とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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そのフリーダムさは父親譲りにつき

その酒癖の悪さは母親譲りにつき の続編です。



「はああぁぁぁぁぁ………」

のっけから景気の悪そうな深い溜息を吐いたのは美琴である。
彼女は今、考え事をする為に一人で喫茶店に入り、ロシアンティーを注文した所だ。
ではそこまであからさまな溜息をする程の考え事とは一体、何なのだろうか。

(ああああああもう!!! まさか私があそこまでお酒に弱くて…し、ししししかも!
 あ、ああ、あの、あの馬鹿にだ、だ、抱きついて、そそそその上キっ…!!!
 ……………キス…とか…つ、次にアイツに会った時、どんな顔すればいいのよ~~~!!!)

笑えばいいと思うよ。
美琴は自分が行ってしまった奇行に激しく後悔し、頭を抱え、
真っ赤になったばかりの顔をブンブンと左右に振った。

美琴は先日、白井、初春、佐天ら三人【おなじみのメンバー】とアイスクリームショップへと出かけた。
そこで佐天の注文したラムレーズンを一口食べて、有ろう事か酔っ払ってしまったのである。
勿論、店側も客層を考えてアルコール分など飛ばしていたのだが、
美琴に強い妄想力【パーソナルリアリティ】によりプラシーボ効果が働いてしまい、
しかもそこへ運の悪い事に、その状況で上条が通りかかってきやがったのである。
その後の美琴の反応を端的にまとめると、「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」
「当麻は私のなんりゃからっ! 誰にもあげたりしらいんだからねぇっ!」
「んふふ~、当麻当麻当麻~♡」「ねぇ、当麻ぁ。チューしよ? チュー」
「隙あり♡」「えっへへ~! 焦らされてやんの~♡」とまぁ、こんな感じだったのである。
美琴にはその記憶など全くないが、後日『るいぴょん』と名乗る者や、
風紀委員の守護神が、その時の動画を拡散したのだ。
美琴はその動画を観て自分の痴態を初めて知ったのだが、それは周囲の者も同様である。
常盤台の超電磁砲【ゆうめいじん】である美琴の噂は、その動画と共に広まってしまった。
常盤台中学内でも『あの御坂様がこのように心を許す殿方とは一体どなたなのかしら』と、
美琴だけでなく上条にも矛先が向けられているのだ。
ただでさえ普段の素直になれない性格とは全く違うキャラで上条に思いっきり甘えてしまい、
恥ずかしいやら恥ずかしいやら恥ずかしいやらで、いっぱいいっぱいだと言うのに、
そこへ来てのこの騒動。一人になって、冷静に考えたい気持ちも分からなくはない。

「お待たせいたしました。こちら、ロシアンティーになります」
「あっ! ありがとうございます」

そんなタイミングで、店員さんが注文の品を運んできた。
ロシアンティーの甘酸っぱくも『芳醇』な香りが鼻をくすぐる。

「…とりあえず、しばらくはアルコールの入った食べ物・飲み物には要注意ね」

美琴はそう一言呟きながら、ジャム入りの紅茶を口に含んだ。
申し訳ないが、完全なるフラグにしか見えないのである。


 ◇


「はああぁぁぁぁぁ………」

のっけから景気の悪そうな深い溜息を吐いたのは上条である。
彼は今、考え事をしながらも買い物を済ませ、一息つく為に喫茶店に入った所だ。
ではそこまであからさまな溜息をする程の考え事とは一体、何なのだろうか。

(あの後…白井を始めとした色んな人から殺意を向けられるし、
 そうじゃなくても質問攻めにされるし、偶然動画を観たインデックスから噛まれるし、
 って言うか美琴は本当はどう思ってんだ? 酔ってたとは言えあんな………)

上条は先日、偶然通りかかった某・アイスクリームショップの近くで、
酔っ払った美琴に抱きつかれて以下略。
その騒動を切っ掛けに、上条の不幸は一段と大きくなった。
何が起こったのかは、まぁ、大体想像して頂いた通りだ。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっと……」

店員がお冷を持って話しかけてくる。上条は慌ててメニューに目を向けた。

「…ロシアンティーなんてあるんですね」
「はい。当店ではピュレワインのジャムを使用しております。
 勿論、学生さんでも美味しく頂けるように加熱処理を施してありますが」
「へぇ~…そうなんですか」

上条は「もし美琴がそんな物を飲んだら大変な事になるんだろうなぁ~」などと思いつつ、
一番安いアイスコーヒーを注文した。と、その時だ。

「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」

つい先日聞いたような掛け声と共に、誰かが抱きついてきた。
いや、それが誰かなど分かりきっている。
上条の顔色が、血流が増加して赤くなり、同時に血の気が引いて青くなる。

「ミミミミミミコっちゃんっ!!!?」


 ◇


紅茶を一口飲んだ美琴は、そのピュレワインの芳醇な香りにやられ、
一瞬でふわふわと夢心地になってしまった。フラグ立てから回収まで、僅か1ターンである。

「ありぇ~? にゃ~んか気持ちいい気がしゅりゅ~!」

それはそうだろう。何と言っても酔っ払ってらっしゃるのだから。
この状態で上条に会えば、先日の二の舞になる事だろう。
だが同じ学園都市の敷地内と言っても、敷地面積は東京都の3分の1程の広さがある。
こんな小さな喫茶店で鉢合わせる可能性など―――

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっと………ロシアンティーなんてあるんですね」
「はい。当店ではピュレワインのジャムを使用しております。
 勿論、学生さんでも美味しく頂けるように加熱処理を施してありますが」
「へぇ~…そうなんですか」

―――鉢合わせる可能性など意外と100%だったりする。
背後から聞き慣れた声。どうやら店員さんとのやり取りのようだ。

「じゃあ…アイスコーヒー一つお願いします」
「はい。かしこまりましひゃわっ!!?」
「にゃあああ! 当麻だあああぁぁぁ!」
「ミミミミミミコっちゃんっ!!!?」

注文を聞いた店員が一礼しようとしたその時、美琴は既に上条へと突撃していた。
上条の胸に飛び込んだ美琴は、ものっそい幸せそうな笑顔でムギュ~ッと抱き締めてくる。

「あ、あのお客様っ!?」
「あ、い、一応知り合いです! 大丈夫ですんで!」

店員もあまりのマニュアルに載っていない事態にわたわたとするが、上条がフォローした。
いくら何でもこの状況で、美琴に対して他人のフリは通用しない。
ならば下手に店員に介入されるより、早々に立ち去って頂いた方がまだマシというものだ。
店員は「そ、そうでしたか。失礼いたしました…」と若干納得のいっていない顔をしながらも、
キッチンの方へと引っ込んでいく。が、当然ながらそれで問題が解決した訳ではない。

「うにゅ~! 当麻の体、あったか~い♡」

美琴は相も変わらず訳の分からない事を口走りながら、思いっきり胸を押し付けてくる。
男として大変に嬉しい状況ではあるのだが、先日の事を思うと、
これ以上美琴と変な噂が立つような事をするのは避けたい。


「あ、あのですね美琴さん!?
 とりあえず、ちょ~っとだけでも離れて頂けるとありがたいのですが!」

すると美琴は悲しそうな顔をして一言。

「……当麻は…私の事…嫌い…?」
「い、いや…嫌いって訳じゃないけど…」
「じゃあ好き…?」
「ま、まぁ……」
「だったらずっとこうしてるっ♡」

そして今度は満面の笑みを浮かべる。
酔っているせいなのか元々こういう性格なのか、コロコロと表情が変わる美琴である。
上条も思わず「可愛い…」なんて思ってしまう。しかし結局また美琴は抱きつき、
離れようとする上条の思惑とは裏腹に、振り出しに戻ってしまった。

「お待たせいたしました。アイスコーヒーです。
 それからそちらのお客様のロシアンティーも、こちらのテーブルに置かせて頂きますね」
「え、あ…はい、ありがとうございます……って言うか美琴、やっぱりこれ飲んでたか…」

店員が上条の注文した品を持ってきた。
しかも気の利いた事に、美琴の紅茶も持ってきてくれるというサービス【ありがためいわく】付きである。
そして美琴の飲んでいたという紅茶を見て、この惨状にも納得した。
不幸中の幸いとも言うべきか、今回は前回と違って周りに知り合いがおらず、
佐天のように拡散される恐れも白井のように襲われる恐れもないが、
しかしそれでもやはり、美琴には離れて頂かなければならない。だって放って置けば、

「ねぇ、当麻ぁ~……頭ナデナデしてぇ…?」

このようにして甘えがエスカレートしてくるから。

「ダ、ダメだ! ナデナデはナシ!」
「や~あぁ~! ナデナデしゅるの~!」
「ダメなモノはダ~メ! いいから離れなさい!」
「…ナデナデしてくれないと離れてあげないもん」
「うっぐっ…!?」
「じゃあ代わりに、お腹ナデナデでもいいわよ?」
「あれっ、おかしいな!? 代案の方がハードル高いよ!?」
「お腹ナデナデしてくれたら~…ご褒美にチューしてあげちゃう♡」
「じゃあしませんよっ!? 尚更しませんよそんな事!」
「え~!? しないと罰としてチューしちゃうかりゃねぇっ!」
「どっち道チュールート確定っ!!?」

分かっている。これは美琴が酔って絡んでいて、上条は必死でそれに抵抗しているという事に。
しかしそれが分かった上で、改めてただのバカップルにしか見えない。
だが当の上条は割と必死で、何かにつけてチューしようとする美琴をいなしつつ、
どうすれば離れてくれるのか思案する。だが解決策が見つからない。
この様子では、仮にナデナデした所で「もっと~♡」とか言ってくるのは目に見えている。

「なぁ、離れてくれよ美琴~…チューとか以外で…」
「じゃあ……『好き』って言って…?」
「さ、さっき言いましたよね!?」
「言ってない! ちゃんと言ってないもん! 当麻の口から『好き』って聞いてないもん!」

もん、ときたか。
どうやら美琴は、上条から直接『好き』と言われる事をご所望のようだ。
確かに先程は、美琴の「じゃあ好き…?」という問いに対して、
「ま、まぁ……」という曖昧な返事しかしていない。
正直、死ぬほど恥ずかしい。しかしそれで終わるなら、言わなくてはならない。
上条は過去に例が無いくらいに赤面し、そして―――

「す……好き、だよ…美琴の事……」
「私も好きっ♡ ―――」

上条の告白(?)に、美琴も応える。そしてそれと同時に。

「私も好きっ♡ ―――チュ♡」

口付け。
先日のようなニアミスではない。唇と唇が重なる『マジなヤツ』である。
だが上条にはキスに対して、テンパる間も頭が真っ白になる間も余韻に浸る間も無かった。
美琴の告白と同時に起こったのは、キスだけではなかったのだ。
喫茶店の入り口では、新たに来店してきた3名の客の姿が。

「全く…佐天さんと初春のおかげで、ここ数日お姉様がどれだけ苦労を………あら?」
「だ、だからそれはもう何度も謝ってるじゃないですかっ! ………って、ん?」
「た、確かにやりすぎちゃったかも知れませんね…でも、だからこそこうして、
 白井さんと佐天さんと私で、これから御坂さんにどうお詫びするか話し合い………え?」

仕方ないよね。上条さんは不幸だから。










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