とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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上条当麻帰還祝。鍋パーティー




上条はインデックスとオティヌスを連れて、第七学区にある鍋の店に来ていた。
いつかクラスメイト全員とすき焼きを食べた、あの店である。

「しっかし土御門の奴、急に呼び出したりしてどうしたんだ?」

そう。上条は今日…というか正についさっき、夕飯の用意をしていたその時に、
いきなり土御門から電話があり、

『よー、カミやん。悪いけど今から鍋食うから、カミやんもすぐ来てくれ。
 店はこの前行ったとこな。じゃ、待ってるぜい』

と一方的に言うだけ言って、こちらが断る間もなく通話を切ったのだ。
この作りかけの野菜炒めをどうしてくれるのか。
だがまぁ11月も半ばにさしかかり、お鍋が恋しくなる季節なのも事実だ。
行かなきゃ行かないで面倒な事になりそうなので、フライパンの野菜炒めには蓋をして、
同居人二人を連れて家を出た訳だ。

「おっなべ、おっなべ、おっなーべー♪」

久しぶりにお鍋が食べられるので、インデックスはご機嫌である。鼻歌を歌うほどに。

「しかし鍋か…最近冷え込んできたから、丁度いいな」

ふいに上条の頭の上であぐらを掻いているオティヌスがそんな事を言ってきた。
「だったらその、露出狂ギリギリな服装を何とかしたらどうか」とツッコもうとした上条だったが、
気分を悪くしたオティヌスに、反撃で髪の毛を毟られても困るので、そのまま黙った。

ガラッと店のドアを開ける上条。
しかしその瞬間、「パン! パンパン! パパパン!」と何かが弾ける音と火薬の臭い。
それがクラッカーだったのだと気づくと同時に、大勢の

『『『おかえりー!!! わちゃわちゃわちゃわちゃ!!!』』』

と上条たちを迎え入れる声。「わちゃわちゃ」したのは、
そこが「上条さん」だったり「カミやん」だったり「大将」だったり、それぞれ呼び方が違ったからだ。
店内には、上条の見知った面々がずらり。だがそのメンバーは、

「上条君。良かった。無事で」

クラスメイトの姫神だったり、

「相変わらず面白い人生送ってんねー! ギャッハ☆」

第三次製造計画で造られた美琴のクローン、番外個体だったり、

「いやぁ焦りましたよ。いきなり貴方への殺害命令が届いたものですから」

未元物質から生み出された、元・カブトムシ05、垣根だったり、

「わたくしとしては、貴方が亡き者になった方が都合が良かったのですけれどもね!」

風紀委員第一七七支部所属の白井だったりと、「知り合い」以外に共通点のないメンツであった。
そしてその中には勿論、

「ほらほら御坂さん! 御坂さんも、何か一言!」
「わわっ! さ、佐天さん!? 押さなくても…
 あっ! え、ええと…その……たっ…ったく! 心配させんじゃないわよ馬鹿っ!」

御坂美琴もいたりする。
クラスメイト、レベル5、元・グループ、アイテム、風紀委員、妹達、その他諸々…
総勢50~60人程のこの大所帯は一体何なのか、呆気に取られている上条に土御門が説明する。

「よっ、カミやん。今回はお疲れ様だったにゃー」
「つ、土御門…? えと…この集まりは何なのでせう…?」
「いやぁ、今回の一件でカミやん、世界中を敵に回しただろ?」

今回の一件、というのは勿論、上条がオティヌスを救う為に戦ったあの事件の事だ。
一方通行、美琴、インデックス…ここにいるメンバーの中には、その際に上条と戦った者もいる。

「でだ、そん時のわだかまりを全部いっぺんになくそうと思って、
 事件の関係者とかに『カミやん主催の鍋パーティーに来ないか』って誘ったら、
 誘われた連中が更に自分の友人とかを誘い始めて、後はまぁネズミ算式に…」
「…で、この人数か……」

少し困ったように語る土御門。しかも勝手に上条が主催した事になっている。
だが上条も、ここで断って帰る程、空気の読めない男ではない。
せっかく開いてくれたパーティーだ。鍋はいただく事にしよう。


「こいつが例の、超オティヌスって奴ですか? 話には聞いていましたが、超ちっちゃいですね」
「可愛い!ってミサカはミサカは抱き締めてみる!」
「ずるい! 大体次は私が触る番だぞ! にゃあにゃあ!」
「んー…本当にコレがそうなのかー? どう見ても危険そうな奴には見えないぞー」
「そうかしらぁ。この露出力には、ある種の危険力があるとも言えるわよぉ?」
「や、やめろキサマら! 私はオモチャではないぞ! へ、変な所を触るなあああ!」

上条と離れた所で、オティヌスは女性陣に囲まれていた。
確かに今のオティヌスは女子受けしそうなビジュアルではあるが。

「はぁ…はぁ……ええなぁ、オティヌスたん………
 お、思わずボクの魔神も復活してまいそうになるわぁ……」

いや、一部の変態男子【あおがみピアス】にも好評なようだ。
急速に、オティヌスの背筋に悪寒が走る。

「~~~~っ!!! た、助けろ人間!!! 何か怖い…何か怖いよおおおお!!!」

少し涙ぐみながら助けを求めてくるので放っておく訳にもいかず、
上条は箸を置いて、オティヌスを摘み上げる。

「あー…まぁアレだ。珍しいのは分かるけど、あんまりイジメないでやってくれ。
 それと青髪。お前はアウトだ」

そしてそのまま、彼女の定位置(?)となっている自分の頭にちょこんと乗せる。
そのあまりにも自然な流れに、一部の女性陣…敢えて名前を挙げるならば、
インデックス、姫神、吹寄、雲川(姉)、食蜂などの、
要するに上条にフラグを立てられた者達が一斉にイラッとする。そしてその中には当然、

「…アンタ、な~んかソイツに甘くない…?」

美琴もいる。美琴はジト目でこちらを見ながら、鍋の中の『しいたけ』を箸でぶっ刺す。
…『しいたけ』に何か怨みでもあるのだろうか。

「そうか? 別にそんな―――」

上条本人に自覚は無いので、美琴の言葉をやんわりと否定しようとする。
しかしそんな上条の返事を遮ったのは、

「ふんっ! この人間は私の唯一の『理解者』だからな! 当然だ!」

さっきまで半泣きだったとは思えない程に不遜な態度を取る、オティヌスだった。
彼女の一言により、先程イラッとした者達が割り箸をへし折り始めた。危険である。
そしてやっぱり、その中には当然、

「へー…? 理解者ね…ほうほう、なるほど……」

美琴もいる。無意識なのか意識的になのか、手に持っていた箸が消し炭になっている。
バチバチと帯電させながら、美琴はギロッ!と上条を睨みつけた。

「どういう意味なのかしら…?」
「え、いや…ど、どういう意味と言われましてもですね……」

美琴に詰め寄られ、しどろもどろになる上条。とりあえず、美琴の目が怖い。
しかしこれは、これから起こる『壮絶な不幸』の前触れにすぎなかったのである。


「大体アンタはね~…女の子に甘すぎんのよ~!」
「はぁ…すんません……」
「もっと私にも優しくしろと、こう言いたい!」
「…善処します……」

あれから小一時間。上条は正座をさせられながら、美琴から説教を受けている。
おかしい。今日のパーティーは、自分の為に開かれた物ではなかっただろうか。
それが何故、お説教【こんなこと】をされなければならないのか。

「ちゃんと聞いてりゅのっ!?」
「は、はい聞いてます!」

しかしそれを言ったら説教が長引くだけなのは分かっているので、上条も素直に返事をする。

「大体アンタはね~…女の子に甘すぎんのよ~! …ヒック」
「…………すんません」

さっき聞いた。だがしかし、どうもおかしい。
オルソラならばともかく、美琴はこんな、おばあちゃんみたいに同じ事を繰り返し言ったりはしない。
それに普段の彼女ならば、一言でズバッと文句を言い、
あとは電撃の一発でもお見舞いして終わりな気がする。
竹を割ったような性格の彼女が、こんなネチネチした言い方をするだろうか。
不思議に思った上条は、美琴の顔をよく観察してみた。すると…

「らぁ~り見てんのよう。私の顔に何かついてるっての~? …うぃ~」

目は据わっており、顔は上気し、頭はフラフラと左右に動いている。
これは間違いなく。

「おおお、美琴【おまえ】! それもう完全に酔ってんじゃねーかっ!!!」

思わず上条は立ち上がった。

「このわらひがあ! 酔ってるわきゃないろ~!」
「酔ってるよ! ろれつ回ってないし、あと今気づいた! すげぇ酒臭ぇ!」

一大事である。美琴は中学二年生な訳で、当たり前だが未成年だ。
そして当然、『お酒は二十歳になってから』である。
何故美琴が酒を飲んでいるのか…
というか、そもそも何故美琴のドリンクにアルコールが入っていたのかは分からないが、
とりあえずこれがもし周りにでもバレたら、ヤバイ事になるのは目に見えている。
白井や初春といった、風紀委員もこの会場にいるのだから。
そう思った瞬間、上条は周りの様子を見回す。
誰もこちらを見ていないか。仮に見られていたら、どう言い訳しようか。そんな事を瞬時に考えながら。
それが更なる混沌を見るハメになるとは、知る由も無く。

周りを見た上条は固まった。良いニュースと悪いニュースが飛び込んできたのである。
まず良いニュースは、幸いな事に美琴が酔っている事に気づいた者は、上条以外にいなかった。
いや、気づくことすらできない、とでも言うべきだろうか。それが悪いニュースである。つまり…

「ぅおらぁ、どうだあ! 私をナメんな童貞ごらボケェッ!」
「ぬぅぅぅ…やるな! まだ俺についてくるとは、根性あるじゃねーか!」

麦野と削板が飲み比べをしていたり、

「ショタが一人…ショタが二人……」
「ショタが二人? 確かに男の娘同士の絡みってのもいいものですよね」

うつらうつらと寝言を言い始める結標に、初春が訳の分からない相槌を打ったり、

「一発ギャグやりまァっす! …千手観音」
「きゃっはははははは! せ、千本もないじゃありませんの!」

何本もの義手を使って宴会芸をする黒夜に、婚后がズレたツッコミを入れたり、

「信じてるよ♪ あの日の♪ 誓いを♪ この瞳にーー光る涙そーれーさえもー強さにーなるけどー♪」
「よっ! はあ! あ、それ! よいしょ! 」

雲川がカラオケを歌えば、風斬は普段なら絶対に使わないボキャブラリーで合いの手を入れる。
その時の上条の心理状態を、どう表したものだろうか。
初めは、何もかもポイして帰ってしまおうかと思った。次に、実際問題どうしようかと。
とりあえず上条は、これがどういう事なのか、実際に主催した土御門に問い詰める。

「土御門さーん!? 何だか皆さん、お酒的な物をお飲みになっておりますけどもーっ!?」
「ああ、ちょっと裏から手を回して、アルコールを調達しといたぜい。
 この方が盛り上がると思ってにゃー」

まともに返してくる土御門。どうやら彼だけはシラフのようだ。
…と思ったら、土御門は上条の方ではなく、反対側にいる一方通行に話しかけている。
その一方通行はと言えば、

「………うっ…………おろれろろろろォォォォォ………」


元々悪い顔色を更に蒼白にさせながら、口からお鍋の具『だった物』を吐き出し、
酸っぱい臭いを充満させている。地獄絵図である。
どうやら不幸な事に、この会場でシラフなのは上条ただ一人らしい。
もう、泣いてもいいかも知れない。
呆然とする上条に、美琴が腕を引っ張って自分に注意を向けさせる。

「ちょっとお! わりゃひの話は終わってにゃりわよ!
 大体アンタはね~…女の子に甘すぎんのよ~!」

振り向かせておいて、また再放送をする美琴。
正直、美琴の相手をしていられる状態ではないのだが、話を終わらせない限り延々と続きそうなので、

「あ~もう、分かったよ! ごめんってもう、美琴は俺にどうしてほしいんだよ!」

とりあえず相手が満足してくれるように要求を聞く。他にやらなきゃいけない事は盛りだくさんだが。
しかし美琴の要求は、

「……キス…しらさいよ!」
「………はい?」

とんでもない物だった。

「きしゅしろって言ってるれしょ! ちゅーよちゅー! ほら、んー…って!」

酔っ払い特有のムチャブリである。
上条はこめかみを押さえ、やんわりと断る。

「えっとね? 美琴、それは無理なんじゃないかな~、と上条さんは思うのですが…」
「なんれよ! 他の子には甘いくせに、なんれわたひには冷たくすんろよ!」

別に冷たくしている訳では無い。
美琴以外であろうと、酔った女の子からのキスのおねだりなど、応じられないのだ。
勿体無い気もするが。
もう一度きちんと断ろうとしたのだが、上条が口を開く前に、美琴が間髪入れずに衝撃告白。

「私は…………私はっ! アンタの事が好きにゃんらぞこのやろーーーっ!!!」
「えええええええええええええ!!!!?」

それは正に、『衝撃』で『告白』だった。
美琴は叫ぶと同時に、照れ隠しなのか何なのか、電撃までぶっ放してきたのだ。
が、衝撃の方は幻想を殺せるから別にいい。問題は告白の方である。

「み、みみみ美琴さん! 急に何言ってんの!? 酔ってるからって、言ってる事無茶苦茶ですよ!?」
「むちょかちゅじゃらいもん! わりゃひはアンタが大、大……大っ好きなのっ!!!」

改めて、告白。
周りから「いいぞー! やれやれー!」だの「ヒューヒュー!」だの野次が飛んでくる。
どいつもこいつも。

「いやあのだからね!? 今美琴は正常な状態じゃないからそんな事を言ってるだけで……」
「………まら信じてらいわね…りゃあいいわよ! ショーコ見せてやりゅわよショーコ!」
「証拠って何…を……? ……っっっっっ!!!!!?」

気がつけば、上条はその唇を奪われていた。
お相手は勿論、目の前の酔っ払い【みこと】である。これが彼女の言う、好きだという『ショーコ』だ。

「……ぶあっ! な、なな、何、何、何をして、してやががりまままますですか!!?」

顔を真っ赤にしてテンパる上条に、美琴は。

「アンタがきしゅしてくれらいから、わらひからしてあげたんじゃらいろー!」
「いやいやいやいや!!! そういう事が聞きたいんじゃなくてね!?」

キスしてあげたのに、何が不満なのかと不機嫌になる美琴だが、
すぐに何か思いついたらしく、「にゅふふ」と妙な含み笑いで上条を見つめる。
これ以上、何が起こるというのか。

「もう~! きちゅらけじゃまんじょくれきにゃいってことね?
 しっかたにゃいら~! アンタってば、ホンロにエッチにゃんらかりゃ~!」

と言いながら、美琴が制服を脱ぎ始めた。
周りから「いいぞー! やれやれー!」だの「ヒューヒュー!」だの野次が飛んでくる。
さっきとは意味が違うが。
流石に脱ぐのはマズイ!と瞬時に判断し、それを止めようとした上条だったが、
美琴がブラウスのボタンに手をかけた時、

「…………すぴー」

唐突に眠った。どうやら最悪の事態は免れたようだ。
ホッと胸を撫で下ろす上条。しかしこれでも、ただ美琴の処理が終えただけなのである。
周りは変わらず地獄絵図。
とりあえず上条は、一番厄介且つ緊急な、一方通行の吐瀉物の掃除から始めるのだった。



不幸を呼び込む自分の体質を、今日ほど呪った日は無かったと、後に上条は語った。


翌日である。

「うー…頭ガンガンする……」

美琴は頭を押さえながら、学校の通学路を歩いていた。
お酒が入っていた(飲んでいた本人達は知らないが)せいで、体調はすこぶる悪い。
それはルームメイトの白井もそうだったようだ。
と、そこへ見慣れたツンツン頭を見つける。

「あっ、ちょろっと~?」

いつも通りに話しかける美琴だが、上条はいつも以上にビクッ!とする。

「ねぇアンタ、昨日の事覚えてる? 私も黒子も、何か記憶が曖昧なのよね」

どうやら昨日、お酒を飲んだ者はもれなく全員(完全記憶能力者のインデックスですら)、
何があったのか覚えてないらしい。
ただ一人、お酒を飲んでいない者を除いては。
その『お酒を飲んでいない者』は、美琴の方をゆっくりと振り返る。

「……覚えてないなら、その方が幸せですよ………はぁぁ…」

何かを諦めたかのように、深い溜息をつく上条。

「って事は、アンタは何があったのか覚えてる訳ね?」
「だ、だから知らない方が幸せだって」

美琴に詰め寄られ、慌てて目線を逸らす。
昨日はあの後大変だったから考える余裕も無かったが、
こうして思い出すと、今度は別の意味で余裕が無くなる。

『アレ』がファーストキスの思い出になるのも、一つの不幸なのだろうか。
そんな事を考えつつ、彼はほんのり顔を赤らめる。
しばらくの間は、美琴と目を合わせるのは無理そうだ。










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