とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part04

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第4章


(一方通行だと!? 御坂の仇だと!?)
 白井の声を聞いて、上条は白井の元へと駆け出した。
(うすうす分かっちゃいたが、やっぱり八月二十一日に御坂を殺したのはコイツだったのか。あの気分が悪くなる実験に加担していた当時のコイツだったんだな!!)
 ギュッと右拳を握って。
 全身を怒りに震わせて。
 しかし、上条はどうしてそんな気持ちを抱くのかが分からなかった。
 もっとも、そんな上条に一方通行は目を向ける様子もない。
「上条さん! 手出し無用ですわ!」
 が、白井黒子は振り向きもせず、上条の接近に気付いていた。
「白井!?」
「上条さん――――先ほどのあなたの言葉を信じるか信じないかは別にして、わたくしにとってはたった一つだけ、確実な現実がありますの。それは――――」
 突然、白井の目の前に金串が現れる。
 それを握って白井は一方通行に先端を突き付けた。




「この一方通行が八月二十一日の夜、お姉さまを殺した! それは紛れもない現実ですの!!」




 白井の咆哮と同時に町中ということで、出来ていたギャラリーという野次馬にどよめきが走り騒然となった。
「ですから、わたくしはこの男を倒さねばならないのですわ! お姉さまの仇――――絶対に許すわけにはいきませんの!!」
「オイ、周りのギャラリーども、死にたくなかったら、この場から消えた方がいいぞ。コイツは見境がねエ奴だ。巻き込まれたって知らンぜ?」
 勇ましい白井の言葉を聞いても、一方通行は全く動じない。
 凶悪な笑いのまま、わざと白井の言葉を聞き流して、わざわざ周りに避難勧告を与えていた。
 刹那、人だかりは悲鳴を上げてほぼ全員が逃げ出すようにこの場から離れていった。
 ほぼ、と言った理由は単純。
 上条当麻だけが、この場を離れなかったからだ。



「ふっ――――わたくしにわざわざ戦いやすい環境を作ってくださいますとは、ここは感謝の意を表した方がよろしくて?」
「ったく、毎回毎回、俺と顔合わせる度に所構わず人殺し呼ばわりしやがって…………おかげで、テメエ以外は俺に近寄って来ねえンだが、どうしてくれンだ?」
「はん! 元から御友人がいない孤独なあなたが何を仰いますの!」
「違えねェ…………」
 白井の挑発的な嘲笑を、あっさり認める一方通行。
 しかしその表情にはまだ笑みが浮かんでいた。
 だからどうした、そういった類の笑みだ。
「じゃ、始めっか――――ええっと、何戦目だっけか? まァ、俺の全戦全勝ってトコは揺るがねえが」
 ニヤニヤと、どこか好事家のような笑みを浮かべて、しかし前髪の影を濃くした瞳はどこまでも怖さを醸し出して。
 一方通行は、まるで抱擁を求めるかの如く、両手を柔らかく広げ、両腕も広げた。
「お黙りなさい! 今日こそはわたくしが勝たせていただきますわ!」
 白井が金串を構えてから吼えて姿をかき消す。


 それが――――戦闘開始の合図だった。


 白井は宙に現れた。
 同時に八本の金串が一方通行の前後左右を囲い込んだ形で出現して停止した。
「を? 何だテメエ、念動力でも身に付けたのか? そりゃスゲエな。能力は一人一つだぜ。学園都市初のマルチスキル誕生かァ?」
 もちろんそんなわけはない。
 能力は一人一つ。そのルールは覆らない。
 タネが分かるからこそ一方通行はからかっているだけである。
「その余裕、今日こそは恐怖に変えさせていただきますの!!」
 白井が叫ぶと、金串は一斉に一方通行へと襲い掛かる!
「おお、そうだ一度言ってみたかったんだが、ここが言うべき場面か?」
 などと一方通行が余裕ぶっこいてから、
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
 どこかの金髪吸血鬼のようなセリフを叫ぶ一方通行!
 ぎらっと一瞬、一方通行の瞳孔が大きくなった、と感じた瞬間、
 金串はすべて停止した。そして即座に、切っ先を白井黒子に変更して舞い上がる!!
 同時に白井は姿を消した!!
 追尾でもかけたかのように金串も消えた!!
「あン?」
 いぶかしげな声を漏らす一方通行だが、
「ぬ?」
 首のあたりに妙な感覚!
 金串がそこに出現し、一方通行を基軸に円を描いていた。よく見れば、銀の光沢を放つ鋼線が一方通行の首に巻き付いている!
「へェ――――面白エ技使うじゃねェか――――」
 もっとも、基本『反射』に設定してある一方通行には通じない。
 一方通行の首の前に、鋼線の方がはじけ飛ぶ!!
「視覚認識されねエくらい細い鋼のピアノ線で金串をぶら下げて置いて、俺がベクトル操作するのを見越した上で金串をもう一回テレポートさせてのチョーク攻撃か。テメエは触れたものじゃねえとテレポートさせられねえわけだが、ピアノ線にくくりつけてりゃ連続テレポートで金串を遠距離操作できるわけだ」
 からんと、一方通行の足元に金串が落ちる。
 同時に、距離を置いて白井は一方通行と正対した。



「にしてもお前、スゲエことやりやがったな。空間移動を利用して、三次元じゃなくて十一次元の方に身を置く時間の方を長くできて、その中を移動できるなんざァ、大した成長だァ。おかげで俺はお前がどこから出てくるか分からねェ。お前だけじゃなくてピアノ線付き金串もだがな」
「こう見えても、わたくし、レベル5に昇格しましたものでして」
「ほう、そうかい。俺が稽古付けてやった成果か?」
「不本意ながら!!」
 言って、白井は再び姿をくらます。
 しかもすぐには出てこない。人の目には捉えられない十一次元に身を置いているのだ!
「クックックックック……確かにスゲエ技なんだが、『弱点』が一つ…………」
 白井黒子の姿が見えない一方通行なのだが、その余裕はまったく崩れない。
 足元にある小石を一つ拾って、掌でぽんぽんと弄びながら、静かにぐるりと辺りを見回して、
「そこだ」
「くっ!」
 小石を投げ付けると、そこには白井が出現していて、彼女の肩に小石が直撃!!
 片膝を付いて、肩を押さえながら白井黒子は悔恨の表情を浮かべていた。
「残念だが、俺からすればお前がどこから出てくるかは分からねエけど、お前の方も十一次元上で動いちまったら、どこに出ていいか分からねエ欠点があンだよ、その技はな。つまり『瞬間移動』してねエから、出る場所の確認のために、一回どうしても三次元を覗かなきゃなンねえ。まさか、下に何もねえトコに出るわけにいかねェし、俺が視界にいないところに出るわけにもいかねェかンな。つまり、その瞬間を見つけりゃ攻撃しやすいってわけだ。さらに言えば、俺はベクトルを操る能力者。『空間』も含めて周囲の『ベクトル気流』を読むのは長けてンだ」
 どこか嘲るような一方通行の説明を聞いて、
 しかし、白井黒子は肩を押さえたまま、立ち上がり、再び金串を両手に一本ずつ持ち十文字に構える。
「言っておきますけど」
「ン?」
「わたくしがレベル5に昇格したのは何も十一次元に身を置ける『空間移動』を身に付けたからではありませんわよ!」
 意気軒昂に吼えて、白井は左手の金串を、忍者が手裏剣を投げるときのようなフォームで、一方通行めがけて投擲!
「はァ? 正面から投げつけてくるなンざ、意味ねエぜ……と言いたいトコだが、ンな無意味なことするわねエわな……さてさて、どンな手だ?」
 どこか面白そうなものを見る笑顔で、一方通行は己に向かってくる金串をあっさり反射させて、しかし、明後日の方向へと飛ばす。
 白井の方向へは視界を広げるために、
 しかし、白井はもう一本、今度は右手に構えた金串を投げつけたフィニッシュポーズで佇んでいただけだった。
「オイオイ。単なる一本目はおとりって作戦かァ? 期待してたンだ……が……ッ!!」
 なんと! その金串が、一方通行のベクトル操作をものともせず、一方通行へと向かってくる軌跡を変えない!
「チッ!!」
 舌打ちして、足の裏のベクトルを操作! 猛スピードで横に飛び、金串をかわす!
 がつっと音を立ててその金串は力強く地面に突き刺さった。
 避けてから、
「テメエ…………まさか…………」
「ふふっ、その通りですわ。あなたのように『操作』はできなくても、わたくしも目を凝らせば、ではありますが、『空間』を含めた周囲の『ベクトル気流』が『視えます』の。十一次元に身を置くためには三次元上の『ベクトルの流れ』を把握しないといけませんのでね。つまり、あなたが『ベクトル操作した直後』であれば、そのベクトル気流を見極めて、その間隙を縫うことができますの」
 白井が不敵な笑みを向けて、さらに二本、右手の人差指、中指、薬指に挟んで構え直す。



「面白エよ、お前――――最高に面白エぞォォォォォォ!!」
 なんと、一方通行が地を蹴った!
 一方通行から攻撃を仕掛けるということだ!!
 猛スピードで白井に肉薄!
「ケケッ! 『目を凝らせば』ってことは距離が短ければ短いほど、テメエにベクトル気流を見極める時間はなくなるってこった!」
「はん! そちらこそ、そんな単純な攻撃がわたくしに通用するとでも!!」
 白井の姿が掻き消える!!
 次の瞬間、白井が出現したのは、間合いを置いた上での一方通行の背後!!
「いただきですわ!!」
 姿を見せると同時に、一本金串を投擲!!
「おっと、すっかり忘れてたぜ…………テメエ、『瞬間移動』ができなくなったわけじゃなかったか…………」
 反射というベクトル操作をすれば、その瞬間に白井の眼がベクトル気流を捉える!
 ほとんど間髪いれず投げられるであろう金串を避ける手段はない!
 ゆえに一方通行は―――
 ダッシュしたその姿勢のまま、『伏せた』!
 当然、金串は一方通行の頭上を通過――――せずに真下の一方通行めがけて軌道を変える!!
「チッ! そういや、ピアノ線を巻きつけてあったンだったか!」
 突き刺さる寸前、それでも一方通行は無理矢理横に体を回転させてそれを避ける! さすがに、今度こそ金串は地面に突き刺さった。
 が、
「あなたが起き上がる前に決着を付けさせていただきますわ!!」
 吼えた白井が合わせて『九本』の金串を、突き刺さった分も含めて、一方通行の頭上を中心に前後左右八方向に出現させる!!
 残る一本は白井が構えた!!
「その体勢から金串をかわすにはベクトル操作しかありませんわよ! しかし、その瞬間、わたくしの眼は『ベクトル気流』を捉えますの!!」
「く、クククククク…………大したもンだ、いやまったく…………さすがはレベル5――――もしかして誕生したてのお前が『レベル5』の第一位かもなァ………」
 白井が叫ぶと同時に金串九本が一方通行めがけて解き放たれた!
「わたくしの勝ちですわ!!」
 白井黒子が勝利宣言!
 確かに、『今までの一方通行』であれば『勝てた』かもしれない!!
 しかし――――




「フッ――――テメエのレベル5昇進祝いに見せてやンぜ――――『レベル6』を――――!!」




 一方通行が声を上げた!
 再び、ベクトル操作するときのように瞳孔が一瞬、大きく見開いて――――



「――――!!」
 白井黒子は息を呑んだ。
 一瞬、喉が干上がったとさえ思った。
 全身がいきなり永久氷壁に閉じ込められたかのように凍りついた。
「チェックメイトォ…………」
 首筋に突き付けられた鋭利な感覚と、耳元で聞こえてきた寒気のする声にまったく身動きできなかった。
「視えたか? 気付いたか? これが『絶対能力【レベル6】』の『ベクトル操作』だ…………」
 いつの間にか、白井の持っていた金串は背後に出現した一方通行の右手に握られ、彼女の首筋に突き付けられていたのだ。
「惜しかったなァ……レベル5モードの俺になら勝てたかもしンねェが…………」
「どうして……わたくしの視界が捉えられないほどのベクトル操作とは…………」
 しかし、一方通行は次の瞬間、金串を前に放り投げて殺気さえも消す。
「残念だが今のお前じゃあ、超電磁砲の仇を討つことはできねェよ」
「くっ…………」
「だが、喜べ……俺が『絶対能力【レベル6】』の『ベクトル操作』を使ったのはテメエが二人目だ」
「二人、目…………?」
「察しくらい付くだろ? 一人目は超電磁砲だ。なンせ、俺が『レベル6』に目覚めたのは超電磁砲が相手のときだったからな」
「――――!!」
「それと悪ィが、テメエにゃ、まだ俺に殺される価値はねエ。もっと鍛え直してきやがれ。今よりももっと強く。そン時に遠慮なくぶっ殺してやンよ」
 呟き、一方通行は踵を返して、白井に背を向けて、ひらひら手を振りながら立ち去ろうとする。
 白井黒子は――――動けなかった。
 己の力の『無力さ』に打ちひしがれたのだ。垣間見た『レベル6』に慄いたのだ。
 以前、一方通行は御坂美琴と御坂妹に言った。
 挑戦しようとする気すら湧かない絶対的な力を手に入れる、と。
 正に、その通りだった。
 白井黒子の戦意が完全に木っ端微塵に砕け散ってしまうほど、『レベル6』の一方通行は歯向かおうとすることすら思ってはならないことを『思い知らされた』。
 一方通行の言った『殺される価値すらない』は誇張でも驕りでもなく純然たる事実なのだ。



「待ちやがれ!!」



 しかし、世の中にはそれを感じない不感症な馬鹿もいる。
 圧倒的で不可解な力を見せつけられても怯まない馬鹿がいる。
 一つのことに頭が支配されると『相手の強さ』は度外視され、己の信念のみで動く馬鹿が。
 一応は、白井黒子の顔を立てて、黙って見ているつもりだった馬鹿が。
 なんだか一方通行を押しているようだったので、手を出すつもりはなかった馬鹿が。
 白井黒子の敗北を知り、白井の絶望感と己の怒りがシンクロしたのか。
 御坂美琴を殺した、という怒りも相まって、己の体を突き動かしたと言っても過言ではなかった。
 その馬鹿の名前は『上条当麻』という。
 かつて、ただ一人、『人の身』で一方通行に勝った男である。












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