とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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とある中学の同窓会場




同窓会。
それは同じ母校の卒業生達が一堂に会し、学生時代の思い出などを肴にお酒を嗜む、
大人数参加型の飲み会である。
最近ではコストの安い居酒屋やレストランで行うのが主流だが、
ここはそんなお安い店ではなく、学園都市第二学区にある高級ホテルだ。
会場入り口で堂々と主張している黒い歓迎看板には、『常盤台中学同窓会御一行様』と書かれている。
やはり腐っても元・お嬢様方、といったところだろうか。

しかし同窓会と言えば、大人になった同級生と再会しラブロマンスが生まれる…
というのがマンガやドラマでも定番のネタだが、常盤台中学は女子高なので、そういった事を―――

「おっっっ姉ぇぇぇ様あああああっ!!! お久しぶりですのおおおおお!!!」
「はーい、ビリビリ~」
「おびゃびゃびゃびゃっ!!! ……あ…愛が痺れますの………がくっ…」

―――そういった事を期待している一部の女性もいたりいなかったり。

会場の入り口で変態的に突撃してきたのは、白井黒子。
そして冷静に電撃を食らわせたのは、その黒子の中学生時代の先輩、『上条』美琴だ。

「アンタねぇ…昔っから全然変わってないじゃないのよ…」
「う、うふふ…! お姉様こそ、そのキレのある電撃【ツッコミ】……
 お変わりないようで安心いたしましたの…」
「ツッコミじゃないっつの」

十数年前【ちゅうがくじだい】のようなやり取りに、ほんのりと昔を懐かしむ白井だったが、
ふと美琴の背後に隠れる女の子が目に入り、一気に気が滅入る。

「あ…あら、麻琴ちゃんもご一緒でしたのね…?」
「ああ、うん。どうしてもついて来るって聞かないから…
 ほら麻琴ちゃん。白井お姉ちゃんよ、ご挨拶して?」
「……こんにちぁー!」
「違うでしょ麻琴ちゃん。今はお空にお星さんが出てるから、『こんばんは』でしょ?」
「……かーばんわー!」
「はい、こんばんは…ですの」

白井は目の前の女の子と同じ目線になるようにしゃがみ込む。
顔立ちは母親のDNAを色濃く受け継いでいるが、その髪の色は父親の物と思われる黒髪だ。
2~3歳であるこの女の子は、名を『上条』麻琴という。
そう。あの上条当麻と上条(旧姓・御坂)美琴の間に出来た、一人娘なのだ。
愛しのお姉様のお子様という事で、実に複雑な心境ではあるが、
そのお姉様は幸せそうだし麻琴が悪い訳でもないし、
何より白井も麻琴の事は可愛いと思っているしで、胸の中のモヤモヤが発散できずにいる。
この場に父親である上条当麻本人がいたのなら、遠慮なく鬱憤を晴らせたのだろうが。


 ◇


「御坂様! 御坂様ですわ!」
「あら、確かご結婚なされて姓もお変わりになったのではなくて?」
「あぁ…以前とお変わりなくお美しいですわ…」
「あの愛らしいお嬢さんは、御坂様のお子さんでしょうか?」
「ご覧になって! こちらに手を振っていますわよ!」

流石と言うべきか、やはりと言うべきか。
美琴と麻琴は会場に入ってすぐ、周りの注目の的となっていた。
少し居心地が悪そうに「あはは…」を乾いた笑いをしていると、

「白井さんに御坂さ―――っとと、今は上条さんでしたわね。わたくしの隣、空いてますわよー!」

と大声をかけてくる人物が一人。
十数年ぶりの再会だが昔の面影を残しており、美琴自身も忘れられない友人である。

「婚后さん! 久しぶり~! やだ、元気!? 今お仕事は何してるの!?」
「見ての通り、お元気ですわ! お仕事は父の会社をお手伝いをしておりますのよ」
「ではやはり、将来的には婚后航空を…?
 貴方が最高経営責任者となったら、航空機に搭乗するのは控えた方が良さそうですわね」
「しっ、失礼ですわよ白井さんっ!!!」


婚后が白井に対して声を荒げるのと同時に、背後から「うふふ」とお上品な笑い声が聞こえてきた。

「相変わらず、仲がよろしいのですね」
「お久しぶりですわ。婚后さん、白井さん。それに上条様」
「湾内さん! 泡浮さん! 久しぶり~! 結婚式以来ね!」
「改めて、ご結婚おめでとうございますわ」
「上条様のウエディング姿…今でも忘れられませんわよ」
「……わたくしも見たかったですわ…」

ちなみに、上条と美琴の挙式には婚后も招待されていたのだが、
仕事の都合でどうしても来られなかったようだ。婚后はその事を、今でも後悔しているらしい。

「ほらほら麻琴ちゃん。婚后お姉さんに湾内お姉さん、それと泡浮お姉さんよ。
 ご挨拶、ちゃんとできるかな?」
「う? うー…は、はじゃめまして! かみじょーまことです!」

緊張気味に背筋を伸ばし慣れないお辞儀をするその姿に、
白井、婚后、湾内、泡浮の4人だけでなく、その周りで様子を見ていた者達も顔を綻ばせる。
婚后は、思わず麻琴を抱き締めた。

「んまあああ! 何っっって利発なお嬢さんなのでしょう! よくできまちたねー、麻琴ちゃん」
「まこと、えらい?」
「えらいえらい、ですわ~!」
「えへへへへへ~…」

美琴の連れてきた麻琴【アイドル】に、もうメロメロになる婚后達。
だがそこへ、水を差してくる人物が一人。

「あらぁ、本当に聡明力の高そうな子ねぇ。もしかして御坂さんと血縁力が無いんじゃなぁい?」

嫌味を言ってきたのは当然。

「あ~ら食蜂さん。残念だけど私はもう御坂じゃなくて、か・み・じょ・う! なんですけど!?
 それとねぇ、麻琴ちゃんは確実に私がお腹を痛めて産んだ子だから、安心していいわよ!」
「そうなのぉ? 御坂さんの離婚力ならぁ、とっくにバツイチになってると思ってたわぁ。
 でもそれなら父親の方が違うのかしらぁ? 御坂さんって、浮気力も高そうだしぃ」
「ご心配なく! 私、旦那以外の男の人に抱かれた事ないからっ!
 しかも麻琴【あのこ】が産まれた後もずっとラブラブだし! 浮気なんてしてる暇ないわよ!」
「それは御坂さんの勝手力で思ってる事でしょぉ?
 上条さんも同じ様に思ってるなんて、どうして言えるのかしらぁ。
 上条さんの言葉を借りるならぁ、『御坂さんの幻想力をぶち殺しちゃうゾ☆』」
「幻想じゃねぇっつの! あと、私はもう『御坂』じゃないって言ってんでしょうがゴルァッ!!!」

十数年経っても、あの時の常盤台の二大巨頭だったこの二人は、相変わらずバチバチだったのだ。
どうやら食蜂は、未だに上条の事を諦めきれていないらしい。
ちなみにバチバチしているのは、美琴の能力ではなく比喩表現である。

まだ料理も運ばれていないウチからすでにヒートアップするレベル5達に、
周りは戦々恐々…する訳でもなく、かつてのお嬢様方は、まだ麻琴に夢中だった。
この二人の言い争いには慣れているのだろう。

「はああぁん…わたくしも子供が欲しくなってしまいましたわぁ…」
「うふふっ。その前に、素敵な殿方と縁を結ぶのが先ですわね」
「ああん! お手てを握られてしまいましたわ~!」
「まあ羨ましい! 次はわたくしにも!」
「そんな! 次はわたくしの番ですわ! 麻琴ちゃんはわたくしに抱っこされたがっていますもの!」

いつの間にか麻琴は、完全にセレブな方々の愛玩動物と化していたのだった。


麻琴への料理も運ばれ、お酒も飲み始め、麻琴への過剰な愛情表現も落ち着き、
同窓会も半ばを迎えていた。
今は仲の良かったグループに分かれて、それぞれ談笑しながら食事をしている。
だが美琴のグループ(主に湾内、泡浮、婚后、白井)の話の中心は、
やはり美琴の結婚生活と麻琴についてだった。

「普段、旦那様とはどのような会話をしておりますの!?」
「やはり、麻琴ちゃんも将来は学園都市の学校にご入学なさるのでしょうか!?」
「ふっ! ふた、二人目のお子さんの予定はおありですの!?」
「お姉様、今日はどのようなお下着をお穿きになっておりますの?」

ただし、白井だけ質問のチョイスが少しオカシイ。
とりあえず白井には、本日二度目となる電撃をぶっ放したが、他の三人にはそうもいかずに、困る美琴。
上条との結婚生活について詳しく話すのは、何と言うか照れくさい。
と言うか実は、話の5割以上はR-15~R-18な内容なのだ。
周囲に男がいない時の女性同士の下ネタというのは、男のバカエロ話よりも遥かにエグいのだが、
それはあくまでも一般的な女性の場合であり、
大人になったと言えども現在も箱入りなお嬢様方には、少々刺激が強いのだ。
下手をすれば未だに、
「赤ちゃんはコウノトリさんが運んできてくれる」と信じている者もいそうな雰囲気である。
なので、どう返していいのか悩んだ美琴は、

「え、え~っと……ま…麻琴ちゃんはどう思う? パパとママの事」

と娘に丸投げした。大人のズルい部分が丸出しである。
しかしズルが祟ったのか、美琴は直後に、麻琴に頼った事を後悔する事となる。

「ママね、パパとちゅっちゅなの。おうちでちゅっちゅ、いっぱいするの」

会場の空気が、止まった。子供というのは、残酷なまでに正直な生き物なのである。
美琴のグループ以外の者達も、その一言に手と口を停止させる。そして数秒の静寂の後、

「「「「「きゃーーーーーっ!!!♡」」」」」

と一斉に黄色い声を上げた。

「ぶふぅーっ!!! ま、ままま麻琴ちゃん!!? ちょろ~っと『しーっ』しよっか!!!」

自分から麻琴に話を振ったくせに、慌てて人差し指を立てて『しー』させようとする美琴である。
対して、麻琴はきょとん顔で母親を見つめる。

「なんで? ママ、ちゅっちゅいっぱいだよ? まこと、うそないよ?」
「う、うん! ウソじゃないんだけどね!? ウソじゃないから今は問題と言いますか…」
「???」

ママの言っている事が理解できずに、頭に疑問符を浮かばせる麻琴。
今の麻琴には難しい問題である。

結局その後、麻琴の一言をきっかけに、美琴は会場全体から質問攻めをされる事と相成った。
そして白井と食蜂の二人は、イライラしながらのヤケ酒タイムに突入したのである。


 ◇


同窓会が始まって2~3時間が経った頃だろうか。
宴もたけなわ…になるのはこれからだという時間に、話題の中心である美琴は帰り支度を整え始める。

「あ、あら? もうお帰りになりますの? まだお話を聞きたいのですが…」
「あ…あー、ごめん。この子がもう、おねむだから」

見ると、麻琴が目をしぱしぱさせていた。
偶然にも、ここから逃げる良い口実を麻琴が作ってくれたようだ。
…もっとも、炎上させる原因を作ったのもまた麻琴だったが。

主役たる美琴がいなくなるという事で、会場全体に残念ムードが広がる。
だがしかし、直後にとんでもないサプライズが待ち構えていた。
しかもそのサプライズは、周りのお嬢様達だけでなく、美琴にとっても同様だったのである。

ふらりと、会場に入ってきた人物が一人。それは遅れてきた同窓会の参加者…ではなかった。
何故ならその者は―――


「いやー、連れがお世話になりました」

―――その者は、ツンツン頭の青年。つまりは男だったからである。
どこかで聞いたような台詞を言いながら美琴に近づいてきたその男は、
寝落ち寸前の麻琴を「よっ!」と抱き上げた。
突然の出来事に、全員がぽかーんと男を見つめたまま硬直している。
しかし男は気にした様子もなく、そのまま淡々と自然に美琴に話しかけた。

「あー…やっぱこの時間じゃ眠くなっちまったかー……
 じゃあ、俺は麻琴連れて帰るな。美琴はまだ会場【ここ】に居たいだろ?」
「え……えええっ!!? な、なな、何でアナタがここに!?」
「いや、麻琴が寝ちゃったら美琴も帰んなきゃだろ?
 でもせっかくの同窓会なのに、それじゃあ美琴が可哀想かなと思いまして」

どうやらこの男、麻琴が眠くなる時間を見計らって迎えに来たようだ。
麻琴の為だけでなく、美琴の為にも。

美琴は、先程まで旦那との結婚生活(R-15~R-18な内容)を根掘り葉掘り聞き出されていた、
という事も手伝い、その男のナチュラルな優しさに顔を真っ赤にしてしまった。
しかし男は、その赤面をお酒に酔ったせいだと勘違いしたらしく溜息を吐く。

「んー? …いや、やっぱ美琴も帰った方が良さそうだな。大分顔赤いし。
 …ったく、久しぶりに友達に会えたからって、ハメ外しすぎんなよな」
「えっ!? ふぁ……はえっ!!?」
「ほら車に乗って。……あ、でもその前に少し酔いを醒ましておくか」
「えっ? えっ? な、何を―――――――っっっ!!!!?」

そう言うと、男は美琴の言葉を遮るように、そのまま彼女の唇を奪っていた。
大勢の人の前で、堂々と。
お嬢様方は、硬直したままその様子を見続けている。まるで、おとぎ話でも見ているかのように。

3秒程の口付けの後、唇を離した男は、ほんの少しだけ気まずそうに一言。

「あ、あーなんだ。ちょっとは酔い醒めたか?」

対して美琴は顔をポーっとさせながら告げる。

「…あっ……ひゃい………♡」

美琴は目の奥をハートマークにさせながら、男の腕につかまる。そして男は会場全体を見つめ、

「あ、じゃあすみません。これからも『妻』をよろしくお願いします」

と簡単な挨拶をしながら頭を下げ、そのまま会場を後にした。
美琴と麻琴と、麻琴を抱っこした男がホテルから出て闇に消えていくのを見送っていたお嬢様達は、
三人がいなくなるのと同時に、一斉に、

「「「「「きゃああああああああっっっ!!!!!♡♡♡」」」」」

と再び黄色い声を上げた。ただし、先程よりも更に大きな声で。
そして白井と食蜂の二人は、血の涙を流しながらの深酒タイムに突入したのである。



ちなみにだが、あの後、家に帰った美琴がメチャックスした事は、まぁ…言うまでもないだろう。










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