夏祭り 前篇 3
相園美央は固まった。
西東先生を夏祭りに誘ったが断られ、
お祭りの中、気が緩んで羽目をはずす人がいるかもしれないと言ったら、
同じ理由で、先生を病み上がりに一端覧祭でひっぱりまわしたことを指摘された。
ぐぬぬ、と唸り、次の策を考えていた時、
ちらっと夏祭りの会場に目を向けると、入口に立つ2人、いや3人組が見えた。
「あいかわらず腹立たしい街だね、ここは」
赤髪の顔が怖い。
「ええ、わざと『祭り』から『祀り』の記号をはずしています。これでは、ただのバカ騒ぎです」
ポニーテールの女性が発するオーラが半端ない。
「どーどー」
太鼓の音に反応する銀髪の赤ちゃんが可愛い。
なんだ、あれ?
彼らは祭りのなにかに腹を立てていたが、赤ちゃんがはしゃぐのに負けたようで、人ごみにまぎれていく。
なんか一気に気分ではなくなった。
「……先生、やっぱり夏祭りはいいです」
「わかってくれてうれしいよ」
「先生のお手伝いをします。余った時間で夕飯作りますよ!!」
「…………はぁ」
祭りの会場から離れていく相園達の他にもう1人、不思議な3人組を見ていた男がいた。
(愕然、なんということだ!!?)
例のアイツだ。
(驚然!! あの天使が赤髪と侍女にさらわれている!!??)
これは大変なことになった!!
イメージの中の赤髪さんと侍女さんは見事に悪役の顔をなさっている。
しかも毎回吹っ飛んで星になるタイプの悪役だ。
……けっこう様になってるな。
(騒然、何か手は……!!)
周りになにか使えるようなものは無いかと探す。
そしてとある店を見つけた彼は、おおきくうなずくのだった。
一方、
「……失敗した」
表情に影が差す美琴。
隣に立つトールは険しい顔をしている。
恋する乙女が目の前で想い人を他の女にさらわれた。
だというのに、その乙女は醤油を買ってこいと想い人に叫んだ。
いろいろと失格である。
「大失敗ね」
「そうだな」
「……トイレットペーパーも切らしてた」
「いやそうじゃな……っていうか、なんでオレもついてきてるの?」
「当然でしょ!!? 今日はなんと40%OFF!!」
今日買いだめしないでいつ買うのよ!!と叫ぶその少女は、
一応常盤台のお嬢様のはずである。
「……ミコっちゃん、上条クンのこと好きなんだよね?」
たっぷり時間をかけた。
1カメ、2カメ、3カメまで使ってぽかーんとした表情を写した美琴は、一瞬で茹で上がる。
「にゃ、にゃにいっとんじゃあんたーーーーーーー!!!!!」
呆れた顔のトールに対し、なんでそうなるんだとか一回も言ったことがないだとか、だからといって思った事があるわけではないだとか、いつものアレをマシンガンのように言うが、彼は、耳をほじくり、一切聞いていない。
しばらくほっといた後、彼はゆっくりとその口を動かした。
「……オティヌスは諦めてないぞ?」
美琴の言葉が止まる。
「元の姿に戻ろうと努力したのは、アイツと一緒になるためだ」
今、上条はオティヌスと笑い合っているのだろうか?
「オレは、どうでもいいけど」
もしかしたら、今日から、あの生活に戻れなくなるかもしれない。
「ミコっちゃんは、どうする?」
そんなこと、わかって、いる……。
「理解できん」
「ダメな物はダメ」
夏祭りの騒ぎの中を歩く上条。
その隣を歩くのはオティヌスだが、服装が違う。
黒のタンクトップにデニムのショートパンツ。
確かにあれだと露出魔として補導されかねない。
「ふむ、致し方ないな」
そう言いながら、周囲を見回す。
『祀り』の記号を排したこのバカ騒ぎは本来気に入らない物だが、今日は違う。
この男が隣に立つ。
自分が彼の上にのっかるのではなく、 だ。
肩を並べられる。
同じ目線でものを見れる。
手を触れられる。
だから……
「まあいい、さて、どこに……?」
いない。
もう迷子か?
それともどっかでまたフラグ立ててやがんのか?
……私をほっといて。
きょろきょろ周囲を見渡すと、
意外なところにいた。
「……なんだ? そのカエルのお面は?」
「カエルじゃねぇ。ゲコ太だよ。一緒にすんな」
「?? どう見てもカエルだろ?」
「だっーーーー!! わかってないな!! いいか、ゲコ太ってのはケロヨンの「もういいわかった、ゲコ太なゲコ太」……お前は、人の話を……ん?」
「どうかしたか?」
「いや、今インデックスの声がしたような気が……?」
「そうか? 私には聞こえなかったが?」
そのはるか後方で、
「燦然、素晴らしい!!」
神裂とステイルは立ち止まった。
目の前にはぐるぐる眼鏡に口髭、シルクハットをかぶった白スーツという変態が立っている。
「誰だ?」
「煢然、私は赤ちゃん専門の写真家だ。茫然、あなた方が抱いているその子の可愛さについ目を奪われてしまったのだ」
どこかで聞いた声だ。
「ゲコ!!」
「必然、千年に1人の逸材!! 厳然、是非その姿を写真におさめさせて欲しい!!」
怪しさ全力解放である。
「あなた、どこかで見ましたね」
その言葉に、ステイルはルーンを準備して
「きっとどこかの雑誌でしょう」
こけた。
「この子に目をつけるとは、さすがです!」
頭を抱える。
「おい、神ざ「おお!! もこもこゲコタ着ぐるみですか!!」「湧然、こちらのもこもこにゃんこ着ぐるみもおすすめだ」「なんです!!?この白雪姫コスチュームは!!あの子に似合わないわけないじゃないですか!!……どうしました? ステイル?」いや、このエンジェルコスチュームもいいと思ってね」
全員ダメダメだった。
「だーだ……あう? まーま!!」
「え? まんま? ご飯ですか?」
(ママと言ったんじゃないのか? 日本語はよくわからないな?)
「まーま!!」
「わかりました、どこかでミルクを買いましょう」
「あう??」
「ん? 今インデックスの声がしたような……?」
「どうした? ミコッチャン?」
「ミコッチャンいうな……って、満喫してるわね」
右手に焼きそば、左手にチョコバナナ、頭の上にたこ焼きを装備してトールは歩く。
「ミコッチャンがいう?」
水風船、ヨーヨー、ストラップ、風船、キーホルダー(ゲコ太、ケロヨン、ピョンコetcのデザイン.)を各10個以上持つ美琴は、顔を横に反らした。
2人は本道でなく、脇道を歩いていた。
目的を忘れたわけではない。
監視カメラをハッキングすると、夏祭りの会場に入っていく2人を見つけた。
というか、その前にオティヌスが着替えている最中に、彼女を事故で押し倒した上条を見つけた。
食べ終わったごみを捨てながら、その時の美琴を思い出しトールは身震いする。
「見つからないわね」
しかし、美琴は思うのだ。
実際、見つけたとしてどうするのだろう?
もし、彼が楽しそうにしていたら?
オティヌスの手を握っていたら?
肩をよせあっていたら?
「…………ゃん、ミコッチャン!!」
「え? なに!?」
「なに?じゃねぇよ。もう打ち切るか?」
「……どうしよう?」
自分はどうしたいのだろうか?
いや、どうなりたいのかはわかってる。
では、どうすればいいのだろうか?
どうしたら、いいのだろうか?
「なぁ、ミコッチャン」
「なに?」
「オレがアンタのことを好きだと言ったら、アンタどうする?」