オリジナルじゃないけどママでもない!
「だからお願いだって―」
「だーめーでーすー!」
「お願い―!」
「これ以上居候は増やせません!」
『大事な話がある』と、アイツに呼び出されて美琴は初めて上条の部屋に来た。
『まさか告白!?』なんて乙女らしい妄想をしていたが、現実はかけ離れていた。
「とりあえず離れてくれませんかね!?」
現在この馬鹿にひっついて子供の様に駄々をこねている、自分と似たような(というかほとんど同じ)顔立ちに、アイツの様な黒髪に垂れ目の少女は誰なんだろうか。
「アンタがここにいるのはいい。この馬鹿にひっついているのも今は勘弁してあげる。でもアンタは一体どこの誰よ?」
アイツにひっつくのをやめ、少女はうーん、と考えてから言った。
「元実験体。現浮浪者。これだけ言えばいいかな、オリジナル」
オリジナルと、この少女は何の迷いもなく言った。
だが妹達との相違点が多すぎて、自分のクローンだと言われても実感がわかない。
少女は淡々と話しを続ける。
「最初はオリジナル憎さに研究所ぶっ壊して脱走したんだけどさ、どうやら良い人みたいだし、復讐とかどうでもよくなってさ。でも帰るとこもないし、こうやって泊めてくれるように頼んでるわけ」
もしかして、いやもしかしなくてもとんでもなく不穏な事をこの少女は言っている。
しかし、少女がやけに明るいせいか、いまいち『ヤバい事』という感覚が持てない。それはこの馬鹿も同じだろうか。
「ねー、オリジナルからも説得してよ!」
「っは!ダメ!絶対ダメ!!」
「えー、何でさ。まさか嫉妬?」
「なっ!な、なな、何言ってるのよ!!そんなわけないじゃない!」
だがどこからどう見ても(上条以外は)嫉妬と(上条に引っ付けていいいなーという)妬みにしか見えないのだ。
このままではなし崩し的にこの馬鹿とこの少女が同居してしまう!と美琴は抵抗作戦を展開する。
「じゃあ私が部屋を借りてあげるからアンタ、そこ住みなさい」
「えー、私料理とかしたことないし。だから料理の勉強も兼ねてってことで」
「しばらくは私が世話をしてあげるから!アンタもそれでいいでしょ!?」
「え、あ、はい!」
2人の言い争いはこの状況に追いつけていない上条の返事で幕を閉じた。
むぅ、と頬を膨らます少女を見て美琴はため息を付いた。
「まさか、また私のクローンが作られるとはね。一体何を目的にしてたんだか。後で調べとくか」
「クローンというか、私は御坂美琴と上条当麻のDNAを融合させて作られた存在だから、2人の子供とでも言うべきなのかな」
「なっ!?」
「お、俺と美琴の子供!?」
「元々、一度は絶対能力者に近づいた超電磁砲と、未だに究明不可能な幻想殺しを配合させてどんな能力者が生まれるかって実験だったんだけど、生憎と私は大能力者。それでも諦めきれないらしく、ずっと実験三昧だったのよ」
子供……アイツとの子供。えへへへへへ。と意識がどっかに行っている美琴とは逆に、上条はとりあえず落ち着いて話しを聞き、疑問が生まれた。
「でも、俺はDNAマップなんて提供した覚えはないし、研究所なんて近づいてもないぞ」
「我が学園都市の科学力は世界一ィィィ!教室から上条当麻の髪の毛を回収するなど造作もないわァァァ!!ってね」
「…………」
学園都市だから。と言われたら納得するしかないという悲しい現実だ。
研究所はこの少女が破壊したらしいからひとまずは安心していいだろう。
この少女も成長を促進させているはずなので妹達が世話になっているカエル顔の医者に見てらもうべきだと上条は考えた。
「ま、まあ、しょうがないから今日は泊ってもいいよ。でも明日は病院に行ってから部屋探しだからな」
「ありがとう。でも病院?」
「学園都市にいる妹達の世話をしている医者がいるんだよ。俺もちょくちょく世話になってる」
「ふーん。てことはオリジナルも付いてくるの?」
「当たり前だろ。嫌なのか?」
「別にそんなことないわよ」
まー、それよりも。と少女は美琴の方を見て、
「あれは大丈夫なのかねー」
未だに美琴の意識遥か遠くにある様だ。
「おーい、どうした御坂?」
「な、名前は麻琴とかどうかしら!?」
何をとちくるったこと事を言っているのだろうかこの娘は。
まさか自分と美琴のDNAを融合させた子供の様な存在という話に影響を受けたのか。
(しかし、麻琴か)
当麻の麻と美琴の事を合わせた名前。
やはり本当に美琴との間に子供が出来ればあの少女のようになるのだろうか。
その時には自分達の特徴を併せ持った子供には、その名前も似合うかもしれない。
(……っは!何を考えてんだ俺はー!!)
美琴につられて自分まで変な事をかんがえてしまった。
今自分はどんな顔をしているのだろうか。頬が熱い。
「……何やってんのアンタら。でも麻琴かー。もらっとこうかな」
「ダメ!それは私達の子の名前よ!!…………アレ?え、アンタ……まさか、聞いた?」
次第に美琴の顔が青ざめていく。
上条は何も言わずにコクリと、首を縦に振った。
青くなったかと思えば、今度は真っ赤に染まっていく。
そしてバチバチと前髪から火花を発する。
「……ふ」
「おい、まさか」
「ふにゃー」
バチバチバチ―!!
美琴を中心に電撃が放たれた。
上条が右手で防いだお陰で少女と電化製品は難を逃れたが、美琴が上条の方に倒れこんだ。
慌てて抱える上条だが、支えきれずに床に背中をぶつけた。
「ってー。おい、大丈夫か御さ――」
美琴の意識はないが、近い。顔が近い。
少し頭を動かせばすぐに触れられるほどに。動こうにも動けない。
(というか、前髪から良い香りが)
そんな事を考えていると、美琴の向こう側。DNA的には自分達の子供の少女の顔が見えた。
その顔はまるで悪戯を企む子供の様であった。
「えい」
ポン、と美琴を押した。それだけだ。
それだけで美琴の唇は、上条の唇に押しつけられた。
「え――あ、――――はい!?」
理解できない。理解したくない。
柑橘系の甘い香りがした。
潤った美琴の唇が直に触れた。
さまざまな考えが上条の中で生まれ、脳内を埋め尽くしている。
「ふ……」
そして、
「ふにゃー!」
ショートした。