とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある高校の体験入学【ワンデークラスメイト】




月曜日。ここは、とある高校。
第七学区にある低レベル向けの学校であり、
変則的な学校が多々ある学園都市の中で差別化を図りスタンダードを極めようとした結果、
非常に平々凡々で個性のない校風となった。

そんな特徴のない高校の、一年7組の教室で、今現在ちょっとした事件が起きている。
生徒達は、担任である小萌先生の隣に立っている『ある少女』を見てザワザワしているのだ。
その中で上条当麻ただ一人が、口をパクパクさせながら硬直していた。
小萌は教室を静かにさせる為に手を「パンパン!」と叩く。

「ほらほら、皆さんお静かにですよー?
 特に野郎共! 可愛いからって浮き足立ってちゃ駄目なのです!
 お昼までだけとは言え、このクラスのお友達になるんですからねー!?
 …それでは『御坂ちゃん』。簡単でもいいので、ご挨拶を」

『御坂ちゃん』と呼ばれた少女は、少し緊張気味に自己紹介をした。

「と、常盤台中学から来ました。御坂美琴です。
 本日は一日体験入学という形で、先輩方と共に授業を受けさせて頂きます。
 ど、どうぞよろしくお願いします」

言い終わると同時に深々と頭を下げる美琴。
瞬間「どっ!!!」と、せきを切ったように盛り上がる生徒達。
先生としては困った物だが、このクラスは良くも悪くもノリがいいらしい。
あまりのハイテンションっぷりに、美琴も「えっ!? えっ!?」と困惑するばかりだが、
やはり上条一人だけが、何か不幸な事が起きる予感がプンプンで、鬱々とするのだった。



「一日体験学習」…それは進路を決める上で重要なイベントである。
ただし学園都市はその名の通り学生達の街だ。
体験入学も外の世界よりも力を入れており、「体験入学期間」内ならば、何校でも受けられるのだ。
体験入学期間は一週間。中学生が高校への体験入学を受けられるのは、11月の中旬だ。
(園児や小学生、高校生などにも「体験入学期間」はあるが、
 それぞれの時期がカブらないように調整されている)
本来は来年受験をする生徒向けの制度ではあるが、早いうちから進路を見据える者も多く、
美琴のように二年生で受ける生徒も少なくない。
ただし生徒達は、将来自分が行きたい学校を自由に選択できる代わりに、
そのままでは体験学習を口実に、堂々と学校をサボる者も出てくるので、
体験学習を受けた生徒は分厚いレポートにまとめて提出する義務がある。
そういった理由もあり、強制でもないので、体験学習自体を受けない生徒も多かったりする。

しかし、それを差し引いても美琴がここにいるのはオカシイ、と上条は思っていた。
常盤台中学は、「義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する」を教育方針としている。
その授業内容も、中学校でありながら大学レベルの教科書を使っているのだ。
その上この高校は、先ほど述べた通りの低レベル学校だ。
わざわざ美琴が入学して、何かメリットがあるとは思えない。
受けるとしても、長点上機学園や霧ヶ丘女学院のような、
所謂エリート校の方が意味はあるのではないだろうか。
と、そんな事を上条は考えていたのだ。
鈍感から手足が生えたような上条には、『何故』美琴がこの学校を選択したのかは理解できない。
しかし、この教室にいる上条以外の人間(小萌先生含む)は、何とな~くその理由を察していた。
何故なら―――

「それじゃあ御坂ちゃん。お好きな所に机と椅子を置いてください」
「えっ!? す、すす、好きな所にっ!? え、えっと…その……そ、それじゃあ…」

何故なら美琴が、机と椅子を持ったまま上条の方をチラチラと見ているから。
その時、全員が思ったのだ。「ああ、また上条【あのやろう】かっ!」、と。
そして青髪はシャーペンをへし折った。芯ではなく、本体を。

「え~っと…御坂ちゃんはもしかして、上条ちゃんとお知り合いなのです…?」
「ふぁえっ!!? ま、ままままぁ知り合いと呼べなくもない関係ではない事もないですけどもっ!?」

美琴のその態度に『ある確信』をした小萌。
小萌も上条にフラグを立てられている身なので、あまり敵に塩を送りたくはないのだが、
『その為』にわざわざ一日体験学習を受けてくれた美琴の事を思うと、

「……では上条ちゃんのお隣へどうぞ…上条ちゃん、仲良くしてあげてくださいね…? ………はぁ…」

と言うしかないのである。

上条は不幸の臭いが濃くなっているのを感じていた。


ギクシャクとしながら、美琴は上条の机と自分の机をピッタリとくっつける。
「くっつける必要あるのか?」と上条がツッコむ前に、

「きょ、教科書とか無いからっ!!! アアア、アンタのを一緒に見るしかないからっ!!!」

と顔を真っ赤にしながら、何故か言い訳っぽく聞こえる理由を述べられた。
上条は妙な迫力に圧倒されつつも納得し、

「あ、ああ。そう言やそうだな」

と言いながら教科書を広げる。
二人でも読みやすいように、二つの机の中央に教科書を置き、
自分が読みやすいように、自身の体も中央に近づける。
だがそうすると自然と、隣に座る美琴とも近づく訳で、その瞬間美琴が、

「にゃわわわわっ!!!」

と奇声を上げた。
一気に教室中の視線が美琴に集まり、顔を更に真っ赤にして縮こまる。
そして土御門はシャーペンをへし折った。芯ではなく、本体を。

美琴は自分でこの学校を選択し、このクラスに来て、この席に着いたのに、
もうすでにいっぱいいっぱいであった。
中学を卒業すれば、この学校に進学する事はできる(と言うより、進学すると決めているが)だろう。
しかし、そうなると上条は当然、二年先輩となる訳で、同じ教室で授業する事はできない。
…上条が二年留年すれば話は別かも知れないが、それはいくら何でも、あまりにもな仮定である。
つまり上条と同じクラスで授業を受けられるのは今しか無い訳で、それだけでも舞い上がっているのに、
今こうして肩がくっつきそうな距離で一緒の教科書…
しかも普段上条が使っている教科書を読んでいるのだ。
油断すれば「にへにへ」と、だらしない笑顔を垂れ流してしまいそうになる。

そんな事をボーっと考えていたら、いつの間にか上条がルーズリーフに何かを書き込んでいた。
しかしそれは、黒板の文字を書き写している訳ではない。落書きだ。
美琴は、「こんな事してるから成績が悪くなるんじゃないのか」と呆れつつも、
上条のプライベートな一面が見られて嬉しかったりもする。
だがその落書きは、退屈な授業を紛らわす為の手遊びでは無かった。
ルーズリーフには小さく、

「で、結局ウチの高校に何しに来たんだ?」

と書かれている。明らかに美琴に対して向けられた文字だ。
どうやら上条は先程の疑問がまだ気になっているので、美琴と筆談して答えてもらうつもりらしい。
筆談にしたのは、勿論、授業中に喋ったら後々面倒な事になり兼ねないからだ。
小萌先生の機嫌を損ねたら、放課後「すけすけ見る見る」の刑に処されるかも知れないのである。

美琴は、上条とこういう学友らしいやり取りが出来る事に歓喜しつつも、
その質問内容に焦りを見せる。
「アンタと一緒の授業を受けたかったからに決まってるじゃない」などとは言えない。
だって彼女はツンデレなのだから。
むしろ「べ、別にアンタと一緒の授業を受けたかったからとか、そんなんじゃないんだからねっ!?」
なのだから。



で、結局ウチの高校に何しに来たんだ?
     ↑
別に何でだっていいでしょ!?
     ↑
いや、理由も無くこんな所に来ないだろ
     ↑
こんな所って…仮にも自分が通ってる学校に…
     ↑
そりゃいい所もたくさんあるけど、でも少なくとも美琴のレベルに合う学校じゃないのは確かだぞ?
     ↑
レベルとか関係無いわよ! 進学を考えてる高校に体験入学してみるのがそんなに悪い事!?
     ↑
えっ!? マジでウチに進学する気なのか!?
     ↑
何よ! 私が後輩になったら迷惑なの!?
     ↑
いやいやいや! そうじゃなくって、勿体無いっつってんだよ!
     ↑
私が来たいって言ってるんだから、それでいいじゃない!
     ↑
何でそこまでウチにこだわるんだ? この高校の、何をそこまで気に入ったんだよ
     ↑
何をって…だから……それは…その………
     ↑
顔がますます赤くなってますぜ
     ↑
うるさい!!! この学校の自由な校風が気に入ったのよ!!! それで満足!!?
     ↑
ああ、常盤台って規則とか厳し



自由な校風が気に入ったという美琴の『建前』に納得した上条は、
「ああ、常盤台って規則とか厳しいもんな」と書こうとしたのだが、その時、消しゴムを落としてしまった。
消しゴムを拾おうと、反射的に床に手を伸ばす上条と美琴。
だがそのせいで、指と指が重なり合い、おでことおでこがコツンとぶつかる。
古典的【ベタすぎ】な少女マンガ的展開に美琴は、

「ひゃあああああいっ!!!!!」

と再び奇声を上げた。
そして再び教室中の視線が美琴に集まり、美琴は爆発寸前な顔を手で覆った。
そして姫神はシャーペンをへし折った。芯ではなく、本体を。

以降、美琴は授業が終わるまで、恥ずかしさのあまりずっと大人しくしていたという。



授業終了のチャイムが鳴り、美琴の体験入学も終わりを告げる。
この席を離れるのも若干名残惜しいが、こればかりは仕方が無い。
しかも椅子から立ち上がった瞬間に上条が、

「けど、何だかんだで楽しかったな」

とこちらを向いて不意打ちにニカっと笑うもんだから、胸がキュンキュンするやらドキドキするやらで、
余計に離れたくなくなるのであった。
そして吹寄はシャーペンをへし折った。芯ではなく、本体を。

「それでは御坂ちゃん、お疲れ様でした。初めての高校生活はどうでしたか?」
「あ、ああ、えと、たっ、楽しかったです!」

ふいに小萌から話を振られ、慌てて返す美琴。

「それは何よりなのですよ! 御坂ちゃんのこれからの進路に、少しでも役立ったのなら―――」
「あっ! で、でも」

締めの言葉を言いかける小萌を遮るように、美琴は伝える。
それはとても大事な報告なので、どうしても今、言わなければならないのだ。

「で、でも私、あ…明日も来ますから。…って言うか、体験入学期間中の今週いっぱいは毎日……」
「役立ったのなら我々教師としても……って…はい?」

美琴の発言に、クラス中の人間が目を丸くする。
勿論、体験入学期間中に何校も回る生徒も少なくないが、しかし、同じ学校に通う者はいない。
だって意味が無いから。
例えその学校が気に入ったとしても、通った回数だけレポートを書く回数も増える。
しかも同じような内容のレポートは当然再提出になる訳で、毎回書き方を変えなければならない。
そんな事デメリットが多すぎて、普通はしないのだ。
ましてや毎日…つまりは月曜から金曜までの五日間も通うなど、正気の沙汰ではない。
だが逆に言えば、そうまでしてでも毎日通うメリットが美琴にはあるとも言える。

美琴はチラリと上条に視線を向け、目が合うと瞬時に顔からボッと湯気を出し、
そそくさと教室を去って行った。
その様子を見た上条は、

「…よっぽど気に入ったんだな……この学校」

と呟き、クラスメイト全員が、芯ではなく本体の方のシャーペンをへし折り、
そのまま上条の処刑が始まった。
小萌先生ですら擁護してくれないこの事態に、上条は「最初から感じていた不幸な予感が的中した」と、
薄れ逝く意識の中そんな事を思っていたという。










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