とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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実践! モテ仕草10連発




美琴は待ち合わせ場所に指定した小さな公園で、
ベンチに座りながら相手が来るのを待っていた。
待ち合わせの時刻は既に過ぎてはいるが、
この相手が時間に遅れてくるのはよくある事なので、
美琴はただひたすら待ち続けている。その相手…お察しの通り、上条をだ。
しかし結果としてそれで良かったのかも知れない。
待たされている間、心の準備ができるのだから。

(だ…大丈夫よ美琴! 落ち着いて実行すれば…このメモ通りに行動すればアイツだって!)

心の中でそう呟きながら、カバンから一冊のメモ帳を取り出す。
ページをめくると、中は丁寧な殴り書きで埋め尽くされていた。
そこに書かれていた事は…

『あの馬鹿を落とす為のモテ仕草!』

あぁ、今日も美琴の空回りしそうな臭いがプンプンである。





モテ仕草。それは異性を落とす為のさり気ない行動だ。
有名どころで言えば、女性なら上目遣いやボディタッチ。
男性ならネクタイを緩めたり並んで歩く時は車道側を歩くなどだ。
どうやら美琴は、そのモテ仕草とやらを女性誌、バラエティ番組、ネットなどからかき集め、
それを逐一メモしていたらしい。今日という決戦の日に備えて。
…ぶっちゃけメモ帳にびっしり書かれた事を全部やってしまったら、
相手からは『あざとい』と思われるのだが、美琴はそこに気付ける程の余裕もないし、
あの鈍感野郎ならば、やりすぎぐらいが丁度良いだろう。
何しろ上条は、この日の前日に美琴から電話がかかってきた時も、
『あああ、明日ちょっとい、いい、一緒にお食事したい所があるんだけどっ!!!
 あ、えと、ふ…深い意味はないんだけど凄く美味しいイタリアンのお店があってそれで!』
という意味深すぎる言葉に対し、
「おう、いいぞー。明日の日曜は特に予定とかないしな」
と実にアッサリとした返事をしたくらいだ。この男、な~んも気付きゃしないのだ。
しかしそれでも、このメモ帳に書かれたモテ仕草をフルに活用すればあるいは。

(アイツでも落とせ…はできないかも知れないけど、
 少なくとも多少はドキッとはさせられる可能性がない事もないわっ!)

でも微妙に弱気な美琴である。それだけ敵の鈍感能力が高いという事だ。
美琴は一度深呼吸をして、改めてメモ帳に目を通す。
大丈夫、準備はしてきた。すでに戦いは始まっているのだ。

[その①・いつもと違う服装]
これはいつもとは違う自分を演出して、ギャップ萌えを狙う方法である。
美琴は常盤台の生徒であり、本来は外出時の制服着用が校則で義務付けられている。
故に彼女はただ私服になるだけで、かなり印象が変わるのだ。
それでも部屋のクローゼットから一番可愛い服を選んできたし、
これならいかに上条といえど、ドギマギしてしまうこと請け合いだ。
バレたら寮監からのお説教が恐いが、それでも勝負>>>>>>>>>>校則である。

だがそれだけではない。
美琴は上条が来た時に、もう一つの作戦も考えている。

[その②・大きく手を振る]
これは元気さと健気さを演出する方法だ。
しかも普段の彼女なら遅れてきた上条に対して、
「遅いわよバカ!」と電撃を飛ばすのが通例なので、
そこを我慢して手を振って出迎える事で、ついでにギャップも演出できるのである。
上条の頭に「アレ? 今日の美琴っていつもより可愛くね?」と
少しでも過ぎってくれれば重畳である。

と、その時だ。

「おーい、美琴ー! 遅れて悪かったー!」

と上条の声が聞こえてきた。
美琴は声のした方に顔を向け、手を振る為に腕を上げたのだがその瞬間、美琴が固まった。

「なっ、が……ひゃえっ!!?」

見ると上条が先に、[手を大きく振りながら]走ってきていたのだ。
遅れたのは上条なのだから、その態度は殊勝だが、
その健気さに美琴の心はまんまとキュンキュンしてしまう。ミイラ取りがミイラである。
しかしそれ以上に美琴をドキドキさせたのが。


「アアア、アン、アン、アンタっ! ななな何で『スーツ』なんか着てんのよっ!!?」
「……え? 美琴が電話で『美味しいイタリアン』とか言ってたから、
 常盤台のお嬢様が言う美味しい店って事はドレスコードがあるもんだと思って、
 レンタルしてきたんだけど…え、なに、違うのか?
 うわー、やっべー……完全に浮くじゃん、俺…」

上条の[いつもと違う服装]に、完全にやられてしまう美琴。
いくら何でもこれは卑怯だ。かっこ良すぎる。…あくまでも美琴視点では。
だがここで上条に見惚れていては『いつもと同じ』だ。
美琴は頭の中で素数を数え、冷静さを何とか取り戻して切り替える。

[その③・無防備]
これはほんの少しだけだらしなさを演出する方法である。
やりすぎると本当にだらしないと思われるので、注意が必要だ。
美琴は「ん~~~」っと両手を上げて伸びをして、
服を上に引っ張ってチラッとお腹が見えるか見えないか絶妙なラインをやってみようとする。
『ようとする』という事はつまり、結果できなかったという事だ。

「あ~…全力で走ってきたから、あっちぃな」

見ると上条がスーツのジャケット部分を脱ぎ、下のワイシャツのボタンを一つ外して、
襟をうちわ代わりにパタパタと扇いでいる。
じっとりと汗ばんだ鎖骨やら胸元やらがチラチラと見えてしまい、
その[無防備]さに、美琴は更に胸をドキドキさせてしまった。

(~~~っ! だだダメよ私っ! このままじゃ、ずっとアイツのターンだわ!
 こ、これはチャンスなのよ! ピンチとチャンスは紙一重なんだからっ!!!)

この状況がピンチなのかどうかはよく分からないが、
とにかく美琴は、次なる一手を打ち出そうとする。

[その④・相手の乱れた服装を直す]
男性は女性のおせっかいな所にも魅力を感じるモノであり、これはそれを演出する方法だ。
しかも幸か不幸か上条は自らワイシャツのボタンを外している。
ここで「もう、だらしないわね」とボタンをはめ直してあげれば、
上条も少しは意識するだろう。しかし。

「…あれ? 美琴の肩の上、糸くずついてんぞ」

ふいに上条が美琴の肩をパッパッと掃う。そのさり気なさ過ぎる優しさとボディタッチ、
そして[乱れた服装を直された]というトリプルパンチで美琴は、

「あ、え、あにょ、そにょ、あああ、あり、ありが、と……」

ノックアウト寸前になっていた。
だがここで負けてなるものか。美琴は消え入りそうな闘志を再び燃え上がらせて、
次の作戦を繰り出そうとする。もはや何と戦っているのか、本人にも分かっていないが。

[その⑤・手を握る]
これは鈍感な上条相手でも、ストレートにドキドキしてくれる…かも知れない演出だ。
美琴にとっては少々ハードルが高いような気がするが、
今までも突発的とはいえ、何度か自分から行った事がある。これなら美琴でも頑張れば―――

「まぁいいや。じゃあ早く行こうぜ? 俺、楽しみすぎて朝メシ抜いてきてんだよ」
「にゃああああああ! 手ぇ握られてるううううううう!!!」

―――いつの間にか、上条が美琴を急かすように[手を握りながら]引っ張っていた。
手から手へと体温が伝わり、体中がじんわりと熱くなる。そして心臓の音も偉い事に。
美琴はこれからお腹いっぱいにする訳だが、その前に胸がいっぱいになってしまうのだった。

ともあれ、件のイタ飯屋に歩き出した二人なのだが、突然、上条がピタリと足を止めた。
そして。

「……あっ! 言い忘れてたけど、その服すげー似合ってんじゃん。
 俺なんかの意見じゃ何の参考にもならないだろうけど、可愛いと思うぞ」

トドメであった。


 ◇


「お~! ホントに美味そうだなぁ…値段見るのが恐いけど」
「で、でで、でしょっ!? 一度アンタを連れて来たかったのよね~!」

と何気ない会話をして冷静を装ってはいるが、正直なところ心臓が爆発しそうな美琴である。
せっかくメモを取ってまで頭に叩き込んだモテ仕草の数々、
それらが全て、空振りどころか未遂に終わってしまっている。
何故なら、美琴が行おうとする仕草を上条が先に、それも意識せずにやってのけるから。
おかげで始めから上条の好感度は100%だったのに、
限界突破して200%くらいまで上昇している。
しかし今日はドキドキさせられる為に来たのではない。ドキドキさせる為に来たのだ。
美琴はカバンの中のメモ帳を信じ、それを実行する。今度こそ成功させるのだ。

[その⑥・美味しそうに食べる]
『いっぱい食べる君が好き~♪』なんてCMソングがあるように、
細いのにたくさん食べる女の子が好きという男性は意外と多い。
これはそれを演出する方法である。
ただしあくまでも『美味しそう』であって、『ガツガツ』ではない。
そこを注意しながら食べようと、目の前のジェノベーゼをフォークで巻いた瞬間だった。

「ん~~~…うんまぃなぁ~、マジで!」

頬パンパンにボロネーゼを詰め込み、幸せそうに感想を漏らす上条がいた。
そのあまりにも[美味しそうに食べる]上条の姿に、
母性本能をくすぐられたのか美琴はキュンキュンしてしまう。やっぱりダメだったよ。
しかしただでは転べない。美琴はすかさず、次の作戦に移行する。

[その⑦・笑顔]
これはもうシンプル且つ絶大な威力を発揮する演出だ。
男女共に、突然の笑顔は否が応でも相手を意識してしまうものである。
美琴はあくまでも自然にクスッと笑って、「どう? 美味しい?」と聞こうとする。
が、しかし。

「ありがとな美琴、こんな美味い店に連れて来てくれてさ!
 これ今まで食ったパスタで一番美味いよ!」

と自然にニカッと上条が笑う。美琴はとっさに「あ…そ、そう?」と返したが内心では、

(何なのよ、この馬鹿ぁ~! 可愛すぎるじゃないのよ~!)

と更なる混沌へと足を踏み入れてしまっていた。
だがそれでも美琴はへこたれない。次こそは…次こそは必ず。

[その⑧・ミラーリング効果]
これは相手と同じ動作をする事で、相手に親近感を与える事ができる演出である。
例えば、相手が腕を組んだらこちらも腕を組み、
相手が何か言ったらこちらも同じ事を言ったりなどだ。
これもあざとすぎると逆効果になり、気をつけようと心に誓う美琴。

だがその前に、カラカラになった喉を潤す為に、お冷を一口飲む。
すると同じタイミングで、上条もお冷を一口飲む。
まぁ、偶然だろうと気持ちを切り替えて、美琴は身だしなみを整えようと口を拭く。
すると同じタイミングで、上条もナプキンを手にとって口を拭く。
まぁ、たまたまだろうと気持ちを切り替えて、美琴は一度「ふぅ~…」と深呼吸をする。
すると同じタイミングで、上条も「ふぅ~…意外と腹にたまるな」と深呼吸をする。
これはつまり。

(されてるううう! 私、今コイツに同じ動きされてるううううう!)

上条が意識的に美琴と同じ動作をする訳がないので、
彼は無意識に[ミラーリング効果]のある動作をしているのだ。
無意識とはいえ、上条が自分と同じ動きをしてくれているという事実に、
美琴は親近感どころか、それ以上の感情まで行ってしまう。
けれどもまだだ。ここで終わる訳にはいかない。次だ、次の作戦だ。

[その⑨・一口貰う]
この演出は女性同士では何でもない仕草だが、
男性からすると間接キスを連想してしまい、ドキっとしてしまうのだ。

「あ…ちょ、ちょろっとアンタの分を一口ちょうだ―――」


…が、ここで美琴は気がついた。それはこちらも同じなのではないかと。
間接キスを連想するのは上条だけでなく、自分もそうなのではないかと。
気付かなければそのまま行けたのだろうが、一度気付いてしまったらそこで試合終了だ。
美琴はフォークを手に取ったまま空中で止まる。顔を茹でダコのように真っ赤にさせながら。
と、その時である。

「そう言や美琴のも美味そうだよな。ちょい一口貰ってもいいか?」
「え………みゃえっ!!?」

美琴から了承を得るその前に、上条は勝手に美琴の皿からバスタを一巻き取り、
そのまま自分の口へと運んでしまった。つまり勝手に[一口貰われてしまった]のだ。
「おー! これも美味いなー!」と暢気な感想を述べているが、美琴はそれどころではない。
間接キスを連想した美琴は、

「~~~~~っ!!!」

と声にならない叫びで絶叫したのだった。


 ◇


結論から言えば散々だった。
結局美琴の作戦は何一つ成功せず、勉強してきたモテ仕草は一つも実行できなかったのだ。
それどころか上条が次から次へと先読みしてくるので、もう完全にやられてしまっている。
その上、例の間接キスもどき事件をきっかけに、美琴の心は完全に折れてしまったのである。
ドキドキが許容範囲を超えて、まともに上条の顔を見る事すらできなくなってしまった。
そんな状態では、メモってきた仕草を実演する余裕などある訳もなく、
食事を終えた二人は、そのまま解散する事となった。
本当はこの後の展開も色々考えてきたのだが、
上条がドキドキさせてきたせいで、全て水の泡である。

「じゃあ、今日は楽しかったよ。また今度な」
「は…ひゃい……まりゃこんろ…」

もはやフラフラになり、ろれつも回っていない。
しかしここが最後のチャンスだ。せめて一回くらい、成功させて帰りたい。
余裕がないのは変わらないが、終わりよければ全てよしと言うように、
別れ際くらいは何か爪痕を残しておきたいのだ。
もうモテ仕草を行う事が、目的なのか手段なのか分からなくなっている模様だ。

[その⑩・別れ際に寂しそうな顔をする]
これはもう説明する必要もないだろう。寂しそうな顔をされる事によってキュンとさせ

「でも…ちょっと寂しいよな。楽しい時間って、何ですぐに終わっちまうんだろうな?」

速攻である。
上条は少し表情をシュンとさせて、わざわざ[別れ際に寂しそうな顔を]作りだす。
これで完全敗北だと悟った美琴は、勢いに任せて告白してしまいそうになったが、
ここはグッと我慢して、左手でバックンバックン鳴っている心臓を押さえ、
真っ赤な顔でキッ!と睨み、右手で上条を指差しながら負け惜しみの一言をぶちまけた。

「つ、つつつ、次は絶対に負けないんだからっ!!! 覚悟してなさいよっ!!!」
「えっ!? 何か勝負してたっけ!?」

ちなみに、終始一日中余裕のなかった美琴は、とても大事な事に気付けていなかった。
上条と休日に出かけ、食事をする。
それはつまり俗世間で言うところの、『デート』だという事に。











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