とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

21-928

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匿名ユーザー

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(無題)

(無題) の続編です。



官能と情愛の海に溺れた私達は、汗だくになるまで愛し合った。
愛し合って、絡まり合って、暖め合って、溶け合って。
どろどろに溶けた身体がベッドから溢れ出ないように、布団に包まって二人できつく抱き合った。

ようやく身体の火照りがおさまった頃、当麻が尋ねてきた。
「なあ、美琴」
「なあに、当麻?」
抱き合ったまま答えたその声色は、自分でも驚くほど艶かしく、媚びたものだった。

蜂蜜にメープルシロップを混ぜたような、甘い甘いその声を発した瞬間、
『自分は当麻の女になったのだ』
という事実を改めて実感させられた。

恋情、愛情、劣情、痴情、温情、恩情、慕情、純情、熱情……
様々な感情が身体と共に溶け合って、魔法のような化学反応を引き起こし、爆発的な熱量を生み出す。
やがて身体の火照りは冷めていくが、この感情が冷めることはない。

いつまでも、心の中にとどまって、
いつまでも、心の中を暖め続ける。
いつまでも、いつまでも、いつまでも。

私は、幸せだ。

そんな感情を知ってか知らずか、当麻は素っ気ない態度でこう言った。

「さっき言ってた『ふしぎなちから』ってエロ本を見つけ出す能力か?」



……………はあ。

ああ、無情。
悲しいかな『男』という生き物、『終わり良ければ全て良し』らしい。

夢のようなひとときに浸っていた私は、当麻からの質問に冷や水を浴びせかけられたような気分になった。
『いつまでも、心の中を暖め続ける』なんていう、こっぱずかしいポエマー染みたことを言ってしまった。

早速で大変申し訳ないのだが、前言撤回させて頂きたい。
今、私の心は、急速なスピードで冷え込んでいる。
まるで冬のアラスカ・ベーリング海峡に投げ込まれたかのように。

「……ほんっと、当麻って空気読めないわよね……」
「んあ?俺なんかまずいこと言ったか?」
「もういいわ……」

当麻に女心を説くのは、馬の耳に念仏を唱えるより無謀だということを、改めて思い知らされた。
『いつのことだか思い出してごらん、あんなこと、こんなことあったでしょう?』
という歌のとおり、本当にあんなことやこんなことがあった。
あまりにも色々あり過ぎて、このパート21のスレ中に枚挙しきれる自信がない。
何度も何度もこの男の鈍さに泣かされてきた。
どうしてこんな男に惚れたのか、と、何度も何度も自責してきた。

しかし、その苦悩を帳消しにして尚、余りある幸福を与えられたのも事実である。
(鈍感なところをひっくるめて好きになったのよね……)
そんな青臭い想いが込上げてき、思わず頬が緩みそうになる。
気恥ずかしさを誤摩化すように、私は短いため息をついた。



てんやわんやがあった後、気怠さに包まれた私は、うごうご言いながらようやく起き上がった。
そこで初めて部屋の惨状を目の当たりにした。

脱ぎ散らかされた衣服、
部屋の片隅に蹴り飛ばされた布団、
空き巣に入られた後のような室内。

もう少し綺麗に慎重に服を脱げなかったものか、
もう少し布団に対して配慮出来なかったものか、
もう少し落ち着いて行為に励めなかったものか。

全て後の祭り、後悔先に立たずである。

気怠さに打ち勝ったと思っていた私は、更なる気怠さに襲われ、完膚なきまでに打ちのめされた。
私は一切の清掃活動に対して無期限休止宣言を公布し、ひとまず珈琲を飲んで落ち着くことにした。
まぁ、落ち着いたところでどうにもならないことは、火を見るより明らかだったけれど。
全ては時間とカフェインの赴くままに託すことにしよう。




「予知能力?」
当麻は砂糖だけ入れた珈琲をずずずっと啜りながら尋ねた。
「ま、そんな大層な物じゃないし、予想がよく当たるだけなんだけどね。外れることもあるし」
私はミルクだけ入れた珈琲をずずずっと啜りながら答えた。

「言葉では説明し辛いんだけど、
ぐぐぐっとすると、(握りこぶしを作って背中を丸める)
ぞわぞわっとして、(頭を小刻みに震わせながら背筋をのばす)
パっとと閃くの。(両手を目一杯に開いて頭の上に伸ばす)
分かった?」

渾身のボディランゲージを用いて、懇切丁寧に解説する。
これならば新しい上司のフランス人だって分かるだろう。
しかし。

「ああ。ミスター長嶋か岡本太郎なら分かっただろうな」

落ち着き払った声でそう答えた当麻は、再び珈琲を啜りながら、遠い目をして天井を眺めていた。
その様子はまるで
『全く勉強しないままぶっつけ本番でテストに挑み、山勘が外れた生徒』
の如き、全ての思考を諦めた、もうどうにでもなーれ☆の姿勢であった。

まずい。
ちっとも伝わっていない上に、このままでは
『ちょっと頭のイタいチャーミングな女の子★』
扱いされてしまいかねない。
そう危惧した私は、慌てて方針転換に走った。

「ま、まぁ……簡単に言うなら『三題噺』みたいなものかしら?」
「三題噺って落語の?」
「そ。ホントなら3つのお題はお客さんに決めてもらうけど、
私の場合は『場所・色・行動』の3つが頭に思い浮かんで、現実にその3つに関する事象が起こるの」
「へぇー。例えば?」
「さっきは『ベット・肌色・土下座』の3つが浮かんだから、たぶんアレじゃないかなぁと思って……」
「ずばりその通りです……ああ、俺の性春よ。さらば……」

言い終わるか否かのところで、突然当麻が崩れ落ちた。
肩を落として項垂れるその姿は、矢吹ジョーを彷彿とさせる。
ただし、その表情は決して穏やかではなく、苦悶に満ちた表情だった。

がっくりとうなだれた背中からは、世紀末覇者をも圧倒するであろう、とてつもない負の闘気が放出されている。
ちょっとでも小突こうものならば、バラバラと瓦解してしまいそうな危うい脆さも兼ね備えている。
少し心配になった私は、当麻を気遣おうと声をかけた。

「ねえ、当麻……」
「もうほっといてくれ……!俺の性春は返ってこないんだ!」
すっかり憔悴しきっているかと思いきや、突如として激高しだす当麻。
その姿には、薄羽蜉蝣のような儚さと、蟻地獄のような恐ろしさの二面性が垣間見えた。

私は震撼した。
何か取り返しのつかないことをしてしまったのではないか、
当麻の幻想をぶち壊してしまったのではないか、と。
しかし、すぐに思い直した。
「でも、当麻があんな本持ってるのが悪いんだから、自業自得、よね?」
地獄の釜の蓋を震わせるような、ドスを聞かせた声を発すると、
「……はい、そのとおりです……」
蚊の囁くような声が帰って来た。

こうして、私達のなんでもない日常は過ぎ去っていく。
『中途半端な予知能力』という、ほんの少しのスパイスを加えて。






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