とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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グループ史上最悪の任務




これは、学園都市統括理事会直属の暗部組織・『グループ』が活動していた頃の記録である。



第七学区にある、雑居ビルの密集地域。通称「蜂の巣」。
ここら一帯は基本的に商業施設として貸し出されてはいるが、その審査はゆるく設定されており、
そのおかげで大抵の利用者は、『よからぬ目的』を持った者が多い。
そしてその中には、

「あー…全員集まったかにゃー?」
「そのようですね」
「てか、見りゃ分かるでしょ。4人しかいないんだから」
「……くだらねェ事言ってねェで、とっとと始めろ」

学園都市の闇・暗部組織もいたりするのだ。
土御門元春、海原光貴(本名・エツァリ)、結標淡希、一方通行…
彼等グループは、決して仲間ではない。
それぞれが学園都市に人質を取られ、それぞれの理由で任務をこなしているに過ぎないのだ。
その任務も当然真っ当な物など一つもなく、敵の血を見ずに帰れる日など在りはしない。

「…じゃあ点呼も済んだし、早速任務内容を発表しようと思うんだけど…
 んー…あー、その。心の準備はいいかにゃー…?」

どうやら今回も厄介な仕事らしく、リーダー格(正式なリーダーではないが)の土御門も、
本日の任務内容を言いあぐねる。

「とっとと始めろっつってンだろ。クソみてェな仕事は、今に始まった事じゃねェ」
「同感ですね。そもそも我々は、どんな任務であろうと学園都市には逆らえませんし」

一方通行と海原に言われ、土御門も「……分かった」と重い口を開く。

「まず、今回のターゲットはこの二人だ」

そう言いながら、土御門は二枚の写真を取り出す。
ターゲット…やはり今回も、血なまぐさい任務となりそうだ。
…と、そう思っていたのだ。土御門以外の三人は。
しかし、その二枚の写真を見た瞬間、

「……あっ?」

結標は目を丸くさせ、

「…っ!!!」

海原はいつもの笑顔のまま表情を固まらせ、

「なンの冗談ですかこりゃァよォォォォォ!!!」

一方通行は額に血管を浮き出させながら声を荒げた。
写真の顔は、程度の差こそあれど、ここにいる全員と『関係』…延いては『因縁』さえある人物達、
「上条当麻」と「御坂美琴」であった。
だがこれで終わりではない。土御門はこのターゲットに対する、衝撃的な任務内容を3人に告げたのだ。

「……今度この二人がデートするから、オレ達はそれをこっそりサポートして、
 もし邪魔が入ったら迅速かつ秘密裏に排除する…ってのが、今回の内容だぜい。
 何か質問がある奴は?」

質問の代わりに、3人からの絶妙に微妙な表情と、何とも居た堪れない沈黙が返って来たのだった。


9月30日。上条は美琴に、大覇星祭で負けた時の罰ゲームをさせられたらしい。
傍から見ればそれはただのデートだった訳だが、
素直になれない美琴はそれを「罰ゲーム」と称し、鈍感な上条はそのままの意味で受け取った。
しかしその後はなんやかんやと邪魔が入った挙句、
前方のヴェントが0930事件が起こした事で、完全に不完全燃焼となっていた。
その結果、本日、罰ゲームのやり直しが決行されるらしい。
グループはその罰ゲームを、今度こそ成功させる為に、裏から二人をサポートする、
というのが今回の任務内容なのだが……

「じゃあそういう訳で、何も問題はないかにゃー…?」
「…あの、でも私これはちょっと……いや、別にいいけどさ……」
「ざっけンなボケェ! 俺は降りる! やってられっかよクソがっ!」
「……………」

4人からやる気と覇気が感じられない。
普段から、別にやる気満々で任務をこなしている訳ではないが、かなり意味合いが違う。
特に一方通行は不機嫌オーラを全身から惜しげもなく溢れ出させながらその場から立ち上がり、
海原に至っては未だに固まったままだ。

「いいのか? お前にも守りたい人がいるんだろう一方通行。
 どんなくだらねぇ任務でも、オレ達はやらざるを得ない筈だぜい」
「……チッ!」

そう。人質がいる以上、仕事を放棄する事はできないのだ。
一方通行は土御門に諭され、ドカッと腰を下ろす。
土御門はコホンと咳払いし、細かい作戦を伝える。

「あー、カミy…上条当麻と御坂美琴が接触する予定時刻は…
 まぁ上条の体質から多少遅れる事は有り得るが、14:00前後だ。
 場所は第七学区、ファッションショップ・セブンスミスト前。二人はここで買い物をする予定。
 ターゲットに直接干渉するのは極力避けるが、やむを得ない場合に限りオレが接触する。
 お前等3人はターゲットと顔を合わせる訳にはいかないだろうから、後方支援に専念してくれ」

「にゃー」だの「ぜい」だのを語尾につける、『土御門弁』を使わなくなった土御門。
どうやらお仕事モードに突入したようだ。
やる気がないのは土御門を含め、全員同じだが、何度も言うように任務は降りられない。

こうして、何のためだか分からない任務を決行する事となったグループであった。
胃に穴が開きそうである。海原とか特に。


12:42
グループの面々はセブンスミストの向かい側の喫茶店の中から、店の入り口の様子を伺っていた。
待っている間、仲良く雑談する…という間柄でもないので、
結標はアイスティーを口に含みながら、溜息混じりに不満を漏らす。
ちなみに相変わらず一方通行はイライラ絶好調で、
海原は笑顔のまま額にびっしょり脂汗を掻いている。その手に胃薬の袋を握り締めたままで。

「…流石に早すぎなんじゃない? まだ予定時刻まで、一時間以上もあるわよ」
「あくまでも予定は未定だ。カミや…上条にそれとなく探りを入れてみたんだが、
 どうやら早めに家を出るらしい。件の罰ゲームの時に遅刻しているから、気にしたのかもな」

お仕事モードの時でも、ついつい「カミやん」と言ってしまいそうになる土御門である。
その時だ。

「はぁ! はぁ! …ちょ、ちょっと早く来すぎちゃったかしら…?」

ターゲットB・御坂美琴が到着した。
例の罰ゲームの時は待ち合わせ30分に来ていたが、今回はその記録を大きく更新したようだ。
楽しみにしすぎである。
4人はサッと顔を下げ、あちらに気づかれないように喫茶店を出る。にしても…

「いくら何でも早すぎるでしょ…超電磁砲……」
「オレもカミやんの方が早く来ると思ってたから、ビックリだぜい……」

あまりの出来事に、口調が素に戻る土御門。

「早く来てくれりゃァ、仕事が終わンのもそれだけ早くなンだろ」

やっと落ち着いてきた一方通行は、色々考えるのを止め、
あくまでも今回の一件をビジネスとして片付ける。そうじゃなければ頭がおかしくなりそうだからだ。
一方で、全くそう考えられないのが、

「……御坂さん、とても楽しそうですね。窓ガラスを鏡代わりに、前髪を整えたりして……
 は、ははは……は………ううぅ…胃が痛い…」

海原である。

「……貴方、あの超電磁砲の事が好きなんでしょ? どんな気持ちで今ここにいるのよ」
「それを自分に聞きますか…? と言うか、見て分かりませんか…?」
「…うん。何かごめんなさい」

結標の心無い質問に、笑顔のままジロリと睨み返す海原。
結標も流石に酷かったかなと、アッサリ引っ込む。

海原の言ったように、美琴は今現在、ただひたすらに楽しそうだ。
きっと本人は真っ赤になって否定するであろうが、完全に付き合い始めの彼女が、
彼氏をまだかまだかと待っている構図にしか見えない。

「あそこまで露骨に幸せそうだと、こっちは腹立ってくるわね」
「とりあえずカミやんの顔面を思いっきりぶん殴りたいぜい」
「どォでもいい事をくっちゃべってねェで集中しろ」
「……胃が痛い」


4人は「自分は今、何をやっているのだろう」という思いを、頭の中で必死にかき消す。
考えたら負けである。
そうこうしているウチに、美琴がやって来た方角とは反対側の道から、
ターゲットA・上条当麻が走ってやってきた。

「ったく、何か不幸イベントが起こる事を計算して早く来れば、
 そういう時に限って何も起きないって、それも不幸なんですかね…?」

よく分からない事を言いつつ店の前に立つ。ターゲットの二名が接触した。

「あれ? 美琴も随分早いな。待ち合わせは2時だったよな?」
「あ、え、えと…た、たまたまこれの前に他の用があったんだけど、
 それが意外と早く済んじゃったから……べ、べべべ別にアレよ!?
 アンタとの…ば…罰ゲームが楽しみすぎて、早く着ちゃったとか、そんなんじゃ全然ないからねっ!?」

どの口が言うのか、と4人はツッコミそうになる。

「つーか、罰ゲームのやり直しとかアリなのか? 確かに何かこの前、最後はグズグズってなったけど、
 美琴は欲しいモン手に入れたんだろ? あの…カエルのストラップ」
「ゲコ太はカエルなんかじゃないわよっ! ゲコ太はゲコ太っていう生き物なのっ!」
「はいはい。そのゲコ太おじさんのストラップは美琴のケータイにぶら下がってる訳なんだから、
 これ以上、上条さんに何をしろと?」
「へっ!? あ、い、いやその…特に何かしてもらうつもりは…なかったんだけど……」
「……もしもし美琴さんや?
 それじゃあワタクシめは、一体何故に今日、ここへお呼ばれされたのでございましょうか…?」
「だ、だだだって! このままあやふやなままにするのは癪だったし!
 ええいもう、アンタは負けた側なんだから、文句言わずについてくればそれでいいのよ!
 買い物に付き合うくらいでグダグダ言…ああああ、ちちち違うわよっ!!?
 つつ、つ、付き合うって言ってもそういう意味とかじゃないからねっ!?」
「…何、急に一人でテンパってんの? この子」

必死にかき消した筈だったが、今度こそ4人の頭に過ぎってしまった。
オレは、俺は、私は、自分は…『今、何をやっているのだろう』、と。
若いカップル(としか見えない二人)の軽い痴話喧嘩を、
今日一日、延々と見続けなければならないのだ。
それは数々の地獄を潜り抜けてきたグループを以ってしても、今まで味わった事の無い、
異質な地獄であった。海原の胃も限界に近い。

店に入る二人をこっそり尾行しながら、
一方通行はグループ全員の意見を代表して、一言ポツリと呟いた。

「………帰りてェ…」

他の3人も、心の底から同意した。


罰ゲームのやり直し。それは簡単に言えば、所謂ただのお買い物デートであった。
美琴が気に入った服を試着し、上条が感想を述べる。それだけである。
あくまでも美琴の建前上としては、「男性側の意見も聞きたいから上条を呼んだ」との事だが、
誰がどこからどう見ても、それだけの理由ではない。
そもそも常盤台中学は校則として、外出時も制服着用が義務付けられている。
服を買った所で無駄になる…とまでは言わないが、それを着られる機会は少ないだろう。
つまり美琴は、単純に「新しい服が欲しい」のではなく、
「上条が気に入る服はどんな物なのか」を調査しているのが、もう見え見えなのだ。

上条の感想に一喜一憂し、笑ったり怒ったり赤くなったり、
最終的に「でも結局、美琴って何着ても可愛いし、俺の意見とかいらなくないか?」
というトドメの一言に顔を爆発させる美琴は見ていてとても面白いが、
それを無理やり見続けさせられる4人はたまったものではない。

「……ねぇこれ、本当に私たちって必要なの…? もうすっかりいい雰囲気じゃない…」
「…気持ちは分かるが我慢だぜい。
 逆に考えれば見てるだけでいいんだから、簡単なお仕事って事ですたい…」

無言になる一方通行と海原の代わりに、ボソボソと話す結標と土御門。
ターゲットをサポートしつつ、邪魔が入ったら排除する、という任務内容ではあるが、
何事も無く、且つ二人が自然といい雰囲気になってくれるのなら、
こちらとしては、ひたすらストーキング行為をするしかない。
だが「そろそろお腹すいたにゃー」と土御門が現実逃避をしようかと思ったその時、
ついにアクシデントが発生する。

「滝壺さんは実は超胸がおっきいんですから、いつもジャージなのは超勿体無いですよ」
「でもこれ楽だから。それに私、きぬはたみたいに可愛い服とか似合わないし」

「アイテム」。良からぬ来客だ。
暗部抗争時にはグループと直接かち合っていないが、
彼女たちもまた、学園都市の暗部組織である事には変わりない。
しかも資料によれば、アイテムと御坂美琴は、過去に一度交戦しているらしい。
かと言って何があるとは思えないが、不安材料は無いに越した事は無い。
土御門の「消せ」という冷たい一言を合図に、結標は手にした軍用懐中電灯を彼女たちに向ける。
瞬間、滝壺は何かに気づきこちらを振り向こうとしたようだったが、時すでに遅しだ。
今頃はここからさほど遠くない場所へ、座標を移動させられている事だろう。

邪魔は消えた。だがこれがきっかけで、アクシデントの連鎖が生まれてしまったようだ。

「……あれ? 今誰か、入り口から声が聞こえたんだけど……」
「そう? 気のせいじゃないの? …実際誰もいないし」

上条が先程の滝壺と絹旗の会話を聞いたらしく、入り口の方へと目を向ける。
だが当然、そこには誰もいない。
妙に思った上条は入り口付近へと歩いてこようとする。しかし、そこで発動するのが彼の『不幸体質』だ。
ガッ!という音と共に、彼は隣にあったマネキンに左手を引っ掛けてしまった。
グラリと倒れそうになるマネキン。それは美琴に直撃するコースだった。

「「っ!」」

冷静に考えれば、マネキンが倒れた所で怪我などしなかっただろう。
しかし上条と海原は同時に動いてしまっていた。
上条は美琴からマネキンを守るように彼女を抱き寄せ、海原はマネキンに黒曜石のナイフを向ける。
トラウィスカルパンテクウトリの槍でマネキンを分解しようとしたのだ。
だがその金星の光はマネキンに届く事はなかった。
とっさに上条が美琴を抱き寄せたおかげでその狙いは狂い、
結果的に上条と美琴の制服に当たってしまったからだ。つまり…


「……へ?」
「……き………きゃあああああああああっ!!!!!」

上条と美琴の制服は見事にバラバラとなり、「またつまらぬ物を斬ってしまった」と言わんばかりに、
二人は下着姿となる。
土御門、結標、一方通行の3人は、海原に白い目を向けた。

「いい、いや違いますよ!? と言うより皆さんも見ていたでしょう! ふ、不可抗力です!」

と言い訳をする海原だが、チラチラと下着姿の美琴を見たりしているので説得力は皆無である。
けれども今は、そこを追及している場合ではない。
何しろターゲットの二人が店の中でストリップショーを始めてしまったのだ。
美琴など、急に抱き締められたと思ったら次の瞬間には何故か服が破け、
しかもそれを上条にモロに見られてしまい、ついでに上条の下着姿もモロに見てしまい、
もはや自分がどの段階の赤面をしているのかも分からず、パニック状態である。

ここから、グループによる怒涛の手際のよさを見る事となる。
美琴の悲鳴を聞きつけて集まり始めた野次馬を、片っ端から座標移動させる結標。
この隙に一方通行はチョーカーのスイッチを押し、足元を叩く。
力のベクトルを操作し、上条たちは自然界では絶対にありえない方向からの重力(?)で引っ張られ、
二人は無人の試着室へと入っていく。勿論、下着姿のままで。

「うおっ!?」
「きゃっ!」

ドシン!と試着室内に叩きつけられたのと同時に、土御門が『偶然』その前を通りかかり、
試着室の外から上条に話しかける。

「カミやん! とりあえず二人分の着替えだ! 店の物だが、そのままって訳にはいかないだろ!」
「その声は土御門か!? 何がどうなってんだ!? 俺たちは急に何者かから攻撃を受けて…」
「説明してる暇はない! とりあえずそれ着ろ!」

土御門が上条サイドを対応しているその時間、厄介な人物が店にやって来ていた。

「風紀委員ですの!
 絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえたとの通報がありましたのはここですのね!?」

白井黒子だ。
結標は一度彼女と交戦しているのでその能力は理解しているのだが、
彼女もまた結標と同じく空間移動能力者なのである。
しかし空間移動系能力者同士ではAIM拡散力場が干渉しあうため、移転させることはできない。
その事を海原に伝えると、海原は「では自分に任せてください」と一言結標に告げる。
海原の今の姿は海原光貴の物であり、その当人は常盤台中学理事長の孫である。
海原はその肩書きを活かし、白井を上条たちから遠ざける。

「こ、これはこれは白井さんではないですか。お仕事ですか?」
「あら? 貴方は海原理事長の…こんな所で何を?」

海原が白井の気を引いているその間、上条は土御門から唐突に差し出された服に着替えていた。
店の商品だが、確かにパンツ一丁でいる訳にもいかないので、悪いとは思いつつも袖を通す。

「ほら、美琴も着ろって! そんなカッコで外には出れないだろ!?」
「わわわ分かったから! 分かったからあっち向いててよ馬鹿ぁ~~~っ!!!」

だが同じ試着室内には美琴もいる訳で、美琴も色々な感情で真っ赤になりながら着替える。
もはや半分涙目である。

結局二度目の罰ゲームも、よく分からない事件に巻き込まれ、
グズグズのままに終わってしまったのだった。



ここは第七学区にある「窓のないビル」。
その中央にある生命維持槽のビーカーの中で、
緑の手術衣のまま逆さまになって浮かんでいる『人間』を、土御門は睨みつけた。

「…今回の一件、一体どういうつもりだったのか聞かせてもらうぞ。
 お前のプランとやらがどんなものなのかは知らないが、『アレ』に何の意味があったのかぐらい、
 聞く権利はある筈だ」

すると薄く笑ったその『人間』は、土御門の問いに一言こう答えた。

「暇つぶしだ」

その瞬間、土御門は学園都市統括理事会をぶっ潰す事を、改めて固く決意したのだった。









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