とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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9年越し




「今日の仕事はここまで・・・っと」

そう呟きながら軽く伸びをした男の名は上条当麻。かつて世界の死線に幾度か巻き込まれ、何度も死に掛けながらも
切り抜けた少年も今では25歳。減りつつある労働人口の中でも働き盛りな大人の一員である。
いい大人であるがそのトレードマークであるツンツン頭はよほど強いくせっ毛なのか今でも力強く自立している。
ここでどのような仕事をしているかと言うと・・・

「おっつっかっれさーん!」

荷物をまとめかけていた上条がバシッっと勢いよく背中を叩かれ軽くも鋭い痛みに顔を少ししかめつつ
振り向くとそこには見慣れた清清しいくらいカラッとした勝気な笑顔を浮かべている顔があった。

「ったく、労うんだったらもっと優しくしてもらいたいもんだね。上条さんはこう見えて結構繊細なんですよ御坂さん」
「うっさい、どこが繊細なのよ。あんたの頑丈さは私が嫌と言うほど知ってるわよ」

ご存知の通りこの女性は御坂美琴である。以前は名門常盤台中学校に所属して14歳という齢
にして学園都市第三位に君臨していたいわゆる天才少女であり9年たった今ではこうして
ある著名な研究所で学生の能力開発について『有能な後続の能力者を育てていこう』と志し
研究員の一角を担っている。最もその志は研究所自体のその著名さと反比例したような
ありふれた印象のある受け売りではあるが。それとは別に彼女としては前に起きた
『妹達』のような計画が立案されないように監視する意味合いもあるのかもしれない。
そして先ほどは言いそびれたが何故上条もこの著名なところで働いているかというと
いわゆる御坂美琴の助手といった形で配属されているのである。

お世辞にも頭がいいとは言えない上に事件に重なる事件で出席日数がギリギリだった
上条は小萌先生による必死のリカバー補習を受けたり、美琴による指南を年下に勉強を教えて
もらっていることに対する情けなさを感じながらも受けたりして何とか死に物狂いで高校を
卒業し、その後近くの中小企業に就職し真摯に日々働いていた。
働き出してから6年ほどたった時にこの美琴自身からこの誘いがあった。美琴が自分自身の
助手として上条を推薦したらしい。

「なんでまたこの俺にお前の助手って形とはいえそんないい所から声がかかるんだ?」
「それはね、ほら、私が就職しようとしてる研究所って学生の能力開発にかかわるとこでしょ?」
「おう、俺も名前は聞いたことあるがそれがどうした?」
「そこであんたの右手に白羽の矢がたったって訳よ」
「・・・?右手?・・・・・・あ、そういうことか」
「それにあんたとはなんだかんだで付き合い長いし・・・ね。どうこの話」

上条は自分の右手に目をやる。この右手は『幻想殺し』と言いあらゆる異能の力を
かき消す力がある。それはもちろんこの学園都市で開発されている能力も例外ではない。
研究においては強力な能力者の力を測る様なテストがあるのかもしれない。それにおいては
この右手は有効に役立つ場面がいくつもあるかもしれない、という話だ。
この力で上条はいくつもの死闘を潜り抜けてきており最早相棒といっても差し支えないのかもしれない。
最もこの右手が上条自身がよく嘆く不幸につながってるのかもしれないが・・・
それはともかくこの話はその不幸な上条にとっては稀に見る幸運な話である。

もちろん条件はよく損はない話なのだが上条としては働きなれた職場を離れることもあって気後れ
はした。しかし同僚は「良かったじゃないか!」「そんないいところで働けるなんてうらやましい
限りだぜ!」「上手くやってけよ!」「憎らしいねこのこのー!」と学生時代の悪友のような態度で
少し乱暴ながらも手厚く見送ってくれた。上条はいつか飯でもおごってやるかと心の中で我ながら
良い同僚を持ったなと涙ぐみながらその会社を後にした。それでしばらく美琴ともに働きこの職場に
も慣れてきたところだ。



――――そして今に至るわけである。

「そんじゃお疲れ御坂。バイバーイ」
「待ちなさい」

仕事も終わって荷物を持ち帰路につこうとした上条を美琴が引き止める。

「何だ御坂?・・・はっ、まさか残業!?嫌だー!華の金曜日に残業は嫌だー!」

上条は歳らしからぬ分かりやすい子供のような駄々をこねる。

「あんたそれでもいい大人か!・・・そうじゃなくて残業じゃないわよ」
「へ?じゃあ何だよ?」
「さっきあんたが言った通り華の金曜でしょ?この後空いてる?」
「空いてるも何も俺に浮いた話ないの知ってるだろ?上条さんは一人寂しく帰宅してダラダラ過ごしますよ」
「じゃあ飲みに行かない?久し振りでしょ?」
「飲みに?・・・そうだな。それではご一緒させていただきますミコトセンセー」
「・・・ずっと思ってるけどその言葉使いは一体なんなの?」
「まあまあ細かいこと気にすんなって。飲みに行くんだろ?行こうぜ」
「もちろん!行きましょ」

そう言って美琴は荷物をまとめだした。華の金曜日効果だろうか、鼻歌交じりで楽しそうに
鞄に物をしまっていく。今日はまたえらい上機嫌だな、と上条は思い途中止めになっていた
荷物をつられるようにまたまとめ始めた。どこの居酒屋に行くか、いつまで飲むかなどこの後の
予定を楽しそうに話しながら2人は荷物をまとめ終わって職場を後にした。

2人は座席に座り電車に揺られながら2駅先ぐらいにある飲みに行くときは職場内で定番になっている
居酒屋に向かっている。上条は向かいの窓から夕日が沈んで間もないかすかに明るい空を眺めている。
仕事終わりの疲れも拍車をかけているのか上条は軽い眠気に襲われまぶたが重そうだ。
軽くうとうとしかけながらも目的地を通り過ぎるという事態が脳裏をよぎり眠気を振り払おうと
上条は頭を振った。更に眠気を覚まそうと上条は会話で脳を活性化させようと思い立った。

「そういや御坂はなんでまた今日飲みに行こうって誘ってくれたんだ?」
「・・・」
「・・・?御坂?」

返答が返って来ないことに疑問を感じたがその疑問はすぐに解消された。

「・・・何だ、もう寝てるのか」

どうやら先に睡魔の餌食になってしまったらしい。上条は少し呆れたような顔で笑い再び前の車窓の
景色に視線を戻す。

(2人ともこのまま寝過ごすっていう最悪のシナリオだけは避けないとな・・・)

そうして一層心の中で気合を入れなおしたとき、ふと左肩に体重を感じた。

(いっ!?)

何が起きたかは一目瞭然、眠っていた美琴の重心が左に傾き身体はそのままコントロールを失って
上条の左肩に着地したというわけだ。この出来事に上条の心のコントロールも揺さぶられる。
眠っていることによって通常より美琴の体温が上がってるのか上条は色濃く温かさを感じた。
その温度を美琴にもらったのかそれともこの事態に即して自ら熱を発し始めているのか上条の体温も
上昇していく。

(落ち着け・・・落ち着けよ俺・・・)

落ち着こうと精神統一をイメージしてすうっと深呼吸をするが感覚が研ぎ澄まされたのかわずかに
聞こえる寝息や女性特有の香りとかが上条の平常心を刺激してやまない。

(・・・その幻想をぶち壊す!!)

様々な外的情報にノックアウト寸前だった上条は右手で衝撃が美琴に伝わらない程度に軽く自分の頭に
拳骨をくらわせた。傍から見たら見たらなかなか恥ずかしい場面だが幸いにか車両には人は少なく
皆仕事帰りか学校帰りなのかうたた寝してる人がほとんどで車内にはガタンゴトンという音だけが
響いている。ちょっとした痛みで我に戻った上条はしばらく窓の外を見つめていたがまたふと視線を
降ろし彼女の寝顔を見つめる。穏やかな寝顔だ。いつものハキハキと元気な彼女を見ているから
動と静の差にギャップを感じる。綺麗な寝顔に見入っていた上条は顔が赤くなるのを感じさっと
顔を背けた。

(俺は何やってんだか・・・)

そう思い上条はため息をついた。実は上条は今日飲みに行くにあたって一つ思うことがあった。
時は上条と美琴が以前飲みにいったときにさかのぼる。



その日も2人で飲みに行っていたときのことだった。ここで余談だが上条は高校生のときに酒を
飲まされてベロベロに酔ったことがあるが成人して場を重ね次第に慣れてきて割とコントロール
できるようになったようだ。

「・・・・・・ま」
「ん?どうした御坂?」
「・・・・・・うま」

何か美琴がボソッと言っているようだがボリュームが小さすぎて上条は聴きとる事が出来ない。

「だからどうしたんd・・・え?」

そう訊こうとしたが急に左腕に違和感を感じ思わず声が出てしまった。

「・・・とうま」
「!?!?」

違和感の正体は至極単純、美琴が上条の右腕に抱きついていた。しかもおそらく上条の名前であろう
言葉を口にして左腕には何か柔らかなものが押し付けられている。頬は酒のせいなのかそれとも他の
何かなのか朱色に染まっている。この突飛な状況は上条の思考をパニックに至らしめるには十分過ぎた。

(な、なんですか、なんなんですかこの状況は・・・落ち着けよこいつは御坂で俺は俺でここは居酒屋で
2人で飲みに来ていつの間にか御坂が御坂じゃなくなって・・・・・・って本当にこいつは御坂なのか?)

思考からして既に混乱状態なのは明確だがそれも仕方ないといえば仕方ないだろう。普段の彼女から
したらこの状態は異常といっても差し支えない。

(いつの間にかこういう性格の御坂妹とかに入れ替わって俺にドッキリしかけてるとか・・・
じゃないよな?とにかく確認を取ろう・・・)

「み、みさか・・・だよな?」
「・・・・・・き」
「へ?」

これまた小さな呟きで聴きとる事ができず上条は彼女の口元に耳を近づける。そして今度はその
言葉をしっかりと耳で捉えた。

「・・・・・・だいすき」
「・・・・・・・・・ッ!?」

上条の脳の情報処理能力にトドメが刺された。この後のことは上条は呆然としていたのか
よく覚えていない。気がつけば店主に店じまいだと言われていたときだった。そのまま2人はタクシーで
それぞれの家に帰ったが上条は衝撃的瞬間を思い出し悶々としたまま帰りその夜は余り眠れなかった。

翌日上条は職場に睡眠不足で眠たい目をこすりながら現れた。あくびをしながらデスクにつくと
ドアが開く音がして元気な挨拶が飛び込んでくる。

「おっはようー!」

声で誰か特定した上条はすぐにドキッとして顔を伏せる。そこに挨拶の声の主が近づきパシッと
背中を叩く。

「どうしたのアンタそんな暗い顔して?さては二日酔いー?」
「いや・・・ただの寝不足だ・・・ん?」

ここで上条は疑問を感じた。美琴の顔を見上げたところいつもと変わらない晴れやかな顔だ。
昨日あのような行動をしておいて平然としてるこいつはどれだけ巧みなポーカーフェイス使いなんだと
上条は思う。

「み、御坂・・・昨日のことなんだけど・・・」
「昨日?私何かした?」
「何かした?ってことはないだろう・・・昨日さ・・・」
「あー、ゴメンねー昨日の記憶あんまりなくて」
「そうそうだから・・・って何だって?」
「私酒入りすぎちゃうとちょっと記憶飛んじゃうみたいで・・・帰りぐらいの記憶はあるんだけど・・・」
「・・・そういうとこは母親譲りなんだな」
「あっ、やっぱり酒癖悪かった・・・?ゴメンね今度何かおごるから!」

ため息をつきながら再び俯いた上条に美琴が手を合わせながら謝る。

「別に気にしなくていいよ・・・」
「気にしなくて・・・って明らかに気分沈んでるじゃない」
「大丈夫、心配しなくても御坂さんは昨日それはそれはとても清楚な振る舞いで
いらっしゃいましたよー、と」
「その言い方完全にあてつけじゃない!一体何したのよ昨日の私!?」

そう言って美琴は頭を抱えた。しかしもちろん上条の思い悩む焦点は美琴の酒癖の悪さに
ついてではない。まあ酒癖の悪さの結果なのかもしれないが・・・。

(あれは本心だったのか・・・それとも御坂が笑い上戸ならぬ抱きつき上戸なのか・・・)

それから上条は数日悶々と過ごしていた。さながら遅れてきた思春期といったところか。
この出来事を皮切りに学生時代の美琴との思い出を頭に浮かべてしまう。あの頃は周りが激動の
状態だったせいなのかそういう目で見たことはなかったが今では些細な出来事ですら愛おしく
思えてくる。

(単純なんだな・・・俺って)

こうして上条は美琴に恋心を抱いた。



という訳で舞台は電車に戻るが飲みに行くにあたって思うこととは先述したように酔った美琴についてだ。
つまり正直のところ酔った美琴に期待してしまっているのだ。それこそ思春期のヘタレ青年よろしく
今更付き合いの長い美琴に対して自分からアタックすることに怯えていて接触のチャンスをそんなとこに
求めてしまっている卑怯な自分がいるだけだ。

(本当情けないな・・・俺)

どうやら本人の記憶が飛んでるようなので何だか騙しているような気がして罪悪感を感じてしまうのだが
それでもその機会を求めてしまう。そんな自分を恥じているが期待してしまう。その無限ループに
上条は陥っているのだ。

~えー、次はー○○駅ー ○○駅でございますー~

車内に目的地を告げるアナウンスが流れる。そのアナウンスに上条の脳のスイッチはパッと切り替えられた。

「おい、御坂!そろそろ着くぞー」
「・・・んー・・・」

起こすために上条は軽く美琴を揺さぶるが割と深く眠っていたのかちょっと眠そうな声をあげただけで
起きる気配が余りない。そこで上条はもうちょっと強く揺さぶる。

「おーい、乗り過ごしちまうぞー!」
「・・・ん、あ・・・寝ちゃってたのね私」

寝起きの無防備な美琴の表情を見て少し上条はときめきを感じたが自分のそんな感情は無視して言葉を
続ける。

「ほら、降りる支度するぞ」
「うん・・・」

徐々にスピードを下げていた電車は外の風景が無機質な建物に変わり間もなく駅に付くこと知らせる。
2人は荷物をまとめて立ち上がりドアの前まで歩き出した。

「そんで、今日はいつまで飲むんだ?」
「そりゃ金曜日だしもちろん・・・飲めるとこまで行くわよ」
「おいおい・・・酔いつぶれないように気をつけろよ」
「それくらいは自分でコントロール出来るわよ。馬鹿にしてるの?」

そう言って若干不機嫌そうにこっちを見つめる美琴を見て上条は頭の中で嘘つけと思いながら少し笑った。

「ちょっと・・・何よその笑みは」
「いや、なんでもないから気にすんな」
「じゃあ笑うのやめなさいよ」

2人の会話をさえぎるようにプシュッと音を立てて電車の扉が開く。

「ほら、行くぞ」
「何か腑に落ちないわね・・・まあいいわ、行きましょ」

こうして2人は居酒屋に向かった。


「それじゃ今週も仕事終わったってことでかんぱーい!」
「おう、かんぱーい!」

2人はビールの入ったコップを合わせてカチンッと音を鳴らせてほとんど同時にコップに口をつけた。

「・・・っぷはぁー、やっぱりビールは最高ねー」
「お前なぁ・・・どんだけ母親の遺伝子色濃く引き継いでるんだよ?おっさんくさいぞ」
「何よ、20代前半の女子に向かってその言葉は。下手したら訴訟物よ」
「全く、20代前半女子に見られたかったらもっとおしとやかにしてもらいたいもんだね」

そう言って上条は二口目のビールを口にする。実のところ御坂美琴は現在23歳といえど歳よりも若く見える。
中学のときよりちょっと大人っぽくなったかな?と思うぐらいでざっと見た感じ10代後半かなと
言ったところだ。これも姉に見えてもおかしくない見た目をした母親譲りなのだろうか?と上条は思うと
同時に比べて冴えない自分と二人で飲みに来ていて周りから見たらつりあってないんじゃないか、と
自分を卑下してしまう。

(それにしても本当にこいつ美鈴さんと似てきたよな、色々と・・・)

そういって上条はコップに口をつけながら半ば無意識に美琴の顔から少し視線が下がる。その動きに美琴は
疑問を抱いた。

「ん?アンタどうかしたの?」

その言葉の後即座に上条はブフッと噴き出した。そして数回咳き込む。急な出来事に美琴は慌てた。

「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「だ、大丈夫だ・・・ちょっとむせただk・・・ゲホッゲホッ」
「もー、気をつけてよねー」

そう言って美琴は上条の背中をさする。背中をさすられながら上条はかっこ悪ぃ・・・と自己嫌悪に浸り
色欲に惚けていた自分を呪う。



2人は気を取り直して再び乾杯をして談笑しながら飲み食いを始めた。職場の話や休日のそれぞれの体験談、
ちょっとした昔話まで飛び出して2人だけの飲み会にもかかわらずにぎやかさがその場に充満していた。

「あ、ちょっと、それ俺のから揚げだぞ!」
「ふふーん、油断してる方が悪いんだぞー。ん、おいしー!」
「ならば俺はこれを頂く!」
「あ、ホタテのバターソテーは反則よ!等価交換ー等価交換ー」
「うるせぇ!お前もとから交換する気じゃなかっただろ!これは先に手を出したお前に対する罰金だー!」
「何をー、ならば罰金返しだー!」
「あっ、てめぇこんにゃろー!」

酒の効果もあるのか当の本人たちは楽しそうだがちょっとした無法地帯みたいな雰囲気になっていた。
カウンター席なので向かい側では小忙しそうに店主が作業していて仲が良くて微笑ましいなと思いつつも
少し苦笑いを抑えられないようだ。

~二時間後~

案の定美琴は第二形態甘えモードに突入していた。上条の左腕が指定席だといわんばかりに抱きついている。

「とうま、だいすきー」
「はいはい・・・素面でもそれが言えたら信じてやるよ・・・」

そう言いつつも期待してはいたのでこの状況に甘んじて抵抗はしない。ここで今まではしなかった質問を
しようと上条は思い立った。

「なあ、御坂、本当に俺のこと好きなのか・・・?」
「んー?すきよ、だいすき」

上条はちょっと喜びかけたがこんな状況じゃそりゃそうか、と少しうなだれる。

(本当、何してるんだろうな俺は・・・こんな御坂じゃない御坂に期待して・・・これじゃ俺は御坂に恋してる
んじゃなくてただの都合のいい女性に恋しているのと一緒じゃないか・・・)

上条は今までを思い返す、美琴に出会ったときのこと、毎日のように追いかけられたときのこと、
『妹達』の件で苦しんでいた美琴を助けようと思ったときのこと、偽デートのときのこと、年上だけど
勉強教えてもらったこと、そして自分だけで突っ走ろうとしたときに何度も手を伸ばしてくれたこと、
最初は何かといい思い出とは思っていなかったが今となってはいい思い出だ。

(俺は・・・御坂が好きだ・・・!)

そう堅く心の中で念じた上条はいまだ左腕に掴まっている美琴の肩を掴み正面に向き合わせる。
急な出来事に美琴の顔には分かりやすく疑問の表情が表れている。上条は向き合った状態でスッと
深呼吸をして真摯な目を向けて言い放つ。

「御坂、俺はお前が好きだ!」

はっきりくっきり言い放った。2人の間に沈黙が流れしばらくの間見つめあう。上条はその沈黙に
内心何かまずいことしちゃったんじゃないかと思い冷や汗を流していた。と、そのとき、

「わー!ほんとにー!?うれしい!」

突然沈黙は破られる。その言葉と同時に美琴が今度は上条に正面から抱きつく。

「うわっ!ちょっと急にやめろって!危ないだろ・・・」
「だいすきー」

上条は美琴の急な抱きつきに身体を後ろに仰け反らせたが何とかこらえる。そしてここで上条は
あることに気付いた。

(あ、というかこの状態の御坂に言ってもしょうがないじゃん・・・無駄に勇気振り絞っちまった・・・)

大きい肩透かしを食らった上条はがっくりうなだれる。そんな上条のことは露知らず美琴は未だ抱きついた
ままでまるでハートが見えるかのようなオーラを発しているこんな調子で時間は過ぎて行った・・・。



~数時間後~

「おーい、御坂さーん大丈夫ですかー?」
「・・・・・・」
「だめだこりゃ・・・」

美琴はすっかり酔いつぶれてしまったのかカウンターに伏せたまま眠っている。流石に素のカウンター
に突っ伏してるとまずいと思い上条はタオルを起きない様にそっと美琴の顔を少し持ち上げて
下に滑り込ませるように敷いたがそれが仇となったか眠りのコンディションは抜群のようで
ぐっすりという表現がばっちり当てはまる。

「お客さん、そろそろ店じまいなんでそちらのお連れの方には申し訳ないけどそろそろ・・・」
「あ、すみません・・・・ご迷惑おかけまして・・・」

時間も時間で見た目40から50代の威勢の良いすし屋大将みたいなイメージの外見の店主が店じまいの
呼びかけをかけてきた。それに対して上条は申し訳なさそうに二、三回お辞儀をして謝る。

「そちらはお嫁さんで?えらい楽しそうに飲んでて仲睦まじそうで微笑ましいですなー」
「いや、そういうんじゃないんですよ。いわゆる職場の上司と部下みたいなもんで・・・」
「ありゃ、そうなんですか。こりゃ失礼、余りにも息ぴったしで雰囲気すらもそうにしか
見えなかったもんで・・・」
「そうなんですか・・・?」

それを聞いて上条は意外そうな表情を浮かべる。自分としてはてっきり釣り合ってないだろうなと
思うばかりだったのでそのように似合ってると言われるのは相当意外だった。

「ひょっとして数時間前やけに真剣そうな表情で向き合ってたのは告白とかそういうk・・・」
「ちょ、ちょっとそういうこと言うのやめてくださいよ」
「ハッハッハッ、冗談ですよお客さん。そんでお二人さんは何で来たんですか?
場合によってはタクシー呼びましょうか?」
「あ、重ね重ね申し訳ありませんがよろしくお願いします」
「いえいえ構いませんよ。それと会計もよろしくね」
「分かりました」

突然からかわれて面白くない気がした上条であったがタクシーを呼んでくれるとのことなので
お言葉に甘えてお願いした。なんとも気さくな店主である。交通手段を確保したところで一息ついて
横に目をやる。

「さて、こいつをどうするかだ・・・」

未だに起きる雰囲気を見せない美琴に上条は軽く頭を抱える。


しばらく経ってタクシーは到着した。が、相変わらず美琴は夢の世界に飛び立ったままだ。

(ゆすっても起きないし他には・・・)

呼んでもらったタクシーをあまり待たせるわけにもいかないので上条は仕方なく少しためらっていた案を
採用する。

(おんぶしかないか・・・)

意識してしまった女性を本人の了承なしに背負うのは上条としては良心の呵責で避けたかったのだが
四の五のは言ってられない。上条は美琴を少し苦労しながらも背負い荷物を店主に持ってもらい
タクシーに向かう。後ろから店主が若いのはお熱くていいねーと典型的な台詞が似合うような表情で
こちらを見ているがそれを気にしている暇はない。背中に大きく柔らかいものが当たってる感触があるが
それも上条は気にしない振りをして歩きタクシーに乗り込む。

「すみません、□□までお願いします」
「かしこまりましたー」



夜もだいぶ更けてきて街灯がまばらに照らしているぐらいで外は真っ暗だ。外を眺めて走行時間の暇を
潰すこともできないので意識は自然とタクシーの運転手との会話に移る。運転手は30代ぐらいの男性だろうか。
座席で寝てる美琴を横目に上条と運転手は世間話などで盛り上がる。
その途中タクシーの運転手が不意に尋ねてきた。

「お隣で寝てらっしゃるのは奥さんで?」

デジャヴを感じざるを得ない質問に少し沈む上条だが質問に答える。

「いえ、ただの上司と部下みたいなもんですよ」
「え、そうなんですか。でも付き合ったりとかはしてるんでしょ?」
「ち、違いますよ、そんなんじゃ・・・」

上条は少し慌て気味に否定する。運転手は笑って言葉を続ける。

「ハハハッ、そんなに慌てなくてもいいじゃないですか。見たところ2人だけで飲みに行ったみたいですし
いくら上司と部下だからといって女性が男性と2人きりで飲むなんて恋仲でもなきゃしないでしょう?」

その言葉に上条はハッとさせられ改めて横を見る。確かに無防備に寝ていて警戒してる様子は
一切見受けられなかった。酔ってるからという理由も考えられるが今思えば電車のときも同じように
無防備に寝ていた。

(ひょっとしたら・・・美琴は本当に俺のこと・・・)

上条の中で不安が少しずつ確信に変わりつつある中運転手は話を続ける。

「これは私事なんですが実は私新婚の身でありまして・・・」
「あ、それはおめでとうございます。どのくらいなんですか?」
「結婚して2、3ヶ月ぐらいですが嫁との付き合いは長くて20年ぐらい前からなんですよ。所謂幼馴染ってやつで」
「へぇ、それは長いですね・・・」
「恥ずかしい話逆にプロポーズされちゃったんですよ。『ずっと前から好きなのに貴方はいつまで
気付かないんですか』『この鈍感』とまで言われちゃって・・・。甲斐性なしと言われても仕方ないですよね・・・」

上条も鈍感の代表格とも言えるほどの人材ではあるがその鈍感であるが故このときもへー、そうなんですかと
他人事のように思いながらただただ話を聞いていた。

「その隣のお嬢さんもあなたに好意があったりするんじゃないですか?」
「いやいや、そんなことは・・・」

上条は口ではそういいつつもさっき言われたことが頭に残っていて隣をチラチラ見てしまう。

「結婚生活ってのはいいものですよ。私たちみたいに長年付き合いがあった仲でも毎日が新鮮に見えて
嫁が作ってくれる朝食の味噌汁をすする度に『ああ、幸せってこういうことなんだな』って思います」

その言葉を聞いた上条は無意識に自分と美琴のキャストでそのシチュエーションを想像してしまい
それに気付いたところで頭を振ってイメージを振り払う。その後も結婚生活などを含めた話は続き
いつの間にか目的地の美琴の家付近に着いていた。

「到着しましたよ、料金は△△△△円になります」
「はい、ありがとうございました。おーい、着いたぞ御坂」

そうやってまた揺さぶるが未だ起きない。どんだけ寝るんだこいつはと思いため息をつく。

「ちょっとこいつ降ろしてくるんで支払いちょっと待って下さい」

美琴のカバンを少し探り玄関の鍵らしきものを取り出しまた美琴を背負ってタクシーを出る。
荷物を一緒に持てないので先に美琴を玄関に降ろして再び取りに行って流石に当の本人の財布から
お金を出すのは気が引けたのでとりあえず美琴の分の料金を払うことにした。美琴を背負って玄関に辿り着くが
それにしても一人で住む家にしては広い家だ。

(前にも来たことあるけど何でまたこんな広いとこに住んでるんだよ・・・これが金持ちとの差ってやつか・・・?)

新しい職場で以前ほど金には困らなくなったもののアパートの一室住みである上条はちょっぴりへこんだ。

(居酒屋の分も払ってるし金はタクシー料金ともども後でキッチリ返してもらうからな・・・)

そう嫉妬に近い感情を抱きながら鍵を開けて玄関の電気を付け美琴を玄関に降ろして荷物を取りに戻る。



「それじゃこれ料金なんで、ありがとうございました。」
「どうも。あれ?あなたはどうするんですか?」
「ああ、お金節約したいしそんな遠くでもないんで歩いて行きますよ」
「そうですか、それじゃお気をつけて」
「ありがとうございます。それでは」

そういってタクシーは走り出した。夜の冷たい空気に少し身体を震わせ美琴の荷物を置きに再び玄関に向かう。
そして玄関の扉を開けたときそこには目を覚まし玄関に座り込んでいる美琴がいた。

「あれ、起きたのか」
「・・・うん」

起きてはいるがまだ半目で目をこすっていて見事にむにゃむにゃという擬音が似合いそうな様子だ。

「起きたんなら居酒屋とタクシー分のお金徴収しようと思っていたところだがその様子だと後日に回した
方がよさそうだな。風邪引かないように寝ろよー。じゃあなー」

そう言って振り返り出て行こうとしたが急に引っ張られるような力で歩みが止められた。疑問を感じて
振り返ったところ美琴がシャツのすそを持って引っ張っている。

「・・・どうしたんだ?」
「・・・待って」
「だからどうしてなんだ?」
「・・・・・・」
「・・・なんでもないなら帰るぞ。明日休みとはいえさっさと寝たいし」

そう言って帰ろうと踵を返そうとするがここで美琴が立ち上がる。

「ん?おい、ちょっと・・・」

そう言うや否や美琴は上条と唇を重ねた。身長差はそこそこあったのだが玄関の段差でその身長差は埋まり
簡単に唇を奪われてしまった。不意の出来事だったが上条はすぐに状況を理解して頬を染めると同時に
驚きで目は開きっぱなしだった。十数秒に渡る静寂の後唇は離れ息をすることも忘れていた2人は荒い
息遣いになりその音が玄関の中で反響する。

「お、おい、どうしたんだ。ひょっとしてまだ酔ってるのか?」
「・・・大好き」

全くかみ合わない会話にやはり酔ってるんじゃないか?と思う上条だが本当に美琴も好きなのじゃないかという
推理が目の前にぶら下がって本当だと思いたい気持ちが強くなってくる。その迷ったような表情を美琴は
悟ったのかトドメのような言葉を口に出す。

「信じて・・・大好き」

その言葉で理性のストッパーが外れ上条にスイッチが入る。上条は美琴の背中に手を回して身体を引き寄せて
今度は自分から美琴の唇を奪う。先ほどよりも激しく、力強く。また十数秒の間をおいて唇が離れる。
力が抜けたのか美琴はその場にへたり込む。上条は玄関の扉に向かい鍵を内側からガチャリと閉めて
戻り靴を脱いで家に上がり美琴を抱えあげる。俗にいうお姫様抱っこだ。美琴は視線を合わせるのが
気恥ずかしいのか赤らめた顔で辺りを見回していたが観念したのか上条を見上げる。
互いは確認できないのだが上条も美琴と同じくらい顔が赤い。

「いい・・・よな?」

その言葉に美琴は察して顔を更に赤くしてコクリと頷きある方向を指差す。指された向こうには扉があった。
おそらく寝室を指しているのだろう。上条は抱えたままその方向へ歩き出す。美琴は歩き出した上条に
しがみつくように上条の首の後ろに腕を回す。2人はそのまま部屋に入っていった。



小鳥のさえずりが聞こえる。目を閉じていてもまばゆい光のようなものを感じる。その二つの情報に
脳は刺激される。そこで上条は目をゆっくり開けて上半身を起き上がらせた。冬の朝でもないのに
どこか肌寒い。理由は単純、上条は服を着ていなかった。それを引き金に上条は昨晩のことを徐々に思い
出しながら隣に目を向ける。案の定そこには美琴が寝ていた。布団を被っているので全体像は見えないが
おそらく記憶通りならばその下は一糸まとわぬ姿であろう。

(やっちまったな・・・)

昨晩の上条は酒のせいで勢いついてたのもあるのかもしれないが上条は自律心を完全に失ってた
訳ではなかったのでただ本能の赴くままに行動していた訳ではない。合意を受け取った上でのことであると
考えて昨晩は行動していた。だが冷静になって今思いなおすとやっぱりあれは美琴の本心だったのか危うい
ところがある。まだ酔っていてまた本人の意識外のことだった可能性もあるのだ。一抹の罪悪感を覚えつつ
上条はベッドから降りてそこらへんに転がっていた服をひとまず着ようとする。パンツ、シャツ、ズボンを
穿いてYシャツのボタンを留めていたときのことだ。

「大好き」

急なことに驚いて上条は振り返る。美琴も目を覚まし上半身を起こして布団で身体を隠しつつ上条の方を
向いていた。またも脈絡のない愛の告白に上条は昨日の美琴と今の美琴と姿を重ねるが一つ違う点が
見受けられる。頬は赤く染まっているのだが流石に未だに酔っているとは考えづらい。かといって素面では
普段発することのないその言葉に照れを感じると共に上条はやはり違和感を覚えてしまう。ここで上条は
ハッとした。昨日自分が飲んでいたときに言った言葉を思い出したのである。

『素面でもそれが言えたら信じてやるよ』

美琴はその言葉を覚えていて、そして今それを実行したのだ。それでも上条は疑問を一つ拭いきれない。

「・・・覚えてたのか、どうしてだ?お前ひどく酔ったら記憶飛ぶんじゃ・・・」
「ああ、それはね、嘘」
「えっ?」
「全部照れ隠しの嘘」

美琴の告白に上条は唖然とする。

「本当はお酒飲んで酔っ払っててもちゃんと記憶はあるの。ついでに言えば行動もある程度はコントロールできる」
「・・・・・・」
「ただお酒が入ってるとね、意外と思い切れちゃうの。それでお酒の勢いに乗じてアンタにアタックしてただけ」
「・・・・・・」
「呆れちゃうわよね・・・今の今まで素面じゃ素直になりきれなくてお酒に頼るぐらいでしかアンタに
アプローチできなくて・・・」
「今の今まで・・・っていつからだ?」

その上条の言葉に美琴は思わずガックリうなだれる。そして上条をキッと睨み今までの不満をぶつけるかのように
口を開く。

「いつから・・・ってねぇ・・・ずっと好きだったわよ!あの路地で出会ったときからムカつくぐらい意識しちゃうし
あの子達救ってくれてからは妙に意識強くなってくるし・・・それでもアンタは回りに女の子多いし毎回無茶するし
気が気じゃなかったわ!!それに本当は2人きりの飲みに誘った時点で察して欲しかったわよ。9年よ?9年も私の気持ち
に気付かないなんて・・・このバカ!!鈍感!!」

鬱憤が一気に火山が噴き出すように言葉を放った美琴は同じように涙もボロボロと零れ落ちてぐしゃぐしゃに
なった。それに上条は慌てて美琴に駆け寄る。

「わ、分かった、分かったからそんな大声出すな!近所に迷惑だろ?それにそんなに泣くなって・・・」

上条はズボンの後ろポケットに入っていたハンカチを取り出し美琴の目元に当て涙を拭く。嗚咽が少しの間続くので
上条は美琴の背中を子供をなだめるようにさすった。次第に美琴の嗚咽は収まっていき、落ち着いたとこで美琴は
口を開いた。

「・・・でも、昨日アンタが面と向かって好きって言ってくれたときは本当に嬉しかった・・・9年越しにやっと届いた気がして」
「御坂・・・」

美琴は上条に抱きつき上条の胸板に思いが通じ合えた幸せを噛み締めるかのように顔を埋める。
上条はそれに応え受け止めるように美琴を包み込むように抱きしめる。



2人だけの甘い時間が続きしばらくしたところで上条が口を開ける。

「なあ御坂」
「何?」
「すっごく聞きづらいんだけど昨日の玄関でのこと覚えてるか・・・?」
「何よ・・・その後のことまでしっかり覚えているわよ・・・。女の子にそんなこと言わせたい訳?まさかそういう性癖?」
「いや、覚えてるならそれでいいんだ・・・むしろその後のことは言わないでくれ、頼む・・・」

少し頬を染めながらもジト目で見つめてくる美琴に上条は昨日のことを思い出したのも含めて顔を赤くして目をそらす。

「そうじゃなくて・・・それの責任を取るって訳じゃないんだが・・・」
「・・・?」

上条は決心をして一息つき、そして告げる。

「御坂・・・いや、美琴!好きだ、結婚を前提にして付き合ってくれ!」
「・・・!!」

上条の言葉に美琴は思わず両手で口を押さえる。

「何かずっと前から想っててくれたのに気付いてやれなくてごめんな・・・。好きだった期間は圧倒的に負けてるけど
好きの度合いだったら負けないぐらい愛するから・・・」

ちょっとくさい台詞になってしまったかなと赤面する上条だが美琴は今にも嬉し泣きしてしまいそうな表情になっている。
また泣くのは情けないと美琴は思い泣くまいとこらえて返事を告げる。

「はい、喜んで・・・!」

美琴は潤んだ瞳の満面の笑顔で上条の問いに真摯に答えた。

「私も負けないぐらい当麻のこと愛するから!」

そう言ってまた上条に抱きつく。寝室全体に幸せオーラだけが満ちて静かになるが途中で上条が抱きしめるのをやめた。
急に止められて美琴は不満と疑問が混ざった表情で上条を見る。それに対して上条は目を逸らし気味にして美琴に言う。

「あのー、美琴さん・・・」
「・・・何よ?」
「そのですねー、上条さんもまだ若いわけで・・・」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「その格好で何回も抱きつかれるとちょっと元気にn・・・やめてくださいそんな目で見ないでくださいしんでしまいます」

上条が言おうとしていることに気付いた美琴は軽蔑にも近いジト目を上条に向ける。その対応に上条はやはり
言うんじゃなかったと後悔した。しかしその後美琴は上条の思惑とは外れた行動をとった。

「・・・いいわよ」
「もうそれ以上いわないd・・・え?」
「いいわよって言ってるのよ・・・これ以上言わせないでよ・・・甲斐性無し・・・」
「美琴・・・」

本当どこまでも情けないなと思いつつ上条は美琴を抱きしめなおす。

「大好きだぞ・・・美琴」
「私も・・・当麻」

2人は本日最初のキスを交わし、ベッドに潜り込む。



「ん、また寝ちゃってたのか」

上条は眠そうな目をこすって身体を起き上がらせる。現在の時刻は10時半、昼は迎えてないが朝にしては遅い時間だ。
立ち上がると何だかいい匂いがしてくる。上条は服を着て匂いが誘う方向へと歩き出した。辿り着いた先はどうやら
リビングらしいところでそこにはエプロン姿の美琴が笑顔で待っていた。

「あ、起きた?」
「よう、美琴この匂いは何だ?」
「朝食、ちょっと遅めだけどアンタも食べていくでしょ?」
「おー・・・美琴も料理作れたのか・・・」

上条はいつものイメージからしたら以外だと言う顔をしてその驚きように美琴は顔をムッとさせる。

「私のスキルをなめないでもらいたいわね、こちとら元学園都市第三位よ」
「いや、確かにスゲーけど今は関係ねえだろ。一方通行がサラッと料理できたら意外すぎるだろ」

と、そう上条は即座にツッコミを入れるが恐ろしく頭のいいあいつなら逆に出来そうでもあるな・・・と自分が
言った言葉に疑問を覚えてくる。

「とにかく、出来るまでもうちょっとかかるからシャワーでも浴びてきてー。浴室あっちだから」
「おう、わかった」
「タオルとかは近場の棚にあるからそこらへんの適当に使ってー」

上条は言葉に従いシャワーを浴びに行った。浴びてる間に朝のシャワーってのも悪くないな、と同時に
美琴が作る料理ってどんなんだろうな、とぽけーっと考えていた。シャワーを終えて清々しい気持ちになった上条は
身体を拭いて服を着て元の場所に戻る。そこにはテーブルに綺麗に置かれておいしそうに湯気を立てるご飯と味噌汁と鮭が
あった。正に日本の朝食といえばというイメージを具現化したような献立だ。おそらくこれは美琴が朝のメニューを
考えて悩んでいるときに最終的に辿り着いたベタではあるがやっぱり定番がいいだろうと落ち着いた結果であろう。
キッチンだと思われる奥の方から美琴は今度は美琴自身のものを持ってきたようだ。

「さ、食べましょう」
「美味そうだなー」
「ふふーん、そうでしょー。この美琴センセーが腕によりをかけて作ったのよ」
「・・・さっき言ったことは取り消すからその強調する感じはやめてくれ」
「はーい」

そんなちょっとしたやり取りをしながら2人は席に着いた。手を合わせて食べ始めの挨拶をする。

「「いただきます」」



上条はまず味噌汁を手に取る。具もこれまた定番の豆腐、ネギ、油揚げだ。おいしそうな味噌の匂いと彩りが食欲を誘う。
上条は味噌汁をすすった。温かい汁と風味豊かな出汁にがすきっ腹を満たしていく。同時に心も温まっていくかのようだ。
すすった後に向かいを見ると美琴の笑顔が目に入る。

「どう、おいしい?」
「いやー、なんていうかな・・・」
「?」
「・・・結婚生活ってこんなんなのかな・・・って」
「・・・・・・」

これには美琴も不意を付かれた様で目を見開いたまま顔が急激に赤く染まっていく。

「ば、バカッ・・・何言ってんのよ・・・ま、まだ早いわよそんなこと・・・」

そう少し吃りつつ照れ隠しの言葉を懸命に紡ぎ出す美琴だがそんな美琴は露知らず上条は黙々と朝食を食べ進める。

「い、いや別に嫌な訳じゃないのよ・・・ただ急にアンタがそんなこといいだすk・・・って無視すんなゴラー!!」
「わっ、スマン・・・飯があんまりに美味いしお前の笑顔見てたらつい・・・」

返しの言葉は美琴に効果覿面だったらしくすぐ硬直してしまった。

「そ、そう?そうならいいのよ・・・」

すっかり丸め込まれてしまった美琴は赤い顔のまま俯き気味にご飯を口に運ぶ。そんな上下の激しい美琴の喜怒哀楽が
可愛らしくもおかしくて上条は笑い出す。

「ハハハハッ、み、美琴、お前面白すぎ」
「な、何がおかしいのよ・・・」

急に笑われた美琴は動揺しつつも軽い怒りの感情をあらわにしつつ言葉を返す。それでも上条の笑いは収まらない。
その様子に美琴は拗ねてしまった。

「もう、知らない」
「わ、悪いって美琴」

まずいことしちゃったなと上条は笑うのをやめて謝る。それにもかかわらず美琴はツンとした態度をとり続ける。

「どうしたら機嫌直してくれるか?」
「・・・・・・す」
「え?」

ボソッと美琴は呟いたようだが上条は聞き取れなかったので聞き返す。耳を澄ましたところでようやく声が聞こえた。

「・・・キス」

美琴は拗ねて軽く膨れっ面になるがその頬は赤い。どこまでもわがままで可愛いやつだと上条は思い席から立ち上がり
美琴の元に歩み寄る。

「御安い御用で・・・」

そう言って美琴にキスをした。これにはわがままなお姫様も満足したのかまたもとの笑顔に戻った。

「うむ、行ってよろしい」

そうして許された上条は席に戻り朝食を再開する。そしてまた味噌汁をすすり昨晩のタクシーの運転手との会話を
思い出しつつこう思った。

(・・・幸せだなあ)



fin








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