第4章(1)
「うわー、海が近いわね!!」
上条たちが降り立ったのは北イタリアにあるマルコポーロ国際空港だった。
アドリア海に浮かび『水の都』と呼ばれるヴェネツィアからは対岸に当たる
イタリア本土沿岸にある空港だ。
美琴は空港のガラス張りになった一角からアドリア海を見て感嘆の声を上げた。
そして美琴に続いて『グループ』の同行者も窓からアドリア海を覗く。
アドリア海に浮かび『水の都』と呼ばれるヴェネツィアからは対岸に当たる
イタリア本土沿岸にある空港だ。
美琴は空港のガラス張りになった一角からアドリア海を見て感嘆の声を上げた。
そして美琴に続いて『グループ』の同行者も窓からアドリア海を覗く。
「本当だ、中々綺麗だな」
上条も美琴に続いて感嘆の声を上げる。
「…全部終わったら、今度は二人きりで旅行に来たいわね」
「…そうだな」
完全に二人きりの世界に入る上条と美琴に他のグループの同行者は溜息を吐く。
「これだから『グループ』だけには入りたくなかったんだにゃー。
ったく見せ付けやがって、やってらんないぜよ」
ったく見せ付けやがって、やってらんないぜよ」
「…このコーヒー甘ェな」
そう『グループ』に新しく加わったメンバーは土御門元春と一方通行だった。
土御門はそれまでもエージェントとして『グループ』に協力していたが、
人数を整える際に上条が無理を言って正式に『グループ』に加わったのだった。
主に後方からの支援と他の協力組織からの中継役になってもらうためである。
そして一方通行は文字通り戦力としての参加だった。
土御門はそれまでもエージェントとして『グループ』に協力していたが、
人数を整える際に上条が無理を言って正式に『グループ』に加わったのだった。
主に後方からの支援と他の協力組織からの中継役になってもらうためである。
そして一方通行は文字通り戦力としての参加だった。
「カミやん、今回はイギリス清教からも協力者が来る予定ぜよ。
それまではホテルで待機ってことになるけど、いいかにゃー?」
それまではホテルで待機ってことになるけど、いいかにゃー?」
「ああ」
そして上条たちが予め取っておいたホテルに向かおうとした、その時…
「あれっ、お姉さま?」
ここにいるはずのない人物達の声が聞こえてきた。
「番外個体、打ち止め、どうしてここに!?」
「ほら、旅行券が当たったって言ったじゃない。
それがヴェネツィアの観光ツアーだったんだけど…」
それがヴェネツィアの観光ツアーだったんだけど…」
「あなたもどうしてここにいるの?
友達と遊びに行くって嘘を吐いてたことに、ミサカはミサカは憤慨してみる」
友達と遊びに行くって嘘を吐いてたことに、ミサカはミサカは憤慨してみる」
「いや、嘘じゃねェよ。
実際に上条も土御門もここにいるじゃねェか?」
実際に上条も土御門もここにいるじゃねェか?」
二人に詰め寄られる美琴と一方通行を余所目に、上条と土御門は相談を始める。
「カミやん、予想外の珍客だがどうするにゃー?」
「予想外にもほどがあるだろ!!
っていうか、この状況でイタリアへの海外旅行のツアーなんて上も許可するなよな」
っていうか、この状況でイタリアへの海外旅行のツアーなんて上も許可するなよな」
「カミやんと美琴ちんの顔は敵に割れてるぜよ。
そして美琴ちんとソックリの二人が無防備に街を歩いてたら…」
そして美琴ちんとソックリの二人が無防備に街を歩いてたら…」
「…」
「決断は早くするに越したことはないぜよ」
上条は深く溜息を吐くと、一方通行のもとへ近付く。
「一方通行、せっかくだからお前は番外個体と打ち止めと旅行を楽しんでこいよ」
「あァ!?」
一方通行は初め上条の言っていることの意図が分からなかったが、
上条の表情を見て何を意味をするのか理解した。
要するに上条は一方通行に番外個体と打ち止めの護衛をしろと言っているのだ。
一方通行はやや不満げだったが、断れる理由はなかったので渋々了解する。
上条の表情を見て何を意味をするのか理解した。
要するに上条は一方通行に番外個体と打ち止めの護衛をしろと言っているのだ。
一方通行はやや不満げだったが、断れる理由はなかったので渋々了解する。
「テメェらもしくじるンじゃねェぞ」
「ああ、そっちもよろしく頼む」
そして一方通行は二人と並んで歩き始める。
番外個体が去り際に美琴に何か耳打ちすると美琴は何故か真っ赤になっていた。
直感で何を言われたか聞かない方がいいと悟った上条は
今後の予定をしっかりと立てるべく土御門と美琴に向き直るが、その時…
番外個体が去り際に美琴に何か耳打ちすると美琴は何故か真っ赤になっていた。
直感で何を言われたか聞かない方がいいと悟った上条は
今後の予定をしっかりと立てるべく土御門と美琴に向き直るが、その時…
「あれ、イギリス清教から連絡ぜよ」
土御門の携帯が鳴り、土御門は通話を始める。
そして土御門は電話が終わると上条に向かって言った。
そして土御門は電話が終わると上条に向かって言った。
「あっちで少しトラブルがあったみたいなんだにゃー。
悪いけど俺はあっちに合流しなきゃならないぜよ。
後で合流するまでは二人で時間を潰してて欲しいんだにゃー」
悪いけど俺はあっちに合流しなきゃならないぜよ。
後で合流するまでは二人で時間を潰してて欲しいんだにゃー」
そう言って土御門は走り去ってしまう。
「ったく、しょうがねえな。
仕方ねえから、取り合えず二人でホテルに向かうか」
仕方ねえから、取り合えず二人でホテルに向かうか」
「えっ、ホ、ホテル!?」//
何故か顔を真っ赤にする美琴を訝しげに思いながら、
上条は美琴の分の荷物も持って歩き始める。
そんな上条の後を美琴はドギマギしながら追いかけるのだった。
上条は美琴の分の荷物も持って歩き始める。
そんな上条の後を美琴はドギマギしながら追いかけるのだった。
「美琴、大丈夫か?
さっきから何だかソワソワして落ち着かねえ様子だけど…」
さっきから何だかソワソワして落ち着かねえ様子だけど…」
「べ、別に全然落ち着いてるけど!?」
「そうか、ならいいんだけど…」
そう言いつつも、やはり落ち着かない様子の美琴を上条は不思議に眺めているのだった。
一方の美琴は先ほどの番外個体との会話が耳から離れないでいた。
一方の美琴は先ほどの番外個体との会話が耳から離れないでいた。
『お姉さまも旅行に来たの?』
『そうだったらいいんだけどね…』
『でも上条と一緒に泊まるんだよね』
『一応そうだけど』
『ギャハ、お姉さまったらそのまま大人の階段上っちゃったりして!!』
『…』//
上条を見るにそんな気が全くないのは分かっているのだが、
こんなやり取りがあった後だと、どうしても意識せずにはいられなかった。
こんなやり取りがあった後だと、どうしても意識せずにはいられなかった。
「美琴、聞いてるのか?」
完全に妄想の世界に入っていた美琴だったが、上条の声で現実に戻される。
「ご、ゴメンね、聞いてなかった」
「いや、謝らなくてもいいんだけどさ。
そろそろ昼飯の時間だから外で適当に済ませるか、ルームサービスを頼むか、
どっちにする?」
そろそろ昼飯の時間だから外で適当に済ませるか、ルームサービスを頼むか、
どっちにする?」
「うーん、せっかく北イタリアにまで来たんだしルームサービスは味気ないかも。
お昼くらいは外でゆっくり食べてもいいんじゃないかしら…」
お昼くらいは外でゆっくり食べてもいいんじゃないかしら…」
「そうだな、それじゃあ少し外に出るか?」
「うん」
そうして上条と美琴は街に繰り出したのだが、予想外の事態が二人を待ち構えていた。
「拙いな、敵さんがやってきたみたいだ」
「嘘っ、だって私は何も感じないわよ」
美琴も『執行部』の任務を重ねる内に殺気や敵意など、
そういったものを敏感に感じ取れるようになっていた。
しかし今は殺気どころか敵意すらも美琴は感じ取ることが出来なかった。
そういったものを敏感に感じ取れるようになっていた。
しかし今は殺気どころか敵意すらも美琴は感じ取ることが出来なかった。
「これは殺気や敵意を放ってるっていうよりは、観察されてる感じだな。
でも嫌な感覚だ、まるで蛇に纏わりつかれているような」
でも嫌な感覚だ、まるで蛇に纏わりつかれているような」
上条の言葉に美琴が意識を集中させた瞬間…
(な、何これ!?)
体中を蛇にまさぐられているような不快でおぞましい感覚が美琴を襲った。
思わず震えだした美琴を落ち着かせるように、
上条は美琴の肩を抱くと自分の体にピッタリと寄り添うように抱き寄せる。
思わず震えだした美琴を落ち着かせるように、
上条は美琴の肩を抱くと自分の体にピッタリと寄り添うように抱き寄せる。
「…当麻」
「大丈夫だ、美琴のことは必ず俺が守ってみせる。
とにかく人混みの中で何か仕掛けられたら拙い。
人気のないところまで我慢できるか?」
とにかく人混みの中で何か仕掛けられたら拙い。
人気のないところまで我慢できるか?」
「うん、大丈夫…」
美琴も上条に身を任せるようにして体を寄り添わせた。
そして上条と美琴は人混みから外れて、路地裏へと足を踏み込むのだった。
そして上条と美琴は人混みから外れて、路地裏へと足を踏み込むのだった。
「何の用だ?」
上条と美琴が路地裏に踏み込んで振り返ると、一人の男が佇んでいた。
緑色の修道服を着て白人にしては小柄な男は上条と美琴に
見る者に寒気を与えるような笑みで微笑む。
緑色の修道服を着て白人にしては小柄な男は上条と美琴に
見る者に寒気を与えるような笑みで微笑む。
「私に殺意や敵意がないのは分かっているでしょう?
今日はあなた方に少しお話があって来ただけですよ」
今日はあなた方に少しお話があって来ただけですよ」
さらに男は上条たちにたいして深い笑みを浮かべる。
ビクッと震えた美琴を男の視線から庇うようにして、上条は美琴の前に立つ。
ビクッと震えた美琴を男の視線から庇うようにして、上条は美琴の前に立つ。
「それで話っていうのは?」
「『アドリア海の女王』それがあなた達が破壊しようとしている霊装の名前です」
「何!?」
「対ヴェネツィアに用意された霊装ですが術式としての効果は
一段階目はソドムとゴモラを破壊したように炎の雨で都市を破壊、
二段階目において対象となった場所によって齎された文明の全てを破壊、
するという極めて極悪な効果を誇ります」
一段階目はソドムとゴモラを破壊したように炎の雨で都市を破壊、
二段階目において対象となった場所によって齎された文明の全てを破壊、
するという極めて極悪な効果を誇ります」
「何それ!?」
男の言葉に美琴は思わず驚きの声を上げる。
どういう理屈かは分からないが、もしそんな魔術が学園都市に向けられたら…
どういう理屈かは分からないが、もしそんな魔術が学園都市に向けられたら…
「まあ少なくても超能力という存在は全て消え去るでしょうね。
それに加えて学園都市の技術は基本的に外部へは出ないとはいえ、
その影響力が及んでいる技術は数多くある。
恐らく世界中は大混乱へと陥ることになるでしょう」
それに加えて学園都市の技術は基本的に外部へは出ないとはいえ、
その影響力が及んでいる技術は数多くある。
恐らく世界中は大混乱へと陥ることになるでしょう」
「…」
上条と美琴は絶句するしかない。
「しかし私は世界を管理・運営するローマ正教として、
そこまでは望んでいないというわけです。
だからあなた方に少しアドバイスをと思いましてね」
そこまでは望んでいないというわけです。
だからあなた方に少しアドバイスをと思いましてね」
「アドバイスだと?」
「先ほども言った通り、『アドリア海の女王』はヴェネツィアに向けた兵器です。
その枷を外すために『刻限のロザリオ』という
対象をヴェネツィア以外に向けることを可能とする術式が組まれようとしています。
それを破壊することを念頭に行動した方がいいでしょう」
その枷を外すために『刻限のロザリオ』という
対象をヴェネツィア以外に向けることを可能とする術式が組まれようとしています。
それを破壊することを念頭に行動した方がいいでしょう」
「わざわざそんな術式を用意するなんて、ローマ教皇の意思が働いてるんだろ?
それを俺達に教えるような真似をして大丈夫なのか?」
それを俺達に教えるような真似をして大丈夫なのか?」
「ローマ教皇ですって、笑わせないでください。
あの程度の男に従う必要なんて全くないんですから。
それにローマ教皇にこれだけのことをする度胸も権限もありませんよ」
あの程度の男に従う必要なんて全くないんですから。
それにローマ教皇にこれだけのことをする度胸も権限もありませんよ」
「何!?」
「話は終わりです。
後はどうにかして自分達で解決してください。
それじゃあまた会いましょう、上条当麻、そして御坂『命』。
優先する…人体を上位に、外壁を下位に」
後はどうにかして自分達で解決してください。
それじゃあまた会いましょう、上条当麻、そして御坂『命』。
優先する…人体を上位に、外壁を下位に」
最後に上条越しに美琴を見つめてきた男に美琴は激しい悪寒に襲われる。
そして男はそれだけ言い残すと壁をすり抜けるようにして
姿を消し去ってしまうのだった。
そして男はそれだけ言い残すと壁をすり抜けるようにして
姿を消し去ってしまうのだった。