とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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とある幸運の通販商品【ペンダント】




「なぁ、吹寄ー。こういう奴って、本当に効果があると思うか?」

そう言いながら吹寄に近づいてきたのは、マンガ雑誌を広げている上条だった。
生活を切り詰めている上条には週刊のマンガ雑誌など高級品だが、
学校生活においては誰かが買った雑誌は回し読みされるという、有り難い制度がある。

そんな訳で上条も、こうやって毎週マンガを読めるのだが、
上条はその雑誌の最後のページ…巻末の作者コメントが載っているページの左隣を指差している。
ビフォーアフターで明らかに顔が違う髭剃りや、
飲むだけで痩せられるという怪しい薬が通信販売されている、あのページである。

吹寄は本当に効いているのかどうか本人でさえ分かっていないような、
健康グッズや健康食品を通販で買い漁っている、自他共に認める通販マニアの健康オタクである。
だからこそ上条は、吹寄に意見を聞こうと思ったのだろうが、
吹寄は上条が指を差す場所を見て訝しんだ。

「『幸運のペンダント』…ねぇ。流石に私もコレはどうかと思うわ。
 ここは学園都市なのよ? 実際に幸運がどうとかって、科学的に証明できないじゃない」
「そうだけどさ。けど実際に使った人の感想も書いてある訳じゃん?
 ほらここ。『コレを付け始めてから急にモテ出しました』って」
「そんなの、感想だけなら使わなくても書けるでしょ。何? 貴様、そんなにコレが欲しいの?」

上条には幻想殺しがある。
このペンダントの効果がニセモノならば言わずもがなだが、
例え本物だろうと、その右手を持っている以上はペンダントの効力を打ち消してしまうだろう。
それは分かっている。分かってはいるのだが、それでも上条は。

「……だって…モテたいんだもん…」

次の瞬間、上条の顔面には吹寄のおでこが激突していた。


 ◇


「ねぇ、黒子ー。こういう奴って、本当に効果があると思う?」

美琴はベッドの上で横になりながら、テレビを観ていた。
何気なく観ているその番組は、よくある通販番組だった。
健康食品や調理用具や家電などの機能をリポーターがオーバーに説明し、
体験者がオーバーに個人の感想を述べ、特別価格という名の定価が伝えられ、
さらに今だけって全商品で言ってるアレである。
「でもお高いんでしょ~?」からの「やっす~い!」という定番の茶番【コント】も忘れていない。

それまで鏡に向かって髪をとかしていた白井だったが、
美琴に話を振られてテレビの方を振り向く。すると。

「『幸運のペンダント』…ですの? 流石にコレはどうかと思いますわよ。
 こういったマユツバ商品の管轄は、佐天さんの担当ですし」

テレビに映し出されているのは、マンガ雑誌にも載っていた商品だった。
美琴は毎週月曜日と水曜日に、コンビニでマンガを立ち読みをしているので、
その商品の事を知っていたのだ。どうやらそれなりに、知名度も売り上げも上々の商品らしい。
だが白井は、半信半疑どころか無信全疑な目でテレビ(と佐天【ゆうじん】)に毒づいている。
美琴もその意見を聞いて、

「そ、そうよね! こんなの信じる方がどうかしてるわよね!」

と妙にギクシャクした笑顔を作り出す。
言える訳がない。
『「これを付けただけで好きな人も振り向いてくれました!」
 という個人の感想()を真に受け、パソコン部品の名の下に、
 既にこの商品を自分宛に注文してしまった事』など、白井に言える訳がないのであった。


 ◇


数日後、美琴は『パソコン部品』を首からぶら下げながら
(ただし周りからは見られないように、ペンダントの本体部分は服の下に隠している)
上条を待っていた。
別に待ち合わせをしている訳ではないのだが、上条の高校の校門前で腕を組む常盤台生。
美琴は全く気にしていないが、
平凡な高校【こんなところ】に常盤台生【エリートさま】がいるという光景に、周りはどよめいている。
だが校舎から『奴』が出てきて、「あれ? 美琴だ」と声を発すると、
周りも「ああ、何だいつものあの野郎か爆発しろ」といった空気になる。

「あれ? 美琴だ」
「っ!!! あ、ああら!? ここってアンタの学校だったんだー! し、知らなかったわー!」
「いや、知らなかったって…何度か来てるだろ。
 それに明らかに…って言うより、あからさまに誰かを待ってたじゃねーか」

すると美琴から、照れ隠し【でんげき】が飛んできた。上条はいつもの調子でそれを打ち消す。

「うううっさいわね! べ、別に私が何でここにいるのかとか、そんなの些細な問題でしょ!?」

誰も「美琴が何故ここにいるのか」とは聞いていないし、そもそも些細な問題でもないのだが、
上条の経験上、ここを掘り下げて【ツッコんで】も余計にビリビリされるだけなのは分かっているので、
敢えてそれ以上は追求しない。だがその代わりに、

「ああ、はいはい。とりあえず校門前【こんなところ】で突っ立ってると下校する皆さんの邪魔なんで、
 エスコートしてやるから一緒に帰ろうぜ?」

と溜息混じりに一緒に下校【ほうかごデート】のお誘い。
周りからは「やっぱりかよあのツンツン頭マジでもげろ(男子談)」や、
「上条くんがまた知らない女の人を口説いてる私の事は遊びだったの?(女子談)」といった、
あらゆる方向からの嫉妬の視線が、弓矢の如く上条に突き刺さっているのだが、
そんな事に気付けるような性格ならば誰も(特に上条にフラグを立てられた女性達)も苦労はしない。

一方、倍率10000倍以上の中から見事当選した美琴は、上条からのエスコートを手に入れる事となった。
もしかしてこれも、首から下げている『パソコン部品』のおかげなのだろうか。

「ふ、ふ~ん? エスコート…ね。ま、まぁアレよね。
 そそそそれなら手を取るくらいの事もしてもらわないとね」

言いながら美琴は、自分の手を前に出す。上条がその手を握りやすいように。

「へーいへい。これで良うございますかね、お姫様?」
「っ!!?」

美琴としては、上条にして欲しい事を冗談に偽装しての犯行であり、
万が一上条に断られても「や~ねぇ! 冗談よ冗談!」で済まそうとした。
と言うよりも、美琴のプランではそちらの確率の方が高いと思っていた。
しかし上条の選択は『美琴の冗談に乗ってミニコントに参加する』だったので、
差し出された美琴の手を、何の躊躇も無く握り返してくる。


「えっ、あ、えええっ!!?」

上条の予想外の反応に、自分から仕掛けたくせにテンパる美琴。
手がじんわりと温かくなり、そのおかげで顔まで熱くなってくる。
が、上条はそんなのお構いなしに、

「ほら、もう行くぞ」
「にゃにゃにゃ!? ここ、この、このままっ!!?」

そのまま歩き出した。何をトチ狂ったのか美琴の手を握ったままで、である。

「え、ちょ…? っ! わきゃ!?」
「あ? うおっ危ね!」

しかし急に歩き出した事と手を握られているというダブルパンチで、美琴は足を縺らせてしまう。
毎度お馴染みの転んで上条が覆い被さって胸とか揉んでしまうパターンの奴だ。
…と、思っていたのだが、今回は少々いつもの状況と違っていた。

「いった~! 大丈夫だっ…た…?」
「あ、ああ。俺は大丈夫だけど…ただ早めにどいてくれるとありがたいかな」
「………へ?」

上条が下になり、美琴が上条を押し倒す形で覆い被さっていた。
つまりは逆床ドンをしていたのだ。しかしそれだけでは終わらない。

「うわわわわわごめんなさいっ!!!」
「え!? おい、ちょ待、美k―――」

慌てて腕を立てて立ち上がろうとする美琴。
しかしこの状況で手に力が入らず、起こそうとした上半身は墜落し、



―――んちゅ―――



二人の顔と顔は衝突した。だが、その割には何故か双方共に痛みは無い。
いや、それどころかむしろ気持ち良いと言うか何と言うか
つまりはアレとアレがごっつんこしているのでその行為は要するに。

「みみみみみ美琴さんっ!!?
 たった今わたくしの口に美琴さんの何かが当たったのですけども!!?
 唇のような柔らかさで唇のような温かさで唇のような湿り気がある『何か』がっ!!!」

瞬間的に真っ赤になり、自分の口に手を当てる上条。対して美琴は、

「whブ度y4grひょqwぽぐ。ぇfbs時0\らぇkvあfあij:非ウェ@ヴぃり画h23!!!!!」

と文字化けする程の叫びを上げていた。
ちなみにお忘れかかも知れないが、ここは上条の学校の校門前である。
この校門を通り過ぎる人達は、この二人の行動をどう思ったのだろうか。



「パソコン部品」改め『幸運のペンダント』。
どうやら美琴には、幸運を言うよりもラッキースケベを提供してくれたようだ。
それも、飛びっ切りの奴を。


 ◇


よくあるマンガの最終ページ。
ビフォーアフターで明らかに顔が違う髭剃りや、
飲むだけで痩せられるという怪しい薬が通信販売されている、あのページに、
今日も『幸運のペンダント』なる怪しいグッズが載っている。
そこに実際に使った人の感想がいくつか書かれているのだが、
その中の一つに、次のような新たな一文が加えられた。

『こ、これを使ったその日に…好きな人と手を繋いだり、キ……キキキキキスっ!!!
 までしちゃいました! それまで素直になれずに、
 その人を目の前にするとツンツンしちゃってた自分がウソみたいです!』
                       東京都学園都市  M・Mさん

ちなみに勿論だが、
※ あくまでも個人の感想であり、効果・効能を示すものではありません。
である。











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