2つの糸
7月16日 PM 23:47
今日もいろいろあって疲れたなー、と思いながら上条は風呂から上がり、タオルで髪を拭きながらガチャリとドアを開ける。
海の日だから海に行く、なんて考えは夢のまた夢だった。
「上条ちゃんにはお勉強という立派すぎる彼女がいるのですよ~」とにこやかスマイルで担任に言われ、酷いショックを受けていたが、
「す―――……」
マイベッドで安らかに眠る姫を見ればこんな気持ちはふっ飛ぶわけで。
暑いので今日は奮発してクーラーをつけたからか、気持ちよさそうに眠っている。
もちろん隣には1人分のスペースが………
「え?」
なかった。
堂々と真ん中で寝返りの姿勢で姫は眠っていた。ぽかーんと口を開けて茫然としていると、タイミング良く姫―――美琴が目を覚ました。
「んッ……あ、お風呂終わったの?」
「あ、あぁ…ちょうど今終わったとこ」
「ふーん…じゃあさっさと歯磨いて寝たら?明日も朝から補習なんでしょ」
おやすみ、と言って美琴は素っ気なく布団に潜り込んでしまう。いつになく言葉が冷たいのは最近構ってあげられないからだろうか。
うーんどうすればいいのやらと考え……ふと気がついた。
今の―――彼女の格好。
パジャマなのに変わりはないが、胸元にリボンが付いていたような…?
そっと彼女に近づき、ベッドに腰掛ける。
「美琴―?ちょっとこっち向いてくれ」
「ん―…何よ?」
くるりと寝返りをうち、こっちを向く彼女は、やはり胸元にリボンが付いていた。今まで見たことのないタイプの服に上条は
もしかしてと思い手を伸ばす。
その瞬間、スパン!、と美琴がその手をはたいた。
「何すんのよこの変態」
「え、お前誘ってるんじゃなかったのか?」
「何1人で妄想してんのよ!これは単に夏だから脱衣しやすいようなのを選んだだけよこのバカッ!」
「ふーん……」
「ジロジロ見ないでよ妄想男」
「そんなに冷たい態度取っていいのか?それとも彼女が課題だってことに嫉妬してツンツンしちゃうのかなー?」
「…ッ!そ、そんな訳…じゃな」
「まぁ課題や補習が彼女なんて奴いないだろうけどな」
「あ、アンタねぇッ!!さっきからなんな…」
暴れだす直前に彼女を布団から引っ張り出し、そっと後ろから抱きしめる。
腰に手を回し、逃げられないようにするとさすがに手足をバタバタさせるのをやめた。
「ごめんな」
クーラーの風音が異様に大きく聞こえるくらいの静かな部屋で、ぼそりと彼が呟いた。
「ふん、アンタには課題がお似合いよ」
美琴はぷいっとそっぽを向いてしまった。ふわり、と茶色の髪からシャンプーが香る。
上条はこれは何を言っても駄目だと悟り、美琴の頬を撫で始めた。
「おー、柔らかい」
「やっ、触らないで…ってひっぱるな!!」
「結構のびるな」
「痛い痛い!はなしなさいよ!」
ぐいっと美琴が反対方向に顔を背け、上条は仕方なく手を離す。
心の中で、今日の美琴はなんだか冷たいなと思ってしまう。
「なー、何でそんなにピリピリしてるんだよ」
「私早く寝たいんだけど。私を離すかここをどくかしなさいよ変態妄想男」
「……お前、さすがに今のは傷つくぞ」
強引に美琴を振り向かせ、向かい合う。相変わらず美琴はすぐに不機嫌そうに顔をそむけた。
「こっち向かないとそろそろ怒るぞ」
びくっ、と肩が揺れた。表情にも焦りがある。数秒後、ようやく美琴はこちらを向いた。
上条はその瞬間に、唇を重ねた。
「……ッ!?」
突然の行動に思考がついていかず、咄嗟に目を瞑ってしまった。
いつもより長いキス。
息が続かず、体から力が抜けていく。
それを狙っていたのか、後頭部に彼の手の感触があることに気付いた次の瞬間、
―――上条当麻に、押し倒された。
自分の上―――視界に、怒ったような彼の顔。
この表情を見た美琴は、「さっきは言いすぎた」「ごめんね」だけでは済まないことをしてしまったと思った。
ヤバいかも、という焦り。このまま何をされるのかという恐怖。
様々な感情が渦を巻き、美琴は「早くここから逃げ出したい」と1つの結論を出し、すぐに実行した。
四つん這いになっている彼の胴体の右側の隙間から頭をくぐらせようとし、寝返りをうつその寸前に、
ガッ、と首を掴まれた。
「え…!?きゃ…は、離し――!?」
首筋に、チクリとした痛みが走った。
見ると、上条が自分の首筋を噛んでいた。
「い、痛ッ…!当麻…あ、謝るから!お願い…」
「ダメ」
今度は舌も使い、何とも言えない感覚が全身を駆け巡る。
思わず官能的な声もあげてしまう。しかし、彼にこれ以上刺激を与えないために右手で口を押さえた。
だがその手もあっけなく封じられてしまった。
そして―――
「罰、だからな」
彼の手が、胸元のリボンをゆっくりと掴む。
自分がこれから何をされるのか、それが決定した瞬間だった。
リボンはするりと解けた。
露わになる胸元を隠すものが近くになく、抵抗する気もなくなっていた。
その後のことはよく覚えていない。
しかし彼が「愛してる」と何度も言ってくれたことが嬉しかった。
7月17日 AM no date.