とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集



―12月、某日、とある駅構内にて。

昔、黒子が言った。
「お姉様は輪の中心に立つことは出来ても、輪に混ざることはできない」
と。
私はこう訂正したい。
「私が『人の群れ』に加わろうとしても、『人の群れ』は『人の輪』に変わってしまう」
と。

『人の輪』とは『好奇』と『畏怖』2つの感情の現れだと私は考える。
「少しでも近づいて見てみたい」
「少しでも離れて逃げていたい」
この2つの感情がせめぎ合い、付かず離れずの微妙な距離感を生む。
その微妙な距離感を保った人々が、ずらずらと取り囲み、『人の輪」を形作るのだ。
先ほどの暴れ回る男を取り巻く環境が、その最たる例である。

そして、私は『人の輪』の中心に立っている。

まるで戦場を蹂躙せしめる呂布奉先のように。
まるで周囲に嵐を巻き散らす台風の目のように。
まるで学園都市での私のように。

『人の輪』は男が暴れていた時とは打って変わって、水を打ったように静まり返っている。
半径10メートル以内にある『音』という概念が、全て失われてしまったかのようだった。

「おい!そこをどいてくれ!早く!」
遠くの方で飛んでいる怒号が耳につく。
野次馬か、警察か、救急隊か。
別に誰でも、何でも、どうでもよい。
今の私にとっては、歯牙にもかけない存在だ。

とにかく今優先すべきことはさくらを助けること。
その為には、この男にとどめを刺さなければ。

男は先ほど浴びせた電撃によって、地面に倒れていた。
この状態では、ただ単に倒れているだけなのか、気絶しているのか、死んでいるのか判断できない。

だが、うめき声をあげながら、地面を這って逃げようとしているところから察するに、
死んでいることも、気絶していることもないらしい。
「さくらに危害を加えないようにする」
という最優先事項を達成する為には、確実に「動かなく」する他あるまい。



頭から電撃の槍を取り出す。
目も眩む程の青白い光を放ち、バチバチとけたたましい轟音を立てている。
『人の輪』はいよいよ身の危険を感じ始めたのか、一斉にあとずさって『輪』の直径を広げた。

「ひいっ!や、やめてくれ!たすけてくれよぉ!」
地面を這いつくばっている男は、豚のような鳴き声をあげて命乞いをする。
その姿はあまりにも惨めで滑稽で。
こんな男がさくらの命を狙おうとしていたなど、考えただけではらわたが煮えくり返りそうだ。

「アンタ、私の娘に手出そうとして、生きて帰れると思ってんの?」
男を見下しながら、唾を吐き捨てるように言う。
ついでにバチン!と、大げさに電撃の音を立てる。
男は電撃の音に怯えながらも、ふてぶてしく反論してくる。
「あ、あのガキが出てきやがっただけだろ!?オレぁ知ら……ッ……!」

言い終わる前に電撃を浴びせる。
10億ボルトには到底満たないが、それでも普通の人間が浴びて平然としていられるわけがない。

電流が流れた独特の臭いが、あたり一面に立ちこめた。
男は再び地面に横たわり、苦しそうにうめき声をあげている。
「反省のチャンスを与えたけど、駄目みたいね」
歩み寄りながら、告げる。
死刑執行を宣告する刑務官のように。

「死んで詫びなさい」

電撃の槍を最大出力で放つ。
電撃の槍が男めがけて襲う。
電撃の槍は男を貫くはずだ。





(……これで私もおしまいね。ばいばい。さくら、当麻……)



「……こと!おい、美琴!」

当麻の声が聞こえる。
思わず電撃を違う方向に逸らし、声のする方へ振り向く。
当麻のツンツン頭が人ごみをかき分けてやってくるのが見えた。
その瞬間、何だか無性に涙が溢れそうになった。
「もうやめろ!これ以上やると美琴もこんなクズと同類になっちまう!」

そうだ。
こんな惨めな男に、私は何をしようというのか。
足下でひぃひぃ言いながら縮こまっている男を見て、怒りよりも哀れみの感情が勝ってしまった。
先ほどまで殺気立っていた電撃の槍も、気勢がそがれたのか霧消してしまった。

「遅くなってごめん。でも、美琴もさくらも無事でよかった」

その一言で心の錘から解放された気分になった。
涙が溢れるのを止めることが出来なかった。
さくらもわんわん泣きながら、当麻に飛びついている。



しかし。



私はもう…



涙を拭うと、当麻から一歩離れる。
当麻は急に離れた私を怪訝そうにみつめている。

言いたくない。
言ってしまうと、現実を認めてしまいそうで。
現実を認めると、もう二度とこの日常に戻れなくなってしまいそうで。
しかし、言わなくてもいつかはばれる。
いつかは限界が来るだろう。

私は、当麻に告げる。



「……ごめん。私、学園都市に帰らなくちゃ」



学園都市を出る際に交わした条件。
その内の2つ。

『学園都市外で能力を使用しない』
『条件が破られた場合、学園都市へ強制送還する』










ウィキ募集バナー