とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

25-810

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匿名ユーザー

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とある最高の五月二日【バースデー】 後編




その日、御坂美琴は尋常じゃない程ソワソワしていた。
いや正確には今日だけでなく、ここ数日は足が地についていない様子だったが、本日は特にヒドイ。
まず前日の夜から着ていく服を選び、入念にシャワーを浴び、色々想像して赤くなったり、
布団に入っても一睡もせずに今日の妄想【シミュレーション】をして、
キグルマーを抱き締めて何かの練習をしたり、結局また赤くなったり、
朝を迎えてもまだ妄想は続いていたり、もう一度シャワーを浴びてみたり、
念の為にとっておきの下着をタンスから出したり、やっぱり赤くなってみたり。

そんなお姉様を目の当たりにして、白井は血の涙を流してみたり。

(ぬぅぅううおおおおぉぉぉぉぉ!!!
 一体何なんですの!!? あのお姉様の乙女モードっぷりはああああ!!!
 あんの類人猿! お姉様に何をしやがりましたのおおおおお!!!?)

お姉様がこんな顔をするのは、あの憎き類人猿関連の時だけなのだ。
『何があった』かは分からなくとも、『何かがあった』事は確かである。

(くうぅぅ…! それに今日はせっかくお姉様の15歳の誕生日だというのに、
 何故こんな大切な日に限って風紀委員の臨時会議なんてありますのよ!)

そう。本日、風紀委員第177支部のメンバーは、一日時間が取れないのだ。
表向きは、明日からのゴールデンウィークに備えての臨時会議となっているが、
実は佐天が裏から手を回しており、白井を美琴と上条【ふたりのデート】に近づけさせない為の
罠…もとい作戦だったりする。勿論、初春や固法も協力者だ。
相変わらず、面白イベントにかける佐天さんの情熱と行動力には、毎度舌を巻く思いである。

「それでは…わたくしは風紀委員の仕事がありますので……その……
 お姉様も誕生日だからとあまりハメを外しませんよう」

これからあの類人猿に会うであろうお姉様に『万が一の事』がないように、白井は釘を刺したのだが、

「ハハハハハメを外すって何よ!!! ま、まままだそういうのは早いんだから!!!
 そ、そ、そういうのはもっと関係が進展してからでしょっ!!?
 そ、そりゃ確かに!? 『誕生日プレゼントは俺自身』なんてあの馬鹿は言ってたけど!?
 それはそういう意味じゃないし!? で、ででででも、もしそういう意味も含まれてたとしたら………
 あ、ああ、あんな事とかそんな事とかされちゃったりなんかしちゃったりしてっ!!!?」

そのせいで大量の胃薬を飲んで出かけるハメになった。ついでに鎮静剤も必要かも知れない。


  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


あの馬鹿と約束した時刻の1時間前。
校則違反上等な私服【とっておきのしょうぶふく】を着こなし、
バックンバックンとうるさい自分の心臓を手で抑える。
待ち合わせは第7学区のいつもの公園。美琴は3時間前からここにいる。
つまり、約束の4時間前から待っているのだ。

(だ、だだだ大丈夫!! 脳内作戦【シミュレーション】は完璧!! 不測の事態にも備えられるように、
 128966パターンのデ、デデ…デー……ト……プランを考えたんだから!!
 ていうか、アイツは今日、私のいう事は何でも聞く訳だし!!
 だ、だからアイツの行動は全部私次第な訳で、つまり私の命令は絶対な訳で、
 も……もし私が、キ、キキキキキ、キス!!! して欲しいとか言っちゃっても………
 い、いいいやべべべ別に私からそんな事は勿論言わないけどねっ!!!?
 あ、ああ、あくまでも可能性として、『寄付して欲しい』って言おうとしたのを噛んで
 『キスして欲しい』って言っちゃう事だって無きにしも非ずだし!!!
 そ、そそ、それをアイツが勘違いしちゃったとしても、それはただの事故なのであって―――)

気になる事が山ほどあるが、一つ一つツッコんでいたら日が暮れそうなので止めておこう。
美琴が心の中で色々と面白い事を考えていると、

「よぉ美琴。来るの早いな」

と待ち人が話しかけてきた。と同時に、

「にょわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

美琴は口から心臓が飛び出る勢いで奇声を上げる。



「ぅおい! どうかしたのか!?」
「どどどどうもこうもないわよ!! いい、いき、いきなり話しかけないでよ馬鹿っ!!!」
「いや…普通に話しかけましたが…?」

うん。別にいきなりって程でもなかったよね。

「て、てかアンタ! 何でこんな早く来てんのよ! 約束の時間まで、まだ1時間もあるじゃない!」
「あー…どうせまた来る途中に色々と不幸に出くわして遅刻すると思ったからさ、
 大分早めに家を出たんだけど、そういう時に限ってスムーズに来れたりするんだよな」
「あ……なるほどね」
「そういう美琴は? 何で早いんだ?」
「ふぇっ!!!? わわわわわ私っ!!?」

言える訳がない。
今日の事が楽しみすぎて、4時間も前からここにいた事など。
そして上条が来るまでの膨大な時間を、心の準備に使おうとしていた事など。
だが上条が予定より早く着いたせいで、準備不足になってしまっていた事など。
…とは言っても、その心の準備とやらが、あと1時間で完了していたとも思えないが。

「わ、私は…その……アレよ。た、たまたま早起きしちゃったから、ちょっと散歩してたんだけど、
 そしたら偶然ここの公園に来ちゃったから、『どうせ待ち合わせはここだし、ここで待ってようかな?』
 って思って。だ、だからその……べ、べべべ別にアンタが思ってるような事は全然ないからっ!!!」
「えっ、あ…うん。………うん?」

「アンタが思っているような~」と言われても、上条は何とも思っていなかった訳で。
それと「ちょっと散歩」する為に、
常盤台生がわざわざ危険を冒してまで私服に着替えるとは思えないのだが。
疑問は尽きないが、上条は「美琴にも色々あるんだろ」と考える事を放棄している。
この一連の流れで、「もしかして美琴って俺の事…?」と思いつかないのが、上条当麻という男である。

「じゃあ予定よりちょっと早いけど、二人ともいる訳だし、もう行こうぜ?
 何させる気かは知らないけど、お手柔らかにな?」

今日の事は、進級のお礼も兼ねた、美琴への誕生日プレゼントだ。
以前の罰ゲームとは違い、嫌々連れ回されるのではない。
上条自身、心の底から「美琴の為に何かしてあげたい」と思ったからこそ申し出た事なのだ。
故に今回の上条は、何をさせられても文句を言うつもりはない。(金銭的な問題以外で)
美琴が楽しんでくれればそれでいい。そう思っていた。

「あっ、う、うん! えっと…まず行きたい場所が718ヶ所あるんだけど」

そう思っていたのだが、開始早々、心が折れそうになる。

「え、えっと…美琴さん? あなたの誕生日は今日から何日間あるのでせうか…?」
「は? 今日一日だけに決まってるじゃない」
「じゃあ…一日は24時間だって知ってる…?」
「馬鹿にしないでよ。そんなの当たり前でしょ?」
「OK。ならアレだ。えー……………
 そんなに色々行ける訳ねーだろ!!! ななひゃくって!!! 
 仮に一日フルに使って、移動時間も計算しなかったとして!!!
 それでも1ヶ所あたり2分くらいの滞在時間じゃねーか!!! 何その過密スケジュール!!!」
「だ、だけどこれでも絞ったもん!!! 最初は10000ヶ所くらいあったし……」
「もうちょっと頑張ろうぜ!!! せめて一桁代まで!!!」

いくら楽しみでも、予定はできるだけ余裕を持って立てよう。

その後二人は、ワーワーギャーギャーと議論【おおさわぎ】し、結果的に5ヶ所まで絞り込んだ。
だが議論に一時間も割いてしまい、奇しくも約束の時間ピッタリになっていたのだった。

「ゼィ…ゼィ……じゃ、じゃあ今度こそ出発しようぜ…?」
「ハァ…ハァ……そうね……」

しかしその時、上条は何かを思い出したかのように「あっ! それとさ」と声をかけ、

「その服可愛いじゃん。似合ってるよ」

と急な不意打ち。
見事なボディーブローを食らった美琴は、顔を茹で上がらせ、

「にゃ、にゃりがと……」

と「ありがとう」もまともに言えない状態になってしまった。
この調子で、この先本当に大丈夫なのだろうか。



あれから4件の店に寄った。
正確には、大型デパート(昼食もここで済ませた)、レディース用ファッションショップ、
家電量販店、美琴御用達のゲームセンター(超電磁砲用のコインは大体ここで調達する)である。
「美琴を楽しませる」が今回の企画のコンセプトなので、
彼女が終始笑顔だったのは、上条としても喜ばしい。
なのだが、上条はどこが違和感を感じていた。
少なくとも、彼は荷物持ちくらいは覚悟していた。
マンガでよくある、何箱も積み重ねたのをヨタヨタフラフラと持って歩くアレだ。
しかしどの店でも、美琴は何かを買いに来た訳ではなかった。(ゲーセンではいくらか使ったが)
ただただ一緒に見て回るだけだったのだ。しかしそうなると―――

(そうなると…俺は何で連れて来られたんだ?
 ただ遊びに来るだけなら、それこそ友達と一緒の方が楽しいだろうし…
 っと、確か友達はみんな急用でいないんだっけか。
 にしてもパシらせないなら、『何でもする』って約束も全く意味ないよな……)

鈍感の鈍感による鈍感の為の思想である。
できることなら、もう「上条【おまえ】の事が好きなんじゃね?」と言ってしまいたい。

そんな事をグルグル考えていると、美琴が袖をクイっと引っ張ってきた。
「何だ?」と上条が振り返ると、美琴はモジモジしながらこう言った。

「あ…あの……さ、さ、最後に…い、行きたい所があるんだけど………いい…?」
「あ、ああ。美琴が行きたいとこならどこでもいいぞ。そもそも今日の俺に、拒否権なんてありません!」

『不覚にも』、ちょっとドギマギしてしまった上条であった。


  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘  ◈  ◘


上条が連れて来させられたのは、第9学区に建てられた、ある高校だった。
第9学区は工芸や美術関連の学校が集まる学区であり、この高校も例外ではない。
どうやら映像技術方面に特化した高校らしいのだが、美琴は何故ここに来たかったのか。

「こ…ここの写真部がね…? 6月のコンクールに出展する写真を撮ってるらしいんだけど……
 そ、その……モ、モモ、モデルになった男女ペアには…そ、粗品が出るらしくて……」

ああ、なるほど。と上条は納得した。つまるところ、このイベントが今回の本命なのだろう。
『男女ペア』でなければならないならば、上条【じぶん】くらいしか相方はいない。
きっと『粗品』とやらも、限定のゲコ太グッズが何かなのだろう。
要はあの時の罰ゲームと全く同じ状況だ。

校内はこのイベントの為に一部開放されており、ご丁寧に案内板まで置かれている。
どうやら5/1~5/7までの、ゴールデンウィーク期間限定イベントらしい。
案内板の通りに進むと、『○○高等学校写真部』と書かれた部室を見つけた。
中に入ると受付のお姉さん(おそらく3年生の部員)が、笑顔でお出迎えしてくれた。

「コンクール出展写真撮影希望の方ですか?」
「は、ははは、はひっ!! そ、そ、それですっ!!!」

何故か緊張しまくりの美琴。写真など撮りなれているだろうに。

「ではお名前を教えていただけますか?」
「な、名前…ですか…?」
「はい。コンクールには無記名で出展いたしますが、モデルとなってくださったカップルの方々には、
 完成した写真に名前をお入れしてお渡しいたしますので」
「カ…カカ…カップ……リュ………」

『カップル』という単語に、美琴は思わず「ふにゃー」しかけたが、ここはグッと我慢だ。

「あの…それでお名前は……」
「あっ! はは、はい!! えと…御坂―――」
「ちょーっ!!! 待て待て待て!!!」

と、ここで今まで黙って説明を聞いていた上条が急に割って入り、美琴の耳元で小声で囁きかける。

(アホか! 本名言ってどうすんだよ!)
「はにょ! ふへっ!」
(お前は有名人【レベル5】なんだから、変な噂とか立ったらマズイだろ!)
「ふみっ! へにゃ!」
(ったく、気をつけろよ……って、さっきからちゃんと俺の話聞いてる?)

先程から美琴が変な声を出しているので、気になった方も多いだろう。
実はこれ、上条に耳元で囁かれ、背筋がゾクゾクしたせいで発せられた、美琴の謎の鳴き声だ。
悪いものではないので、放っておいても問題はない。



(き、ききき、聞いてるわよっ!!)
(そっか? じゃあ頼むぞ)
「ふぉふっ!」

「本当に大丈夫か?」と上条は思った。

「御坂…ってもしかして、あの常盤台の…?」
「ああ! ち、違います違います! みさか…じゃなくて……えっと…その……」

受付のお姉さんも「そういえ言えばどこかで見た事あるようなないような」
と言わんばかりに、手を顎に当てる。
上条の言う通り、ここで『御坂美琴』だとバレると、後々面倒な事になりそうだ。
そこで咄嗟に考えたのが、

「みさ…いや、みか…さ………そ、そうミカサ!! ミカサ・アッカーマンです!」

偽名である。何とも調査兵団にいそうな名前だ。

「えっ!? あっ、は、はい! アッカーマン様ですね!?」

どうやら誤魔化せたらしい。やや強引に。

「では、そちらの男性の方もお名前を……」
「激おこプンプン丸です」

偽名である。
「お前は偽名を使う必要ないだろ」とか、「偽名にしても適当だな」とか、
「エレンじゃねーのかよ」とか、「そのネタもう古くね?」とか、
色々と他にも言いたい【ツッコみたい】事はあるだろうが、ここはスルーしようと思う。
理由は簡単。めんどいからだ。

「は、はぁ……激おこ…様ですか……」

いいのかそれで本当に。

「で、では男性は左側の試着室へ。女性は右側の試着室へお進みください」

お姉さんに案内された通り、プンプン丸は左へ、ミカサは右へそれぞれ別れる。
通されたのは、試着室にしては広く、要は空き教室であった。
部屋の中にいた部員らしき人に手伝ってもらい、上条は淡いグレーのタキシードを着付けられる。
着慣れていないせいで、全身から違和感の塊を醸し出す。

(にしても…わざわざ正装なんかすんだな……まぁ、コンクール用だしな。
 けど万が一出展作品に選ばれたら恥ずかしいな…俺はともかく、美琴は華があるもんな~)

そんな事を思いながら、今度は撮影スタジオに通される。どうやら美琴はまだいないらしい。

(んー…美琴遅いな。着付けに時間かかってんのか?
 俺のほうはタキシードだし、パーティードレスでも着て来んのかもな)

などとボーっと考えていると、スタジオに美琴が入ってくる。

「おっ! やっと来たか、待ってた…ぞ……?」

言いかけて上条は硬直した。
いや、確かにドレスはドレスだったのだが、しかしまさか……

「えっ…あっ……え…な、何故にその…ウ……『ウエディングドレス』…なのでせう…か…?」

そう。上条の目の前には、純白なウエディングドレスに身を包んだ、花嫁【みこと】の姿がそこにあった。
美琴の頬が薄く赤く染まっているのは、果たして化粧のせいだけであろうか。

「あ、あの。もしかしてご存知なかったんですか?」

上条が疑問を抱いている事に対して疑問を持った撮影スタッフ【しゃしんぶぶいん】の一人が、
この企画の全容を説明しだす。
どうやら今年のこの学校の写真部は、コンクールに『新郎新婦』の写真を出展させようとしているらしい。
コンクールが6月にあるので、ジューン・ブライドをテーマにしたいのだとか。
とはいえ、ここは勿論学園都市だ。8割が学生であるこの街に、
滅多に新婚さんなどいらっしゃ~いはしていない。
だからこそ逆に、学生カップルを対象に新婚さん『ごっこ』として、『新郎新婦』のコスプレをさせ、
モデルとして写真を撮らせてもらっているらしいのだ。
聞けば中々好評らしく、前日から始まったのに既に9組のカップルが撮影に来たらしい。
しかもゴールデンウィークは明日からが本番であり、これからもっと来場者は増えるだろう。
学生達はみな、遊び半分に青春の1ページとやらを残したいのだ。

と、長々と説明されたのだが、上条の頭には2割程度しか届いていない。
何故なら、

(み、美琴ってこんなに綺麗だったっけ!!?
 い、いやそりゃ元々可愛いかったけど、何つーか今までと印象が違いすぎて……
 てか何ドキドキしてんだよ俺!! 相手は中学生ですぞっ!!?)

と珍しくテンパっているからだ。



「な、なな、何か感想言いなさいよ! こ、こ、これでも結構恥ずかしいんだから………」
「あ、えと……その…悪ぃ。すげぇ…綺麗だっ…たから、その……み、見とれ…てた……」
「っ!!! あ、あああ、あり、ああ、あり……が…と………」

お互いに顔を「かああぁ」っとさせる、実に初々しい新婚である。
写真部の部員達も二人を生暖かい目で見つめる。
(一部、「チッ!」と小さく舌打ちする部員【ひリアじゅう】もいたが)

撮影は滞りなく順調に終わった。
正直な所、二人ともガッチガチでどこか余所余所しく、お世辞にも「いい写真」とは言えなかったのだが、
「この初々しさ【しろうとくささ】が、逆にリアルでいい」との写真部の見解らしく、
数枚撮っただけでOKとなったのだ。

写真ができるまでの間、二人は最初の部屋で座って待たされている。
しかし、さっきの今で、二人とも全身がぽっぽぽっぽと熱くなっている。
無言なままだと余計に恥ずかしいので、上条から話しかけた。

「あ、あああのさ! そ、そ、粗品! 貰ったんだろ!? な、なな、中身って何だったんだ!?」
「ふぁえっ!? あ、う、うん! えっと、な、中身ね!! ふ、普通にタオルとか石鹸とかだけど!?」
「あ、あーそうなんだ!! 良かったなー貰えて!!」
「そ、そうね!! いやー助かったわー!」
「……………」
「……………」

会話が続かない。お互いに顔も見れず、何かもうギクシャクしている。

(お、おかしい! 今までは普通に美琴と話せてたのに、何か急にできなくなってる!!
 どうしたの俺! 上条さんは、やればできる子じゃなかったのか!?)

と、色々考えを巡らせていると、上条はふとある事に気付く。

(……あれ? 粗品の中身ってゲコ太じゃなかったのか…? いや、ゲコ太じゃないにしても、
 美琴が普通のタオルとか石鹸を欲しがるか? じゃあ、粗品が目当てじゃないって事だよな……
 そうなると…欲しかったのは…写真そのもの? けど何で?
 ………いや…もしかして写真だけじゃなく……今日のは全部―――)
「お待たせしました。写真できましたよ」
「あっ! は、はい! 今行きます!!」

上条が何か考えている時に、タイミングよく声がかかる。
おかげで上条は、

(……何か今、とんでもない事を閃いた気がしたんだけど……何だったっけ…?)

何か『大切な事』を忘れてしまったようだ。コレも彼の不幸の為せる業なのかも知れない。



「こちらがお写真になります」

受付のお姉さんに渡されたのは、先程の写真を拡大し、綺麗に額に入れられた物だった。
ぎこちない笑顔と、右端に書かれた「新郎・激おこプンプン丸  新婦・ミカサ・アッカーマン」の文字に
若干の後悔は残るが、それでも美琴はその写真を抱き締め、「…嬉しい……」と漏らす。
上条はドクン!と何かがこみ上げてきたが、それが何なのかは分からない。
「何か言わなきゃ」とは思うのだが、その言葉が出てこない。非常にモヤモヤする。
なのでとりあえず無難な言葉で締めくくる。

「み、みこ…と!! そ、その…誕生日、おめでとうな!
 あ、ほら! よく考えたら、まだ言ってなかったから!!」
「うん…ありがとう……今までで…一番の誕生日になっちゃった……」

本当に嬉しそうな美琴の笑顔を見て、上条も「ま、とりあえずこれでいっか」と笑う。
その写真がいつの日か、現実になる事も知らずに―――



という訳で、ここから先はいつものオチの時間である。
美琴の誕生日から約2ヶ月後、6月の写真コンクールの大賞が発表された。
タイトルに『純ブライド』と書かれたその写真には、
ぎこちなく笑うツンツン頭の少年と、短髪の少女が写っていた。
そして不幸な事に、大賞作品はネットにも公開され【さらされ】たのだった。
だが不幸はこれで終わらない。
ネットに公開されるという事は、世界中の人が簡単に見られるという事だ。
つまり、この記事を『偶然』にも見られてしまったのだ。
例えば、とある高校の生徒や教師が。例えば、常盤台中学の生徒や寮監が。上条家や御坂家が。
柵川中学の生徒が。風紀委員が。警備員が。レベル5が。原石が。アイテムが。はまづら団が。
妹達が。黒鴉部隊が。元・グループが。元・新入生が。人工天使が。必要悪の教会が。イギリス清教が。
天草式十字凄教が。アニェーゼ部隊が。王室派が。騎士派が。殲滅白書が。アメリカ大統領が。
新たなる光が。明け色の陽射しが。翼ある者の帰還が。天上より来たる神々の門が。
オッレルス勢力が。元・神の右席が。元・グレムリンが。etc.etc……
それはもう、科学サイド魔術サイド関係なく、あらゆる組織の人間が『偶然』見てしまったのだ。

上条と美琴の携帯電話が鳴り響く。
彼らの戦いはこれからだ。







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