とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

22-014

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匿名ユーザー

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小ネタ こんなはずじゃなかったんだ。




(何故こうなった……?)

 目の前いっぱいに広がる少女の顔をぼんやりと見つめながら、上条当麻はそんなことを思う。
 本当に今更ではあるが……一体何がどうしてこうなったのだろう?

―・―・―・―・―

 ここ最近、もはや日課と言っても過言ではないほど続いていることがある。

「待ちなさいよっ!!」
「待てぬ待たぬ待ちませぬ!!」
「勝負よ勝負っ!! 今日こそアンタをギッタギタにしてやるんだからっ!」
「んなこと言われて止まるほど上条さんは馬鹿じゃありませんよーだっ!」

 そう。それはこの少女との“勝負事”。
 いつも決まって彼女の方から吹っ掛けてきて、断れば了承するまで追われる羽目になる。
 足にはそこそこの自信があるのだが、それは少女も同じなのか、彼女から逃げ切れたことは一度もない。だから酷い時は共に夜を明かすことすらある。
 もちろん変な意味ではない。追われている内はひたすら逃げ続け、痺れを切らした彼女からお得意の電撃が飛んで来れば仕方なく勝負を受ける。そして終わりの見えない勝負を続けている内に、気が付けば夜が明けてしまうというわけだ。

「だーかーらーっ! 待・ち・な・さ・いってばッッ!!」
「うおっ!?」

 心臓に悪いスパーク音が辺りに響き渡る。
 彼女、御坂美琴は中学2年生にしてこの学園都市で第三位という高位能力者。最高峰の電気使いである彼女は、時に雷すら操って勝負を吹っ掛けてくるから恐ろしい。

「何しやがるこのビリビリ中学生!!」
「いいじゃない。どうせ当たらないんだし」
「死ぬからね!? 右手以外だと死んじゃうからね!?」
「ふーん。じゃあその時は私の勝ちってことでいいのよね」
「聞いてました!? その時は俺死ぬんですけど!? いいの!?」

 今日もすでに追われて数時間。この調子だとまた日付をまたいでしまいそうだが、つい昨日も“朝帰り”したところなので今日は是非とも遠慮したい。

「なあ。もう止めようぜ、こういう無駄なこと」
「嫌よ。私はまだ負けてないんだから」
「だからもうお前の勝ちでいいって」
「そんな適当な勝利要らないわよ。さあ勝負よ勝負! 今日こそアンタを負かすんだから!」
「あーもう。わかったよ。でもさ」

 額から青白い火花を散らす御坂の様子を窺いながら、“朝帰り”回避の為に思いついた一つの作戦を実行に移す。
 
「今日はもう体力的にいつもみたいな勝負は出来ないからさ。たまには違う方法で勝負しようぜ?」
「違う方法?」
「ああ。たとえばさ……」

 少し興味があるのか、首を傾げてこちらを見つめてくる御坂の目の前に、学生鞄から取り出したある物を差し出す。
 学校帰りにコンビニで買ったスナック菓子だ。

「ん? それってポッキーじゃない。そんなもので何を……」
「ポッキーゲーム」
「はあっ!?」
「2人でお互いに端から食べ進めて、先に口を離した方が負け。それがポッキーゲーム」
「それは知ってるけど! 何でそれをアンタと私がしなきゃいけないのよ!?」
「だって今日はポッキーの日だし、これなら体力関係ないし。それにジャンケン並みにフェアな勝負だと思うんだが?」
「うっ……」

 “フェア”という言葉が効いたのか、御坂は顔を真っ赤にしながら反論するのを止めた。
 ……作戦通りだ。確かに能力者としては学園都市第三位の秀才かもしれないが、所詮は一人の女子中学生。ポッキーゲームなんておませなゲーム、まだ初心であろう少女にはハードルが高過ぎるに違いない。これなら今日は大人しく勝負を諦めてくれるだろう。
 そう思っていた。思っていたのだが。



「わ、わかったわよ!」

 ……あ、れ?

「た、確かにフェアよね! きょ、今日くらいはこういう勝負でもいいわよ!」
「へ? え……ええっ!?」

 想定外の答え。
 まさかの展開に固まっていると、御坂にポッキーの箱を取り上げられた。

「何フリーズしてんの? ほら、やるわよ」

 御坂の手には取り出された1本のポッキー。
 思わず一歩後退りかけると、

「ほら」

 真っ赤な顔で、しかも上目遣いで促された。
 後退りかけていた身体が動かなくなる。
 ……反則だろうそれは!!

「ん!」

 先にくわえたポッキーをつき出してくる御坂の顔は、それはもう茹で蛸のように真っ赤で。

「ん」

 促されるままにもう片方の端をくわえれば、御坂の方が先に食べ進めてきた。

(っ!?)

 どんどん近付くその顔はとても整っていて。
 今までの勝負の中では防御に必死で気付かなかったけれど、御坂美琴という少女が思っていたよりもずっと綺麗な少女だと知った。
 それにしても。

(近っ!?)

 恥ずかしさからか目を瞑っている御坂は、おそらく距離感がわかっていないのだろう。食べ進めるスピードが早めで、もうすぐ半分に達するところだ。
 ……つまりもう5センチほどしかない。

(何故こうなった……?)

 目の前いっぱいに広がる少女の顔をぼんやりと見つめながら、上条当麻はそんなことを思う。
 本当に今更ではあるが……一体何がどうしてこうなったのだろう?
 いや、原因は簡単だ。自分が言い出したからに決まっている。
 でも決してこういう意図があったわけではないのだ。恥ずかしがった御坂が勝負を諦めて大人しく帰ってくれる、そういう予定だったはずなのだ。

(まぁ今更何言っても言い訳だよなあ……)

 その時。
 ちゅっ、という音と共に、温かくて柔らかい何かが唇に触れた。

「「っ!?」」

 まだあったはずの5センチは、意外と短かった。
 現実逃避のようにぼんやりと考え込んでしまったのがマズかったらしい。

「な、なんで離さないのよ!?」
「お、お前こそ!?」
「だ、だって今日は勝つって決めてたし……」
「い、いやだからってお前! キス……」
「っ!! こ、これはキスなんかじゃないわよ!! 勝負なんだから!!」

 勝負。そう、これは勝負だった。
 勝負。勝or負。

「……とにかく、これって私の勝ちでいいのよね?」
「へ?」
「だってアンタ、全然食べてなかったじゃない!」
「そ、それは……。でも確かこのゲームって『先に離した方が負け』であって、キスは引き分けってことだったような……」
「えっ!?」

 ということは、勝負の決着は……?
 考えていることは同じなのか、相変わらず真っ赤な御坂と目が合い、互いにすぐに逸らした。
 気まずさを感じながらも再び視線を合わせると、少し潤んだ瞳を向けられた。

「……もう一回」
「……、」
「今度こそ勝つんだから」

 差し出されたのは2本目のポッキー。
 さて、今度は決着をつけられるのだろうか。

(これは不幸……とは言えないなー)









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