上条さんがいちゃいちゃスレを見つけてしまいました。
上条は目を見開いてある一点を凝視したまま動かない。
上条が見ているのは、画面だった。
テレビ―――ではない。
パソコンの画面だった。
「な……んだよ、コレ」
ようやく搾り出すことのできた声は震えていた。
信じられない。まさか、こんな。こんなことが―――
パソコンの画面にはこう表示されていた。
『上条さんと美琴のいちゃいちゃSS』
上条は震える手を動かしてその場所へマウスを動かす。
緊張か、はたまた恐怖か。なかなかマウスが狙いの場所へ行かない。
長い時間をかけてようやく狙いの場所へとマウスポインタを移動させることに成功した上条は、悩んだ。
(どうする? 中を見るのか? いや、中を見ずにジャッジメントやアンチスキルに連絡するか? ……だが気になるな。中を見て、それから決めてからでも遅くはない、か)
決断した上条はクリックした。
全てを読み終えた上条は呆然としていた。
「な……んだよ、コレ」
奇しくも見つけてしまった時と全く同じ発言だった。
少しして、頭が落ち着いてきたところで、気づく。
「このスレの俺って俺の考え方や行動とほぼ一緒じゃねーか! いつの間にどうやってそんな情報集めやがったんだ!? というか、俺と御坂の人権はー!?」
得体の知れない、姿の見えない敵(?)に上条は恐怖で震える。
ただ、そこでさらに気づく。
「しかもこれ、話によっては白井や御坂妹とかまで出てくるし。一体どうやって御坂妹のことを知ったんだ?」
相手の規模は一体どれぐらいなんだと、上条は震え上がった。
だが、そこでさらにもう一つ気づいた。
「でも、これに出てくる御坂って、決まって俺を好きなんだよな……。そんなことあるわけないのに……?」
そう、自分で言って、自分に疑問を覚えた。
本当にそうなのだろうか?
ここに書かれている話は、上条や御坂、白井、御坂妹の性格を知り尽くしている。
なら、ば。
御坂が上条のことを好きであることが本当でないなどと言い切れるだろうか?
答えは、否。
そこまで考えたが、上条は信じることができない。
(いやいや。そんなことあるはずがない。その部分だけはそういう設定なんだろう)
そう考えて、結論付けようとするが、上条は頭に引っ掛かりを覚えた。
それは、今まで御坂がとってきた行動だった。
もし仮に御坂が上条のことを好きであるならば、今まで御坂がとってきた奇怪な行動も納得することが出来る。
(いやいや、そんなわけ。でも、もしかしたら……?)
もし。
もしかしたら。
上条はもう、判断がつかない。
だから、可能性を完全に切り捨てるなんてできなくなっていた。
それは。
つまり。
御坂美琴は、上条当麻のことが、好き―――?
あれから。
結局ジャッジメントやアンチスキルに連絡することなく、上条はあのスレを見なかったことにした。
今は外に出て気を紛らわしている最中だ。
だけど、世の中(特に上条に対して)そんなに上手くはいかない。
背後から、声をかけられた。
「ちょっとアンタ、アンタよアンタ」
「ん? ああ、御坂か。何か用か?」
「ぁ、ぃ、いや、別に用があるってわけじゃ……」
いつもの上条ならここで、「そっか。用がないなら俺帰るわ」とか、「なら、一緒に帰るか?」的なことを言っていただろう。
が、生憎あんなスレを見てしまった後の上条からすると、なんだか同じようなもんがあった気がするなーと思うわけで。
…かまをかけてみることにした。
「俺に会いに来たの?」
「ッ!!?? そっ…そんなわけないじゃない! だっ、誰がアンタに会うためにわざわざ来るってのよ……」
顔を赤くして思い切り慌てながら美琴は否定する。
最後の方は声が小さくて聞き取りにくかった。
普段の上条ならここで(やっぱり俺嫌われてんのかな?)的なことを思ったりしたかもしれない。
が、やはりあのスレを見た後の上条にはそれはごまかしなんだと容易にわかった。
だから、少しからかうことにした。
「そんなに照れるなって。美琴」
(というか、用がないのに話しかけに来てたら、それはモロ会いにきてると思うんですけど。なんで俺は気づかなかったんだか)
「てっ…照れてなんか……! ……って、ぇ? い、今私のこと名前で……?」
「ん? 美琴、なんて言ったか俺」
「いっ! 今まさに言ってんじゃない!」
「ん~。嫌なら御坂に戻すけど?」
「っ!? ……っか、勝手に呼べばいいじゃない…」
「あいよ~。御坂」
「っなんでそっちに戻るのよ!?」
「ん? 勝手に呼べっていったじゃん」
「そっ、そうなんだけど…!」
(さすがに、ここまで会話したらもう確定だよな~。……そうだったのかー。全く気づかなかったなー俺)
上条は御坂美琴は上条当麻のことが好きであると確信した。
もう少し、からかってみようかな。と考えて。
「ははは。可愛いな、美琴」
「ッ!!!??? かっ…! かゎっ…! …なっ、何いきなり言っちゃってんのよアンタ!!」
「うおあぁあ!?」
美琴は恥ずかしさと照れから上条に電撃を飛ばす。
上条はそれを右手で防いで、思う。
(あー。なんか、こういうのをされるから嫌われてると思い込むんだっけ、俺。なんか、知ってると全然見方が変わるなぁ……。ヤバイ、美琴がすごく可愛く見えてくる)
美琴は一発放った後は顔を赤くして俯いている。
上条は不意に真剣な顔になって、美琴に聞く。
「なあ。なんで俺のことは名前で呼ばないんだ?」
そういえば、こういうのも書いてあったなーなんて思いながら。
「え? ぁ、ぃや。その……。あ、アンタなんて名前で呼ぶ必要もないからよ!」
「ふーん。そっか。名前で呼んでくれたら、これからは無視しないでいられるかも。と思ったのに」
「え!? そ、それなら、な、名前で呼んであげないこともないわよ……」
「お。当麻って呼んでくれるのか?」
「っと!? と、ととと。と!!??」
「おーい、美琴さん? 言葉にできてないですよー?」
美琴はもう赤くなるところがないというくらいに顔を真っ赤にさせている。
美琴にいつもの冷静さがあれば、今日の上条はどこかおかしいと気づけただろうが、気づけない。
それを見て上条はやっぱり可愛いな、などと思いながら、別の質問をする。
「まあ、その話は後でいいや。…なあ、俺のこと、どう思ってるんだ?」
「ぇ? ぁ、アンタのこと……? そ、それは……」
美琴は顔を赤くしたまま俯いてゴニョゴニョと呟きはじめた。
上条はそれを見て見守るように微笑んでいる。
少しして、キッと顔を上げて上条を睨みつけて言った。
「そ、そういうアンタこそ私のことどう思ってんのよ!?」
きっと美琴にとっては唯一のごまかしだったかもしれない。
言った後、美琴は少し後悔するのだが。
上条はいつもの調子で告げた。
「ん? 俺か? 俺は好きだぞ。お前のこと」
「………ぇ? ぃ、ぃ、今、なんて……?」
あまりにも驚いたからか、言った後も口をパクパクと開閉させている。
さすがに、上条はここではからかわない。
真剣な顔で告げる。
「好きだ。美琴」
「ッ!!!???」
改めて言われたのに美琴は驚いて肩が動いた。
言った言葉は本当なんだと、嘘でもなんでもないと理解して。
美琴はもう言っていた。
「わっ、私も……アンタのことが……好き」
「うん。わかってた……ぁ」
「ぇ? ゎ、わかってた?」
思わず口が滑ってしまった上条は慌てて言い訳を言いはじめる。
「い、いいいいやいやいや!! ななななんでもないでございますよ姫!?」
「わかってたって、どういうことかしら………? もしかしてアンタは、知ってたのに人の心を弄んだと? ほーぅ……」
美琴は電撃をバヂバヂバヂバヂバヂィィ!!!!といわせながら上条に迫っていく。
今の美琴なら一方通行(アクセラレータ)が相手でも勝てる気がする。
もしかしたらレベル6にでもなっているのかもしれない。
上条の全身から恐怖による汗が出始める。
僅かに体も震えていたりする。
上条は逃げ出した。しかしまわりこまれてしまった!
「アンタは一度死んでみたほうが良さそうね………」
「すすすすいませんでしたーっ!!!!」
上条は生命の危機を感じ取りなんとか逃げ出した。
しかし美琴は追いかけてきた!
「あっ、コラ逃げんなこの野郎ォォォォォォォォ!!!!!!!!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!! ふ、ふこぉぉぉぉぉぉぉだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
なんかもう終わっとく。