夏祭り 後篇 3
花火が夜空を彩る。
1発目の音に驚き、美琴にしがみついたインデックスは、2発目で空に花開く光に言葉を無くし、4、5発目からはしゃぎだした。
その後、3人は近くのベンチに座る。
「ぱーぱ!! どー!!」
「うん? ああ、大きな音だな」
「まーま!! どー!!」
「ん? あれはね、花火っていうのよ」
「はーび?」
「そう、花火」
「はーび!! どー!!」
「…………飲み物買ってくるよ、美琴、なにがいい?」
「じゃあ、ヤシの実サイダー」
「了解」
上条の背中を見送る。
そして、思うのだ。
(こんぐらいで舞い上がっちゃうなんて、末期ね)
次々と夜空に大輪の花が咲く。
ひとつひとつの花が咲くたびに、上条との日々が走馬灯のように浮かんだ。
『連れがお世話になりましたー』『あーまたかビリビリ中が『で、何だコイ『だから泣くなよ』けは、きっとお前は誇『またな、御坂』らさ、一体何をやれば恋人っぽ『―――――』
ックスと風斬『探したぞ、ビリビリ』んだ!お前に怪我なんてして『そいつらと少しずつ変えていけばいいんだ。もちろん、俺も協力する』『お? 殺気!?』『しかし、そっかー。御坂にとって俺との出会いは宝物かー』しもし。恋人より重たくなってますよ御坂さん』イザーが欲しい!! お前だけが頼りなんだ! 任せられるか!?』ら最後の笑いが超胡散臭かったからッ!!』んだ。上条当麻っていうのは、記憶のあるなしぐらいで揺らぐものじゃないんだよ』えると、助かる。記憶喪失だなんてさ、変に気『……ダメ?』(まだ、やるべきことがある)り顔をしている俺だって今何が起きてい『必ずこの失敗を取り戻す。それをやるまでは帰れな『はいはい幻想をぶち殺す。ゲンコロゲンコロ』『頼むよ話が進まない』ットでややこ『頼む。あいつら「二人」を助けるためにお前達の力を俺に貸してくれ』『俺が、そうしたいからだ』
……。
(…………骨抜きじゃん)
つい苦笑する。
ちょっと悔しい。
これでは完全白旗武装解除平身低頭の完敗だ。
そんななか、この幸福が偶然転がりこんで来た。
もし他の人が先に彼に出会っていたら、まず間違いなく今の生活はない。
それをオティヌスが来たことで思い知らされた。
インデックスが元に戻るまで、上条の寮が修繕されるまで、常盤台の寮が完成するまでの生活。
できるだけ長くこのままでいたい。
そのためには、この想いを上条に受け入れてもらうしかない。
(…………やっぱり、恐いよ)
この生活が大事だからこそ、
彼が拒絶することを恐れる。
おそらく、失敗したら、今の幸せを失うだけでなく、以前の関係に戻ることさえかなわない。
その頬に、小さな手が添えられる。
「まーま、だーぶ?」
この子にも、不安が伝わってしまったか。
美琴は、そっとインデックスを抱き締める。
「ありがとう、インデックス。ママ、頑張るね」
その彼女の様子を見て高台を去る影が1つ。
雷神トール。
彼の笑みには力がない。
そこに、声がかけられる。
「やぁ、落ち込んでいるな、負け犬」
カッチーン
「なんだよ、見てたのかよ。性格悪いぜ」
上条クンにも嫌われるぞ、と付け加える。
元魔神はまだ姿を現さない。
「ふっ、まさに負け犬の遠吠えだな。今の状況を受け入れてしまっている貴様に、弁明の余地はあるまい?」
「ぐっ…………でも、わざわざ美琴ちゃんを困らせたくはないし」
「なんだ、うじうじと、貴様らしくないな」
トールは苦虫を噛み締めたような表情でうつむく。
ふん、とため息をついた後、オティヌスは言葉を続けた。
「なぜ、悩ませてはいけない?」
肩が震える。
「別にいいじゃないか。こっちも悩んで苦しんでるんだ。向こうにもそれぐらいしてもらわないと、割りに合わん」
そこで一端切り、それに、と彼女は続けた。
「それに、うまくいった後、それでよかったのだと、笑えるほど幸せにしてやればいい」
少し考えて、はっ、とトールは苦笑する。
「…………強いな」
「当然だ私を誰だと思っている」
木の影から出てきたのは、猫にまたがったオティヌスだった。
トールは歩くスピードを下げる。
「で、そっちはまだ気持ちを伝えられていないようだけど?」
「貴様とは違う。勝てる状況を作ってからだな」
「…………じゃあ、あっちは伝えないでいいのか?」
トールは立ち止まる。
「体をもとに戻せば戻すほど、寿命は減ってるんだろ?」
しばらく、魔神も無言だった、が、ゆっくり、誰かに言い聞かせる。
「同情で勝ち取るものではないだろう?」
「……ホントに、強いよ、アンタ」
420円飲まれた。
「…………てめぇ」
睨み付けても、自販機はうんともすんとも言わない。
おかしいと思ったのだ。
不幸な自分に、小銭がちょうどあるなんてことがおこったのだ。
嬉々として小銭をいれたらこの様である。
しかし、野口さんを召喚するのは癪だ。
上条はキョロキョロと周囲を見回すと、
「チェイサー!!」
と回転蹴りをはなった。
ちょうど2本出てくる。
1本ヤシのみサイダー、もう1本がガラナ青汁。
やはり、上条は不幸なようだ。
上条は花火を見ながら戻る。
その道はちょうど、美琴と出会い、警報を鳴らす自販機から逃走した時の道だった。
当時の自分と美琴の姿がぼんやりと浮かぶ。
『愉快に現実逃避してないでジュース持ちなさいってば』
「なんか、ずいぶん昔のように思えるなぁ」
一歩歩むごとに、彼女の虚像が目の前で暴れる。
『あの子達を助けるには、もう私が死ぬしかないんだから!『だ…から、あ、あり』『うるさい! 黙って!ちょっと黙って!お願いだから少し気持『アンタ、こんなトコで女の子に押し倒されて、何やってる訳?』『アンタ……どうして……?』ゃーっ!つっかまえたわよ私の勝利条件! わは『ん…』『だから今度は、みんなを守りたい』『べあっ』『べっ、別に男女って書いてあ『ごめんごめん、止める間もなく始めちゃうわよ』チのは母のアドレスが登『アンタの中にはそれぐらい大きなものがあ『ふにゃー』『あいよー。言っておくけどこれは貸しだかんね』どういうつも『ただし、今度は一人じゃない』『アンタと私は、同じ道を進んでいる。その事を忘れんじゃないわよ』『私これ訳したくない』あああ!!アンタこんな所で何『任せて』『初めて勝てたけど……思ったよりも虚しいわね、これ』
長い長い回想のなか、自然と笑みがこぼれる。
そして、
上条は固まった。
花火の音が遠く感じられる。
赤、青、緑、黄、さまざまな色で周囲が点滅する。
彼女は、赤子を抱き、微笑みかけていた。
それだけの光景だった。
しかし、それでも彼はたったひとつの事実を思い知った。
上条当麻はもう
御坂美琴なしには
生きられない。
おまけ!
(昂然!! やったぞ!!)
シルクハットはどこかに落とした。
(現然、赤髪と侍女からあの子を救い出せた!)
まだぐるぐる眼鏡と髭は装備されている。
アウレオルスは逃げてはいたが、その表情は明るい。
やみくもに逃走していた彼は、ついに袋小路に追い詰められた。
「……覚悟は、できているな?」
「なにか、言い残すことがあるなら聞きましょう」
白い男は肩で息をする。
そして、彼らがあの子を抱いていないことを確認し、獰猛に笑って言いはなった。
「決然!! 本望!!」
どごーん、という音とともに、花火とは別のなにかがうち上がった。
おまけ!!
「インデックス、寝ちゃったね」
「花火ではしゃいでたしなぁ」
インデックスは、美琴の腕の中でスヤスヤと寝息をたてていた。
上条の手には醤油とトイレットペーパーがぶら下がっている。
3人は家路についていた。
そして、上条はパニックになっていた。
(ぬぁぁぁぁああああああ!! 今の会話夫婦っぽいぃぃぃぃいいいいい)
今更いろいろ自覚しだしたのだった。
(死ぬぅ!! 恥ずかしくて死ぬぅ!! っていうか、同じ屋根の下どころか同じベットで寝てるんですけど、これってもしかして大問題!!?)
っていうか、同じご飯食べてるし、同じ洗濯機で服洗ってるし、同じお風呂に入っているのだ。
っていうか、今更である。
「どうしたの?」
いかん、すっかり自分の世界に入っていた。
冷静になれ上条当麻!
「いや、花火キレイだったなぁってさ」
実は、本気を出した上条の演技力はすごい。
クラスメイトや担任、親にさえ記憶喪失を気づかれないくらいだ。
今回も完璧な演技。誰にも見破ることはできない。
たった1人を除いて。
「当麻、なんか変よ?」
「へ? なにが?」
「なにが?と聞かれると困るけど」
そして、
「へ? え!!?」
突然、美琴は上条のデコに手を添える。
「熱はない…………あれ?」
どんどんどんどん体温が高くなってるような?
美琴は上条の顔が首の方から頭にかけて赤くなるのに気付かなかった。
「わふぅ~~~~~~~~~~!!」
の言葉と共に上条の頭が ぼんっ という音とともに爆発した。
「は? ちょっと!? 当麻!!?」