とある二人の掌中之珠
行間二
かつて、困っている人を助けたいと願った少女が居た。
その少女は、筋ジストロフィー治療の為にDNAマップを提供した。
不安と恐怖の闇に飲み込まれていく人々に、救いの光を与える事が出きるかもしれない、そう信じて。
それから数年。
少女は能力を活かし統括理事のデータベースへとアクセスし話題になっている『素養格付』について調べていた。いくつかのセキュリティを潜り抜け、発表されてない内容を見つけた。
「超能力者のDNA特許や生物資源は莫大な利益を生むが、確保するには莫大な資金がかかる。しかし、『将来、超能力者になる可能性を持つ低能力者』なら、低い予算で入手出来る為、断片的なリストが出る度に、一攫千金を狙うため裏で血が流れる問題も発生した。以下に、DNAマップを入手してるであろう企業名、その提供者を記す」
これまで予想した事もあった。それが確信に変わっただけだ。
少女は見つけてしまった。
かつて撤退していった幾つかの筋ジストロフィー関連の研究施設名と『御坂美琴』と書かれた自分の名前を。
病院には四人の少女が居た。
四人全員が肩まである茶色い髪に、目の形から色、虹彩や網膜に至るまで全てが同一という違いのないシルエット。
更には全員がベージュ色のブレザーに紺系チェック柄のプリーツスカート、つまり、この学園都市の名門校、常盤台中学の制服を着ているのだ。
彼女達を示す名は複数ある。妹達。欠陥電気。超能力者の軍用量産モデル。
遺伝子操作や薬物を用いた成長促進技術などの影響によって寿命が削られた者たちである。
その四人の少女達の元に来客が訪れた。
訪れた少女も、四人の少女達と瓜二つの見た目、服装を着用している。
その来客に向かって一人の少女が話しかける。
「お姉様、今日もあの人の見舞いですか、とミサカ一〇〇三二号は尋ねます」
『お姉様』と呼ばれる少女、御坂美琴は質問に答えず言葉を走らせる。
「どうして教えてくれなかったのよ!!」
「何をですか、とミサカ一三五七七号は質問を返します」
「もしや調整凍結の事でしょうか、とミサカ一〇〇三九号は推測してみます」
「もしそうなら、ミサカ達も海外に居る個体から聞いたのは最近だったのです、とミサカ一九〇九〇号は弁解します」
能力開発にはお金がかかるが、全生徒にそれぞれ適した時間割りを組む。
それが能力開発の新しい方針。その為に必要のないお金の削減を実施する事にした。
その一つが妹達の調整の凍結。
学園都市に居る妹達を除いても九九六四人も居て、それがグアテマラ、フィリピン、オーストリア、ロシアと世界中のあらゆる協力機関で調整を受けているのだから、かかる費用は計り知れない。
学園都市に居るこの子達は、カエル顔の医者が「僕の患者は最後まで責任を持つ、理事長からの許可も得ている」と言ってくれたが、各地に居る他の妹達はこれからどうなるのだろうか。……処分されるのだろうか。
美琴は思い出してしまった光景に背筋をゾクッと震わせると、唇を噛んだ。
今やるべき事は―――と、美琴は思考を巡らせる。と同時に、美琴の携帯が震えた。
携帯電話は一通のメールを受信していた。
『突然の連絡、申し訳ありません。先生から先程話したと伺いました。統括理事会の多くが彼女達の存在を、かつての理事長の残した負の遺産と思っています。
私の力で出来たのは、妹達の今後の処遇を貴方に一存を委ねる事しか出来ませんでした。
こんな結果にしてしまい申し訳ありません』
送り主は親船最中その人だった。