とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part03

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匿名ユーザー

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第1章(2)


「戦争を、『火種』を起こさなくっちゃならねえんだよ。
 止めるな、今のこの状況が一番危険なんだって事にどうして気づかないの!?
 このままじゃイギリス清教は十字教内で孤立する!!
 無用心に学園都市とのパイプなんて保ってるから、
 ローマ正教から目を付けられるような羽目になってるんだろうが!!」

イギリス清教からの『客』シェリー=クロムウェルは
上条と美琴のコンビと相性のいい相手とは言えなかった。
シェリーの使役する『ゴーレム』はいくら破壊してもシェリーの意識がある限り、
何度でも体を再構成してしまう。
美琴は磁力で『ゴーレム』の動きを封じるのだが、
その度に『ゴーレム』の体の一部を構成され、
それらを避けるのに集中力を割かなければならなかった。
『警備員』の使う銃弾は跳弾するため却って危険であり、
その他の火力のある兵器も役に立つとはいえなかった。

(くっ、どうする!?
 『ゴーレム』の足踏みが引き起こす揺れで、まともに接近することも出来ない。
 遠距離からの攻撃も意味を成さないし、
 ここは多少無理をしてでも突っ込むしかないか?)

上条が美琴に作戦を伝えようとした、その時…
美琴の背後に『ゴーレム』の『腕』が構成されていた。
美琴は何か考え事をしているようで、気付いていないようだった。

「美琴ーーー!!!!」

「え?」

上条は咄嗟に突き飛ばすようにして美琴に突っ込む。
そして『ゴーレム』の『腕』が上条を押し潰した。

「当麻、当麻!?」

しかし押し潰されたかと思った上条だったが、
『ゴーレム』の腕には亀裂が走り回り、そしてガラガラと崩れていく。
そして瓦礫となった『ゴーレム』の『腕』の下から
泥だらけになった上条が這い出てきた。

「当麻、大丈夫!?」

「ああ、それより美琴こそ怪我はないか?」

「ごめんなさい。
 当麻に嫌われるようなことをしただけじゃなくて、迷惑まで掛けて…」

「嫌われる?
 何を言ってるか分からないが、大切な人を助けるのが迷惑なもんか。
 それよりも美琴が無事で良かった」

再びゴーレムの足踏みによる激しい揺れに転びそうになる美琴を上条は支える。

「このままじゃ埒が明かない。
 俺はこれからちょっと無理やり突っ込んで来るから、援護を頼む」

「そんな無茶よ!!」

「大丈夫だって、これが終わったら美琴に伝えたい大切なこともあるしな」

「さっきも言ってたけど、それって…」

美琴は上条の機嫌が悪い時に大事な話があると言われて、
どうしても嫌な考えに囚われてしまっていた。
別れ話をされるのではないかと不安だった。
先ほどもそのことを考えていて注意力が散漫になっていたのだった。

「とにかく大事な話があるから絶対に帰ってくる。
 それじゃあ、また後でな!!」

そう言って上条はゴーレムに向かって走り出すのだった。
「お前も分かってるんだろ、『幻想殺し』!!
 ローマ正教はいよいよマジになって戦争を起こそうとしている。
 このままじゃイギリスは辺り一帯の国々から包囲されてお仕舞いよ」

「…」

シェリーの言っていることは上条にも分かった。
それでも上条が守るべき世界を蹂躙しようとするシェリーを放ってはおけなかった。

「悪い、それでも俺の世界を壊そうとするお前を見逃すわけにはいかない。
 お前がイギリスを大事に思うように、俺も俺の世界を守らなきゃいけないんだ」

上条はシェリーの造り上げた『ゴーレム』の『エリス』に触れると、
再び再構成される前にシェリーへと右拳を振るう。
気を失ったシェリーを見下ろしながら上条は呟くように言った。

「出来ることなら、お前が守りたいものも守ってやりたい。
 でもそのためにはどうすればいい!?」

上条は最後だけ語気を荒げて言った。
イギリスにはかつて助け出した少女もいる。
出来ることなら彼女も含めて救えるものは全て救ってやりたい。
しかし全てを救うには上条はあまりに小さく、そして無力だった。

「当麻!!」

上条は自分の名前を呼ぶ声に振り返る。
そこには何に代えても守ると誓っている少女の姿があった。
全てを救うには上条は無力かもしれない。
それでも上条は手の届く範囲の人間、
そして一番近くにいる少女のことは絶対に守り抜くと誓うのだった。



最終下校時刻は結局過ぎ去ってしまったので
『執行部』の仕事を言い訳に上条は美琴を部屋に招いていた。
美琴が作った作った夕食を食べながら上条はやはり餌付けされてることを再認識する。
そんなことを思いつつ上条が美琴に目をやると
何処か美琴は落ち着かない様子でソワソワしていた。

「何で美琴さんはそんなに挙動不審なんでせうか?」

「当麻が大事な話があるって言ってんじゃない?
 それで当麻から話を聞くのが、怖くて…」

「怖い、別に上条さんは怪談話をしようってわけじゃないんですが…」

「馬鹿、そういう意味じゃないわよ!!
 その…別れ話をされるんじゃないかって不安なの!!」

「なっ、美琴は俺と別れたいのか!?」

「何でそうなるのよ!?
 機嫌が悪かったのはそっちじゃない!?」

「あー、ゲコ太の件か?
 まあ確かにあの時は面白くなかったような…」

「…私のこと嫌いになったわけじゃないの?」

「なるわけないだろ、上条さんはいつまでも美琴さん一筋であります!!」

美琴はよほど不安だったのか少し目に浮かんでいた涙を拭うと、
いつもの調子に戻った様子で言った。

「じゃあ大事な話って一体何なのよ。
 紛らわしい言い方して、くだらないことだったら許さないんだから!!」

「紛らわしい言い方って、美琴が勝手に勘違いしただけじゃねえか!?」

「う、うるさいわね、さっさと話しなさいよ!!」

すると今度は何故か上条の方が挙動不審になる。
そんな上条を見て美琴は何故か急に帯電を始める。

「まさか、浮気したとか言うんじゃないでしょうね!?」

「ちょっと、何で帯電してるんでせうか!?
 さっき言っただろ、俺は美琴一筋だって」

「じゃあ、さっさと話しなさいよ!!」

「あー、もう!!」

上条はそう言うとカバンの中から一つの包装紙に包まれた長方形の箱を取り出す。
そして美琴の目の前に置いた。

「俺からのプレゼントだ、開けてみてくれ」

思わぬ上条のプレゼントに美琴は驚きながらも、
包装紙を丁寧に剥がすと箱を開けてみる。

「…可愛い」

そこに入っていたのは小さなハート型のネックレストップに
小さなダイヤモンドがあしらわれたネックレスだった。

「実はそれペアネックレスなんだ」

上条はそう言うと自分の首からネックレスを取り外し、美琴に手渡す。
上条のものと合わせるとより大きなハートの形になるようになっていた。

「大事な話っていうのは俺と美琴の関係なんだ。
 今までは恋人っていうよりも、何処か友達の延長線にいた気がするんだ」

「確かにそうかもね」

美琴は上条にネックレスの片割れを返しながら答えた。

「そして仕事の時は『相棒』って感じで色んな事件に当たってきた。
 だからさ、仕事だけじゃなくて私生活でもパートナーになって欲しいかなって…」

「え?」

「まあ、そのまんま言葉の意味通りです」

「…ちゃんと言ってくれないと分からないわよ!!」

「これでも上条さんは勇気を振り絞っていったんですが…」

「…」

しかし美琴は上条を正面から見据えたまま、目を逸らそうとしない。
よほどちゃんとした言葉にしないと気が済まないらしい。
上条は深く溜息を吐くと、美琴の目を正面から見据え返して言った。



「これからは俺と一緒になることを前提に付き合って欲しい、駄目か?」

しばらく沈黙が続いた後、美琴はポツリと呟くように言った。

「…しい」

「へ?」

「嬉しいって言ってるのよ、馬鹿!!」

「何で嬉しいのに怒ってるんでせうか!?」

「別に怒ってないわよ!!」

「いーや、怒ってるね。
 上条さんには美琴のことは何でもお見通しですことよ」

「ほう、そこまで私を怒らせたいと…
 久しぶりに電撃のキャッチボールでもしてもらいましょうかね?」

「ひぃっ、ご勘弁を!!」

すると上条と美琴の間に自然と笑いが起きる。
夕食の片付けが終わると、二人は寄り添うようにしてベッドの上に腰掛けて座った。

「ねえ、一つ聞いていい?」

「何だ?」

「さっきの話、本当にファーストフード店でするつもりだったの?」

「そういえば確かにファーストフード店でするような話じゃないな」

「本当に当麻って何処か締まらないわね」

美琴はクスクス笑いながら言った。

「うっ、面目ない。
 でも何としても今日中に伝えたかったんだ」

「やっぱり覚えててくれたんだ」

「まあな」

二年前の今日、上条と美琴は初めて出会った。
学園都市のとある飲食店で起こった火災事故。
当時、小学六年生だった美琴は一人店内の中に取り残された。
もう駄目かと思った時に救いの手を差し伸べてくれたのが他ならぬ上条だった。
それから何かと上条のことが気になるようになった美琴は
様々な因縁をつけて上条に纏わりつくようになった。
そして一年前、『絶対能力進化』という絶望に陥った美琴を上条は再び救い出した。
その時になって美琴は初めて上条に対する気持ちを自覚し告白するに至った。
上条も初めは美琴のことを妹のようにしか思っていなかったが、
この一年を通して美琴に向ける感情が親愛から異性に対する愛情へ変わっていった。
初めて出会ってから二年の月日を経て、二人の関係は一つの節目を迎えたのだった。
美琴を寮まで送っていくと、上条はある番号に電話を掛ける。
すると男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも聞こえる
『人間』の声が電話先から聞こえてきた。

『何となくだが今日は君から電話が掛かってくると思っていたよ』

「用件は分かってるよな」

『イギリス清教との関係についてだろう?
 結論から言うと、イギリス清教の上の人間は
 学園都市とローマ正教の戦争を通して漁夫の利を得ようとしている。
 イギリス清教のトップがどういう人間かは君の方が良く理解してるだろう』

上条はかつて一人の少女に課せられていた残酷なシステムのことを思い出す。

『今の状況でどちらに付くこともあの女は良しとしていない。
 危険な綱渡りをしてでも、美味しいところだけ掻っ攫おうとしているわけだ』

「どうすればイギリスにいる人間も救える?」

『君の博愛主義にも困ったものだな。
 二兎追うものは一兎も得ずという言葉があるだろう?
 あまり色々なものに目を向けすぎると、本当に大切な者を失うことになるぞ』

「…」

『強いて言うならローマ正教との戦いに敗れぬことだ。
 それが出来なければ私達の身すら危ういのだからな』

「…そうだな」

『私は君がどんな選択をしようとも味方でいるつもりだ。
 だが大切な者のためにも、あまり無茶をしないことを勧めるがね』

「分かってる」

『では切るぞ。
 最近は君の学習態度が芳しくないと聞いている。
 街を守ってもらってる身としてはあまり大きなことは言えないが、
 学問の街を治める人間として最低限の役割はこなさないといけないからな』

「分かったよ。
 それじゃあまたな、ボス」

『ああ』

向こう側から電話の切れる音がした。
そして上条も眠りに就くべく布団の中に潜る。
やがて一日の疲れが上条は深い眠りへと誘うのだった。







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