白き大地での戦い 1
『開戦』
右方のフィアンマに奪われた制御霊装の影響で意識不明となってしまったインデックス。
インデックスを救うため、上条は単身第三次世界大戦の中心地、ロシアへ向かうはずだったのだが・・・・・・
「本当に付いてきていいのかよ、美琴」
上条の目の前にいるのは、美琴であった。
「あんたがロシアまで行くって言うからでしょ」
ロシアへ向かう前、イギリスの空港で美琴と会った。
ちなみに美琴がイギリスにいたのは土御門に聞いたかららしい。(どうやって聞いたのかは知らないが)
しかし戦争直前であり、素直に飛行機でロシアまで行けるはずもなく、ロシア近くの国で降り、ヒッチハイクを繰り返しながらここまで来た。
ロシア語どころか英語すらままならない上条がここまで来れたのは美琴がいたおかげだ。ヒッチハイク中は「駆け落ちか?」などとからかわれたりもしたが。
「・・・・・・それに、インデックスが苦しんでるってわかってるのに黙っていられるわけないじゃない」
後方のアックアとの戦いのあと、上条が入院している間、美琴は毎日お見舞いに来ていた。
その時にインデックスと会った。
初めはいがみ合っていたものの、話してみると(おもに上条のことで)意見が合い、打ち解けていった。
上条が入院している間はインデックスのために料理を作りに行ったりもしていた。
「・・・・・・ねぇ、たしかこの辺りってエリザリーナ独立国同盟の近くよね」
「なにそれ?」
「ロシアのやり方に反発した周辺の独立国の同盟で、ロシアにとっては目の上のたんこぶってわけ。で、第三次世界大戦の前から潰したかったわけ」
「そこに、フィアンマはいる」
「ねえ、あれって」
美琴が指差した先には金属で出来た馬が引く馬車と普通のトラックだ。
「あの馬って、魔術ってやつなのかな」
「俺もそんなに詳しくないけど、たぶんそうだろ」
「じゃあ、あのトラックは?」
「魔術師だって車の運転ぐらいできるだろ。プリンターを使ったりする奴だっているんだから。きっとあれはロシア軍のだろ。中身は、霊装か何かか?」
「・・・・・・ちょっとその地図見せなさい」
美琴は上条から地図を奪うと
「一応、エリザリーナ独立国同盟を攻め込むって口実で急遽作ったんでしょ?・・・・・・てことは、元からいた住人はどうなんのよ」
「ってことは」
「あのトラックの中は」
「周辺の住人達・・・・・・この辺は小さい集落がいくつかあるくらいね。あの大きさなら、全員入るんじゃないかしら」
「向かう先は基地。ってことは、収容所にでも押し込むつもりか?」
「助けないと」
美琴が前へ出ようとすると、上条が彼女の腕を掴んで制止した。
「待て、下手に騒ぎを大きくして増援が来るとマズイ、それに人質でも取られたら厄介だ」
おそらく美琴にとっては難なく蹴散らすことの出来る人数だろう、しかしそれは『普通の兵器』が相手の場合だ。
魔術師がどんな手を使ってくるかはわからないし、何よりも強さが計り知れない。
神の右席の例もある。油断はできない。
「じゃあ、どうすんのよ」
「・・・・・・あれを使おう」
上条が空を指差す。
空には多数の戦闘機が1つの方向へ飛んでいっている。
「学園都市のね、あれは。たぶん積んでるのは爆弾じゃなくて基地建造用の資材だと思うけど」
美琴がそれを見上げているあいだに上条はカバンからL字のバールを取り出し、何かをしている。
「パールなんて持って、まさかあんた、それで殴りかかるわけじゃないでしょうね」
「いくら何でも俺を馬鹿にしすぎだろ。少年漫画の主人公よろしく、バール片手に大暴れして多数の敵を蹴散らすなんて、俺にはできねえよ。ただ測定をしているだけだ」
「測定?」
「おし、ここでいいな」
そう言うと上条はパールを地面に突き刺した。
「美琴、こっからあの戦闘機まで電撃を飛ばせるか?」
「できないことはないけど、そんなことしたら、って・・・・・・本気?」
美琴は上条が何をしたいか気づいたようだ。
「本気だ。俺が合図したら、頼んだぞ」
「・・・・・・3,2、1、今だ!」
美琴が放った電磁波がバールと遥か上空の戦闘機を繋がると、
ドー―ーーーン!!!!!!!と、時速7000キロの戦闘機につられてバールが地面を抉りながら飛んでいく。
「な、なんだ、爆撃か!?」
「くそ、学園都市のか!?逃げるぞ!!」
「おい民間人どうすんだよ!!」
「置いていけ、どっちみち強制収容所に送るつもりだったんだ。ここで空爆の餌食になったって問題ない!!」
トラックや鋼鉄の馬車やトラックを置いて魔術師が逃げてく。
「ちゃんとアビニョンの時みたいになったな」
「あんた、下手したらトラックごと巻き込んでたかもしれないのよ!?」
「まあいいだろ。こうしてトラックも無事なんだし」
上条と美琴が出てきてトラックの荷台を開ける。
中には思ったとおり民間人がいた。
「トラックは、住人達の避難に使わせよう。あんだけいるなら1人くらい運転できるだろ。俺たちは先頭の馬車を使おう。あれなら顔もあんまり出てないだろ。ここだと、東洋人の俺たちは目立つだろ」
鉄で出来た馬、スレイプニル。馬車は全体を鋼鉄で覆ってダンゴムシのようだ。
美琴が歩きだそうとしたその時、
彼女の服を小さい女の子が引っ張った。
使う言語が違く伝わらないと思っているのか、何も離さない。
顔ぶりから何を言いたいかはわかったので、美琴はロシア語で少女に話しかける。
「今度、誰かがピンチになったら、あなたが助ければいい。それが、私たちへのお礼よ」
言葉が通じるとわかった少女が何かを言おうとしたところを、母親らしき赤子を抱えた女性が少女の腕を引っ張って美琴から離した。
その顔は怯え、敵視している。
他のロシア人の大人たちもそうだ。
彼女達にとって学園都市、日本人は敵なのだ。
けれど、気にしている暇はない。
早く馬車を奪わないと異変に気づいた魔術師達が戻ってくるかもしれない。
「・・・・・・行くぞ、美琴。早くしないと魔術師達が異変に気づいて戻ってくるかもしれない」
トラックはロシア人の避難用に残して2人は鋼鉄の馬車へと乗り込む。
「意外と近代的ね」
馬車の中にはクーラーがあり、手綱も馬車の中にあり、馬車の中から手綱を引くようにできていた
「で、あんたは馬車なんて使えるの?」
「今日び、当然のように馬車を扱える高校生なんていないだろ。それに下手に右手で触れたらやばそうだし」
「はあ、しょうがないわね」
とりあえずやってみようと、美琴が手綱を引くと鋼鉄の馬は基地の方へと走り始めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・まさか、本当に出来るとはね」
上条もだが、一番驚いているのは美琴本人だ。
30分くらい馬を走らせると、美琴が馬を止めた。
「これ以上は厄介ね。正面から入っても門番がいるでしょうし、無理やり突破しても蜂の巣ね。ロシア軍だけならなんとかなるけど、魔術で炎とか出されても対処できないわよ」
「俺の右手も数で押されちゃ対処できねえからな」
しょうがないので2人は馬車を捨て歩くことにした。
「で、どうやって侵入するのよ」
「こういうのは、秘密の入口ってのがあるんだよ」
「なんでわかるの?」
「場数を踏んでんだ。魔術師の考えてることが多少はわかるようになってきたんだよ」
今までは巻き込まれるだけだった。
けれども今は、自分の意思でここにいる。
覚悟を決めてここまで来た。
言葉も通じない国、今まで以上に強大な敵けれでも、不安はなかった。
一緒にいるから、安心できる。
強く手を握り合い、2人は歩き出す。