とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある少女と堕ちた少年




第1章 別れと仕事


「すまない、今まで騙すような真似をしていて」

上条は現在学園都市第23学区にある空港へと足を運んでいた。
上条の前には白い修道服を着た銀髪のシスターと赤髪の神父が立っている。

「ううん、とうまは悪くないよ。
 私のことを気遣ってくれたっていうことも分かってるし、元はといえば私が…」

銀髪のシスター…インデックスは何処か無理をした表情で答える。
上条から記憶喪失だということを聞かされた時はショックで目の前が真っ白になった。
そして原因が自分であることも分かっていた。
自分を救ってくれた少年を自分の手で殺してしまった、それはインデックスが一生背負っていく後悔だろう。
上条も出来ることならインデックスには何も知らせずに、インデックスのことを支えてあげたいと考えていた。
しかし上条は一人の少女を守るために自分の全てを投げ出すことを決意した。
まだ上からの仕事は一回しかこなしたことはないが、恐らく上条の主な仕事は対魔術師の戦闘になるだろう。
そして上条の傍にいれば十中八九、対魔術のエキスパートであるインデックスは利用されることになる。
イギリス清教と学園都市どちらがインデックスにとって危険なのか判断は難しかったが、
絶対能力進化などのことを考えると学園都市に根付く闇のほうがより深いと上条は結論付けた。
そしてインデックスのことをイギリスに送り帰すことを決意したのである。

「インデックスが気にすることは無い、多分だけど前の俺もインデックスを守れて満足だったと思う。
 ステイル、身勝手な願いだってことは分かってるがインデックスのことを頼む。
 お前は今の俺の知ってる中で一番信用できる男だ、何かあったらインデックスのことを守ってくれ」

「…君に言われなくても、この子のことは守ってみせるよ。
 それにしても…」

赤髪の神父…ステイルは上条の顔を見て複雑そうな表情をしていた。
上条はかつてのステイルと非常によく似た表情をしている。
自分の大切なもののために全てを投げ打つ覚悟、今の上条からは以前のような甘さは感じられない。
出来れば自分を打ち倒した上条には同じ轍を踏んで欲しくないと願っていた。
しかし人の覚悟をとやかく言う筋合いは誰にもない。
ステイルは決して言葉にはしないが上条の行く先に幸がることを祈るのだった。

『もしもし、感動の別れは済みましたか?』

インデックスとステイルが飛行機に乗り込んだのを見送ると上条の携帯が鳴り電話に出ると
発信元はやはり統括理事長の部下を名乗る男だった。

『本当は彼女にも我々の駒として動いて貰いたかったのですが…』

「ふざけるなよ、何でもお前らの思い通りになるとは思わないことだ」

『それもそうですね』

「それで今日は何の用だ、何か依頼があって電話したんだろ?」

掴み所のない電話の先の男に苛立ちを覚えながらも、上条は本題に入るように促す。

『ええ、今日も駆除していただきたい人物がいるので電話しました。
 詳細なデータは携帯に転送しておきますので、依頼を受けるかどうかの判断はあなたに委ねます。
 もっともあなたなら受けざるを得ない内容の依頼ですが…』

男がそう言って電話を切ると上条の携帯にターゲットの詳細なプロフィールが送られてきた。
プロフィールに目を通すと上条の中にやり切れない感情が溢れてくる。
今回のターゲットは天井亜雄に芳川桔梗、絶対能力進化の実験の中核を担った研究者達だった。



美琴は妹達達へのお見舞いが終わると恒例のコンビニでの立ち読みに耽っていた。
随分と久しぶりに漫画を読んだ気がする。
まだ二週間も経っていないに関わらず、あの絶望を知ったのが遠い昔のように感じられた。
そして自分達を絶望の淵から救い出してくれた上条のことを想うと自然と頬が火照るのを感じる。
美琴自身は自分の頬を火照らせた感情の正体に気付いていない。
しかしそれは嫌な感情ではなく自分を根本から変えてしまう、そんな未来を予想させる感情だった。
気付くと上条のことで頭が一杯になってしまっていた美琴は我に返り、
気を取り直して漫画に集中しようと雑誌の一コマに目を向ける。
だが美琴の集中を妨げるように、一人の少年が声を掛けてくるのだった。

「あれ、御坂さん?
 ちょうど良かった、あなたにお尋ねしたいことがあったんですよ」

声を掛けてきた少年の名前は海原光貴、美琴が通う常盤台中学の理事長の息子だ。
以前から立ち話くらいする関係だったが絶対能力進化の実験が終わってから妙に馴れ馴れしくなっており、
美琴の新たな頭痛の種になっていた。

「あのー、私これから用事があって…」

「すぐに済みます、ちょっとある男性についてお話したいだけですから…」

やはり退こうとしない海原に少し辟易としながらも、何故か目の前にいる海原に違和感を感じる。
よく見ると海原は腕に包帯を巻いていた。

「怪我されてたんですか?」

「ええ、実はこの怪我も話に関係あるんですが。
 実はこの数日間、何者かによって監禁されてたんですよ」

「えっ!?」

それはおかしい、この数日の間に美琴は海原と遭遇していた。

「どうかしましたか?」

「い、いえ、何も…」

海原の言葉に矛盾を感じながらも、美琴は取り合えず海原の身に何が起こったのか全て聞いてみることにした。

「この怪我はその際に負わされたものなのですが、実は監禁されていたところをある男性に助けられましてね」

「男性?」

「男性と言うには些か語弊があるかもしれません、男性の歳は自分と同じくらいでしたから少年と言った方が的確ですね。
 その少年なんですが、名乗りもせずに自分を助け出すと立ち去ってしまったんです。
 自分としてはぜひ彼にお礼をしたいのですが、何分情報が少なくて…
 分かっているのは黒髪にツンツン頭というだけで」

「えっ、それって!?」

「やはり心当たりがあるんですね?
 御坂さんがその特徴と一致する少年と一緒にいたところを見たという情報を聞いたんですよ。
 出来ればお礼をしたいので紹介して頂けるとありがたいのですが」

しかし美琴の耳には既に海原の声は届いていなかった。
恐らく目の前の海原は嘘を言っていない、人を見る目はあるほうだと美琴は自負していた。
海原の話が本当だとすると美琴が会っていたのは海原の偽者ということになる。
海原が開放された今、偽の海原はどうなったのだろうか?
そして海原を救ったという少年は恐らく上条で間違いないと美琴は考えていた。
だとすると偽の海原も上条も捕まえるか何かしたのかもしれない。
しかし偽の海原がわざわざ自分に近寄るような真似をしたのか、美琴には心当たりがない。
ただ美琴の知らないところで、また上条に救われた可能性が高かった。

「御坂さん、大丈夫ですか?」

完全に自分の世界に入ってしまった美琴を心配するように海原は美琴の顔を覗き込んでいる。

「え、ええ、確かに私と海原さんの言っている方は知り合いの可能性が高いと思います。
 ただ私も連絡先を知ってるわけではなくて。
 今度会ったら海原さんがお礼をしたいということを伝えておきますんで…」

「そうですか…
 分かりました、ぜひ機会があったら彼のことを紹介してください。
 何しろ命の恩人ですから、海原家の人間として恩を返さないわけにはいかないですからね」

海原は美琴に頭を下げるとコンビニから出て行った。

(まったくあの馬鹿は私にどれだけ貸しを作れば気が済むのよ)

文句を心の中で呟きながらも上条を探しに街へ繰り出す美琴の足取りはとても軽やかなのだった。



美琴が街へ繰り出した頃、上条はとある研究所で女性の研究員と対峙していた。
研究室の壁には気を失った男が拘束され壁に凭れ掛かっている。
女性の研究員…芳川桔梗は対峙する上条に対して自嘲するように言った。

「ふふ、ようやく私にも天罰がくだる時が来たようね。
 思えば実験の内容を知った時から、こうなることを望んでいたのかもしれない」

「どうしてそう思いながら実験を止める努力をしなかったんだ?」

「私はね、あなたのように強くもないし優しくもない。
 結局は自分の身が一番大事だったのよ。
 だから妹達に情を抱いても、助けるという選択肢までは行き着かない」

芳川も本当はただ利用されただけの存在なのかもしれない。
それでも芳川は自分の罪から逃げるつもりはない。
今まで死んでいった10031人の妹達は紛れもなく自分が殺したようなもので、
罪を学園都市第一位の少年だけに擦りつけるわけにはいかなかった。
ただ恐らく自分達の罪のせいで目の前の妹達を救ったヒーロー…上条を闇の世界に落としてしまった。
そのことを上条を心の支えとしているであろう妹達に心の中で謝るのだった。
そして上条にはもう一つ頼まなければならないことがある。

「身勝手だとは思うけど、あなたに一つ頼みたいことがあるの」

「何だ?」

「奥の部屋に最後の妹達…打ち止めが眠っているわ」

「打ち止め?」

「妹達の上位個体に当たる存在でミサカネットワークを司る存在なの。
 そして打ち止めを介することで、その気になれば妹達全体を操ることが可能となる。
 これだけ言えば打ち止めの持つ危険性は分かるでしょ?」

「…ああ」

「だから打ち止めのことをあなたに託したいの」

「でも俺は暗部の人間で…」

「あなたを見てれば心まで闇に染まってないことは分かるわ。
 それにあなたが上の人間に対してある程度の権限を持っていることも。
 私達に対する生殺与奪の権限が与えられいるのがその証拠。
 本来なら上の人間にとって私達を生かしておくメリットなんて何もないんだから。
 だからあなたの力を使って打ち止めのことを守って欲しいのよ」

「分かった」

「ありがとう、よろしく頼むわね」

上条は制圧が終わったことを下の人間に連絡して天井と芳川を連行させる。
芳川は心まで闇に染まってないと自分のことをそう言ったが果たしてそうだろうか?
上条は自分への自問自答を繰り返す。
確かに上条は二人のことを殺さない道を選んだ。
そして二人に二度と非人道的な実験をさせないことを上に約束させた。
しかしそれ以上の約束を取り付けることは出来なかった。
要するにこれから二人がどうなるかを上条は全く知らないのだ。
逆に命を奪わなかったことで二人が必要以上に苦しむことになるかもしれないのだ。
しかしここで立ち止まるわけにはいかない。
自分の偽善に悩みながらも上条は前へと進む。
上条が奥の部屋に足を踏み入れると守ると誓った少女をそのまま小さくしたような10歳くらいの少女が眠っているのだった。

やがて一つの大きな事件を乗り越え上条の初めての夏休みが明ける。
二学期に入っても上条の周りで起きる事件は後を絶たなかったが、何とか上条はその危機を乗り切っていった。
そして迎えた学園都市最大の行事である大覇星祭。
この物語におけるヒーローとヒロインの両親が学園都市を訪れる時、物語は大きくうねり始める。








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