とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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バルーンハンター




バルーンハンター
各校から選抜された30名により互いの頭につけた紙風船を指定の球を使って割り合う競技。
競技範囲は広くスタート地点のグラウンドから表へ出ることも可能。ただし一般開放されている道路や屋内は不可。

大覇星祭の2日目、去年と同じく常盤台中学の生徒達はこの競技に出場していた。

そして去年の大覇星祭で常盤台が最初の敗北を喫したのはこの競技。

その失点は大きく常盤台中学は大覇星祭の総合成績で二位、一位を逃している。その前年と同じく長点上機学園の後塵を拝してしまった。

名門、常盤台中学としては二年連続の同競技での敗北は許されない。まして、レベル5二人を擁しての大覇星祭は今年が最後、今年こそ総合成績一位をと生徒達には闘志が漲っていた。

対するはこれも昨年、直接対決があったとある高校。昨年は別の競技で勝利しているが油断はない。

この競技で負けたのも、とある高校と同様のレベル3が最高クラスの生徒しかいない学校だった。

去年の失敗を糧に戦略、戦術を練ってある。単独行動を戒めスリーマンセルが基本。各々の弱点を克服し足元が汚れるのもなんのその、勝利を目指すことを誓い合っていた。

集団戦が徹底される中、単独行動がゆるされている人物が一人、ご存知『超電磁砲』御坂美琴。

とある高校の生徒の一人と因縁があると聞いており美琴の要望を全員(約一名を除く)が受け入れていた。

ただし意味もなく美琴の個人的希望を認めたわけではない。去年のように集中攻撃に敵が出てきた際の囮であり、美琴の因縁の相手=敵側のキーマンをフリーにさせないためであった。

そのキーマンをフリーにさせれば統率に乱れを生じる可能性が多大にあり、作戦会議でも拘束しておくべきとの意見が大勢を占めたからだ。

何故か生暖かい目で一人を除いて参加する生徒達は美琴を見ていたが。

その美琴は敵側の一点を見つめている。

(今日は手加減をしないわよ)

美琴の後ろでも同じ一点を凝視する少女。

(あわよくばあの類人猿を始末するチャンス。ふふふ、ふぉっ!お姉様は黒子のものですの!!)

おどろおどろしい気配を纏わせ、その少女の周りにいる生徒もその気配を感じるのか忌避している。

「黒子」

後ろを見ずに美琴はその背後の少女へ呼びかける。

「ハイ、ですの。お姉様」

「手出し無用よ」

有無を云わせぬ声。

「……ハイ、ですの……くっ」





こちらはとある高校陣営、こちらでも作戦は立てられていた。去年の常盤台が参加したこの競技、それに勝利した学校の戦術を参考にした。

やはり分断と各個撃破が最適と思われた。

しかし、真似をしたところで対策されているかもしれない。ホワイトハウスさえ攻略できると云われるお嬢様方なのだ。同じ轍を踏むとも思えない。

吹寄制理を中心とした対策班の協議は深夜に及んだ。そして作戦案は完成した。餌を撒いて常盤台側を混乱させる作戦。これで常盤台にも勝てると意気込んだ。

どちらかと云うと深夜まで続いた協議にハイになっていたとも言える。

とある高校陣営も意気軒昂になっているはずだった。

その中で一人厳しい視線に晒されている少年。

(えっと、どうしてそんな目で見るんでせうか?)

正面から見詰める美琴の視線に問い質したくなる。

その後ろからは白井黒子がまさしく殺意がこもった目で睨み付けてくる。

それだけでは無い。

(カミやん!)

(上条当麻!)

(……)

上条は気付いてないが味方である仲間からも睨まれていた。

「カミやーん、『超電磁砲』からのあの熱視線は何ぜよ、なんかしたのかにゃー?」

「なんもしてないぞ? 去年みたいに順位を賭けてもねーし」

(昨日は一緒にパレードを見に行って、打ち上げでの約束もしてる、その後の予定も……)

「純粋に競技が楽しみで気合いが入ってるんじゃ?」

(それだけかな?)

それだけに見えない眼差しに思えた。

「なるほどにゃー」

昨日、上条と美琴が連れ立ってナイトパレードを見学していた情報は既に出回っている。

パレードを見学中の二人を見つけたのは土御門元春。今、上条に声をかけた当人。

実はその話しをバラマいたのも土御門である。百戦錬磨のスパイである土御門のこと、情報の出どころわからなくしている。

真偽不明といった内容になるのだが、その噂の張本人、御坂美琴が上条を見つめているのである。

競技に参加する生徒達の反応は斯くの如し。

声にならない阿鼻叫喚が聞こえる。

そんな雰囲気が分かっていながら土御門は、

「だったらカミやんも見詰め返してあげるべきだぜーい。真剣勝負なら受けて立つのが男ってものだにゃー」

煽る。

「おっ、そうかな。んじゃ」

そんなもんかと視線を美琴に合わす上条。

いつの間にか美琴の後ろにいた白井が何故だかしょんぼりしていた。





正面の白井からの上条に向けた殺意は消えた。それに安心したものの上条は何故か寒気がしてくる。

上条と土御門の会話はとある高校側の全員に聞こえていた。

今は見つめ合う二人。両校の参加者などモブ同然、二人だけの世界を作っている、と見られた。

(もげろっ!)

(上条もげろ!)

(もげちまえ!)

(爆ぜろ!)

(球は前からばかりと思うなよ!)

(カミやんだけ幸せになろうなんて許さへんで!!)

(……)

(おのれ上条当麻! せっかくの作戦が貴様のせいで)

声無き怨差の声がとある高校陣営を支配する、雰囲気は最悪。

上条は宣言したことはない、隠しているつもりもない。宣言することでもない。敢えて人に告げる話しでもない。

しかしクラスメートは薄々気づいている。

上条の言葉の節々から伝わってくる。御坂という単語が口の端にのぼるたび、誰かのことを重ねて話すごとに。

人はそれを惚気という。

もう一度言おう、皆気づいているだ、上条当麻と御坂美琴がお付き合いしていることに。

ただ、それを信じたく無いのだ。夢だと思っていたいのだ。ある人は夢を見ていたいのだ。確信を得るまでは。

皆、それをまざまざと見せつけられている気分。怨差の声も分かろうと云うもの。

既に頭の中には作戦プランなどなかった。

下手をしたら競技が始まり次第、上条は味方から総攻撃を受けかねない状況ながら、そうはならなかった。

競技開始を告げるアナウンスが聞こえ、号砲が鳴る。

「勝負よっ!」

聖人も斯くや、美琴が凄まじいスピードで上条に迫る。

「ぬおおおおおおおお!」

上条は脱兎のごとく逃走を始める。

「待ちなさいっ!」

土煙をあげて追いかける。

「誰が待つかっ!」

グラウンドを駆け抜けていく二人。あっという間に姿は消える。

取り残された両陣営は唖然呆然、立ち尽くしていた。片方は美琴のあまりにもの気迫に圧され、片方は見たことのない美琴の姿に驚愕して。

全員が二人の行方を目で追った。

そして金縛りが解け、顔を戻す。敵陣営と顔が合う。このグラウンドに何をしにきたのか両陣営とも忘れていた。

が、パチンと扇子が閉まる音がする。

ハッと目の前の集団が何者か思い出す。

「やってお仕舞いなさい!」

一人のお嬢様の声、それが改めて競技開始の合図となり、

乱戦が始まる。





「誰も追いかけてこねー」

美琴以外。

上条にとっては予定通りの行動、作戦指示通りだった。

常盤台の最大戦力と見積もっていた美琴を集団から引き離しておく、レーダー体質の美琴に指揮を執られたら奇襲も通じない。戦力外の状態に置いておくのが作戦の肝であり、上条に振り分けられた役割。

そしてあわよくば各個撃破の対象とする。

だが味方の姿がない。上条一人で対処するしかなかった。

「思い出すわっ! アンタは覚えてないけど、こうやってアンタを追いかけていた事をっ!」

「そーか、それは何よりだー!」

グラウンドから表に出て通りを走る。

時間まで逃げ続けても良いのだが、それはそれで面白くない。せっかくの大覇星祭、楽しまない手はないし確かめることもあった。

目に入った路地裏へと駆け込む。

途中で止まり球を手に取り、美琴が入って来るのを待ち構える。

しかし、美琴の姿は待てども現れない。

閃くモノがあり、その場から飛び退く。

頭上から球が降ってきた。

「避けられたっ?」

空中から美琴の声がする。見上げるとビルに引っ付いている美琴がいた。

「甘ぇーんだよ」

「甘いのはアンタじゃない?」

「かもな」

磁力を使った空中機動、美琴のお得意の手。

「さすがだよ」

美琴が微笑む。

「けどよ空中を飛びながらじゃ、球を投げれねーだろ」

そう言うと上条は美琴へ向けて球を投げた。

美琴は空中に身を踊らせ避ける。

その間に上条は路地裏を抜ける。

そして再度まだ空中に留まっている美琴へ球を投げる。

「そうね、言うとおり。でも」

電撃で球を撃ち落とす。

「直接、競技者を攻撃しない限りこういう使い方は出来るのよ」

「わかっちゃいたが、攻略するのは至難の技だな」

「もう逃げないの?」

美琴はゆっくり磁力を調節して地上に戻る。

「せっかくだ、逃げ回っているのも面白くないだろ」

美琴と対峙する。

楽しくなっていた。

美琴との対決が学校の勝敗より何よりも大切で楽しい。

二人とも路地裏を抜けて通りに出ていた、一般開放されている大通りほど広くはない。

「ちっとばかし不利かな?」

「さあね、どうかしら」

街中というのはそれだけで美琴に有利になる。美琴の能力を利用できるものが溢れている。

「わかってるんでしょ」

しかし、ルールに縛られている。





大覇星祭では能力の使用が推奨されている。とは言え無制限ではない、それぞれの競技のルールに沿って制限がかけられている。

特に美琴のような高位能力者は人体への攻撃、建物などの施設を破壊する行為は認められない。

この場でできることと言えば球を撃ち落とす、磁力を使った高機動回避ぐらい。

球を磁力で自在に操れたらかなりの有利になるも、球は玉入れの球と同じ物が使用されている。磁力で操れる素材ではない。

上条は球を手に取る。手で握るのではなく指に挟むように持つ。そしてこれまで逃げ回っていたのとは違い、美琴へ向け一歩を踏み出す。

「やっぱ、そうくるか」

つぶやき、迎え撃つ構えの美琴。

「指に挟んだ球で直接風船を割ればいいんだよな」

「一対一でそれができるとでも」

美琴を撃破するには一対多で美琴を取り囲み回避も制限する。作戦会議ではそれが有効とされていた。

一人でそれが可能かどうか?

「それに私から球を投げてアンタの風船を割れない訳じゃないのよ」

「覚悟のうえさ……なあ、昨日は楽しかったな」

今も楽しくはある。

「ナイトパレードで見たゲコ太の山車、凄かったなピカピカで」

ネオン付きの巨大ゲコ太、美琴は大はしゃぎしていた。

「うん」

動揺を誘っているのか。

「こうして対決するのも楽しっけどな、なんでかって疑問に思っちまうんだ」

ジリ、ジリっと美琴に迫る上条。

対して美琴は横に回りながら、一定の距離を保つ。隙あらば球を放つ体勢。

「疑問?」

戦闘では異常な勘を見せる上条のこと。球を投げる動作、その気配だけで球をよけ美琴の頭上にある風船を割るだろう、それが予測できる。

「昨日はあんなに楽しそうだったのに……今日はどうしてこんなに殺る気になってんの、美琴!」

遣る気でなく殺る気、身の危険をひしひしと感じる。

本当の殺意ではなく、勝敗の行方に拘るといった方向性でもなく何らかの決意、覚悟、そんなモノを感じていた。

美琴はただの真剣勝負のつもりではない。

「それは……アンタが悪いのよ!」

「俺がっ!?」

何かした覚えはない。

「何かしたっていうのか?」

「置いてきぼりにされる者の身になってみなさいっ!」

「えっ?」





「アンタ、一人でどっか行っちゃうじゃない。待つ身になれっつーの!」

美琴はつい球を投げてしまう。

「待つ身って、美琴。うおっ。そんなこと言って、おまえ追っかけてくるじゃねーか!」

そのチャンスを待っていたはずが動作が一歩遅れる。上条は球を避け風船を割りに行くも体を躱される。

「そーよ、アンタが言ってくれないから追っかけるしかないのよっ!」

上条の体が伸びきったところへ下手投げで球を放つ。

「俺は誓ったんだ!」

身をかがめて躱す。

「美琴と美琴の周りの世界を守るって。だから危険な事にはっ!」

かがみ、溜めていた膝のバネを生かし跳ぶ。

「それは私とじゃなく、別の人との約束でしょーがっ!」

5mは距離を開けたはず、その距離を一気に詰めてくる上条。

頭上に振られる手を紙一重で美琴は避ける。腕の下をかいくぐる。

「私は守られるだけの私じゃいたくないのよ」

磁力に引かれもう一度距離をとる。

「アンタにも危険を犯しては欲しくない。でも止められないのも知ってる」

対峙する二人、再び膠着状態。

それを見守るのは判定用の宙に浮かぶカメラボール。

「だったら、一緒に行く。一緒に行ってアンタを守る、力になる」

「あー、前にも聞いたよな、でもやっぱり美琴には安全なところにいて欲しいんだ、それが俺の我が儘だっていうのはわかってる」

「そーね、それがアンタだもの。だから認めさせるしかないのよ」

「……それでか」

「そーよ」

上条に覚えがない頃、美琴は上条に勝負を訴えていたらしい。今、勝負と言われてもまともに取り合わないだろう。

だから競技の場を借りて上条に認めさせるつもりなのだ。

その気持ちは嬉しい。だが、やはり美琴には安全な場所にいて貰いたい。

卑怯と言われようが最終兵器を使って美琴を撃破する、それが上条の解答。

そろそろ競技時間も終わる頃、決着をつける時がくる。

二人見つめ合う。競技開始前のようでなく優しい眼差しを上条も美琴も向ける。

そして、

「美琴、愛してる」

臆面もなく上条は美琴に告げる。上条の思惑はこれで美琴はいつものように動揺する筈、だった。

非難も覚悟の上。

「美琴のために、その幻想は殺させて貰う」

告げると同時に駈ける、美琴の元へ。





美琴は棒立ち、と思ったら

「私も愛してる」

なってなかった。

「へっ????」

「この幻想は殺させない!」

美琴の手から球が飛び、正確に上条の風船を撃ち抜く。

『とある高校、上条選手失格』

カメラボールが結果を告げる。

競技上の決着はついた。

うなだれる上条、その目は美琴に問い掛けている。

「よ、読み勝ちってところよ。そう来るんじゃないかと、来るとわかってたら。ど、動揺ぐらい抑えられるわよ」

それだけ美琴の決意が固かったと思うしかない。

その美琴の言葉に被さるように

『と同時に以上を持ちまして痴話喧嘩……コホン……もとい、常盤台中学対とある高校によるバルーンハンターの競技を終了させて頂きます。結果、常盤台中学の生き残り1名』

カメラボールが競技終了を告げる。

「はぁ? ナニよ痴話喧嘩って……えっ? 生き残り1名って私。まさか常盤台が負けたの」

「いや、待て。まだ競技時間は残ってるんじゃ?」

『とある高校、生き残り0。常盤台中学の勝利です』

「1対0?」

訝しそうな美琴。

「ぜ、全滅? つーか俺が最後だったのか?」

敗戦の責任を取らされそうで身震いする。

「じゃあ、私達の勝負が決着戦……うん?」

「どーした?」

「その……最後、私達だけしか戦ってないなら」

美琴はそっとカメラボールを見る。

上条も見る。

「「中継されてたっ!」」

『『愛してる』も、もちろんテレビ中継されました』

「「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」





おまけ

「お、おおおおおおっお姉様!なんと、なんという事を!! おのれ類人猿!」

「み、御坂さん、お幸せに~」

「「大胆ですわ、御坂さま」」

全員失格後、グラウンド脇に設置されたパブリックビューを眺めていた。勝敗を委ねられていた二人を見守っていた。

一人を除き黄色い声が立ち込める常盤台陣営。

個々の能力から言えば常盤台陣営優位。しかし開戦当初から両校、入り乱れた大覇星祭の歴史に残るほどの大乱戦となり、戦術など無いも同じ、優位性を生かせなかった。

開戦からすぐに参加選手の半分が脱落した。

グラウンド内での戦闘に終始したうえに最終的には両校、生存者0となった。

ポイントゲッターと見られた常盤台の白井黒子も美琴のことが気になるは、青い髪にピアスの大男に攪乱されるはで最後は隙を突かれ敗退。

青髪ピアスの大男に他の生徒も混乱に陥り十分な力が発揮できなかった、というか思わず能力で直接攻撃をしてしまい失格者が相次いでしまった。

このグラウンドの中だけでのMVPはこの青髪ピアスとなるのだが嘆いている。

敗戦を嘆いているのでは無いらしい。

「許さへんでカミやん!」

嘆いているよりは怒っているらしい。

「一人だけ幸せになろうなんて許さへんで!」

それはとある高校陣営の統一意志らしい。







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