小ネタ ばかやろう
「うーん、特にない、かな?」
御坂美琴の返答に周囲はがっかりした表情をした。
ここはいつものファミレス。
一年たってもいつもの四人組はいつものように雑談をしている。
テーマは……
「お姉さま、その返答はあまりにも……」
「せっかくの七夕なのに、もったいないですよ」
そう、今日は七夕。
いろんな願い事が笹に飾られる日。
そして、
「てっきり、『上条さんと付き合いたい』だと思ってましたけど?」
織姫と彦星が一年で一度再会できる日。
「お、おね、お姉さま、ままま、まさかそ、そのようなことは……」
「さっき特にないっていってたじゃないですか」
「意外ですね、こういうの好きそうですけど?」
「そうね、数ヶ月前の私なら思いっきりしてたと思う」
(((ん??)))
「でも、結局さ」
「はい」
「織姫と彦星って、やるべきことをやってないから会えなくなったんでしょ?」
「まあ、新婚生活が楽しすぎて仕事しなくなったから、
父親である神様が罰として離れ離れにさせたっていう話だったと思いますけど」
「ならその二人がばかやろうなだけで、自業自得じゃない」
「まあ、そうかもしれませんけど」
「それなのにそんな二人にこんな願い事したら、叶う物も叶わなくなりそうじゃない??」
(((んん??????????)))
「考えてみれば、やるべきこともしないで、
うまくいこうと思うのが間違いなのよ、だから……」
「「「だから??」」」
「私は、今日動こうと決めたの」
「「「へ???」」」
「と、いうことで、私これから用事あるから、先にいくわ」
「なな!!! お姉さま!! その用事とはいったい「「頑張ってきてください御坂さん!!!」」
「お姉さま~~~~!!」という叫び声と
「ダメですって白井さん!!」という懸命な声、
「諦めなよ白井さん!! 相手が悪いって!!」なんていうのんきな声
これらを背にし、御坂美琴はやるべきことをするために歩を進める。
「……不幸だ」
上条当麻はとぼとぼと歩いていた。
体中ボロボロな理由、今回は大冒険ではない。
『カミやンはええな~、織姫よりどりみどりやからな~』
なんて青髪が言うから、
『いえいえ、私は一年に一度どころか、今まで一回もそんな機会なんざありゃしませんのです。
あー出会いが欲しい』
といったらクラスどころか学校中(老若男女不問)に追いかけまわされた次第である。
「なんかオレ変なこと言いましたかねー」
さすが上条。
そんな事を考えていた上条の顔面に何かが思いっきりぶち当たった。
「いってーな、何だよこれ!!」
見ると笹だ。
商店街にでもつかうのだろうか、けっこう大きい。
それを担いでたおっさんがこっちになにか謝罪をしている。
まあ、いつものことなので笑顔で許した上条はふと、七夕について考えた。
なんだかんだいって、記憶を失って、初めての七夕だ。
が、知識はしっかりある。
「たしか、仕事さぼっていちゃいちゃしてたふたりが、親の言いつけで離れ離れ。
で、一年に一度会えるのが今日、って感じだっけ?」
上条は空を見上げて思う。
「ばかだよなー」
確かに、二人は悪いことをした。
しかし、その条件を受け入れたことは納得できない。
謝ったのだろうか、
土下座したのだろうか、
説得しようとしたのだろうか、
それでもダメなら戦おうとか、逃げようとかしたのだろうか?
もしくは……
とにかく現状を泣き喚くだけでは何も解決しないというのに。
「おれが彦星なら……」
織姫を泣かすことは無いのに。
珍しくこの七月七日が晴れていた。
「『鉄橋に十九時に来い、こないとレールガン五十発』って物騒すぎるだろ」
天の川が綺麗な夜だった。
「ちゃんと来たのね、意外」
「お前の中のオレの評価酷くない?」
「そうでもないと思うけど?」
「……いつものお前らしくないな」
「なんで?」
「いつもなら『当然よ!! アンタなんかどーたらこーたら』ってなるからな」
「ははは、なんか、ごめん」
「……まさかなにかに巻き込ま「そういうのはない」…なら、いいけど」
「わたし、決めたの、やるべきことをやろうって」
夜の闇が二人を包む。
表情は読み取れない。
「織姫と彦星はやることをやらないから会えなくなった」
「だけど、わたしはそうはなりたくない」
「やらないままでなきたくない」
「それに、わたしがもし織姫だったら、一年に一度しか会えないなんて耐えられない」
「そうなっても、なんとしてでも天の川をこえて彦星に会いに行く」
「それぐらいの覚悟はある」
上条は、ただ、静かに聞いていた。
何を言いたいのかが、なんとなくわかったから。
「わたしは、あなたが好き」
上条の返事はすぐには返ってこなかった。
ただ、その直後に鉄橋の中心で二つの影が重なるだけだった。
上条当麻が御坂旅掛に対し、
土下座して
説得を試みて
それでもダメでケンカして、
二人の逃避行なんか考えて、
結局、その直後に誘拐された美琴を、太平洋を飛び越えて助けに行き、
ようやく旅掛に認められて、
イチャイチャ新婚生活を送るのは、大分後のお話。