とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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第1章(1)


「はい、当麻。
 こっちの書類に目を通してサインしておいてね」

「あいよ」

上条は美琴から書類を受け取ると、その中身に目を通し始める。
美琴は自分の仕事が一段落ついたのか『グループ』と同じ部屋に拠を構える
『風紀委員』第一七七支部の面々と談笑に耽り始めた。

(今日は『外れ日』だな)

上条は心の中で溜息を吐きながら書類に目を通し終えるとサインをして、
『警備員』の本部へ書類を転送する。
上条が所属する『執行部』は全部で三つのチームしか存在しない。
そして緊急時以外は一つのチームが休暇を取っている間に、
他の二つのチームがパトロールとデスクワークをそれぞれ受け持つ。
それに伴いデスクワークを担当する日は、その日によって仕事量にバラつきが出るのだ。
そして特別に仕事が多い日のことを上条は『外れ日』と呼んでいた。

「ふぁー」

上条も一段落つくと大きく背伸びをして体を解す。
上条は自分はデスクワーク派の人間でないことを自覚していたので、
どうしてもデスクワークを担当する日は気が滅入ってしまうのだった。
そしてこのオフィスには何故か女子の『風紀委員』が多いため、
肩身が狭い思いをせざる得ないのだった。
上条は何やら楽しそうにしている女子達を余所目に携帯を開く。
そこには美琴と付き合い始めたばかりの頃に撮った2ショットに
日付と時間が映し出されている。
8月31日、今日で夏休みも終わりだ。

(今年は非番の日に限って魔術師が侵入してきやがって、
 あまり美琴との時間が取れなかったな)

そう思いながら上条はふとあることを思い付く。
そして上条は茶菓子を囲んで談笑している女子達のところに向かった。

「なあ、美琴。
 明日って常盤台も午前中授業か?」

「そうだけど、急にどうしたのよ?」

「だったらさ、明日はちょうど非番だしデートしないか?」

「え?」//

思いがけない上条の提案に美琴は頬を染めている。
それとは対照的に白井はテーブルで顔ドラムを行っていた。

「いや、夏休み中は帰省した時を除いてゆっくり出来なかったし、
 偶には二人きりで何処か遊びに行こうぜ」

「と、当麻がそう言うなら別に構わないけど」//

「御坂さんったら、もっと素直に喜べばいいのに」

「だって…」

初春に苦笑いを浮かべながら言われると、
美琴はしどろもどろに何か言い訳みたいなものを始める。
付き合い始めて一年も経つのに全然変わらない美琴のことを微笑ましく思いながらも
上条は明日のデートについて話を続ける。

「詳しいプランはまた後で伝えるから、ちゃんと予定を空けといてくれよな」

「う、うん」//

やがて仕事を終えた上条たちは、それぞれ住まう寮に向かって解散する。
そして嬉しさのあまり悶絶する美琴を見て、
白井はまるで苦行を行っているような気分に陥らされるのだった。
上条は美琴に手伝ってもらい何とか終わらせた宿題と念のために『執行部』の腕章を
カバンの中に詰め込むと朝食の準備を始める。
夏休みは基本的に美琴が食事を作りに来てくれていたため、久しぶりの自炊だった。
朝食など誰が作っても似たようなものが出来るはずだが、
美琴が作ってくれたものの方がずっと美味しく感じるのは気のせいだろうか?
すっかり餌付けされてることに上条は苦笑いを浮かべながら、
自分の作った朝食を無造作に口に詰め込んでいく。
そろそろ出ないと遅刻する時間だった。
上条は急いで朝食の片付けをすると、学校に向かって走り出すのだった。



「おっす、一方通行」

「なンだァ、上条か。
 今日は遅刻しなかったンだな」

「流石に新学期初日からは上条さんも遅刻はしませんことよ」

「殊勝な心がけじゃねェか。
 それがいつまで続くかは見物だがなァ」

一方通行は高校の進学先を上条と同じ高校に決めていた。
裏では数多くある進学校が一方通行を獲得するためにかなりの金額を使ったらしいが、
一方通行は普通の生活というものに憧れて上条と同じ高校を選択したのだった。
決して口には出さないが初めての友人といえる上条と
同じ学校生活を送りたかったということも無かったわけではない。

「あれ、番外個体は?」

「なンで俺が一々アイツの行動を把握してなきゃなンねェンだよ?」

「だって一緒に暮らして…」

「愉快なオブジェになりてェよォだな、上ィィィ条くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」

「ひぃっ!?」

一方通行と番外個体、そして打ち止めは学校の寮には入らずに、
マンションで共同生活を送っている。
クラスメイトの女子と同居してることが知られれば、
色々と面倒臭いことになるのは必然だ。
意外なことに一方通行もクラスでの立ち位置などを気にするらしい。

「不用意に発言すると本当ォにオブジェにしてやるからな」

「…はい」

すると悪友の土御門や青髪ピアスも上条たちのところに集まってくる。
そして喧しくも楽しい二学期が幕を開けるのだった。
夏休みに救い出した姫神の転入イベントがあったり、
これからより騒がしい学校生活になる予感に囚われながら上条が学校を出ようとすると、
土御門に呼び止められた。

「カミやーん、ちょっといいかにゃー?」

「どうした?」

「今日はカミやんは非番だよな」

土御門は『グループ』の『本来』の仕事のエージェントのような役割を担っている。
そして土御門から『執行部』についての話があったということは、
魔術師絡みの事件か何かがあったことを表している。

「そんなに警戒しなくてもいいにゃー。
 念のために小耳に挟んでおいて欲しい話があるだけぜよ。
 今日イギリス清教から『客』が来てるんだが、ソイツが一癖ある奴でな。
 万が一という可能性があることだけは覚えておいて欲しいにゃー」

「もしもの時は出ればいいんだな。
 今日は久しぶりに美琴とのデートだから、そうならないことを祈ってるよ」

「まあ『スクール』も『アイテム』もいるから心配いらないと思うけどにゃー」

「でもそういう時に限って不幸な予感がするんだよな」

「せっかくのデートなんだし、あんまり気を散らせてると美琴ちんも可愛そうぜよ。
 カミやんに仕事が回ってこないよう俺も動くから楽しんでくるんだにゃー」

「サンキューな。
 それじゃあまた明日、学校で…」

「また明日にゃー」

そうして上条は土御門と別れ、美琴との約束場所に向かうのだった。
「悪い、待たせちまったか?」

「ううん、私も今来たばかりだから。
 それよりも今日は任せろって言ってたけど、
 ちゃんとエスコートしてくれるんでしょうね?」

「任せとけって、今日は美琴を楽しませるために飛びっきりのプランを用意してるから」

「うん、楽しみにしてる」//

上条が手を差し出すと美琴は少し恥ずかしがりながらも上条の手を握り返す。
そして上条と美琴は手を繋いで歩き始めるのだった。



「えっ、ここって!?」

上条と美琴がやって来たのは第六学区にある屋内アミューズメント施設だ。
そして入口の看板には『ラヴリーミトンズワールド』と大きく書かれている。
『ラヴリーミトンズワールド』とは、その名の通りラヴリーミトンのキャラクターと
触れ合うことを目的としたコミュニケーションパークだ。
アトラクションの数自体は少なく、
その代わりにショーなどのエンターテイメントが数多くある。

「でも前はこんな子供じみた所は来たくないって言ってたじゃない?」

「そりゃ今だって、こんな子供だらけの場所には正直来たくないですよ。
 でもせっかくのデートなんだし、美琴が一番楽しめる場所を選んだわけです」

「馬鹿のくせに気を遣っちゃって…」

「うっ、せっかく美琴のことを思ってしたのにこの言われよう…」

しかし美琴は上条に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。

「ありがとう」ボソッ

「それじゃあ行くか!!」

「うん!!」

そして上条と美琴は手を繋いだまま施設の中へと入っていくのだった。
「いやー、ショーも思ったより本格的で中々楽しめたな」

「でしょ、私がずっと来たかったわけが分かった?」

「お前はショーがどうこうというより、ゲコ太と触れ合えればそれで良かっただけだろ?
 子供に混じって写真撮影の列に並ぶのは正直しんどかったぞ」

「い、いいじゃない、遊びに来た記念にもなったんだし」

「彼氏じゃなくてゲコ太に抱きついての記念写真っていうのが複雑だけどな」

「何よ、妬いてるの?」

「別にー、ただ中身が男だったらって思っただけで…」

「え?」

「お前は気付いてないかもしれないけど、
 あのゲコ太、嫌らしくお前の腰に手を回してたんだぞ」

「そういえば、何だか妙に触られたような…」

「さっ、もう行こうぜ。
 時間も時間だし、何処かで適当に飯を食って解散しよう」

「…うん」

先ほどまでと違い名前を呼んでくれず、手も差し出してくれない上条に戸惑いながらも、
美琴は足早に歩いていく上条の後に続くのだった。
「何処も混んでて飯を食う場所がないな」

「だったら、今から当麻の部屋に行って夕食を作ってあげようか?」

「いや、それだと常盤台の門限に間に合わなくなっちまう。
 少しアレだけど、ファーストフード店か何かで適当に済ましちまおう」

上条に少しでも機嫌を直してもらおうと食事を作る提案をした美琴だったが、
あっさりと上条に却下されてしまう。
すぐ隣に上条がいるものの、妙に二人の距離が開いているように美琴は感じるのだった。
するとその時、凄まじい地響きが二人のいる第六学区を襲った。
思わずよろけて転びそうになる美琴を支えた上条のタイミングを見計らったように
上条の携帯電話が鳴った。

『カミやんか、少しばかり拙いことになった』

「何となく状況は分かってるよ」

『二箇所同時に魔術師が侵入して
 『スクール』と『アイテム』はそっちの対応に回ってるんだが、
 イギリス清教の『客』まで警備員の隙を突いて暴れだしやがった』

「『客』が暴れてるのは第六学区か?」

『その通りぜよ』

「ちょうど美琴と一緒に第六学区にいる。
 今から『接待』に向かうから、念のため『猟犬部隊』にも連絡を取ってくれ。
 この規模の騒ぎだと第一級警戒になりそうだ」

突然の揺れに逃げ惑う人々と避難誘導を始めた警備員と風紀委員を横目で見ながら、
上条と美琴はカバンの中から『剣』をモチーフとした腕章を取り出すと、
それぞれ腕に取り付ける。

「それじゃあ、さっさと片付けて夕食にするか!!
 美琴と話しておきたいこともあるしな…」

「えっ、それって?」

「話は後だ、今はこの騒ぎを鎮圧するのに集中するぞ」

「う、うん!!」

そして上条と美琴は逃げ惑う人々とは逆方向に向かって走り出すのだった。








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