とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part15

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第5章 ②恋と少女と生き方


美琴が目を覚ますと、何となく肌寒く心細い感情に襲われた。
いつも上条の寮で目を覚ます時は大好きな上条を抱きしめ、その温もりを心行くまで堪能していた。
しかし昨日オルソラの暮らしていた家で上条に裸を見られ、そして綺麗だと言われた瞬間に美琴の中で何かが変わってしまっていた。
悪いことでないのは分かっている。
だがその変化が上条と美琴の今の関係を壊してしまいそうで、美琴は何処か恐怖を感じていた。
美琴はベッドから出るとまだ毛布に包まりながら眠っている上条の横に立つ。

「…当麻、私達はずっと今の関係でいていいんだよね?」

しかし美琴の期待を裏切るような行動に上条は出るのだった。
上条は美琴の独白を聞いていたのか、美琴に答えるように上条は呟いた。

「いいわけねえだろ!!」

「えっ、当麻!?」

上条は素早くベッドから立ち上がると美琴を抱き寄せ、荒々しく自分の唇を美琴に押し付けた。

「んっ!?」

いつもの優しいキスとは違い、まるで蹂躙するかのような一方的なキス…
美琴は一体何が起こっているのか理解できなかった。
唇を重ねたまま、美琴は自分が眠っていたベッドの上に押し倒される。

「当麻、やめ…っん」

美琴は上条に抗議しようとするが、再び上条によって唇を塞がれる。

(これって大人の!?)

初めてのディープキスに美琴は頭が蕩けそうになりながらも、激しい恐怖に襲われる。
このまま男女の一線を越えてしまうのだろうか?
別に上条とそういう関係になるのが嫌なわけではない。
しかし上条が初めて見せた男としての性に美琴の頭はついていけなかった。
そしてそれと同時に美琴は自覚した。
自分は上条にとって少女ではなく一人の女だったということを…
すると今まで自分が上条にしてきたことが凄く浅はかなことだったような気持ちになる。
悪戯に上条のことを刺激し、上条のことを苦しめていたのだ。
だが上条に申し訳なく思う以上に、今は美琴の心を恐怖が支配していた。

(恐い…恐いよ、当麻)

そんな美琴の気持ちを察したように、上条は美琴から自分の唇を離す。

「当麻?」

「…分かったか、自分が俺にとってもう一人前の女だってこと」

「…うん」

申し訳なさそうにしている美琴のことを上条は優しく抱きしめる。
それはいつもと同じ上条の優しさが伝わってくる抱擁だった。
すると先ほどまで美琴が感じていた上条への恐怖はすっかり治まっているのだった。

「上条さんも男子高校生ですから、こういったことに興味が全くないわけじゃないんですよ」

「ごめんね」

「謝らなくていい。
 俺は何があっても美琴のことを大切にするって誓ってる。
 にも拘らず、経緯はどうであれ美琴を恐がらせるような真似をしたんだ。
 …悪かった」

「ううん、私が当麻のことを苦しめていたから…」

「いやいや、美琴に甘えてもらって上条さんも嬉しかったんですよ。
 ただ美琴が俺のことを恋人として信頼してるんじゃなくて、信頼できる只の知り合いって見られてる気がしてな。
 ちょっと悔しかったから、男としての俺の一面も見せておきたかったわけです」

「…そうだね。
 私が当麻のことを大好きなことには変わりないけど、少し卑怯な関係を押し付けてたかもしれない」

「分かっていただければ、上条さんも幸いです。
 別に今から俺たちの関係を無理に変える必要はないけど、恋人だって色んな段階を踏んで次のステージに進んでいくんだ。
 だから変わることを恐がるんじゃなくて、寧ろ喜んでその変化を受け入れなきゃな」

「うん」

そして上条は美琴ともう一度唇を重ねる。
それは先ほどと違い、互いの気持ちが通じ合った優しいものだった。
こうしてちょっと荒々しい朝を終えてイタリア旅行の二日目が幕を開ける。



二日目になってもやはりガイドは現われず、他のツアー客もホテルに宿泊している様子はなかった。
それならそれで構わないと上条と美琴はオルソラから貰ったメモを持ってヴェネツィアに向かうのだった。

「で、何でお前らがいるんだ?」

せっかく水の都・ヴェネツィアに行くのだ。
少し遠回りになるが上条と美琴は水上バスでキオッジアからヴェネツィアに向かうことにした。
そしてその水上バスに奴らはいた。

「いやー、奇遇なのよな。
 お前さんたちもヴェネツィアに?」

上条の問いに答えたのは建宮斎字。
他に五和を初めとする数人の見知った天草式の面々が同じ水上バスに乗り込んでいた

「いや、白々しいにも程があるだろ!?
 このバスに乗ってる段階でヴェネツィアに行くのは明らかだろうに…」

「一緒に行動するのに、異論はないな?」

「決定事項なの!?」

「いくら恋人同士とはいえ二人きりで旅行とは些か見過ごすには大きすぎる案件なのよな。
 まあ、お前さんに限ってふしだらなことはせんと思うけど…」

しかし建宮がそう言った瞬間、上条も美琴も外から見て分かるほど顔を真っ赤にした。

「なっ、まさかお前さんたち、男女の一線を越えてしまったんじゃ!?」

顔を赤くする上条と美琴とは対照的に天草式の面々の顔は蒼くなる。

「ま、拙いですよ、教皇代理。
 このままじゃ我々の計画が水の泡に…」

実際に情事に至った訳ではなく先ほどのことを少し思い出して顔を赤くしているだけなのだが、天草式がそのことを知る由もない。
天草式にとって仲間は家族同然のものであり、各メンバーの幸せを願っている。
そしてそれは上条に想いを寄せる五和に対しても同様だ。
特に五和は先の戦いで深く傷ついており、上条とのメールを支えに何とか無事に回復していた。
だから上条に恋人がいて鉄板だと分かっていても、どうしても五和の恋が叶うことを願わずにはいられない。
それ故に今の天草式は半ば暴走状態にあった。

「上条当麻!!」

「ど、どうしたんだよ、いきなり大声出して?」

「覚悟しておくのよな!!」

「何を!?」

こうしてヴェネツィア本島での空回りな騒動が巻き起こるのだった。

上条たち一行がまず初めに向かったのは、ヴェネツィアの中心であり玄関口でもあるサン・マルコ広場だった。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿、コッレール博物館、新政庁、時計塔に囲まれて広場は賑わいを見せている。
そして広場には音楽の生演奏が流れており、何処か気分が浮き足立つのだった。
だが天草式の面々はここで早くも計画の先行きに暗雲が立ちこめているのを痛感することになる。

「美琴、逸れるといけないから…」

「うん」//

今朝のようなことがあったばかりなので何処か上条に甘えることを躊躇っていた美琴だが、
上条が差し出してくれた腕に抱きつくようにして上条に並んで歩き始める。

「当麻」

「どうした?」

「えへへ、何でもない」

そんな二人の様子を見て天草式は呆然としていた。

「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…」

「ちょっと、五和しっかりしなさい!!」

生気のない顔で微笑みながら不気味な笑い声を漏らす五和を、姉貴分である対馬は正気に戻るよう揺さぶっている。

「あのー、教皇代理。
 五和に深刻なダメージが残らない内にあの方から離れたほうがいいと思うんですけど」

天草式の最年少のメンバーである香焼は建宮のそう進言するものの…

「いや、まだなのよな!!
 過ごした時間が圧倒的に違うのだから好感度に現段階で劣るのは必定。
 これから向かうサン・マルコ寺院で好感度の飛躍的上昇を狙うよな!!」

暴走している教皇代理に届くことはなかった。



「そしてここには9世紀にエジプトから運ばれた聖マルコの遺体が納められてるんです」

「へー、じゃあこの建物自体が大きなお墓みたいなもんなのか」

「はい、そういうことになりますね」

「あと気になってたんだけど、あの羽のついたライオンには何か意味があるの?」

「あれはヴェネツィアの守護聖人であるサン・マルコのシンボルで、ヴェネツィアで行われる映画祭のデザインにも…」

上条と自然と会話を交わしている五和の様子を見ながら天草式は作戦が上手くいっていることに安堵していた。
観光スポットを丁寧に案内することによって自然と会話を弾ませ、二人の仲を縮める作戦だった。
思った通り上条も食いつくように五和に質問を続けている。

「ふふ、これで上条当麻の五和への高感度は鰻上りなのよな。
 美琴嬢には悪いが、我々は何としても五和に幸せになって…」

「そう上手くいくかしら?」

「ど、どういう意味なのよな!?」

対馬は無言で上条たちのいる方向を指差す。

「サンキューな。
 五和のお陰でただ見て回るだけじゃなくて勉強になったよ」

「い、いえ、そんなことは」//

「いや、本当に感謝してるって。
 なっ、美琴?」

「ええ。
 建築物の歴史的背景を知って見学すると、また違った見方が出来るものね。
 ありがとう、五和さん」

「…どういたしまして」

ハッキリいって周りから見ると、カップルに専属で付いているガイドにしか見えなかった。

「…」

「…ねえ、建宮。
 五和に幸せになってもらいたいのは、ここにいる皆の願いよ。
 でも五和や美琴さんを傷つけてまで無理やり手に入れても…」

「じゃあ、どうするのよな!?
 またあの憔悴しきった五和に戻れっていうのか!?
 あの事件が終わった直後の五和は酷い状態だった。
 体の傷だけでなく心が現実に負けちまっていたのよな。
 それが上条当麻とメールを繰り返していく中でみるみる元気を取り戻していった。
 俺がお前らに全てを託したことが原因ってことは分かってるのよな。
 だとしたら俺はどうやって責任を取ればいい!?」

建宮の悲痛な叫びにその場にいた天草式のメンバーは押し黙る。

「これもあの時、女教皇様が助けに来てくださってれば…」

誰かがポツリと呟くように言った。
女教皇が掲げた理想に則って天草式はいつも行動の指針を決めていた。
しかし先日の大敗北を受け、天草式の女教皇への信頼は揺らぎ始めていた。
同じ組織に所属するようになっても殆ど顔を合わせることもない。
実際は天草式を出て行った聖人を未だに女教皇と慕っているだけなのだが、
彼女にとって天草式はその程度のものだったのだろうか?
誰も言葉に出しはしないが、今となっては女教皇を逆恨みしてるメンバーも確かに存在するのだった。

その後も博物館やヴェネツィアを流れる運河を渡るゴンドラに乗るなど観光を進めるものの、天草式の作戦は上手くいかなかった。
やがて日は傾き始め、街全体に西日が差し始める。
天草式もタイムリミットを悟り五和の恋が残念な結果に終わることを受け入れ始めていた。
しかし五和自身だけがまだ勝負を諦めきれないでいた。
そしてヴェネツィアにおいて一つの恋が終わりを告げようとしていたのだった。



「美琴さん、二人きりで話したいことがあるんですがよろしいですか?」

「…分かった。
 当麻はここで待ってて、すぐに済むと思うから」

美琴に言われて、上条はその場に静止する。
理由は分からないが美琴からも五和からも強い決意のようなものを感じた。
上条は何処かに移動しようとする美琴と五和の背中を見守るのだった。

「それで話って何かしら?」

美琴と五和の二人は運河を見渡せる橋の上にいた。
五和は美琴ではなく、運河を見つめながら言った。

「上条さんを私に譲っていただけませんか?」

「…譲るも何も当麻は私の所有物じゃないから」

「いいえ、あなたと上条さんはお互いの心をそれぞれ預けあってる。
 私には分かるんです。
 あなたは上条さんの心を、上条さんはあなたの心を、それざれ胸の内に抱えてることを…」

「…」

「私は上条さんがいないと駄目なんです。
 上条さんのことを心に描いてないと、あの一方的な暴力に蹂躙された記憶に殺されてしまうんです!!」

「…あなたと私はよく似ている。
 当麻に絶望の淵から救い出されたことも、そして当麻がいなければ生きていけない点も」

「…」

「でも一つだけ決定的に違う点があるわ」

「違う点ですか?」

「あなたは過去の絶望に囚われて後ろしか見ていない。
 でも私は前を見て現実と戦う決断をした。
 当麻はあなたが後ろを見ている限り、あなたに振り向いてくれることはない」

「でも上条さんは私にも優しくしてくれてますよ!!」

「それはあなたが前を向いて歩き出すのを手伝おうとしてるだけ…」

「いくら上条さんの彼女だからって少し傲慢すぎませんか!?」

「傲慢なんかで言ってるんじゃない。
 さっきも言ったでしょ、私とあなたはよく似ている。
 もし私とあなたが当麻に出会った順番が逆であなたが一歩踏み出す決断をしてたなら、
 当麻は私の隣じゃなくて、あなたの隣にいたはずよ」

「…ずるいですよ、知ったような口を利いて。
 そんなのを聞かされたら、あなたと上条さんが本当に深い場所で繋がってるのが全部分かっちゃうじゃないですか!!
 そうしたら私は諦めるしか…」

「ほら、そうやってすぐに後ろを向く。
 言ったでしょ、後ろを見てる限り当麻があなたに振り向いてくれることはないって」

「うっ」

「私とあなたの違う点をもう一つ発見したわ。
 例え何があっても私は欲しいものを諦めたりしない!!」

「!!」

「まあ私は大切なものを決して手放したりもしないけどね」

「…どうなっても知りませんよ?」

「前を向く覚悟は出来た?」

「ええ!!」

初めは運河を眺めていた五和も今は美琴のことを正面から見据えている。
その目には強い光が宿っているのだった。

「今日のところは帰ります。
 残りの旅行も楽しんでくださいね」

「ありがとう」

五和はその場から走り出す。
しかし少し離れた場所で足を止めると美琴の方に振り返って叫んだ。

「でも美琴さんはまだ中学生なんですから、一線を越えるようなことだけはしちゃ駄目ですよ!!」

そして今度こそ五和は走り去るのだった。
やがて五和の姿が見えなくなると美琴は呟くように言った。

「いるんでしょ?」

すると建物の影から上条が顔を覗かせた。
美琴の発する電磁波によるレーダーで上条がいることは筒抜けだったのだ。

「女の子同士の会話を盗み聞きなんて性質が悪いんじゃない?」

「…悪い」

上条は罰が悪そうな顔をして美琴の隣に並ぶ。

「五和の奴、最後に凄いこと叫びながら走って行ったな」

「ふふ、そうね」

上条は自然と美琴の肩を抱き寄せ、二人は密着するように並ぶ。

「なあ、さっきの話の一部分だけ修正させてもらっていいか?」

「どの部分?」

「五和には悪いけど、例え出会う順番が逆だったとしても俺は美琴のことを好きになったよ」

「…馬鹿」

そして夕焼けに染まるヴェネツィアの街を上条と美琴は歩き始める。
こうしてイタリア旅行の二日目は幕を閉じる。
それから残りの日程も過ぎ去り、旅行最終日になった。
だが旅の終わりを締めるその日に上条はある大きな決断を迫られることになるのだった。









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