とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part05

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第5章


「誰だテメエ?」
 一方通行は面白く無さそうな顔をした。
 無理もない。上条の知っている世界と違い、この世界では一方通行と上条当麻には何一つ接点はないからだ。
 あの実験以外で一方通行と上条当麻が出会うことはないのだ。
「オイ、ありゃあ、お前の男か?」
 上条に一度目をやってから、すぐに興味をなくして、まだ茫然と立ち尽くしている白井に声をかける。
 もっとも、今の白井は完膚なきまでに打ちのめされて答えることなどできないのだが。
「はぁ……やれやれだ。で、何すンの? まさかとは思うが、その女の敵討ちでもしようってンのか?」
「…………それだけじゃねえ」
「あん?」
「白井の仇討ちってだけじゃねえ! てめえ! 八月二十一日に御坂を殺したって本当か!!」
「みさか? ああ、そういやオリジナルも『みさか』って名前だったな。で、それがどうした?」
「『どうした?』…………だと…………?」
 上条の脳が一気に沸騰しそうになった。
 ギュッと、爪が喰い込むほど右手を握り締めて、
「ふざけんじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
 雄叫びをあげて、上条が右手を振りかぶってダッシュ!!
「何だァ? その拳に何か肉体強化の能力でもかけてンの? くっだらねェ」
 しかし、一方通行は避ける気すらなかった。
 無理もない。
 白井黒子のようにベクトル気流が視えるならまだしも、こんな頭に血を上らせて突撃してくるような奴が高位能力者のわけがない、としか一方通行は思わなかった。
 本来であれば反射一発で終わり。
 肉体強化された拳だろうが、その程度で一方通行を捉えることはできない。
 あくまで『本来であれば』。
 バキィッ!!
「がっ!?」
 一方通行からすれば、何でもない右ストレートが自身の顔面を捉えたのだ。
 その勢いのまま、バランスを崩して横に倒れ込む。
 しかし即座に片膝付いて、起き上がり、
「な、何だ?」
 当然、何が起こったか分からない。
 驚いて、その相手を見上げるだけだ。
(俺に拳をあてた!? あり得ねエ!! 反射は切ってなかったンだぜ!!)
 さらに追撃をかける上条。
(チッ! 何か知らねェが、とにかくコイツの能力を見極めねェと……)
 ぐらっ……
「なっ!? 今の一発で足にきてやがンのか!?」
 悲鳴を上げると同時に、今度は腹部に衝撃!!
「うぐァ!! また!?」
 そのまま仰向けに倒れて何度かもんどりうつ一方通行。
「ゲホゲホゲホゲホ」
 四つん這いになって腹部を抑えて何度か息を吐く。
「それが『痛み』だ」
「――――!!」
 見上げる一方通行のすぐ傍に上条当麻が憤怒の表情で、ツンツン頭が文字通り怒髪天を突いて佇んでいた。
「テメエは『最強』ゆえに『ケンカ』慣れしてねえ。打たれ弱い欠点がある。『能力が効かない相手』だとその弱点がもろに出てしまうんだ」
「くそが!!」
 ズバリと指摘されて一方通行が怒りに任せて立ち上がる。立ち上がる時に、足を思い切り踏み込んでベクトル操作で砂利を巻き上げる!!
 しかし、上条はダッキングして、砂利の猛威を低姿勢でかわし、突進!!
 再び右ストレートが一方通行を吹き飛ばす!!



(チッ……どういう原理か知らねえが、コイツに『普通』の『ベクトル操作』は通用しねェ――――なら――――)
 一方通行は前かがみに、右手を地面に付けて滑らせて、後ろ向きに吹き飛ばされながら、しかし態勢は崩さず、
 そのまま、髪の影から瞳を覗かせて、
 一瞬、その瞳孔が大きく見開いた!!
 瞬間、上条当麻の腹部に衝撃!!
「うぐぇ…………!?」
 胃の中のものがすべて逆流しそうなほど強烈なものだった。
「あァ…………痛かった…………」
 すぐ傍に一方通行が無造作に立っていた。
「な、何…………?」
「倍返しだ、オラァ!!」
「くっ!」
 一方通行が叫んでパンチを繰り出そうとして、しかし上条もまた迎撃のため、防御態勢を取った。
 が――――!!
「がはっ!!」
 次の瞬間、顔面に二発、あごに一発の激痛を感じたと思った瞬間、後方へと吹き飛ばされていた!!
 そのまま地面に背中を痛打!!
「テメエは三発だから本来なら六発が倍返しなんだろうが、特別サービスだ。失せろ、テメエには俺が相手する価値すらねエ」
 言って、一方通行は踵を返す。
 そんな一方通行の背中を、地面を舐めながら上条はぼんやりとダメージが残っているので痙攣しながら見つめていた。
(な、何だ…………いくら何でも一方通行の動き、早過ぎんだろ……? 気付いたらやられているってどんなベクトル操作だよ……俺の『幻想殺し』が通じないほどの速さってわけか?)
 それでも上条は立ち上がった。
 ダメージが残る体を無理矢理立ち上がらせた。
「まだやンのか?」
 肩越しにギラリと睨みつけてくる一方通行。
「…………」
「はン、この不感症が……今すぐ楽にしてやンよ!」
 叫んで、一方通行が地を蹴った! 猛スピードで上条に突撃してくる!!
(…………とりあえず、捕まえる!)
 心の中だけで言って、上条は『右手』を開いた。繰り出されてきた一方通行の左ストレートを捕えて、という戦術だ。
(ふん……なるほど……その右手か……まァ、どうでもいいがな……)
 一方通行が看破した。上条の唯一の武器という名の弱点を一方通行に悟られてしまったのだ。
 これで、上条当麻の勝機は0となった。
 がしっ!
 一方通行の左が上条の右手に包み込まれる。
(掴んだ! これなら………んなっ!!)
 しかし、次の瞬間、上条の顔面は一方通行の『左ストレート』をまともに喰らっていた!!
 そのまま、地面に倒れ伏す!!
「ったく、手間取らせんじゃねェ」
 吐き捨てて、一方通行は左腕をぐりぐり回してから、立ち去ろうとする。
 上条は無様に地面に大の字になって横たわっていた。
 もう、一方通行の言葉は耳に入っていなかった。
 それ以上に、信じられないことが起こったからだ。
 どんな力であっても『異能の力』であれば全て『無効』にする右手、『幻想殺し』が一方通行の『ベクトル操作』を無効化できなかったのである。
 あり得ない。
 これまでの経験則からいっても、物理攻撃ではない『異能の力』が上条の右手を凌駕するなど、こと科学分野においてはあり得なかったのだ。
 一体、何が起こっているのかはどんなに考えても分からなかった。
(…………そういや、さっき『レベル6』って言ってたな…………けど『レベル6』つったって『異能の力』のはずだ…………なのに何で…………)
 上条には分からない。
(レベル6…………絶対能力…………だからって、この右手が通じないなんて………レベル6ってのはそこまで凄いのか……いや、まさか…………)
 どう考えても分からない。
 答えはまったく見えない。
 いったい、一方通行は『何』を『ベクトル操作』したのかがまったく分からない。
 いったい、『右手』が作用しない『ベクトル操作』とは何なのか、まったく解らない。
(……待てよ……『レベル6』だって…………)
 どれだけ考えても『幻想殺し』が通じなかった理由が分からない上条の脳が、
 どれだけ考えても想像つかない一方通行の『ベクトル操作』が、
 まったく別の方向にシフトした。
 今の今まで。
 御坂美琴を殺した一方通行。
 レベル5の白井黒子の力。
 突然、起こったバトルで頭に血が上りまくって完全に忘却の彼方に追いやっていった『この世界』のことにシフトしたのだ。
 しかも、これまでまったく見えなかった突破口を伴って。
 これはもしかしたら、もやもやしていた気分を暴れたことですっきりさせることができたからかもしれない。
 ウジウジ悩んでいたことが暴れたことで吹き飛んだからかもしれない。
 結果、脳の奥底に眠っていた記憶が呼び起こされた。
 上条当麻は見つけた。
 上条当麻は思い出した。
 上条の知る世界の方が『真実』であることを証明できる方法を。
 今、この世界は何者かによって歪められたものだという決定的な証拠を。
 しかし、そのためには白井黒子ではなく、この一方通行を信じさせなければならなかったのだ。
 キーパーソンは御坂美琴の一番近くにいた白井黒子ではなく、
 『八月二十一日』という日に『御坂美琴と関わらざるを得なかった』一方通行こそがキーパーソンだったのだ。
 なぜなら一方通行だけが、変わってしまったこの世界の中で唯一人、上条当麻が知る世界と同じ過去を、正確には、同じ情報を持っている男だからだ。
 上条は立ちあがって力強く吼えた。



「一方通行!!」
「何だ? まだ何か用か?」
 一方通行が面倒臭そうに肩越しに振り返る。
 もう、俺と関わるな、まだ俺の周りをうろちょろするつもりなら容赦しねエ――――
 そう言っている背筋がぞっとするような視線に射抜かれたが、上条は怯まない。
 すべての異能の力を無力化する『幻想殺し』でさえ通じなかった『絶対能力者』の『最後通告』だろうと怯むわけにはいかない。



「量産異能者・妹達におけるレベル5・一方通行の絶対能力への進化法!!」



 上条が告げた言葉に一方通行は先ほどまでの無関心な表情が一変してバッと振り向いた。
 いや、振り向かざるを得なかった。


「学園都市には七人のレベル5がいるが、樹形図の設計者を用いて予測演算した結果、まだ見ぬレベル6に到達できる者は一名のみで、その個体を『一方通行』と言う!!」


 この実験のことを知っているのは、今は当事者である一方通行だけだ。この実験を知った御坂美琴はすでに殺されてしまっている。
 そして、この実験に関わった研究者及び研究施設、書類のすべては実験終了後、何者かが闇に葬った。



「――――実戦における能力の使用が成長を促す!!」


 理由は言うまでも無い。
 口封じ。
 実験の成功を外に、もっと言えば魔術サイドに漏れるようなことがあれば、それは科学サイドと魔術サイドの全面戦争に突入することを意味する。


「一二八種類の戦場を用意し、一二八回超電磁砲を殺害すれば、一方通行はレベル6へと進化することが判明した!!」


 遠い未来ならそれも良いだろう。しかし、今はまだ科学サイドが絶対的有利ではなく、むしろ互角、共倒れになるかもしれない現状では戦争を仕掛けるべきではないのだ。


「だが、レベル5である超電磁砲を一二八人も用意することはできない!! そこで超電磁砲の量産計画『妹達』に着目!!」


 レベル5は魔術サイドの、無類の力を誇る『聖人』に匹敵すると言われている。
 それが誇張かどうかは何とも言えないが、仮に匹敵するとしても、学園都市側のレベル5は七人であり、魔術サイドの聖人の数、二十人には遠く及ばない。
 科学サイドはその穴埋めとして、暗闇の五月計画や5ナンバーズという機械の力で補おうとしたが、それでも単純に数の上でも科学サイドは二三〇万人であり、億の単位を誇る魔術サイドにはまったく届かない。


「妹達を用いて、再演算したところ、二万種類の戦場を用意して、二万人の妹達を殺害することで同じ結果が得られることが分かった!!」


 しかし、レベル6の誕生は科学サイドを圧倒的に有利にする駒となる。ただ、残念ながら現在いるレベル6は一方通行ただ一人。しかも従順に言うことを聞くわけでもなく、また聞かせるための手段も無い今はまだ、魔術サイドに知られるわけにはいかなかった。
 だからこそ、実験に関わったすべてを闇に葬ったのである。


 上条の口上が終了し、この場に沈黙が訪れる。
 重苦しい沈黙が。



「か、上条さん……あなたは何を…………?」
 白井が戸惑いながら問いかけた瞬間、
「――――!!」
 上条は力いっぱい胸倉を掴まれた。
 上条は力いっぱいねじり上げられた。
 それでも上条は怯まない。その相手を真っ直ぐ見つめる真摯で厳しい視線は崩さない。
 相手はもちろん、
「テメエ……今の話、誰から聞いた? いや、もう俺以外知ってる奴がいるわけがねエ…………仮に知っているとしたらそれは統括理事会の奴らだけだ…………しかし奴らなら、いくら身内にだろうと漏らすわけがねエ…………なら、テメエはいったい…………」
 一方通行が睨んでいた。
 穿られたくない過去を穿られた怒りの瞳で睨みつけていた。
 それを上条は真正面から受け止めて、


「御坂の部屋でレポートを見つけた」


 上条は毅然と答えた。
「八月二十一日の夜、俺は御坂の部屋を訪ねた。そこで見つけた」
「なン、だと…………?」
「あいつは最強の電撃使いで能力を応用した使い方に関してはレベル5の中でもピカ一だ。その力が一般用端末からでも学園都市トップシークレット情報を引き出したんだろう」
「何を馬鹿なことを! あなたは八月二十一日の夜にわたくしどもの部屋を訪ねてなどいないではありませんか!?」
 今度は白井が声を上げる番だった。あまりに唐突で、しかも信じられないような話を聞かされて、思わず『この世界の事実』を叫んでしまったのだ。
 上条は白井にゆっくり視線を移して、
「なら確かめてみないか? 俺の言っていることが正しいかどうか。さっき、お前、言ったよな。俺が今の現実を否定しているようだって。そうさ。俺は今の現実を信じられないでいる。俺が知っている現実は、俺がいて、インデックスがいて、お前も御坂妹も一方通行も、土御門、青髪ピアス、吹寄、姫神たちクラスメイトも、小萌先生も。
 そして――――その中には御坂美琴だっている!」
「何ですって!?」
「それが俺の知っている世界だ! この世界は何者かによって歪められた偽りの世界だ!!」
 上条の真剣極まる咆哮を聞いて、
「な、何を仰いますか………お姉さまはそのようなレポートなど持っていませんわ…………もし、そんなものがありましたらわたくしがとっくに気付いていますわよ…………一度、お姉さまの荷物をすべて整理したのですから…………タンスの中から机の中まで全て…………」
 上条から目を逸らし、伏せ目になって呟く白井。
「ぬいぐるみの中は?」
「え…………?」
「お前らの部屋にあった、御坂のでかいくまのぬいぐるみだ。その中は見たのか?」
「そ、それは…………」
「見たのか見ていないのか」
「み、見ておりませんわ! だって、アレは単なるぬいぐるみですもの…………そんなものの中に…………って、ハッ!」
 白井は思い出した。
 あの当時、美琴が殺されてしまったあの時分、美琴がやけにあのぬいぐるみに構っていたことを。
 その時は、単に何か深い悩みがあって、何かにすがりたいがための行動としか思わなかったのだが――――
「だったら行ってみようぜ。あのぬいぐるみの中に俺が言ったモノが入っていれば、俺の言ったことが正しい証明になる。俺の知っている世界だと、八月二十一日に俺が持ち出したんだが、この世界なら、お前が知らない以上、御坂以外に誰も知っているわけがない。まだあるはずだ」



 上条のどこか自信に溢れた言葉を聞いて、
「わ、分かりましたわ…………参りましょう…………」
 それでもまだ白井黒子の声はまだ震えていた。
「オイ…………今の話、本当か…………?」
「そうか。お前も来るか?」
「上条さん!?」
「仕方ないだろ。変わってしまった世界の中で俺と同じことを知っている唯一の奴なんだ。コイツだって真偽を確かめたいに決まってんだろ」
「まァ、な…………」
「むぅ…………仕方ありませんわ…………それでは参りましょう…………」
 言って、踵を返す白井。
 その後ろを上条当麻と一方通行は無言で付いていく。




「一方通行!? とミサカは驚嘆します!!」
 珍しく、本当に珍しく、御坂妹は自室のドアを開けて、そこにいる人物を見とめて、叫び声を上げた。
「オイ…………クローンがいるなんざ聞いてなかったんだが…………?」
「お教えする義務はございませんわ」
「…………すまん、そういやそうだった」
 こちらも珍しく顔を引きつらせて声を漏らす一方通行。
 どうやらレベル6への畏怖は先ほどの上条の衝撃の発言に喰われてしまったらしい。一方通行への対応が素に戻っていた。
 もっとも、白井黒子はそんなことはどうでも良くて。逆に、上条は御坂妹を気遣うのを忘れてしまっていて。
「さて、上条さん。お望みのものはそちらですわ」
 部屋の中央まで進んだところで、白井は部屋の片隅に鎮座させてある大きなクマのぬいぐるみを指差した。
 頭を垂れて、どこか無造作に足を投げ出して、糸の切れた人形のように座っている姿が愛らしさとともに侘しさを醸し出していた。
「一応、聞いておくが、こいつは一回でもこの部屋から出たことはないよな?」
「さすがにわたくしや妹さんがいないときは分かりませんが、他人の部屋に侵入できるほど、ここのセキュリティは甘くありませんし大丈夫ですの」
「よし、なら…………」
 上条がクマのぬいぐるみを持って、それをベッドの上に置く。
 どちらのベッドかはとりあえずどうでもいい。
 単に見やすい高さに置いた、ただそれだけだ。
「間近で見ると結構ボロボロですね、でも暖かさを感じます、とミサカはお姉さまの遺品に切なる思いを抱きます」
「小さい頃から持っていて、学園都市に来る時に唯一手放せなかったもの、と仰っておられましたわ」
「だったら、クローンにくれてやったらどうだ? 同じ遺伝子ならコイツも気にいるんじゃねエの?」
「あなたにしては良いアイディアですわね」
「では、本日からミサカは、このクマに染みついたお姉さまのぬくもりを感じて寝ることにします、とミサカはどこか高揚して喜びを表します」
 などと、後ろでそんな会話を交わしている3人の声を聞きながら、上条はゴツイ南京錠が付いている太い首輪を指差して、
「なあ、一方通行、コイツを壊せないか?」
「あン? いいのか? オリジナルの遺品なンだろ?」
「首輪くらいなら構いません、とミサカはすでに己の所有物のように扱います。ですが、他の部分は決して傷つけないよう配慮してください、とミサカはあなたのスペックの高さを危惧します」
「だ、そうだ」
「…………まぁ、何でもいいが…………」
 どこか釈然としない態度を見せて、一方通行は首輪だけを吹き飛ばした。



 露わになったぬいぐるみの首には横一文字にファスナーが走っていた。
 しかも、そのファスナーは一部が開いており、そこから『用紙』の角が顔を覗かせていた。




 瞬間、先ほどまでの呑気な雰囲気もどこへやら。
 部屋の中が暗転して一閃の戦慄が走り、場の空気は凍りついた。




 そんな中、上条は静かに、やや震える手を伸ばす。
 一方通行と白井黒子はその後ろで息を飲んだ。
 上条の手が用紙に触れる。摘まみ引っ張り出して、最初のタイトルだけに目をやって、
 無言で白井と一方通行に差し出した。
 受け取ったのは白井黒子。
 その白井を中心に、どこか緊張の面持ちな一方通行と、何事かと覗きこむ御坂妹。
 はたしてそこに書いてあった中身は――――




「どうやら…………上条さんが仰っていた話が真実のようですわね…………」




 読み終えて。
 一度、この愕然を落ち着かせるために一息ついてから。
 まっすぐ上条当麻を見据えて。
 まだ信じられないような表情を浮かべてはいたが。
 それでも、白井黒子は今、この世界が歪められた世界であることを肯定した。
 それは一方通行も同じだった。
 ただ一人、まだ何も知らされていない御坂妹。
「いったい何のお話ですか? とミサカはこのレポートの存在に戦慄を感じながらお三方に問いかけます」
 普段は感情に乏しい彼女でさえも、明らかに表情を強張らせて、そう問いかけるしかできなかった。




【次回予告】



白井黒子「上条さんの話からしますと何もかもが変わってしまったのは八月二十一日からのようですの」
上条当麻「本来の史実であれば俺が一方通行を倒して御坂は死なずに済んだ。あの場に『俺』がいなかったなら、俺が代わりに行くしかねえ」

インデックス「過去に遡る魔術? あるよ」

御坂妹「今、この世界には一万人近くのミサカが存在してミサカネットワークで繋がっています、とミサカは機密事項を暴露します」

インデックス「でも、とうまの右手をどうやって封じるの?」

一方通行「その右手が作用すンのが『異能の力』に対してであって、『自然法則の力』には作用しねえならやりようはある。一か八かだがな」

白井黒子「わたくしも行きますわ。あの当時のわたくしではお姉さまのお力になれませんでしたが、今のわたくしなら」
一方通行「俺が『レベル6』に目覚める前に倒せ」

御坂妹「必ず、お姉さまをお救いください、とミサカは切実に訴えます。また、お姉さまとアイスを食べて、紅茶を飲んで、子猫を愛でたいと、ミサカは…………」
一方通行「必ず、世界を元に戻せ。でねえと承知しねエぜ……」
インデックス「とうま……必ず『帰って来て』ね……」


上条当麻「待ってろ御坂。必ず、俺がもう一度助け出してやる」









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