惚れてまうやろ~! そのウチ唇でもキスしちゃうパターンの奴や!
あま~い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ | の続編です。 |
「うっし! じゃあ今日もヨロシクお願いいたします」
「きょ、今日も……『アレ』やるの…?」
「え? だって練習に付き合うって言ってくれたじゃねーか」
「そりゃ…そう、なんだけどさ……」
上条から目を背け、早くも赤面してしまう美琴。
それもその筈だ。何せ今から、あの地獄のような【うれしくもはずかしい】練習が待っているのだから。
確かに上条の言うように、「練習に付き合う」とは美琴から言い出した事だ。
そうしなければ上条が自分以外の女性を相手に『練習』してしまっていたかも知れないし、
何より美琴自身も、その『練習』を何度も味わいたかった。
だが想定外の事が二つあった。それは『練習』の破壊力と頻度である。
一発一発が非常に重く、心臓が爆発する勢いの衝撃があるというのに、それをほぼ毎日だ。
学園都市で『七本の指』に入る実力者と言えども、内側からの攻撃(?)には流石に脆いのである。
その上、日に日に『練習』の破壊力が高くなっている。
それは上条が『練習』の成果として、徐々に練度が増している…というのも原因ではあるが、
それ以上に美琴の『防御』も甘くなっているのである。何故なら―――
「んじゃやるぞ? 『俺様キャラ』の練習」
「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!!!」
何故なら練習を重ねれば重ねる程、美琴は上条に惹かれてしまっているからである。
慣れてしまえばどうという事もなくなるのだろうが、これに慣れるには相当の時間がかかりそうだ。
◇
数日前、上条は「モテたい!」との切実【アホみたい】な理由でキャラチェンジを試みた。
転職先のキャラは、ナウなヤングギャル達のドキをムネムネさせるという、
イケイケゴーゴーな『俺様キャラ』だった。
これをマスターすれば、脚がグンバツでパイオツがボインなイカしたちゃんねーと、
ザギンでシースーも夢ではないらしいのだ。
「そ、それで今日は…ど…どんな練習するのよ…?」
指をモジモジさせながら、ぼそっと呟くように尋ねる。
すると上条は腕を組みながら「んー…」と考え、暫くしてからこう答えた。
「今日は日常生活っつーか…普段通りの事をしながら、
その合間に『俺様』な上条さんを挟んでみようかと思います」
「日常生活…?」
言われてもピンときていないようなので、上条は例を出す。
「例えば、いつもみたいに手を繋ぎながら一緒に帰るとするだろ?」
「ななななっ!!?」
例題がおかしい。
まず、いつも手を繋いでる訳ではないのだが、上条はそんな事もお構いなしに美琴の手を取る。
「けど、ここからが違うんだよ」
「は! はわ! はわわわわわわっ!!!」
ここ『からが』も何も、ここ『までも』既に違うのだが、
残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。
上条は目をグルグルさせている美琴の手をグイッと引っ張り、抱き寄せる。
そしてそのまま、お互いの鼻先が付くか付かないかという距離で、とどめの一言。
「いいから俺に付いて来いよ」
美琴の顔が、「ボフン!」と音を立てて爆発した。
しかしそれだけでは終わらない。上条の「とどめ」は二段構えだったのだ。
普段の彼ならば絶対にしないであろうが、一つキャラが乗っかっている事で、
多少の大胆行動にはブレーキが利かなくなっているようだ。
上条は掴んでいる美琴の手にそっと―――
「……チュ…」
「っっっ!!!!?!?!!?」
―――そっと口付けした。
それはどちらかと言えば『俺様』ではなく『王子様』なのだが、
残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。
◇
上条と美琴は、第7学区のふれあい広場にオープンしている、
クレープハウス「rablun(らぶるん)」に来ていた。
いつか美琴が先着100名様のゲコ太マスコット、その最後の一個を手に入れた【ゆずってもらった】、
あのクレープハウスである。
普段通りの事をする、と言っても、いつもはあのまま雑談しながら一緒に帰るだけなので、
俺様キャラの練習も兼ねて、少しだけ寄り道したのだ。
上条は右手に持ったチョコバナナを一口かじりながら、
「ほら、美琴の分」
左手に持っていたクリームチーズベリーを美琴に差し出した。
「あ…あり、がと……」
先程の二段構えの「とどめ」が相当効いたのか、美琴は未だにふわふわしていた。
ポケ~っとしながらクリームチーズベリーパフェを受け取り、そのまま「はむっ」と口に含む。
クリームチーズの濃厚な味わいとラズベリーの爽やかな酸味が口の中を―――
なんて、今の美琴に味なんぞ分かる訳がなかった。
広場のベンチにちょこんと座り、俯いたままモソモソそしゃくをしているが、
この状況で脳が別のお仕事にいっぱいいっぱいらしく、味覚まで手を回してくれていないのだ。
そんな美琴の現状を知ったこっちゃないと言わんばかりに、
上条は俺様キャラを練習するべく攻めてきた。
「おい美琴。お前のパフェ、一口くれよ」
「………え?」
ふいにそんな事を言われ、素っ頓狂な返事をしてしまう。
「ええええええええええっ!!!?」
一拍置いて、その言葉の意味を理解し、美琴は声を荒げた。
先程の手にキスも中々どうして高度だったが、今回はそれ以上だ。何しろ今度は、
「だだだだって! これ! わ、わわ、私もう一口食べちゃったしっ!!!」
間接キスだから。
手にキスよりも簡単ではないか、とお思いの方も多いだろうが、しかし考えてみてほしい。
手にキスはロマンチックだが【ケツがかゆくなるが】、キスした部分が口に付く訳ではない。
対して間接キスは、自分が口を付けた部分に相手も口を付ける…
つまりイヤらしい言い方だが、『粘膜接触』が起こるのだ。
自分の唾液が、少なからず相手に感染るのである。
以前、佐天とは何の気なしにそれをやった訳だが、相手が上条では話が違う。
友人なら気兼ねはしないが、好きな人が相手では、その意味合いが大きく変わるのだ。
が、上条は相変わらず気にした様子もなく、
「いいんだよ。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物なんだから」
俺様の代表格でもある、ジャイアニズムを披露する。
「だから美琴自身も俺の物な」
「んなっ!!!?」
しかも、こんなとんでもない事まで言ってくる始末。
一度冷静になって、その言葉の意味を深く考えてほしい物である。
上条は、自分で言った「美琴自身も俺の物」発言で固まっている美琴を横目に、
当たり前の様に彼女が握り締めているパフェをかぶりつく。
「…うん! こっちも美味いな」
「がっ! が、かっ!!?」
上条の言葉が耳に届いているのかいないのか、固まったまま口をパクパクさせている美琴。
上条も流石にマズいと思ったのか、練習中の俺様キャラを解く。
鈍感な上条は、今の美琴の態度を不機嫌な状態だと思ったようだ。
「いや…悪かったよ。確かに調子に乗りすぎた。
ほら、俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」
キリッとした表情から一変して、いつもの気だるげな表情に戻る上条。
少し困り顔をしながら、自分のチョコバナナパフェ(勿論、食べかけ)を差し出してくる。
「っっっ!!!!?!?!!?」
それはつまり、間接キスである。
しかも今回は先程と違って、「される側」ではなく「する側」だ。
そして唾液は「感染する側」ではなく、「感染される側」になる。
その瞬間が、この日の美琴にとって最後の記憶となったのだった。
あの後美琴がどうなったのかは、上条ただ一人だけが知っている。