親の背中を見て育った結果がこれだよ!
「子供は親の真似をする」なんて事はよく聞く話だ。
物心のつき始める乳幼児は、親と言う最も身近な大人の真似をする事で、
文字通り「生まれて初めて」の学習をするのだ。
そしてそれは、今年で5歳を迎えた上条麻琴も例外ではなく、
よくパパとママの真似をするようになったのだが、
「ど…どうしよっか……」
「ど…どうしようったって……」
結果、当麻と美琴の上条夫妻は、重苦しい空気の中で家族会議する事態となっていた。
◇
事の発端は上条と美琴の生活態度が原因だった。
二人は結婚して、子供【まこと】が産まれてからも、倦怠期とは無縁の結婚生活を送っていた。
朝起きた時、夜寝る時、家から出かける時、嬉しい時、寂しい時、痴話喧嘩した後に仲直りする時、
したい時、されたい時、イタズラする時、良い雰囲気の時、ムラムラした時etc.etc.…
それはもう、挙げればキリがない程、普段の二人は事ある毎にキスしているのだ。
365日欠かさず、朝から晩までむやみやたらに、
飽きる事もなくチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュしているのだ。
夫婦なんだから何も問題は無い。…問題は無いが、流石にちょっとどうなのか、とは思う。
だがそれだけならば、少々愛情表現の度が過ぎるだけのバカップル夫婦というだけで、
別段、何かに実害がある訳ではなかった。
しかしだ。子供は親を見て行動を真似してしまうモノである。
「ア・ナ・タ♡」
「そのおねだりの仕方…ミコっちゃん、またキスですか?」
「だって! チューしたいんだもんチュー!」
「へいへい、分かりましたよ」
ちゅっ♡
こんな両親の会話を毎日見ている訳で、そして子供は真似してしまう訳で。
つまりはそう。両親の影響をダイレクトに受けた麻琴は、僅か齢五つにして、
「まこともちゅー! ちゅっちゅちゅっちゅ! ちゅっちゅしようよー! ちゅ~う~!」
既 に キ ス 魔 と 化 し て い た の で あ る 。
だがそれでも、家庭内だけで収まるのならば被害は防げただろう。
しかし麻琴は5歳。家庭の事情によって違う為、必ずしもそうとは言えないが、
大体は保育園や幼稚園に通っている年齢である。
事実、麻琴は第13学区にある「あすなろ園」に通っている。
ちなみにだが、あすなろ園は美琴が中学二年生だった頃は、
「置き去り」を保護して育てる為の児童養護施設だったのだが、
現在では特別な事情の無い園児も普通に通っている。麻琴もその一人だ。
話を戻すが、麻琴はあすなろ園に通っている。そして彼女はキス魔だ。
後は…何が起きるかは何となく察していただけるだろう。
麻琴は、他の園児【おともだち】も保育士【せんせい】も男の子も女の子も一切関係なく、
パパとママの真似してキスしまくっているのである。
当麻【パパ】や刀夜【おじいちゃん】の血を色濃く受け継いだのか、
麻琴は無自覚にフラグを建築し続け、麻琴にファーストキスを奪われた男の子(と一部の女の子)は、
そのまま麻琴に対して初恋を経験してしまうという、ど偉い事になっていたのだった。
そんな事が繰り返さていた、ある日。
上条と美琴は、あすなろ園の園長先生に呼び出しを食らってしまった。
「麻琴ちゃん…大変元気が良くて、とてもよい子なのですが……ちょっとだけ困った癖がありまして…」
と園長先生の不穏な切り出し方から説明された麻琴の現状に、呼び出しを食らったご両親は、
真っ赤になりながら真っ青になるという、何とも器用な顔色をしていたのだった。
その時の二人の様子は、ある意味で見ものだった事だろう。
◇
と、いう訳で、
「ど…どうしよっか……」
「ど…どうしようったって……」
二人はリビングで、頭を抱えていたのであった。
「やっぱり……暫くキスするのを控えるのが一番いいと思うんだ」
上条はテーブルに置かれたお茶を一口飲み、解決策を提案する。
…解決策と言える程、大した提案ではないが。
しかしこれに対して、美琴はテーブルを手で叩きながら、声を荒げて反論した。
「いやよ! 私、最低でも6時間に一回はアナタとキスしないと死んじゃうんだからっ!」
その理論だと、上条が会社に出勤して、
五時まで仕事をしている間に美琴は死んでしまう事になるのだが、
残念ながら、この場に救い【ツッコミ】は存在しない。
と言うか、どんだけキスしたいのだ。この美琴【ママ】は。
「でもな、美琴。もし麻琴がこのままの状態で成長したらどうなると思うよ?」
「それは……そう…だけど………でも! やっぱりアナタとキスはしたいのっ!」
「けどやっぱり、ここは大人な俺達が我慢するべきなんじゃないのか? 何よりも、麻琴の為に」
「じゃあアナタは私とキスできなくてもいいって言うの!?」
「そうは言ってないだろ!? 俺だってキスしたいよ!
てか、今だって美琴の唇見てるだけでムラムラしてるよ!」
「そんなの私の方がムラムラしてるもん!
アナタがいっぱいエッチなキスするから、最近じゃあキスするだけで感じちゃうのよっ!?」
何だこの会話。
この後も非常にくっだらねー議論は続いたのだが、
最終的に「何とかして麻琴を諭す」という結論に到ったようだ。
という事は、結局これからもキスは続ける方針らしい。
◇
その日の夜。麻琴がクレヨンでお絵かきをしていると、
上条【パパ】から「ちょっとおいで」と部屋に呼び出された。
「な~に、パパ?」
「うん、いや……そのな? 麻琴最近、あすなろ園でいっぱい色んな人とチューしてるんだって?」
「うん! そうだよ!」
元気良く返事をする愛娘【まこと】。本人も自白したので、容疑は確定となった。
上条は「そっかぁ…」と呟きながら、腕を組んで天井【そら】を仰ぐ。
そのまま暫く何かを考え込んだ上条は、やがて意を決したように、麻琴の目を見つめる。
そして言い聞かせるように、優しくゆっくりなトーンで話しかけた。
「あのな、麻琴。キスってのは、本当はやっちゃいけない事なんだ」
「なんで? パパとママはいっぱいちゅーしてるよ? パパとママもいけないの?」
「う、うん。パパとママは何て言うか…結婚してるからいいんだけどね?」
麻琴の鋭いツッコミに、しどろもどろになりかける上条。
「そ、そう! 大人になれば、やってもいいんだよ!」
「おとなってどれくらい?」
「そうだな…麻琴が中学生に上がったらかな」
「でもまこと、いっぱいちゅーしちゃったよ? まこと…わるいこ…?
もう…サンタさん……こな、い…の…?」
自分の今までの行いが、大人になるまでやってはいけない事なのだと告げられ、
今にも泣き出しそうになる麻琴。
ちなみに、急にサンタの名前が出てきたのは、
「悪い子の所にはサンタさんはやってこない」と教えられているからである。
上条は慌てて麻琴の頭をナデナデして、泣かないようにあやす。
「だ、大丈夫だぞ! 麻琴は知らなかっただけだもんな!
サンタさんもちゃんと来てくれるから、安心しろ! な!?」
「……ほんと…?」
「ホントホント! パパ、ウソなんて今までついた事ないから!」
今まさについているソレは、嘘以外の何だと言うのだろうか。
ともあれ、これで麻琴のキス魔【クセ】は何とかなりそうだ。
しかし上条は、念には念を入れて、ここで更なる一手で畳み掛ける。
「あっ! でも、もし今度チューするような事があったら、
もしかしたらカレーが辛口になったり、オムライスの中のピーマンが増えたりするかも知れないな」
「………まこと、もうちゅーしない」
その一言の効果は抜群であった。
ママ特製のカレーとオムライスは麻琴の大好物なのだが、まだまだお子ちゃまの舌なので、
辛い物や苦い物【ピーマン】は大の苦手だったりするのだ。
こうして麻琴は、パパとの約束を守り、
むやみやたらに人にキスをするという困った癖は直ったのだった。
「ア・ナ・タ♡」
「そのおねだりの仕方…ミコっちゃん、またキスですか?」
「だって! チューしたいんだもんチュー!」
「へいへい、分かりましたよ」
ちゅっ♡
なので上条夫妻は、今日も何の気兼ねもなくキスをするのだ。
「んっ…♡ んちゅ、くちゅ♡ れぁ…ぁむ、ぢゅちゅっ♡ は、ぁ…アナタぁ……♡」
「んっぶ…! ちゅる、ずちゅ…れおっ……ぷちゅりゅ…! はぁ、はぁ…美琴ぉっ!」
爆発しろ。