それぞ美琴の悩む理由
それも美琴の悩む理由 | の続編です。 |
ここはとある公園。
美琴はベンチに座りながら、今日一日のデートを振り返っていた。
デート…そう。彼女は今日デートしていたのだ。相手は勿論、上条【かれし】である。
その上条は今、彼女【みこと】をベンチで休ませてからジュースを買う為に席を外した訳だが、
待っている美琴は、どこか憂いを含んだ表情で、溜息を吐いている。
楽しいデートを振り返っている表情とは程遠い。一体、何があったのか。
実は彼女、ここ最近、ある大きな悩みを抱えているのだ。
それは付き合う前ならば頭に過ぎりもしなかった悩みだった。
付き合ったからこそ、そして付き合ってしばらく経ち、
心にも多少の余裕が出来たからこその悩みなのだ。
美琴は空を見上げて、流れ行く雲を見つめながら、誰に言うでもなくポツリと呟く。
内に秘めた、その悩みを。
「はあぁ……私いくら何でも、アイツの事が好きすぎるんじゃない…?」
さぁ、急速にどうでもよくなってまいりました。
つまり美琴の悩み(笑)とやらは、上条への気持ちが強すぎるのではないかという事だ。
例えば今日、待ち合わせに現れた上条には寝癖がついていたのだが、
その瞬間に美琴は、『可愛い!』と思ってしまった。
そして寝癖を指摘されて慌てて髪の毛をセットした上条を見て、
今度は『カッコいい!』と思ってしまった。
他にも移動販売のクレープ屋に寄った時などは、最初は注文するメニューが被ってしまい、
美琴は『コイツと同じ感性で嬉しい!』と思ってしまった。
ところが上条が「せっかくだから、お互いに違う味にしようか」と提案してきた時は、
『コイツと違う味を食べ比べできて嬉しい!』と思ってしまった。
更には一緒にショップに入った時なんか、
美琴はAとBの二つの服を手にとって「どっちがいい?」と上条に聞いてみたのだが、
上条はAの服が好きだと言ってきた。美琴は個人的にはBの服の方が好みだったが、
その時『コイツはこっちの方が好きなんだ~…また一つコイツの好みを知っちゃった♪』
などと思ってしまった。
ちなみにその後、上条が「あ、でもBも可愛いな」と言った瞬間、
やはり『コイツと同じ感性で嬉しい!』と思ってしまった。
つまり上条が何をしても、何を言っても、結局OKになってしまうのだ。
おまけに、付き合って大分経つのに未だに手を握るだけでドキドキするし、
名前を呼ばれるだけでドキドキするし、キスするだけでドキドキするし、
抱き合うだけでドキドキするし、夜『おたのしみでしたね』するだけでドキドキするし。
本来ならば恋人になって付き合い出せば、そのウチ相手にも慣れてくるものなのだが、
美琴の上条に対する恋心は、むしろ日に日に増しているのだ。
美琴はそれで悩んでいるらしい。
……いや待て。落ち着いて頂きたい。お気持ちは察するが、ツッコんだら負けである。
と、そこへ。
「お待たせ~。えっと、冷たいお茶とホットのコーヒーあるけど、どっちがいい?」
と二つの缶を持った上条が、自販機から帰ってきた。そしてこの時もまた、
『私の事を気遣って、わざわざ冷たいのと温かいのを用意してきてくれたんだ~…』
などと思ってしまう。自分でも自覚しているようだが、重症である。
「じゃあ…お茶で」
美琴がそう言うと、上条はお茶の缶を美琴に手渡し、上条【じぶん】はコーヒー缶のプルタブを開ける。
そして一口グビっとコーヒーを喉に流し込み、
(ちなみにこの時も『飲んでる姿がカッコイイ…!』と思ってしまう美琴である)
「ふぅ…」と一息ついた所で。
「…なぁ、もしかしてまた何か悩んでるのか?」
「ぶふっ!!!」
突然の不意打ちに、美琴はお茶を吹いてしまった。
さすがに上条も、美琴に元気がない事くらいは分かってしまうのだ。
「で、どうなんだ? 俺に原因があるなら何でも打ち明けてくれ。
…美琴を悲しませるなんて、自分で自分を許せねーからさ」
「~~~っ!」
その言葉だけで、泣きそうになる程に胸がいっぱいになってしまう。
本当に、我ながらチョロすぎると思う美琴である。
しかしここで「アンタの事が好きすぎるのが悩み」などと言ってしまうのは、
何か負けた気がするし癪だ。だから美琴は、モジモジしながら言葉を濁す。
「た、確かにアンタが原因かって言われれば…否定はできないけど……
だ…だからってアンタが悪い訳とかじゃ…ないし……そんなに気にする事でも…
その………ごにょごにょ…」
「美琴?」
真っ赤にした顔を下に俯かせて、モジモジごにょごにょする美琴に対し、
上条は心配するかのように、美琴の顔を覗き込む形で下から見上げる。その瞬間。
バヂヂィッ! 「おぅわっ!?」
美琴から照れ隠し【でんげき】が飛んできた。
美琴と付き合っている以上、上条も慣れたもので、ごく自然に右手をかざす。
「み、美琴…さん?」
「ううう、うっさい馬鹿! 何でもないって言ってんでしょ!?
『アンタの事が好きすぎるのが悩み』だなんて、恥ずかしくて言える訳ないじゃない!
ちょっとは察しなさいよもう! ……………………あっ」
と、恥ずかしくて言えないような事が、思わず口を衝いて出てしまう美琴。
それに対し上条は。
「…えっと……それなら俺も悩まなきゃいけなくなるんですが…
俺も美琴の事、好きすぎる訳だし………? え、あ、ちょ、美琴っ!?」
突発的に悩みをぶち撒けた事で、先程よりも更に赤面する美琴を目の前に、
ばつが悪そうに頬をかきながら、精一杯のフォローをする上条なのであった。
そして気がつけば、美琴は上条に抱き付いていた。
ちなみに二人は、このあと滅茶苦茶『おたのしみでしたね』したのでした まる
はいはい良かったね。じゃあもう閉会閉会。