とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある車内のすれ違い【アンジャッシュ】




  ~美琴視点~



『次は~ ××~ ××です。 お出口は~ 左側です』

車内アナウンスを聞いた美琴は、ハッ!として目が覚めた。

(………!!? あれっ!? もう、着いた!?
 って…まだか…… 危っぶなー、焦ったー…… つい、ウトウトしてたわね)

降りる駅がまだ先である事を確認し、美琴は軽く頭を振る。
地下鉄の揺れ心地が容赦なく眠気を誘うが、乗り過ごしては面倒だ。

電車が停車し、乗車口から人が流れ込んでくる。ここは乗り降りの多い駅らしい。
いつもなら俯いて目を瞑っている所だが、それではまた眠ってしまいそうなので、
美琴は広告を読んだり、乗客を顔を見たりしている。
そんな中、乗客の一人によく見るツンツン頭の少年を発見する。

(ああ、何だ。上条【アイツ】か………
 …………………………
 アイツ!!?
 いやいやいや、何驚いてんのよ私は!
 そりゃ駅だもん! アイツだって地下鉄に乗る事ぐらいあるでしょ!
 で、でも…急な出来事で私の方の心の準備がまだ……
 って! 心の準備って何よ!? 知り合いと街でバッタリ会うなんて、よくある事じゃない!!
 何でアイツとたまたま会っただけで、こんなにテンパらなけりゃなんないのよ!!
 い、いや、テンパってなんかないけどね!? これっぽっちも!!)

いや、充分過ぎる程テンパっている。自分の心の中くらい、素直になっては如何だろうか。
上条とバッチリ目が合い、彼が話しかけてくる。

「あれ、美琴だ。どっかの帰り?」

心の準備とやらが完了していない美琴は、どう言葉を返すべきかまだ整理が出来ていない。

(どどど、どうしよう。友達と遊びに行った帰りなんだけど、誰と行ったのか言った方がいいのかな。
 変に誤解されたくないし、けど聞いてもいない事までペラペラ喋ったら、鬱陶しいとか思われないかな。
 て、てか早く何か話さないと、無視してるって勘違いされちゃうんじゃ!?
 どうしよどうしよ…えっとえっと……)

結果、学園都市第三位の演算能力が導き出した答えが、

「く……くかー」

狸寝入りであった。
もう眠気などとっくに、世界の果てまでイッテQなので、目を瞑った所で寝過ごす事はないだろう。

しかしこの後美琴は、寝てた方が楽だったと思い知らされる事となる。

「何だ…寝てんのか? 目が合った気がしたんだけどなぁ……」

演技をあっさり信じたらしい上条は、

「よ……っと」

と言いながら座席に腰を下ろす。まぁ、席が空いているのだから座るのは当然だろう。
しかし、彼の座った場所に少々問題がある。何故なら―――

(って、隣に座ってきたー!!!
 何でよ! 他にも席、空いてたでしょ!? 何でわざわざ私の隣に来るわけ!?
 ヤ、ヤバイ…今、私の心臓ありえないくらい大きい音してる…… コイツに聞こえちゃうかも……)

と言う訳で、上条は何故か美琴の真横に座ったのだ。
しかもそれだけでなく、

(な、ななな、何か異様に距離を詰めてくるんですけど!!?)

と美琴との隙間を作らない程、ギッチギチに座ってくる。
当然、美琴の左半身と上条の右半身もピッタリと当たっている訳だ。
上条の真意が分からない美琴は、ただただ混乱するだけであった。


◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


あれから体感時間で30分が過ぎた頃。(実際の時間は5分程)
美琴がこんなに気まずくなるんだったら、寝たフリなんかしなきゃよかったと後悔していると、
上条が一言、「…あ……」っと呟く。
目を瞑っていて周りの状況の分からない美琴は、

(? 今コイツ、『あ』って言った? 何? 何かあったの?)

と頭に疑問符を浮かび上がらせる。
すると突然、

「フーッ!!」

と鎖骨に生暖かい風が当たる。思わず美琴も、

「ひゃんっ!!?」

と変な悲鳴を上げた。

(えっ!? えっ!!? えええっ!!!?
 きゅきゅ、急に何してくれてんのよこの馬鹿っ!!!
 フ、フフ、『フー』って!! 息を『フー』って吹きかけてきたんですけどおおおぉぉぉ!!!?)



上条からの謎の行動に、再びテンパる美琴。やはりその真意は分からない。

「……美琴? もしかして起きてる?」

先程の悲鳴で美琴の不自然さに気付いたのか、上条がそんな疑問を投げかけてくる。
内心、「アンタが変な事するからでしょうがっ!!!」と理不尽に怒る美琴だが、
そもそも彼女が寝たフリなどしなければ、何も問題は起こらなかったと思われる。

(うぅ…どうしよう……バラすなら、もう今しかタイミングがないわよね……
 でも今更って気もするし……)

葛藤した結果、

「ひゃ…ひゃんっ!!? …むにゃむにゃ……」

と結局、誤魔化す方向に決めたらしい。何かもう、引き返せないのだろう。

「…何だ…寝言か……」

やや強引な誤魔化し方だったが、上条にはバレなかったらしい。
それにしても、「さっきの『アレ』は何だったのかしら」と美琴は頭をひねる。
上条が意味もなくあんな事するとは思えない。

(……もしかして、寝てる私で遊んでる…とか…?
 …………………………
 いやいやいやちょっと待って!!?
 もしそうだったら、コイツ少しは私にが興味あるって事じゃないの!!?
 だだだって、普通好きでもない子にそんな事する!? いや、しないわよ!)

上条の謎の行動に振り回され、思考がどんどん混沌としていく美琴。
おかげで上条の方を向く事ができなくなり、上条とは逆方向に首を曲げている。
しかし、上条の奇行はこれで終わらない。
直後上条は、右手で美琴の肩に手を回すと、そのままグイっと抱き寄せ、
自分の肩に美琴の頭を乗せる。
そして更に、上条からのトドメの一言。

「ったく、俺の肩で寝とけっての」

これをモロに食らった、現在の美琴の心境は、

(◎△$♪×¥○☏&%☠#☆♧♨☞☺!!!!!)

である。
そのまま美琴は、人知れず静かに気絶【ふにゃー】した。
奇しくも上条の右手がそげぶっており、漏電はせずに済んだのだが。


◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


「―――と? おい、美琴! 起きろ!」

自分の名前を呼ばれた気がして、美琴は目を覚ました。
声のした方を向くと、そこにはこちらを見つめている上条の姿があった。
瞬間、先程までの上条の不審な行動を思い出し、ガバッと身構える。

「ア、アアア、アン、アン、アンタ!!! わわわ、私に何してくれてんのよ!!!
 寝てると思って…すす、好き勝手してくれちゃって!!!
 おおお陰で心臓爆発するかと思ったじゃないのこの馬鹿っ!!!」

直訳すると、『寝てる間にアンタが色々仕掛けてくるから、ドキドキしちゃったじゃない!』である。
だが当の上条は怪訝な顔をして答える。

「はぁ? 俺が何したって? お前まだ、寝惚けてるんじゃないのか?
 それよりもうすぐ○○駅だぞ。俺ここで降りるけど…美琴は?」
「はぇ? あ…いや……私もそこだけど…………いや、それより寝惚け…って事は『アレ』は夢?」

上条の一連の行動は夢だったのだろうか。
確かに、そう考えると納得がいく。あの上条が、あんな事やそんな事などする訳がないのだ。
ホッとしたような、でもどこかちょっと残念なような、そんな複雑な思いを巡らせる。
と、その時だ。
美琴は上条の右肩に、涎の跡のようなものを発見する。

「あ…あの……つかぬ事をお聞きしますが……肩のそれは一体…?」
「ああ、これか。洗えばいいだけだし、気にすんな。口開けて寝るなんて、よくある事だもんな」
「なっ…!!! がっ…!!! ばっ…!!!」

あっけらかんと答える上条だが、それはつまり、『アレ』が夢でない事を意味する。
大口を開けて寝ていた姿を見られた事よりも、上条の肩に涎を垂らしてしまった事よりも、
『アレ』が現実だったという事の方がショックがでかい。色々な意味で。
と、この絶妙なタイミングで車内アナウンスが流れる。

『次は~ ○○~ ○○です。 お出口は~ 右側です』

ドアが開くと、美琴は逃げるように走り出した。
上条に向けて、「◎△$♪×¥○☏&%☠#☆♧♨☞☺!!!!!」と捨て台詞を吐きながら。

この日から美琴は、上条が何故あんな行動を取ったのか悶々とするようになり。
上条に対して、ますます挙動不審になってしまったという……




  ~上条視点~



ドアが開き、人の波に押し流されるように上条は電車に乗り込む。

(座る所、座る所……おっ!)

上条は空いている座席を見つけた。
するとその隣には、常盤台の制服を着た少女が座っている。
目が合ったので、上条は気軽に話しかけた。

「あれ、美琴だ。どっかの帰り?」
「……………」

だが返事がない。
「聞こえなかったのかな?」と思い、もう一度話しかけようとする。その時。

「く……くかー」

と美琴の寝息が聞こえてきた。
どうやら寝ているらしい。きっとお疲れなのだろう。

「何だ…寝てんのか? 目が合った気がしたんだけどなぁ……」

若干、違和感を覚えながらも、「まぁ気のせいだろう」と思い、

「よ……っと」

とそのまま美琴の隣に座る。
他の席に移動しない理由は4つ。
1、空いている席の目の前に来て、座らずに違う席を探すのはどうかと思う。
2、寝ているとはいえ、知らない人が隣にいるより知り合いが隣にいた方が安心する。
3.違う席を探しているうちに、何らかの不幸に遭い、結局は座れなくなる可能性大。
そしてもう一つは、

(ま、降りる駅は多分同じだろうし、着いた時に起こしやすいように近くにいた方がいいよな)

という上条なりの気遣いだった。
直後、自分の左側に他の乗客が座ってきたので、少し間を詰める。

(んー……何か、思ってたよりギッチギチになっちまったな。
 まぁ、美琴は寝てるし大丈夫だろ)

美琴が顔を真っ赤にしているが、何か辛い夢でも見ているのだろうか。
その状態のまま、電車は発車した。


◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


それから5分が経った頃だろうか、上条の目の前を一匹の蚊が横切った。
蚊は上条達の周りを飛び回る。

(鬱陶しいな……)

上条は手でシッシッと追い払うが、あまり効果はない。
しかも蚊【そいつ】は、上条をあざ笑うかのようにすぐ近くに止まる。

「…あ……」

より正確に言うならば、『美琴の鎖骨に』だ。

(美琴って確か、動物避け【でんじは】のスキルがあったよな……蚊には効かないのか?
 まぁ、蚊って体温の高い人を狙うって言うしな。
 美琴っていつも顔が赤いから、他の人より平熱が高くて狙われやすいのかも)

何故、美琴の顔が『いつも』赤いのかは上条には分からないが。

それにしても、このまま美琴の血が吸われていくのを黙って見ているのは何か気持ち悪い。
しかしながら、寝ている女の子をいきなり『手でパチン!』と叩くのは、それはそれでどうだろう。
で、上条がとった対応策が、

「フーッ!!」

と息を吹きかける事だった。
結果、見事に蚊を追い払う事には成功したのだが、代わりに、

「ひゃんっ!!?」

という奇声が返ってきた。

(………ひゃん? えっと…これって、もしかしなくても……
 美琴センセーは眠っていらっしゃらないという事ではないでせうか…?
 だ、だとしたら、色々とマズイ気が……)

上条は恐る恐る尋ねてみる。



「……美琴? もしかして起きてる?」

もし本当に起きていたら、土下座して謝まって誤解を解こう。
こうなったのも、あの憎ったらしい蚊のせいなのだから。
だが美琴から帰ってきた返事は、

「ひゃ…ひゃんっ!!? …むにゃむにゃ……」

であった。

「…何だ…寝言か……」

上条は心底ホッとした。

(てか、どんな夢見てんだ? 相当、苦しそうだけど)

そう、美琴はさっきから、寝ているにしてはあまり気持ち良さそうではない。
時々唸っているし、首なんかも90度曲がってそっぽ向いている状態で、むしろ辛そうである。

(そんな寝相じゃ寝苦しい訳だよな。このままだと首筋を痛める危険もあるし)

そこで上条は、右手で美琴の肩に手を回し、そのままグイっと抱き寄せ、
自分の肩に美琴の頭を乗せた。

「ったく、俺の肩で寝とけっての」

これを機に、美琴は一気に大人しくなったように思える。
寝やすい体勢に入った事で、夢見が良くなったかも知れない。
それにしても、一瞬右手が反応したのは、気のせいだったのだろうか?


◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


それから更に数分後。
上条の右肩には、すっかり涎の染みが広がっている。

(…まぁ……別にいいけどね)

そろそろ自分が降りる駅だ。
美琴もここで降りるかは分からないが、どちらにしろ放っておく訳にもいかないので、美琴の体を揺らす。

「美琴? おい、美琴! 起きろ!」

美琴は目を覚ますと、ガバッと即座に身構える。

「ア、アアア、アン、アン、アンタ!!! わわわ、私に何してくれてんのよ!!!
 寝てると思って…すす、好き勝手してくれちゃって!!!
 おおお陰で心臓爆発するかと思ったじゃないのこの馬鹿っ!!!」

そんな事を言われても、上条には覚えがない…訳でもないが、
それは美琴が寝ている間に行なわれた事の筈だ。
なので、

「はぁ? 俺が何したって? お前まだ、寝惚けてるんじゃないのか?
 それよりもうすぐ○○駅だぞ。俺ここで降りるけど…美琴は?」

と惚ける。そしてついでに、話も逸らす。
恐らく美琴は、夢の中で同じような体験をしたのだろう。
眠りが浅い時は、現実に起こっている出来事が、夢の中と直結するものだ。
しかし、当然ながら実際の上条も、仕方がなかったとはいえ、
美琴にセクハラめいた事を色々と『しでかしちゃっている』。
だからあまり、その話題に触れたくないのだ。だって気恥ずかしいから。

「はぇ? あ…いや……私もそこだけど…………いや、それより寝惚け…って事は『アレ』は夢?」

そういう事にしておいておくれ、と願わずにはいられない上条である。
と、ここで美琴が目をひん剥いてこちらを凝視している事に気付く。

「あ…あの……つかぬ事をお聞きしますが……肩のそれは一体…?」
「ああ、これか。洗えばいいだけだし、気にすんな。口開けて寝るなんて、よくある事だもんな」

別に大した事ではないのでそう答えたのだが、
当の美琴は「なっ…!!! がっ…!!! ばっ…!!!」っと口をパクパクさせている。
何をそんなに驚いているのか。
美琴が固まっていると、車内アナウンスが流れてきた。

『次は~ ○○~ ○○です。 お出口は~ 右側です』

ドアが開くと同時に、美琴が脱兎の如く走り出す。
去り際に、「◎△$♪×¥○☏&%☠#☆♧♨☞☺!!!!!」と、
どこの星の言語かもよく分からない台詞を吐き捨てながら。

その様子を見て上条は思ったのだ。

「やっぱり…アイツ……




















 まだ寝惚けてたんじゃないのか?」






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