三沙神 小兎
カミー=ジョナサン | の続編です。 |
「全くもう! この前はエライ目に遭ったわよ!」
「そんな事言って~、本当はいい思いをしたんじゃないんですか?」
そんな会話をしながら歩いているのは、ご存知、美琴と佐天である。
美琴は顔を真っ赤にしながらも、佐天にプリプリと怒っている最中だ。
「そ、そそそ、そんな訳ないでしょっ!? 本当に大変だったんだから!
アイツが女装してるなんて知らなかったし、
そのおかげ…もとい、そのせいであ…あんにゃことしちゃひゃうしぃ…!」
思い出しただけでも顔が爆発しそうになる美琴。
実は先日、美琴はひょんな事から女装した上条
(上条の趣味ではなく、一端覧祭のイベントに出る為)とプチデートをするハメとなった。
ただし美琴はその相手が上条だとは気付いていなかった為に、同じ女性として接してしまったのだ。
結果、手は握るわ自分の胸に上条の顔を突っ込ませるわ
同じフォークでパンケーキを「あ~ん」し合うわクリームの付いた上条の指をペロッと舐めるわ
体のサイズを測ろうと上条の体中をアチコチ触るわ上条の目の前で試着するわと、
それはもう、色々とやらかしてしまっていたのだ。
「あ~もう! 何やっちゃってんのよ、あの時の私~~~!!!」
「おっ? おっ!? その様子だと、相当面白い事があったみたいですね!
何があったんですか!? ねぇねぇ何があったんですか御坂さん!?」
あの日、上条(女装中)と美琴がデートするように仕向けたのは佐天だが、
しかし彼女は実際に二人がデートしている間の出来事は知らない。
なので何があったのか非常に興味があり、こうやって美琴本人から、
情報を根掘り葉掘り引き出そうとしている。ぶっちゃけウザい。
「~~~っ!!! し、知らない知らないっ! はい、この話はもうおしまい!」
当人である美琴が知らない訳はないが、
これ以上深く突っ込まれると色々と危ない(ふにゃー的な意味で)ので、
ここは誤魔化す事に決めた美琴。佐天はブーブー言ってくるが、知ったこっちゃない。
しかしここで、佐天が思わぬ提案をしてきた。
「むー…! ………あっ! じゃあ今度は御坂さんが女装してみるってのはどうですか!?」
何がどうなって『じゃあ今度は』なのか、全く以って理解不能だが、
それ以前にまずツッコんでおかなければならない箇所が一つある。
「いや、あの…佐天さん…? 女装も何も、私、元から『レディ』なんですけど…?」
美琴は『レディ』よりも、どちらかと言えばまだ『ガール』寄りなのだが、
そこはちょっと大人びたいお年頃だったりするのだろう。
「あっ。確かにそうですね、すみません。この場合は女装じゃなくて変装でした」
美琴は髪も短く、性格も男らしい部分がある。
身体能力も男子顔負けな程に高く、胸も同い年の女の子に比べると、まぁ…頑張れだ。
しかしそれでも誰がどう見ても、彼女の事は女性として認識するだろう。
流石に『女装』は失礼だったと謝る佐天。だがしかし、すぐに気を取り直す。
「それでですね、まずはエクステつけて髪をロングにして…
いや、いっその事、黒髪のウイッグとかにしちゃいましょうか!
それから胸にパッドも詰めて、少しメイクもした方がいいですかね?
あっ! 勿論、制服も着替えますよ! そのままじゃ常盤台中学丸出しですから!」
「ちょちょちょ、待って待って佐天さん!
何か私の知らない所で勝手に話が進んでるんだけど!?
大体、何で私がそんな事しなくちゃならないの!?」
佐天が先ほど口に出した、美琴の女装…もとい、変装計画。
どうやら冗談で言った訳では無さそうだが、しかしそもそも美琴本人は承諾していない。
しかし佐天はその反論(と言うよりも、美琴にとっては当然の意見)も想定の範囲内で、
わざとらしく大きく溜息をつきながら、諭すようにその理由を語った。
「はぁ~~~……いいですか、御坂さん。
この前、女装した上条さんと御坂さんが一体何をしたのか、当然ご存知ですよね?」
「うっ…!」
無理矢理思い出さされて、再び赤面してしまう美琴。
一体何をしたのかは先ほど説明した通りだし、当人である美琴も当然ご存知だが、
佐天には何が起こったのかご存知ではない。
しかし美琴の様子からして、『何があったのか』は分からずとも、
『何かがあった』のは一目瞭然なので、容赦なく煽ってくる。
「何だかんだあって御坂さんがドキドキするような体験をした事は分かってます。
なら今度は、御坂さんが変装する事で、逆に上条さんをドキドキさせられるって事ですよ!」
「っ!!?」
佐天の言葉には何の根拠も無い。
しかし上条への高感度が上限の100%を余裕で超えてしまっている美琴には、
『上条をドキドキさせられる』という響きは、とても魅力的に脳へと届いた。その結果。
「べ、べべべ別にああ、あの馬鹿をド…ドドド、ドドキドキキドキドとか、
そんなの全然させる気は全然ないけど、で、でもたまには、
今までと違う自分になってみるのもいいわよね!? たた、例えば変装してみるとかっ!
で、で、でもそしたら、ちょろっとドッキリでも仕掛けるつもりで、
変装したままアイツに会ってみたりとかするのも悪くないって言うか!!?」
長々と言い訳をしながら、まんまと佐天の口車に乗ってしまう美琴であった。
目に見える罠だと分かっていたはずなのに。
◇
「すみません上条さん! 突然呼び出したりして!」
「いや…それは別にいいんだけど……えっと…」
佐天から着信があり、「用があるから」と呼び出され、待ち合わせ場所にやってきた上条。
しかし待ち合わせ場所にいたのは佐天だけではなかった。その隣には。
「こ、こちらの女性は、一体どこのどちら様でせう…?」
「あ、え、わわ、私っ!!?」
上条が佐天から視線を横にずらすと、そこには黒髪ロングでメガネをかけた、
真面目っぽい女の子がいた。佐天の知り合いなのだから中学生だとは思うが、
その胸はとても中学生とは思えない程に特盛である。服も何か全身大人っぽくコーディネートしており、
年上好きな上条でも、ほんのりドギマギしてしまう程だった。
もしかしたら、どこか名家のお嬢様なのかも知れない。
上条がそう思ってしまうくらい、気品という気品が溢れ出ている。
しかし何故か、その女性は上条以上にドギマギしていた、そして何故か佐天は笑いを堪えていた。
「ぷぷっ…! こ、こちらはあたしの学校の先輩で、名前はええと……
あっ! 『三沙神【みさかみ】 小兎【こと】』さんです!」
「ぶふーっ!!!?」
三沙神は盛大に吹き出した。自分の名前に何かコンプレックスでもあるのだろうか。
「へぇ~、綺麗で可愛い名前だな…じゃあ改めてヨロシクな三沙神。
俺は上条当麻。佐天とはまぁ、友人だ」
「あ、あははははは…よよよ、ヨロシクお願いいたしますね、かっ!
か…かみ、上条……さん…」
三沙神は『上条』という呼び名が相当言い慣れていないのか、
顔を真っ赤にしてかなり口ごもってしまう。
確かに三沙神と上条は『初対面』だが、普通は名前を言うだけでどもってしまうものだろうか。
「上条」など、さほど珍しい苗字でもないし、発音がしにくいとも思えないが。
ついでに、その様子を妙にニヤニヤしながら見つめる佐天も気になって仕方がない。
「どうしたんだ…? 佐天…」
「いえいえ! 何でもありません♪
ところで実は今日、御坂さんも一緒に来る予定だったんですよ~」
「なっ!!?」
『御坂』の名に、三沙神が過剰に反応した。
だが上条は特に気にした様子もなく、佐天に相槌を打つ。
「そうなんだ。美琴は何で来れなかったんだ?」
「さぁ…ただ、何だか『今までと違う自分になってみる』とか言ってましたけど」
「ささささ佐天さんんんんんん!!!?」
さっきから三沙神のテンパり具合がハンパない。まるで『どこかの誰か』を見ているようだ。
美琴が言ったという『今までと違う自分』発言に、上条は首を捻った。
「何だそりゃ? 自分探しの旅にでも出たのか?」
「そんな訳ないでしょっ!!? ……あ、その、そんな事はないではありませんか…」
どうして美琴の事を三沙神が否定するのか。
そんな所にツッコむ間もなく、佐天がうんうん頷きながら、こんな事を言ってきた。
「自分探しですか…あー、確かに最近の御坂さん、ちょっと悩んでましたからねぇ」
「え…あの、佐天さん…?」
三沙神は嫌な予感がしたのか、佐天の発言を止めようとする。
何を言う気なのかは分からないが、どうせロクな事ではないだろう。
「御坂さん…最近、気になってる人がいるらしいんですよ」
「佐天さああああああああああああああん!!!!?」
予感は的中した。
今この場に『美琴がいない』のをいい事に、この佐天、やりたい放題である。
「み、美琴に!?
あー…そりゃまぁ、美琴だってそういうオトシゴロなんだし、不思議じゃないけど…」
しかし何だか、胸の奥がチクリとする上条。この小さな痛みは何なのだろう…?
「ちなみにですけど…上条さんは御坂さんの事とか、どう思ってます?」
「えっ、俺っ!?」
「っ!!!」
三沙神も興味のある話題なのか、佐天と追い立てるのは一旦置いといて、
めちゃくちゃ聞き耳を立ててきた。上条は頭をポリポリとかきながら。
「そう…だな。この前……あー、三沙神は知らないだろうけど、
俺と美琴ってちょっとしたデートみたいな事をしたんだよ」
「へ、へぇ~…か…かみ、じょ…上条さん…は、デートしたつもりだったんですか…」
三沙神は真っ赤な顔を俯かせて、モジモジしながら相槌を打つ。
どういう訳か、『デート』という言葉が琴線に触れたようだ。
ちなみに上条の語る『ちょっとしたデート』とは、件の女装した時の事を言っているのだが、
知り合いに知られるのも恥ずかしいのに『初対面』である三沙神にそんな事を言える訳もなく、
上条は自分が女装したくだりの話は、はしょっている。
「その時にすごくドキドキしてさ…いや、あの時は『ちょっと特殊な環境』だったから、
美琴もいつもより大胆になってただけなんだろうけど」
『ちょっと特殊な環境』とは、つまり上条が女装している事に気付いていなかった美琴が、
上条の事を女性として扱ってしまい、手を握ったり自分の胸に上条の顔を突っ込ませたり
同じフォークでパンケーキを「あ~ん」し合ったりクリームの付いた上条の指をペロッと舐めたり、
体のサイズを測ろうと上条の体中をアチコチ触ったり上条の目の前で試着した事である。
その辺の事情をまだ聞かされていない佐天は、
「御坂さん、大胆になって一体どんな事をしたんですか!?」と問い詰めたかったが、
ここには『美琴はいない』し、上条の話の腰を折るべきタイミングでもない為、
珍しくそのまま黙って聞いていた。
「それを差し引いても、『あー、改めて見ると美琴ってスゲー可愛かったんだなー』
って思ったよ。だから美琴に気になる人ができたんなら、
思いっきりアプローチすれば、誰だって」
上条が語っている途中だが、急に『ボンッ!』と音を立てて三沙神の頭から煙が立ち上った。
このリアクション、な~んか見覚えがある気がする。
「お、おい大丈夫か三沙神!?」
「………………………ぴゃー…」
大丈夫ではないようだ。
と、その時である。ふいに佐天が『パン!』と拍手を打ってきた。
「さてと! じゃあ上条さん。
あたしはこれから急用ができる予定ですので、三沙神さんの事をお願いしますね!?」
「え………ええええええええぇぇぇぇっ!!!? この状態で!!?」
寝耳に水な上にいきなりな提案に、上条は大声で叫んだ。
たった今、目の前で先輩が顔を爆発(?)させたというのに、そのアッサリした反応は何なのか。
しかも『急用ができる予定』というのも日本語的にかなり怪しい。何かを企んでいるのは明白だ。
「え、いや、そもそも『用がある』呼び出してきたのは佐天だよな!?」
「だから、これから急用があるのに三沙神さんを一人にできないから、
あたしの代わりに、上条さんに三沙神さんとデート…お相手をしてもらおうかと♪」
今、思いっきりデートって言った佐天さんである。
佐天は満面の笑みを浮かべながら三沙神の髪をつかみ、そのまま何の躊躇も無く剥ぎ取った。
一瞬何が起きたのか分からなかった上条だったが、それがすぐにカツラなのだと理解した。
そしてそのカツラの下から見えたのは…
「っっっ!!!!??!!?!?!!? みみみみ美琴さあああああああああん!!!?」
それは毎日見ている短い茶髪。見間違う筈もない、御坂美琴の髪だった。
そしてよくよく見てみると、メガネとメイクはしているものの、その顔は確かに美琴の顔だ。
ロングな黒髪と豊満な胸というだけで、『美琴ではない』と上条の脳は解釈していたのである。
そして固まる上条と爆発したまま放心する美琴に対し、
佐天は「にしし」と笑い、こう言いながら去って行った。
「じゃ。あたしは帰るんで、お二人はデート楽しんできてくださいね!
上条さんは『スゲー可愛かった』って思った御坂さんと、
そして御坂さんは、『最近、気になってる人』でもある上条さんとね♪」
最後の最後に、とんでもない爆弾をポイ捨てしながら。