とある科学の執行部員
改訂版 | はこちら。 |
第1章(1)
上条当麻は目を覚ますと、何処か寝ぼけ眼のまま洗面所へと向かう。
顔を洗い、歯を磨き、しっかりと目を覚ますと出掛ける前にカバンの中身を確認する。
この日は9月1日、夏休みも明け新学期が始まる日だ。
今年の夏休みも色々とあったものの、こうして無事に新学期を迎えることが出来た。
上条は彼女のお陰で無事に終わらせた宿題がカバンに入ってることを確認すると、
それに加えて戸棚の引き出しに入っていた『あるもの』をカバンに詰め込む。
すると玄関のチャイムを鳴らす音がした。
特にこの時間に約束はしていないので、上条が疑問に思いながら玄関口に出ると…
「おはよう、当麻」
「おはよう、美琴」
件の彼女である御坂美琴だった。
「朝ご飯、まだでしょ?」
「あ、ああ、まだだけど…」
「だったら私が作ってあげる」
そう言うと、美琴は上条に続いて部屋の中へ上がっていく。
美琴は狭いキッチンに立つと夏休みの間に置いておいたエプロンを身に付け、
手早く上条の朝食の準備を始める。
そんな美琴に上条は背中から声を掛けた。
「美琴、夏休み中ならまだしも学校が始まったら無理しなくても大丈夫だぞ」
付き合い始めてから、上条は美琴に宿題を教わると共に、
美琴に食事の準備を毎食してもらっていた。
上条としては可愛い彼女の食事を食べられるのは嬉しいことに違いないが、
自分のせいで美琴に負担を掛けるのを心苦しく思ったのだった。
「ううん、私がしてあげたくてしてることだから…
当麻が迷惑だったらやめるけど」
「いや、美琴が大変じゃなきゃいいんだけどさ」
やがて朝食が出来上がると美琴は上条の部屋の真ん中にあるテーブルに食器を運ぶ。
今朝は焼き魚に味噌汁という和風な朝食だった。
「いただきます」
上条は手を合わせて挨拶すると、焼き魚を箸で突いて口に運び始める。
美琴に食事を作ってもらい始めてから上条はずっと疑問に思っていたのだが、
同じ食材を使っているのに美琴と自分が作る料理の味が違うのが不思議でならなかった。
もちろん美琴の作る料理の方が上条に比べてずっと美味しい。
このままじゃ美琴の料理なしでは生きていけなくなることに不安を覚えながら、
上条は美琴にあることを尋ねる。
「なあ、今日って美琴も午前中授業だよな?」
「うん、新学期の初日だからね」
「だったらさ、今日の放課後一緒に出掛けないか?」
「え?」
「夏休みは美琴に世話になりっぱなしだったからな。
上条さんは、お礼も兼ねて美琴と一緒に何処か出掛けたいわけですよ」
「でもお世話になったのは私の方で…」
「だったらさ、お互いに感謝を伝えるって意味でさ」
「そうね、それだったら」
「よし、それじゃあ決まりだな!!」
「うん!!」
食事を終えた上条は美琴と一緒に学校に向かうのだった。
上条と美琴が道を進んでいくと前方から見知った三人がやって来た。
「一方通行、それに番外個体に打ち止めも…」
「おォ、上条にオリジナルか。
そォいえば、今日から新学期が始まるンだったな」
「ギャハ、お姉さまってば相変わらずヒーローさんとラブラブだね!!」
「ちょっと、からかわないでよ」
そう言って美琴にじゃれ付くの少女の名前はミサカ00001号、
何故か番外個体という名を名乗っている。
数週間前に上条は一方通行を倒すことによって『絶対能力進化』を凍結に追い込んだ。
番外個体はその際に助け出した美琴のクローンである『妹達』の一人で、
美琴に戦闘力をより近づけるために肉体年齢が美琴より高めに設定されており、
また性格も一方通行と戦うために攻撃的なものを学習装置により組み込まれている。
番外個体と名乗っているのは検体番号ではなく、
自分が特別なものだと表現するためのものらしい。
それなら普通の名前をつければいいと上条は敢えて口には出していなかった。
「番外個体も程々にいておいた方がいいって、
ミサカはミサカは上位個体らしく注意を促してみる」
そして美琴より幼い外見をしてるのはミサカ20001号…通称、打ち止め。
『妹達』の上位個体として生まれたものの、
初期の段階で上条が実験を中止に追い込んだため『妹達』は二人しかおらず、
見た目相応の少し大人ぶった普通の少女なのだった。
「てめェら、朝っぱらから騒々しィぞ。
ったく、なあ片方だけでもしばらく預かってくれねェか?」
そして番外個体と打ち止めは現在、一方通行と共に暮らしている。
『絶対能力進化』は美琴のクローンを一方通行が定められた回数、
決められた状況で殺害することでレベル6に辿り着くというものだった。
殺そうとした者、殺されるために生まれてきた者、その関係は歪に見えるかもしれない。
しかし一方通行には実験の最中の記憶が存在してなかった。
実験の誘いを断ったはずなのに、気付いた時には番外個体を傷つけ、
それを上条によって止められた後だった。
上条に殴られたことにより一方通行は正気に戻ったのだが、
正気を失っていた理由は依然不明なままなのだった。
「とか言いつつも、何かんだ二人に囲まれて楽しいんだろ。
ったく本当に一方通行は素直じゃねえな」
「…よほど愉快なオブジェになりてェよォだな」
「ちょっ、目がマジなんですけど!?」
上条と一方通行の間でこういった一悶着があったものの、
一方通行も含めて無事にこういった日常に帰ってくることができた。
そして一方通行も番外個体も打ち止めも
こういった日常を与えてくれた上条に感謝しているのだった。