とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ベッドの上での座談会




「お姉様、少々お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?どしたの?」

白井はベッドで横になりながら脚をパタパタとしている美琴に問いかけた。ぱくんとカエルの形をした携帯を閉じると美琴は白井に向き直る。

「お姉様は上条さんと交際なさっているんですよね?」
「今更どうしたのよ?」
「いえ、別にお二人の仲を疑っているとかそういうことではないんですのよ。ただ、以前と変わらず追いかけっこやらを見かけるので気になりましたの」

最初、白井の言っていることがイマイチわからなかった美琴だが、少し考えたところであ~という何かわかったような声をあげた。彼女にも質問された意味と理由に心当たりがあったらしい。

「要するに、恋人みたくベタベタしてないし、普通に追い掛け回すし、逃げられてるし、呼び方もアンタと御坂だし、本当に付き合っているのか疑わしいってことでしょう?」
「まぁ概ねその通りですの。あ、疑ってはいませんのよ?」
「それはもう知ってる。確かに付き合う前は色々と恋人らしいこと想像したんだけどね」

美琴は枕を抱きしめながらいつもの惚気話を語りだす。以前は聞くだけで発狂しそうではあったが、白井は楽しそうに話をする彼女が大好きで、それを壊すことができなかった。上条を殴り倒したり蹴り倒したりすることは、能力の相性の関係で可能ではあるが、それを実行すれば美琴の本気を相手にする必要がある。それは御免被りたいし、彼女に嫌われることは控えたい。そして、いつからか惚気話の時間で嫉妬に燃えることもなくなった。嬉しそうに話す姉とそれを聞いてあげる妹のような立ち位置が心地よい。無論、上条にこのパートナーという席を譲る気はないし、姉妹のようなこの相部屋だからこその立ち位置は譲れない。

「今日も長くなりそうですし、紅茶を淹れてきますわ。おねぇさまも如何です?」
「ありがと、お願いするわ」
「では、その間にお話を纏めていてくださいな。あまり長すぎると以前のように首があらぬ方向へ向いてしまいますわよ」

鼻歌交じりに立ち上がる彼女に違和感を覚えなくなったのはいつからだったか。最初、美琴と上条が交際を始めたと話した時は発狂という表現以外ないと言うほどの形相だった。それなのに今はどうか。その話を楽しみにしてくれている様にすら見える。

「なにかあったのかしら?」

美琴がそんな白井の心情を知るのはもう少し先のこと。

閑話休題。


「で、何故恋人になれたと言うのに追いかけっこやら勝負は絶賛継続中なんですの?」
「アンタもアイツの右手は知っているわよね。やっぱり一度くらいは勝ってみたいなって思ったのと、なんだかんだあの追いかけっこも楽しいのよね」

それは美琴にとって楽しいだけであって上条にとっては死活問題なのではないのだろうかと問いたいのだが、ところがどっこい上条も楽しんでいるのだ。まず、基本的に電撃は当たらないが、万が一当たっても少し痛い程度の電流しか放っていない。具体的には1mA程度の電流である。

「では、先日河原で行っていた決闘はなんだったんですの」
「あちゃー見られてたのね」

ばれてたのかと、ちっとも反省していない彼女は笑顔のままだ。

「久しぶりに私がどこまでアイツと戦えるのか試したかったのよ」

美琴はまだ上条に能力で勝ったことがなく、彼女の中で蟠りが残っているのだ。その癖、実は勝てない事、上条が強い事を望む矛盾が彼女の中にはある。

「おねぇさまは少年漫画の主人公のような思考ですねの」

存外間違っていないなと思ってしまうお嬢様はどうなんだろうねと二人で笑ってしまった。お嬢様なんだからもう少しお淑やかにだなと上条が言っていたのを思い出しながら。



「それで、結果はどうでしたの?」
「まるで駄目だったわ。惨敗よ惨敗。砂鉄の剣は今回危ないから棒にしたけどさ。二本使っても一本避けて、もう片方は握りつぶされるし、電撃は突き出された右手が避雷針になって意味ない。あとカバンに鉄の塊を入れてたんだけど、電撃とか砂鉄に隠してそれを横からぶつけようとしたのよ」
「中々にド派手な決闘ですのね…」
「でも、アイツ囮だってすぐに判断してカバンを右手で掴んで投げたのよ。それに電撃が引かれていって、砂鉄はまた空いた右手の餌食。いつのまにあんな戦い方覚えたんだか」

思い出すだけで腹立たしい!!と美琴は枕に顔を埋めると脚をバタバタと動かしていた。

「上条さんは随分戦いなれていますのね。それも無能力者から超能力者の全てのレベルに対して慣れているというのがまた可笑しな人ですわ」

ころころと笑う白井に美琴はご不満な様子だが、自分の恋人が強いと言われるのは悪くない。結局、彼女らの談笑は消灯時間まで続き、途中から灯りを消して互いにベッドの中からの就寝体勢での談笑会に変更された。






「結局、何故恋人になってもあまり変化がないのか教えてくださりません?」
「ん?別にどってことないんだけどさ。アイツがね、私が中学生のうちはあんまり付き合ってること知られないほうがいいんだって。私が告白した時も、中学生を恋愛対象にする事に抵抗があって、私をそういう対象に見てなかったって聞いたの。だから、私はそんなの関係ないって言ったし、アイツもわかってはくれたんだけど、学校で色々と言われるからあまり知らせない方がいいだろうって。舞夏のお義兄さんがアイツに絶対言うなって言われたのもあるらしいけどね」
「お二人がそれでいいのなら、わたくしは何も言いませんわ」
「ありがと。それにさ、恋人になる前から恋人っぽいことしちゃってたじゃない。一緒に買い物とか、勉強会とか食事とか。だから、楽しみは後に取っておこうってね」
「それも一理ありますわね。本をゆっくりじっくり読むのもまた面白いですし。でもやっぱり寂しくはないんですの?こう、抱き合ったりしたいみたいなことを以前仰ってましたが?本でいうなら段々結論だけ知りたくなるような。私は割りとそういうタイプなのですが」

部屋の灯りも消し、布団を被っている二人はそれぞれ顔が見えない。でも、恐らく白井は意地の悪い悪戯顔で、美琴は真っ赤な林檎顔なのだろう。

「アンタはそんな読み方してんのかい。アイツの家とかでは猫を触らせてもらいながら膝の上にとかくぁwせdrftgyふじこlp」

完全に自爆だが、彼女のそんな一面を知れたことが白井にとって嬉しいことこの上ない。

(上条さん、お姉様の色々な顔を見せてくれることだけは感謝してやりますわ。でも、万が一にもお姉様を悲しませたりしたら、手足全ての爪の間にマチ針を瞬間移動してやりますわ)

「お姉様も、アイツではなく名前で呼べるくらいにはなってもいいと思いますのよ?」

白井は、二人に上手くいって欲しいと願っている。悔しいけれど。だから、今は精一杯美琴の慌てふためく顔を楽しもうと決め、美琴を慌てさせるにはどうするのがいいか考えるのだった。



「あ、紅茶飲んだのに歯を磨き忘れていましたわ」
「そう言えばそうだったわ」

白井が「笑った時に見える歯が綺麗だと、より笑顔が素敵になりますのよ」とだけ言ったら布団の膨らみが無くなった。瞬間移動で磨きに行ったようで美琴は便利な能力が羨ましいと思う。しかし、ふと体に電気が走った。原因は携帯電話がメールの受信を開始、その微弱な機械の電波を感じ取ったからであった。その気になれば携帯に触れないで操作もできるだろうが、万が一調整を誤れば破壊してしまう。第一そこまでして能力で動かす必要もないし。

-おやすみ-

受信したメールの本文にはこの4文字だけ。送り主は当然上条当麻で、味気ないこのメールも彼らしい単純なメールだ。それでも自分を気にかけてくれていると思うと嬉しいもので、美琴は即座に返信画面を出した。

「ん?」

返信メールの編集画面に映ったのはおやすみの4文字の下にいくつも続いた改行のマーク。よく思い出してみると彼からのメールのスクロールバーが小さかった気がする。

-ホワイトデー、バレンタインに負けないもの用意してやるから覚悟しろよ。あともう夜遅いから返信はいらないからな。-

わざわざ読まれない可能性のある書き方といい、素っ気無い文章なのは彼なりの照れ隠しなのか、悪戯心からなのか、本人に聞けばどんな顔になるのか、想像するだけで美琴の顔は綻んだ。

「まったく、こんな書き方いつの間に覚えたんだか」
「あらあら、思っていた以上に恋人らしいやり取りもしていたのですねぇ」
「く、黒子!?」

突然白井が美琴の背後に現れメールを覗かれてしまったらしく、美琴は顔を赤く染めながらメールを盗み見るのは手紙を勝手に見るのと同じくらい重罪だと抗議する。しかし「どうせ後日私に自慢するのでしょう?なら今読んでも変わらないじゃありませんの」と再び彼女は布団へ戻っていった。美琴も誰かにこの出来事を話したい、この嬉しさを自慢してしまいたいとちょっぴり考えてはいた為「図星ですのね」と言われても反論できないで居た。

「私はお姉様が幸せなら、その惚気話が例え既に知っていても喜んで聞きますわ。ですから、ホワイトデーの報告楽しみに待っていますね」

ここまで白井が大人しいことに最初は驚いた美琴も最近は流石に慣れたようで、素直にありがとうとお礼をして立ち上がると歯を磨きに洗面所へ歩き出した。

「でも、お姉様から手を繋ぐ位はしてみる事をお勧めしますわ」

布団の中からの声に驚き振り向こうとした時、美琴はベッドの脚に足の小指をぶつけてしまった。そして痛みに悶絶してから歯を磨き、ベッドに戻ると既に隣のベッドからは規則的な寝息だけが聞こえていた。こうして恒例の座談会は静かに幕を下ろした。

翌日、朝の登校時に茶髪の少女がツンツン頭の少年の小指を握って歩いているのを、髪の青い少年が目撃した。そうしてツンツン頭の少年にとって普段通りの、ちょっと特殊な学校生活がまた始まる。








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