もしかしてだけど~それってミコっちゃんを誘ってるんじゃないの~♪
惚れてまうやろ~! そのウチ唇でもキスしちゃうパターンの奴や! | の続編です。 |
美琴は今朝から…いや、前日の夜からドキドキしっ放しであった。
その理由は上条からの突然の電話。何やら、ちょっと頼みたい事があるらしい。
ただでさえ滅多に向こうから電話をかけてくる事がなく、
それだけでドキドキ要因は完備されているというのに、
上条の『頼みたい事』というのがまた厄介な代物だったのだ。
『悪い。また練習に付き合ってくれるか?』
「えっ!!? ア、アレやるの!?」
『…ダメか?』
「だだだダメじゃないけどっ!!! ダメ…じゃ、ないんだけどさ…」
上条の言う『練習』。美琴の言う『アレ』。
この短い会話で、美琴のテンパり度数が一気に上昇したのには理由【わけ】がある。
それは以前、上条からの「上条さん、イメチェンしようと思ってます」の一言から始まった。
上条はある日、自分がモテる為にキャラを変えてみようと思ったのだ。
性格など無理矢理変えても長続きする事などないのだが、
それ以上に美琴を驚愕させたのが「俺様キャラとかどうかな!?」という上条の提案だった。
上条と俺様。そのあまりにもな不釣り合いさに、美琴も最初は笑っていたが、
いざ練習に付き合ってみると、「キスは…夜までお預けな」で顔を爆発させてみたり、
「美琴………愛してる」でどうにかなってしまったり、
「俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」と間接キスをさせられて記憶を失ったりと、
散々な結果(?)となったのだ。
ならば練習などに付き合わなければいいとお思いの方も多いであろうが、
そうしない…と言うよりも、そう『できない』理由が美琴にはある。
その理由? それはホラ、ミコっちゃんも乙女な訳で色々と察してあげてほしい。
とまぁ、そんな経緯があって美琴は上条のイメチェン化計画の練習台となったのだが、
そのせいで練習日の前日から当日まで、ずっとドキドキしていたのだ。
こんな状態で眠れる訳もなく、結果的に美琴は徹夜で悶々とする羽目になったのだった。
◇
「はよ~っす、美琴!」
「あ、ああ。うん…おはよ…」
今日が休日という事もあり、二人は午前中から待ち合わせしていた。
心の準備が間に合わなかった美琴は、冷静を装ってはいるが内心では心臓が大暴れ中である。
「それできょ、今日は…ど、どんな練習する訳…?」
「それなんだけどさ。今までより本格的に練習する為に、
キャラ変えたまま二人でどっか遊びに行ってみないか? ほら、せっかくの休日だし」
「……………へ?」
美琴は一瞬だけ考えて。
「ええええええええええっっっ!!!? な、そっ! それ!
ももももしかしなくてもその、デ…デデ、デーっ! トっ! なんじゃないのっ!!?」
「うん、そう。デート」
上条もアッサリと認める。今からデートするのだという事を。
「いや。元々これ、俺がモテる為の練習だろ? そろそろ実践的な訓練も必要かと思って。
んで、これの実践って何だろうと思ったら、やっぱりデートしかないかなと」
つまり上条は、今日一日だけ美琴に恋人役をやってほしいと言っているのだ。
理屈は分かる。理屈は分かるのだがしかし。
「で、でもデートなんでしょ!?」
「だからそうだって」
この男は悪びれる様子もなく、いけしゃあしゃあと。
美琴も前日から寝ずに悶々とさせられ、幸か不幸か強制的にあらゆる妄想【イメトレ】をしてきたが、
上条の想定外の発言に顔は真っ赤に、そして頭は真っ白になる。紅白である。おめでたいのである。
「で、でも…いきなりデート、とかは、流石にちょっと……」
目線をあっちこっちに移しながら、やんわりと断ろうとする美琴。
しかし上条はお構いなしに、美琴のその幻想をぶち殺しにかかる。
「は? お前の意見なんて聞いてねーっつの。
いいから美琴は黙って俺に付いてくればいいんだよ。…これからも、ずっとな」
髪をファサっとかきあげながら、キザったらしい口説き文句
(とは言っても『ぼくのかんがえたさいきょうのくどきもんく』ではあるのだが)
を一言。どうやらすでに、俺様キャラを実演中のようだ。
どんなタイミングでスイッチを切り替えてやがるのか。
しかし美琴はツッコミを入れる余裕などなく、顔をさらに赤くして、ポーっと上条を見つめる。
常盤台の超電磁砲は、上条さん限定のちょろインなのである。だってとっくの昔に攻略済みだから。
「ほら行くぞ。手ぇ握るぐらいは許してやるからよ」
「あ、その…おね、お願いしまひゅ…」
さあ。ツッコミ不在の恐怖【デート】、はっじまーるよー。
◇
それは正に、『定番』と言えるデートであった。
午前中に映画を観て、ちょっとオシャレなカフェで昼食を取り、
午後は水族館に入って、最後にショッピングモールを回る。
何の変哲も無い、ありふれたデート。まぁ、一回目のデートにしてはそこそこである。
しかしそれを行う初々カップルは、どこかありふれていなかった。
例えば映画館では。
「おい、なに逃げようとしてんだよ。
カップルシートってのは、こうやって肩を寄せ合う為にあるんだろうが」
「にゃあああああああああ!!!」
例えば喫茶店では。
「バ~カ。お前の右手とフォークは、俺の口にパスタを運ぶ為にあるんだよ。
ほら、口開けててやるから早く食わせろって。…あ~~~ん」
「にゃあああああああああ!!!」
例えば水族館では。
「ははっ! 美琴も魚達【こいつら】みたいに水槽ん中に入れば、いい客寄せになるんじゃねーの!?
…美琴は絵本に出てくる人魚みたいに綺麗なんだからさ」
「にゃあああああああああ!!!」
例えば雑貨店では。
「おっ! このヘアピン可愛いな。美琴にも似合いそ…じゃなくて!
えっと……べ、別に似合ってなんかないけど、ネタとして買ってやるから付けてみろよ」
「にゃあああああああああ!!!」
つまりはこんな感じだったのだ。
美琴など、毎度毎度「にゃあああああああああ!!!」と同じ奇声を発してしまっている。
それにしても上条さん、一個キャラが乗っかっているとは言え、
よくもまぁ恥ずかしげもなく次から次へとクサい台詞を言える物である。
流石は世界を救ったヒーローと言ったところだろうか。
もっとも雑貨店では、一度だけ素の反応をチラ見せしてしまったような気もするが。
だがそんな幻想【デート】の時間もそろそろ終わりだ。
ショッピングモールを出る頃には大分日が傾いており、完全下校時刻も近づいていた。
上条の猛攻に何とか耐えていた美琴も流石に限界を迎えており、もはや心身共にヘロヘロである。
しかしそれでも最後の挨拶くらいはしなきゃいけないと、フラつく足を必死に踏みしめ、
赤面した(と言うよりも朝から赤面したままの)顔を上条に向ける。
ただし微妙に目は合わせていない。直接上条の顔を見たら、多分だけど爆発するから。
「あ…じゃ、じゃあ今日はその……色々ありがと…結構…楽しかった…から……
そ、それじゃあ…また明日―――」
と、その時だ。美琴が言い終わるその前に、上条が美琴の腕をガッと掴んだ。
突然の出来事に、美琴も「えっ、えっ」と慌てる。
「えっ、えっ!? ど、どうしたのよ急にって言うか近い近い近い近いっ!!!」
気付けば上条が、言葉通りの意味で美琴の目と鼻の先まで顔を接近させていた。
そして更に、その距離でポソッと一言。
「…お前、何で俺に許可なく勝手に帰ろうとしてる訳?
っつーか、このまま大人しく帰す訳ないだろ。どう考えてもさ」
「えっ!? はえ!!? ででででもあのそろそろ完全下校時刻とかそういうのがあのそのっ!!!」
「関係ねーよ。美琴だって、本当は期待してたんだろ? …俺と『そうなる』事に」
「そそそそれは確かに考えなくもなくもなくもなくもなくもなくもなくもなかったけどもっ!!!」
「じゃあ…とっとと目ぇ瞑れよ」
「~~~~~~~~っ!!!!!」
上条の「目を瞑れ」という言葉を合図に、美琴は『何を期待した』のか言われるがまま目を瞑った。
そして上条はそっと美琴の後ろ首に腕を回す。その唇に、優しくキスをする為に―――
瞬間、『カシャ!』という音と共に、謎のフラッシュ。
上条がビクッとして音と光がした方を見るとそこには。
「…あっ! あたしには構わず続けてください!」
と、ものっ凄~くニヤニヤした佐天がそこに居た。
そしてその手には、スマホ型の携帯電話がしっかりと握られている。
おそらく…ではなく確実に、その携帯電話で先程の行動を激写されたのだろう。
上条は本来キスする直前で、「じゃあ、今日はここら辺で終わりにしようか」と、
俺様キャラの練習を止めるつもりだった。何より、もうすぐ完全下校時刻だし。
しかしその直前で横槍が入ってしまうと、本当に別れ際にキスしようとしていたように見えてしまう。
更に不幸な事に、見られてしまったのは『あの』佐天である。それはつまり…
「い、いや待てこれは違うぞ!? 決して佐天が思ってるような事じゃなくてだなっ!」
「『…お前、何で俺に許可なく勝手に帰ろうとしてる訳?
っつーか、このまま大人しく帰す訳ないだろ。どう考えてもさ』
『関係ねーよ。美琴だって、本当は期待してたんだろ? …俺とそうなる事に』
『じゃあ…とっとと目ぇ瞑れよ』…でしたっけ?」
「何で一言一句間違えずに言えんのっ!!? どっから見てたんだよっ!」
「大丈夫です! あたし、これでも口は堅い方ですから!」
「それこの世で一番信用できない台詞~~~!!!」
つまりはこういう事である。
ちなみに、この騒ぎの中で美琴は何をしているかと言えば、
周りが声が聞こえていないのか、あれからずっと目を瞑ったまま、
(~~~っ! あぁもう早くしなさいよ! 焦らすんじゃないわよ馬鹿ぁ…!)
とトリップしながら『その時』を待ち続けていたのだった。
何かもう、いつの間にか上条のキャラ変更の練習とか、そんな事は忘れてしまっていたらしい。