とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ふにゃー克服特訓




『ふにゃー』…それは電撃使いが特定の条件下でのみ発動できる、ある種の必殺技だ。
能力者を中心に半径数メートル~数百メートルに渡って、漏電を垂れ流すのである
本人の意思とは関係なく周囲を巻き込むその技は、大変危険ではあるがしかし、
先に述べた通り特定の条件が必要になるので、滅多にお目にかかる事はない。

その条件とは、まず一つ。能力者はレベル5級でなければならないという事。
この技は自分だけの現実が崩壊した時に発動されるのだが、
崩壊させた際に高レベルの能力者の方が、AIM拡散力場への影響が高いからだと言われている。

次に二つ。能力者が好きな相手に素直になれない性格…所謂「ツンデレ」である事。
これは普段から本心を言う事ができず、その我慢が爆発するから…
と言われているが、詳しいメカニズムは未だ不明である。
しかし「ツンデレ」と「ふにゃー」には何かしらの因果関係がある事は確かなようだ。

最後に三つ。能力者の羞恥心が限界を超える事。
これは一つ目と二つ目の条件にも関係のある事なのだが、
羞恥心が限界を超える事によって、ツンデレ状態で蓄積された感情が爆発し、
結果的に自分だけの現実の崩壊が起こるのである。
「ツンデレ」が銃本体で、「自分だけの現実の崩壊」が弾丸。
そして「羞恥心の限界」で引き金を引くと言えば分かりやすいだろうか。
ツンデレであるがこそ、羞恥心の限界を超えた時に、自分だけの現実も激しく崩壊するのだ。

以上三つの厳しい条件を満たせる者など、
230万人の能力者を有する学園都市といえども、いる訳がない―――

「ふにゃー」

―――いる訳がないこともないのである。
たった今「ふにゃー」をぶちかました人物は、レベル5の第三位、御坂美琴である。
周りに被害を出してはいけないと、彼女の『彼氏』である上条が、
その右手で垂れ流されそうになった漏電を、全て打ち消す。

「うおおおおおい、美琴おおおおおぉぉ!
 いい加減にしてくれよ! ちょっと手ぇ握っただけだぞ!?」
「だ、だだ、だって……きゅ…急だったんだもん! こここ、心の準備とかさせなさいよ馬鹿っ!」

手を握るのに心の準備もクソもないと思うのだが、
簡単に羞恥心が限界を超えて、すぐに自分だけの現実を壊してしまう、
このツンデレベル5にとっては、心の準備とやらが必要不可欠らしい。

この二人…上条と美琴は紆余曲折【だいれんあい】を経て恋人となった。
しかしその事は周囲にはまだ秘密にしており、
二人が付き合っている事実を知っているのは、一部の人間だけである。
インデックスや白井などは、その一部の人間であり、
渋々々々々々々々々ながら二人の交際には納得した。
ただしその代わりに、お互いに成人するまでは『一線は越えない』と誓い合わされてしまったのだ。
インデックスも白井も、それまでに二人の恋も冷めるだろうとの目論見だったのだろう。
だがロミオとジュリエットに代表されるように、
恋というのは障害が大きければ大きいほど燃え上がる物である。
誓いの通り未だに一線は越えていないが、結果的に二人は益々愛を深めてしまった。
ところがその弊害もあったのだ。
元々純情だった美琴は、上条への愛を深めれば深めるほど更に純情になってしまい、
このように手を握るだけで「ふにゃー」を発動する仕様となってしまった。
……ところで『一線を超える』とは一体何の事なのか詳しく教えてほしいものである。


「…よし、今から『ふにゃー』しないように特訓しよう」

右手から「しゅうしゅう」と音を立てて煙を出させながら、ふいに上条がそんな提案をしてきた。
今の美琴の状態では、落ち着いてデートもできやしない。
清く正しい不純異性交遊に支障をきたすのである。

「で、でも特訓って…具体的には何するの…?」

不安そうに見つめる美琴に、思わず抱き締めて安心させてあげたくなってしまう上条だが、
ここは心を鬼にして、特訓を開始する。

「ま、まずは…そうだな。抱き合ってみようか」

と思ったが結局抱いてしまうらしい。
…あっ。一応補足しておくが、『抱く』と言っても『そっち』の意味ではない方だ。
一方で美琴は、上条の言葉を聞いた瞬間、
やかんから湯気が噴き出すように、頭から「ピュィーッ!」と煙を出した。
当然だ。手を握るだけでもアウトなのだから。

「でででででもそんないきなりそんな確かにそんな嫌ってそんな訳じゃないけどそんな!!!」

何回「そんな」を言えば気が済むのか。
美琴は真っ赤な顔をキョロキョロさせながら、手をわたわたと振る。
そんな美琴に上条は、ゆっくりと落ち着かせるように言い聞かせた。

「いいか、美琴。荒療治かも知れないけど、要は慣れだ。
 抱き合っても大丈夫になれば、ちょっとやそっとじゃ漏電【ふにゃー】もしなくなるだろ?
 それに美琴から電気が流れないように、右手でしっかりと頭を撫でてやるから。なっ?」

美琴は「ううぅ…」と涙ぐんだ目で上条を睨みつけると、小さくコクリと頷いた。
上条は思った「可愛い、そして可愛い」と。

「よ、よし! じゃあ…いくぞ!?」
「お…お手柔らかにね…?」

その言葉を合図に、上条はガバッと美琴に抱きついた。

「はうっ!!?」

瞬間、美琴は目を回して頭から帯電音が鳴り響いたが、
上条がすかさず美琴の後頭部に右手で触れ、子供をあやす様によしよしする。
勿論、抱き締めたままで、である。

「ぁぅぅ……」

結果、上条の思惑通り美琴は「ふにゃキャン(ふにゃーキャンセルの略)」されてしまい、
抱かれたまま【されるがまま】で立ち尽くす。
一方、上条は上条で、この状況にテンパっていた。自分から抱きついたくせに。

(うわああぁぁ! 何だこれ何だこれ何だこれ!?
 美琴の体ってこんなに柔らかいのかよっ!
 しかもすげー甘くていい匂いするんですけど、どうなってんのこれ!!?)

医療行為(?)とは言え、仕方なく(…)美琴を抱き締めた上条だったが、
何かもう女の子の体の神秘に、ものっそいドギマギしてしまっていた。
重要な事なのでもう一度言うが、自分から抱きついたくせに、である。
しかも無意識に、

「あー…もう、ずっとこうしてたいなー…」

とポソッと心の声を呟いてしまったのだ。
偶然なのか必然なのか、美琴の耳元で息を吹きかけるように囁いて。
上条の囁き【こうげき】がモロに直撃した美琴は、瞬時に「ぴゃっ!!?」と奇声を上げる。
ちなみにこの間も、美琴の頭と上条の右手から、
『バチバチパキィンバチバチパキィン』と音が鳴り続けている。
『バチバチ』は美琴の帯電音、『パキィン』は上条のそげぶ音である。


「アアアアン、アン、アンタっ!!! ななな何言ってくれちゃってんのよ!?」
「…? 何言ってって………………
 えっ!? も、もしかして今、声に出しちゃってましたでせうか!?」

美琴に指摘され、ここでようやく気付いた上条。美琴に負けず劣らずの赤面っぷりである。
しかしすぐに気を引き締め直す。
今日は自分が狼狽する日ではない、美琴を特訓しなければならないのだから、と。
若干、使命感的なモノが明後日の方向に向かっているような気がしないでもないが。

「じゃ、じゃあ次は……キ…キスするぞっ!」

上条からの衝撃発言に、美琴は凍りついて固まった。
だが美琴の体温は絶賛上昇中だった為、自らの湧き出る体温で、その氷結もアッサリと解ける。

「ええええええええっ!!? な、そ、きゅ、キ……ええっ!!!?」
「だ、だって仕方ないだろ!? 美琴の漏電、全然治まってないんだからっ!」

先程から鳴っている『バチバチパキィン』は未だに収束しておらず、
それどころか『バチバチ』の勢いが増しているのだ。
辛うじて実力が五分五分な「ふにゃー」と「そげぶ」のせめぎ愛(笑)だったが、
ここへきて「ふにゃー」勢力が押し始めてきたのだ。
理由は簡単。上条に抱き締められたり耳元で囁かれたりしてるから。
荒療治はやはり荒い療治な訳で、結局のところは悪化させているだけなのかも知れない。
しかし今更あとには引けない。こうなったら、行く所までとことん行くしかないのである。
…あっ。一応補足しておくが、『行く』と言っても『そっち』の意味ではない方だ。

「目…目を瞑ってれば、すぐに終わるから…」
「あ……ひゃい…」

上条に言われるがまま、美琴はギュッと目を瞑った。
心臓とか、もう張り裂けそうになるくらいバックンバックンさせながら、『その時』を待つ。
すると―――

チュッ

おでこに、柔らかい感触。続いて、

チュッ、チュッ…チュッ

ほっぺ、耳たぶ、鼻先と、次々にキスされているのが分かる。
美琴は心の中で「ひ~~~っ!」と叫びながらも、心なしか唇を気持ち尖らせる。しかし。

「……こ、こんなもん…かな? 帯電音もしなくなってきたし…美琴、もう目ぇ開けてもいいぞ」
「……え…?」

お口がお留守で寂しいまま、突然上条から終了宣言が為された。
あまりの極限状態で「ふにゃー」を克服したのか、確かに美琴の頭から電気は流れていない。
当初の予定から言えば成功と言えるかも知れない。だが、何か腑に落ちない。

実は上条、唇へのキスは、もっと良い雰囲気の時にしてあげようと気を使ったのだ。
美琴がロマンチックな事に憧れているのは知っているし、
こんなやっつけ的にキスするのも可哀想だと思ったのだ。思ったのだが…

「ア…アンタがもし、したいって言うんなら……く…口にすればいいじゃない……」

それはツンデレベル5からしてみれば、精一杯のおねだり。
次の瞬間、上条は頭が真っ白になり―――


 ◇


「それで、そのあとはどうなったの?」
「勿論チューしたよ。でもそしたら、ママってば結局『ふにゃー』しちゃったんだよな。
 あの時、一時的に漏電が止まったのも何かの偶然だったみたいでさ。
 …まぁ、不用意に右手離した俺も悪いんだけど」
「ちょっとアナタっ!!!
 麻琴ちゃん寝かしつけるのに、私達の昔話を聞かせるのやめてよ! 恥ずかしいじゃない!」












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