とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part14

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匿名ユーザー

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第5章 ①潮風の香り


上条と美琴が学園都市からの飛行機に乗り辿り着いたのは、北イタリアのマルコポーロ国際空港だ。
今回の旅行の目玉であるヴェネツィアの対岸に当たるイタリア本島にある国際空港で時おり風に乗って潮の香りが漂ってくる。
上条も美琴も二人で初めて向かった旅行が海外旅行ということもあり、半ば新婚旅行のような気分で臨んでいる。
しかし上条と美琴の旅行は出鼻から挫かれることになった。

「来ないな…」

「…そうね」

今回の旅行は自由行動というわけではなくツアー式の団体で行動する旅行になっている。
しかしながら集合時間になっても他の客どころかガイドすら現れない。
よくツアー旅行で遅刻すると遅刻者を拍手で迎えるという話があるが今更大勢で遅刻してこられて拍手しても、
嫌味ではなく本当に歓迎されていると勘違いされてしまいそうなものである。
初めは心地よく感じていた潮の香りも段々と生暖かい風と共に鬱陶しくなってくるのだった。
そんな中でもしっかりと手を握っているのが如何にもこの二人らしいのだが…

「だからあの女は早計過ぎると言ったのである」

何処か遠くから日本語が聞こえてきた気がするが、恐らく気のせいだろう。
そんな中、何処か辛そうにしている美琴の顔を見てあることを思いつく。

「なあ、いつまで経っても来ないあっちが悪いんだし二人きりで観光しちまわないか?」

「えっ?」

「イタリア語が話せる美琴に頼りっぱなしっていうのは情けないが、二人きりのほうが自由に回れるし。
 泊まる場所は確保されてるんだから取り合えず荷物はホテルに預けてさ。
 いつまでも待ち惚けを喰らってたって時間が勿体無いよ、せっかくの旅行なんだしさ」

上条の提案に美琴はしばし考え込むが、やがて上条の考えに賛同したように頷く。
本来なら重大なマナー違反なのだが二時間も待ち惚けを喰らっていたら、そういう考えに行き着くのも仕方なかった。
ガイドもなしに海外を学生二人で歩くのはそれなりに危険が伴うのだが、その点は非常に優秀な美琴がいるので問題なかった。
そうして二人の北イタリア観光が始まるところだったのだが、
ガイドが来ないのとは別の意味で新たな問題の火種に火がつこうとしていた。

取り合えず二人は無事にホテルに向かいチェックインすることに成功していた。
ホテルのある場所はキオッジアと呼ばれる小さな漁師町だった。
キオッジア自体には特に観光名所はないのだが、ヴェネツィア本島に泊まるより夜の遊びに向かうのには便利らしい。
とかいいつつもキオッジアからヴェネツィアに向かうのは少々ややこしい経路を通らなければならなかった。
まだギリギリ昼前の時間だったので観光は午後からにして、取り合えずキオッジア内で昼食をとることにした。
しかしその選択が二人の運命を大きく変えることになる。

「あれ、何で我らの恩人の上条当麻がここにいるのよな?」

割と最近聞いたばかりの日本人の声が聞こえ、上条は美琴と手を繋ぎながら歩くスピードを早める。

「ちょっといいの?」

「何となくだが関わったらこの旅行が潰れる、そんな気がする」

しかし声の主が諦めることはない。

「ここで恩人に恩を返さずに別れたら、天草式の名折れよな。
 全員で上条当麻をひっ捕らえるぞ!!」

次の瞬間、上条たちは数人の日本人に囲まれる。

「うっ、せっかくの旅行が…」

「素直に挨拶したほうがいいんじゃない?」

上条は肩を落としながら美琴の言葉に頷く。
そして上条が振り返った先にいたのは、髪をクワガタのようにセットした男…建宮斎字だった。

「ここであったが百年目、せっかくの機会だし恩を少しずつ返させてもらうのよな」

建宮は上条と美琴に向かってニカっと歯を見せて笑う。
人のことは言えないが何処か言葉遣いがおかしくないかと心の中でツッコミを入れながら、
上条は建宮に向かって片手をあげて挨拶を返す。
そして天草式に連れられて上条と美琴はキオッジアにある建物の一つに向かうのだった。



建物の中に入ると天草式と同時期に知り合ったシスターのオルソラに迎え入れられた。
話によるとキオッジアはオルソラがローマ正教に所属していた時の地元のような場所であるらしい。
所属していたというのは今はオルソラはローマ正教に所属していない。
例の法の書を解読したというオルソラを巡る事件は、謎の男による仲裁でオルソラの捕縛の命は撤回された。
しかしそのままオルソラがローマ正教に所属しているわけにもいかず、
オルソラと天草式の身柄は同じ十字教の宗教団体であるイギリス清教に引き渡された。
どうやら二つの組織のトップ同士による表では行えないような取引があったらしかった。
実はオルソラの暗号の解読方法が間違いだったこともあって、
オルソラも天草式も特に問題なく日々の生活を送っているとのことだった。
上条が何故これだけの情報を知っているかというと、
ローマ正教のシスターであるアニューゼに痛めつけられていた少女…五和にメールでその後の経緯を聞いていたからだ。
魔術サイドのことにはあまり深く関われない上条もオルソラと天草式の無事を確認できて安心していたのだった。

そして上条にメールを送っていた五和はというと…相も変わらず上条に向けて熱い視線を送っていた。
しかし上条の手は美琴としっかり握られている。
助けた少女と交流を持つくらいは大目に見るが、上条を譲る気は全くない。
何となく美琴と五和の間で火花が散っているようにも見えるが、
当の上条は至って美琴一筋であるため特に問題は起きるはずがないのだった。
外野から押し倒せや既成事実など不穏な空気を纏う言葉も聞こえてくるが上条は無視を決め込んでいた。

「それであなた様は美琴さんと一緒に旅行にやって来たと?」

「ああ、それで美琴と一緒に食事できる場所を探してたら建宮に捕まったんだ」

「でしたら是非引越しの手伝いをして頂きたいのでございますよ」

「あのー、オルソラ。
 俺達は旅行で遊びに来たって言ったばかりなんだけど…」

「半日じゃどうせヴェネツィアを完全に見て回ることはできないでございますよ。
 手伝ってくださったら昼食と夕食もご馳走しますし、
 地元の人間だからこそ知っているお勧めの観光地の巡り方やお店を紹介してあげられるのでございますが…」

「当麻、ここで会ったのも何かの縁だし手伝ってあげましょうよ。
 それに色々ともらったほうが行動の指針も立てやすくなるし」

「美琴がいいなら俺はそれで構わないけどさ」

「尻に敷かれてるのでございますね」

「余計なお世話だ!!」

「では片づけを始める前に昼食にするのでございますよ」

「それじゃあ私も…」

「今日はお二人を歓迎する意味も含めていますから、ゆっくりしていてございませんか?
 地元の料理をご馳走するでございますから」

「そうですか?
 それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」

結果としてオルソラの食事をご馳走になったのは大正解だった。
先日オルソラの味付けに違和感を感じたのもよく考えれば、違う食文化で暮らしているのだから当たり前といえたかもしれなかった。
オルソラ曰く有りあわせののもので手早く作っただけらしいが、特に出されたボンゴレのスパゲッティは本場の味がするのだった。
美琴は早速オルソラに詳しいレシピを聞いている。
美琴が自分のためにレシピを増やそうとしてくれていることが分かったので、
上条はそんなちょっとしたことにも幸せを感じるのだった。

しかし引越しの片付けが終わりに近付いた時にハプニングは起こった。
片づけを行っている内に体が汚れてしまった皆は先に女子からシャワーを浴びることになった。
そんな中一枚の絵皿のしまい忘れが発覚して新聞紙に包もうとするが、部屋の中の新聞紙はちょうど切れていた。
そして先ほど新聞紙のストックがあると言われた場所に上条は向かった。
恩人を言いながらも上条をさり気なくこき使う天草式の連中に何か釈然としないものを感じながらも、
上条は新聞紙を探して奥にある部屋の一室の扉をさり気なく開いた。
そしてそこにいたのは…

「え?」

一糸纏わぬ姿でシャワーを浴びている美琴だった。
美琴以外の女性なら上条はすぐに目を逸らし土下座か何かして謝っただろう。
しかし上条はそういった行動に出ることが出来なかった。

「綺麗だ…」

上条は美琴の裸が放つ魅力に見惚れてしまっていた。
美琴も顔を赤くしているものの不思議と嫌な感じはしない。

「ご、ゴメン!!」

しばらく見つめあった後、冷静さを取り戻した上条は謝ると急いでドアを閉める。
やがてシャワーを浴び終え戻ってきた美琴も、上条とまともに顔を合わせることが出来ないのだった



その夜、上条たちの知らぬところでローマ正教が編成していた魔術による艦隊が全滅した。
圧倒的な力による破壊に氷で出来た艦隊は今や見る影もなく、いくつかの氷の塊が海に浮いているだけである。
その氷の上に一人の少年が佇んでいた。
少年はつまらなそうに海の藻屑となった艦隊があった場所を見つめている。
すると少年の携帯が同僚からの連絡を告げた。

(終わったみたいね)

「何で分かるんだ?」

(流石のあなたでも仕事中は電話に出ることは出来ないでしょ)

「…違いねえ」

(どうしたの、何処か不機嫌そうだけど?)

「別に…」

少年には暴れたりないという気持ちが強かった。
今までずっと裏方に回ってきた。
そしてようやく自分にも力を試せる機会が巡ってきたというのに、相手の頭は小物臭がする雑魚でしかなかった。
そしてそれ以上に…

(そういえば利用されていた200人を超えるシスターの部隊とやらはどうなったの?)

「殺すにも値しない奴らだったから、直接手を下しちゃいねえよ。
 まあ氷の船と一緒に海に沈んだ奴らはいるかもしれねえが」

(怒ってるの?)

かつて少年はこの世界の在り方に疑問を持った。
自分は力を持っていた。
でも周りの人間達はゴミ屑を処理するかのように毎日着実に減っていった。
命って何だ、能力って何だ?
皮肉にもそう思える少年には力が備わっており、少年は周りの友人達を救うために戦った。
しかし待っていたのは圧倒的な力による蹂躙だった。
そして少年の大事なものは全て消え去り、少年の信念は折れていた。
そうあの時までは…
少年にとって学園都市第一位は侮蔑の対象でしかなかった。
力に何の疑問も抱かずに弱者を蹂躙していく。
かつての少年だったら例え敵う可能性が低くとも立ち向かっていっただろう。
しかし少年の信念は折れていた。
少年に学園都市第一位に立ち向かう気概はなかった。
だが一人の右手に少しばかり特別な力を持つ少年は学園都市最強の化け物に怯むことなく立ち向かった。
かつての自分と同じ圧倒的な存在に挑む幻想殺し…
一つ少年と違ったのはいくら傷つけられても幻想殺しの信念は折れなかったことだ。
そこに自分は少しばかりの希望を見た。
そして幻想殺しがかつての自分と同じ道を辿ろうとしていることを知った。
気付くと幻想殺しの戦いを見て、自分の折れた信念に一本の筋が通っていた。

「別に怒ってないさ、ただ弱者はいつも利用され捨てられる。
 それは何処の国でも、どの組織でも変わらねえってことを実感しただけだ」

(…)

少年は幻想殺しに協力者と名乗った。
本当は仲間だと名乗りたかったところだが、統括理事長の影響下にある以上そうもいかなかった。
統括理事長は遊んでいる。
何やら崇高な目的があるらしいが、少年から見たら命をチップにする性質の悪い賭け事のようにしか見えない。
それに統括理事長は自分を取るに足らないものだと思っているらしい。
だからこれまでもある程度の自由が認められてきた。
今回は統括理事長からの命令で動いていたが、それは流石に科学の産物が全て消える事態は放っておけなかったからだ。

「別に俺がそこら中に散らばる小石のような存在だって構わない、今更周りからの評価なんて気にしねえ。
 だが覚えておけ、アレイスター。
 一度砕けた俺の信念に常識は通用しねえぞ」

携帯を切った誰もいない海に向かって吐き捨てるように呟いた少年の背中には6枚の天使の羽のようなものが展開される。
そして少年はもう一人の協力者との接触場所へと飛び立つのだった。









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