光景、なぜかわからないが上条が両腕を動かしていた。

(何がしたいのコイツ……) 

 意味がわからない。
 上条のこの行動が何を意味しているのか、舞夏のお義兄さんが飲ませたらしい薬の影響なのか、とか考えていると

「あ、すみません。」
「へ?」

 ドンッ、と通行人が美琴の背中にぶつかった。
 軽くだったので別に痛くはなかったのだが、ぶつかられると同時に急に目の前が真っ暗になった。
 目の前に何かある。
 これは、まさか、もしかしなくても―――

(……………だ、だだだだだだだだだだだだだだ抱きついてる!!??!??私コイツに抱きついちゃってる!!?)

 上条だ。
 美琴は後ろから押されたため、上条に体を預けるかのように抱きついていた。
 予想の斜め上をいく展開に、美琴はパニックになる。


(ど、どど、どどどどうしよう………って、やっぱり迷惑よね!!は、早く離れ……たくない…ていうか、離れられない…)

 まるで麻薬だった。
 心地よさがハンパ無く、離れようにも離れられない。
 あまりの心地よさに、美琴は抱きつく形で腕をまわした。

(………)

 ただ無言で抱きつき続ける。
 美琴はこの後のことを一切考えていない。
 また、周りに大勢の人がいるということすら頭に無い。
 今後上条に抱きつけるチャンスなど、あるわけがないと思うと、少しでも長く抱きついていたかった。

(このまま時間が止まればいいのに…)

 美琴は本気でそう思った。
 だが無情にも時は過ぎていく。
 もう数秒すれば上条は離れてしまうだろう。

 ―――嫌だ。

 もっと長く、この幸せな時を味わいたい。
 例え一時的なものであるとしても、この時が終わってほしくない。
 そんな想いから、美琴の腕には自然と力が入る。

「…ん?」

 美琴が抱きつく力を強めたとき、自分の背中に何が触れていることを感じた。
 何か手のようなものが触れている。
 数秒間は何が起こっているのかわからなかったが、美琴はすぐに自分に起きている出来事を理解した。

(こ、これって………抱きしめられてる!!?)

 美琴は上条にギュッとされていたのだ。
 自分で抱きついていたときより、はるかに心地良く、通常では絶対に得られない幸福感に包まれる。

(わわわっ…コイツ、なんで私を……まあ…幸せだからいいや…) 

 抱きしめられている理由などどうでもいい。
 とにかくこの幸福な時間が終わらなければなんだっていい、そう思った時だった。

「こうしたことも記憶からなくなるんだよな……でもな、みさ…いや美琴。俺はお前が大好きだ。だから絶対にお前を好きにさせてみせるぞ。」
「ッ!!!!???」

 上条の口から出たのは、突然の告白の言葉。
 美琴は自分の耳を疑った。

(……ウ、ウソ…ほんとに!?き、き、聞き間違いじゃないわよね……?)

 自分の聞き間違いか、空耳か、夢だろうか、とも思ったが、今上条は『俺はお前が大好きだ』と間違いなく言っていた。
 ということは、上条と両想いということ、上条と付き合うことできることだ。
 美琴は嬉しさに震える。

(コイツも私のこと好きだったんだ……そ、そうだ!私もコイツに言わなきゃ!!)

 上条が自分を好いてくれているのはわかった。
 しかし、上条はまだ美琴と両想いということを知らないのだ。
 自分の想いを伝えるためには顔を見せなければ、と考えた美琴は上条と密着した状態で上条の顔を見上げ

「あ、あのね、わ、わた、私も!アンタのことが、だ、だだ、大好き、だよ?」

 と、震える声で上条に告げた。
 一世一代の告白、心臓が爆発するのではないかというくらい鼓動は早かった。
 上条は『好き』と言ってくれていたので、断れることはないはずだが、そう思っていても緊張しないわけがない。
 今まで気にならなかった周囲の雑音や、風など自然の音、全てのことが気になってしまう。
 そして上条は口を開いた。

「お、おう。」

 たったの一言、上条の返事は素っ気ないものだった。
 だが、素っ気なくても『おう。』というのは、告白を受け止めてくれたということ。
 つまり、美琴は上条の『彼女』になれたということなのだ。

(う、うそ…これって夢じゃないわよね…信じられない…私がコイツの彼女だなんて…)

 しかし現に美琴は上条に抱きしめられている。
 ウソでも夢でもないのだ。
 1時間前にはもう絶対に叶うことはない、と思っていたことが実現できたということもあり、美琴の喜びをより大きい。
 溢れ出る嬉しさ、喜び、幸福、といったこの感情をどうしていいかわからず、泣きそうになりながら上条を見つめていると

「わっ…」

 再び顔を上条の胸に押し付けられた。
 後頭部に触れているもの、多分だが上条の右手で、それにより押し付けられているのだろう。
 そして上条の美琴を抱きしめる力はさらに強くなり、同時に美琴の意識も遠のく。

(も、もうダメ…意識が……)

 上条の声が聞こえる。
 だか意識が朦朧とする美琴には、彼が何を言っているのか理解ができない。
 その声が子守唄のように聞こえた始めた時、

「……ふにゃー」

 美琴は漏電し、意識を失った。

 このとき美琴は大きな勘違いをしていた。
 美琴は上条と恋人同士になれた、と思っているが、上条は美琴が増強剤の影響を受けているから告白してきたと思っているのだ。
 そんなことを知らない美琴は、幸せそうに上条の腕の中で眠るのだった。






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