とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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これが風邪を舐めたらいけないという典型(?)例




上条は「はぁはぁ」と荒い息を吐きながら、虚ろな瞳で天井を見上げていた。
体は熱く動悸も激しい。汗ばんでいるせいで、制服が張り付き気持ちも悪い。
咳とくしゃみと鼻水が止まらず、吐き気もする。これは勿論。

「…100パー風邪ね。お医者さんには行ったの?」

体温計を見ながら美琴が言う。
39度3分。どうやら上条は、たちの悪いウイルスにやられてしまったらしい。

「ぜぇ…ぜぇ……ざっぎ行っでぎだ……第七学区の…ゲホゲホッ! いづもんどごの…」
「ああ。ゲコ太先生の所ね。ってか、すごい鼻声ねアンタ」

美琴の中では、カエル顔の医者はゲコ太先生として認識しているようだ。

「薬…貰っだがら……先生は…一応入院じでげっで言っでだげどへ…へ……
 へっくしょいっ!!! う~、寒っ! 入院ずる金なんで無いがら断へ…へ……
 へっ!!! …………あ~、もう! ぐじゃみ途中で止まっだよ気持ぢ悪りぃ!」
「……意外と余裕あんじゃないの」

さて、ここらで状況を説明させて頂こう。
ここは美琴の部屋…つまりは常盤台中学学生寮・208号室だ。
朝から尋常じゃないくらい体がダルかった上条は、先に上条本人が言ったように、
冥土帰しのいる【おなじみの】病院まで行って診察してもらった。
冥土帰しも風邪だとは言っていたが、しかしまだ熱が上がるだろうとの事だったので、
彼は今夜だけでもと入院を勧めた。だが万年金欠の上条には、風邪如きで入院する金など無い。
そこで薬だけ貰って自分の寮へと帰ろうとしたのだが、その矢先に力尽きて倒れ、
そこをたまたま通りかかった美琴が、自分の寮まで運んだ…という経緯で、現在こうなっている。
ちなみに、ルームメイトの白井は今ここにはいない。美琴の携帯電話に、
『本日は風紀委員の強化合宿がありまして、申し訳ありませんが帰宅できませんの。
 お寂しいでしょうが、黒子の使用済み下着を置いておきますので、
 それを黒子だと思ってクンカクンカしたりペロペ』
というメールが入っていたので、少なくとも明日にならなければ帰ってこないだろう。
ついでに言うとメールが途中で途切れたのは、美琴が最後まで読まずに消去したからである。
そして置いてあった白井の使用済み下着は、とっとと洗濯機の中に放り込まれた【なげすてられた】。
本来ならば上条が住んでいる学生寮に電話して、居候組【インデックスやオティヌス】に連絡を取るべきなのだろうが、
せっかくの二人っきり、しかも確実に邪魔が入らないというこの貴重な時間を手放すのは惜しい。
故に美琴は、ちょっとだけ罪悪感を胸に秘めながら、上条を看病しているのである。

「う~…服がベダ付いでマジで気持ぢ悪い……ぢょ、脱ぐわ」
「ぬぬぬぬ脱ぐって! 脱ぐってえええええ!!!」

しかし美琴は、看病というビッグイベントを舐めていた。
上条はベッドから上半身だけを起こし、汗でびっしょりになった制服を脱ぎ始めたのだ。
普段は上条がラッキースケベを体験する側なのに、この特殊な状況ではそれが逆になる。
美琴は両手で自分の顔を覆いつつも、指と指の間はしっかりと開き、
見ないフリをしながらも上条の半裸姿をしっかりと見ている。
だが次の瞬間、美琴はわざわざ指の隙間から覗かなくても、ガッツリとその姿を凝視する事態となる。


「……ごめん美琴…ぢょっど体を拭いでぐれるどありがだいんゲーッホゲホゲホ!」
「みゃうわっ!!?」

まさかの汗拭きイベント発生である。このままではヘブン状態になること請け合いだ。

「こここ、こ、こう、かしらっ!!?」
「うー…ありがど…」

なのに、やるっていうね。
美琴はすぐさま乾いたタオルをタンスから取り出し、上条のその大きな背中を優しく拭いていく。
看病の範疇なのだから仕方ない…そう自分に言い聞かせ、自らの羞恥心と戦いながら。
だがここで、美琴はとんでもない事に気付く。

「っ! ま、ままままさか…まさか前もっ!!?」
「……いや、流石に前は自分で拭げるがらいいよ」
「あ、あぁそう…」

露骨にガッカリする美琴。どんだけ上条さんの胸板をふきふきしたかったのか。
しかし汗でびっしょりに濡れた上条のワイシャツを眺めると、再び疑問が浮かび上がる。

「……ねぇ、着替えどうするの? 制服【これ】はもう、洗わないと着れないし」
「…あっ! ゴホッ! ぞうだっだ…」

上条は病院の帰りにぶっ倒れた。つまり着替えなど持っている訳がない。
残念だが、ここはやはりインデックスに連絡して、上条を引き取ってもらうしかないか…
と美琴が思った瞬間だった。上条の口から、とんでもない発言が飛び出してくる。

「…本当に悪いんだげど、ぞの……美琴のバジャマ貸じでぐんない…?」
「ま゛っ!!!!!」

予想外すぎる提案。
確かに、二人は致命的に身長差がある訳ではなく(上条は168㎝、美琴は161㎝)、
パジャマなら多少はダボっとしているし、美琴の胸も……その、なんだ。
どちらかと言えば『男性に近い』ので、少しきついのを我慢すれば上条でも着られるだろう。
だが、当然ながらそれはかなり色々とギリギリである。
熱で意識がもうろうとしているのかは知らないが、どうやら冷静な判断が出来なくなっているようだ。
普段の上条ならば、まず間違いなくしないであろう発言である。
美琴も美琴で、いくら相手が意中の人であろうとも、流石にパジャマを貸すなんて事は

「お、おお、おき、お気に入りの奴なんだから、だ、だ、大事に着なさいよね!」

ああ、うん。どうやらこちらも冷静な判断が出来ていないご様子だ。
美琴は件の花柄パジャマを上条に差し出す。本当に、いいのかそれで。
そして上条は何の疑問も持たずに着替える。やはり少々サイズは小さいが、着れない事はない。
ついでに美琴はワイシャツだけでも軽く洗濯しようと洗濯機に持っていくが、
その道中、たっぷりと上条の汗【におい】が染み込んだワイシャツを、

「……すん…♡」

と嗅いだとか嗅いでないとか。もう一度言う。本当に、いいのかそれで。


 ◇


「う~…頭いでー…体だりー……」

花柄パジャマに身を包んだ上条は、
その情けない姿のまま横になっているが、一向に熱が引く気配はない。

「お薬飲んだ方がいいんじゃない?」

そう言いながら、美琴は上条の学生鞄から、今日貰ってきたという錠剤を取り出す。しかし。

「あー…これ食後に飲む奴だわ。今おかゆ作ってるから、飲むのはそれ食べた後ね」
「……食欲どが全然ないんでずが…」
「駄目よ! ちゃんと栄養取らなきゃ、治るもんも治らないわよ!?」
「ぞんな事言っでも……へ…へっくしょん!!!」
「あ~あ~、もう。大人しくしてなさい? 私が食べさせてあげるか…ら…?」


言いながら、その意味に気付く美琴。食べさせてあげるというのは、つまり。

「あ…あ~んで食べさせろって事おおおおおお!!!?」
「ずんまぜん…お手数おがげじまず……」

お約束である。
そして美琴はポワポワとしている間に、おかゆが完成した。

「ほ、ほほほ、ほら! ちゃ、ちゃちゃちゃんと、フ、フーフーもしてあげたわよ!
 と、ととっとと食べべなさいよっ!」

レンゲに一口分の卵粥を装い、フーフーして冷ました後、上条の口元へと近づける。
これも上条に薬を飲ます為である。別に好きでやってる訳じゃないんだからね、である。
しかしここで、本日何度目かも分からないアクシデントが起こった。

「うー……うー……」

上条が本格的に、熱に浮かされ始めたのだ。
これはマズい。一刻も早くおかゆを食べさせ、そして薬を飲まさなければ。

「これ! ちゃんとこれ食べて!?」
「うー……あー……」

上条の口に、無理矢理おかゆを流し込む美琴。

「…どう? 美味しい?」
「あー……かゆ…うま…」

おそらく「おかゆ美味い」と言っているのだろうが、
何だかどこぞのゾンビの日誌のようなうわ言になってしまった。
しかも飲み込む力がないのか、おかゆは上条の口から零れ落ちてしまう。

「ど…どうしよう…ちゃんと食べないといけないのに……」

これは困った。困ったが、打開策がない。
無理なく上条の口におかゆを流し込み、そして口から零さないように食べさせる方法。

「っっっ!!!!!」

いや、一つだけある。そして美琴もその方法に気付いてしまった。
だが本当にやるのか。やってしまっていいのだろうか。
そんな事は考えている暇はない。上条は刻一刻と、悪化の一途を辿っている。
あの冥土帰しが入院を勧める程、上条の容体は悪いのだ。だから―――

「……あむ…」

美琴は自分で作った卵粥を、上条…ではなく、『自分の口』に放り込む。そしてそのまま―――

「んっ…ちゅ」

直接、上条の口に流し込んだのだった。
恥ずかしいとか言っている場合ではなかった。ファーストキスとか言っている場合でもなかった。
意外とコイツの唇って柔らかいのねとか、なにこれドキドキしすぎて死んじゃいそうとか、
治ったら責任取んなさいよバカとか、もっとチューしたいとか、言っている場合でもなかった。
そしておかゆを食べさせ終わったら、同様の手順で薬も飲ませるのであった。


 ◇


数日後、美琴の看病のおかげか上条はすっかり全快していた…のだが。

「…100パー風邪だな。医者には行ったのか?」
「ぜぇ…ぜぇ……ざっぎ行っでぎだ……第七学区の…ゲホゲホッ! いづもんどごの…」

しかし今度は、美琴がたちの悪い風邪を引いてしまっていた。
どうやら上条の菌が移ったらしい。
その原因の心当たりなら、めっちゃある。しかもドデカイ奴が。
もっとも、熱に浮かされていた上条には、その時の記憶はないだろうが。

…と、美琴は思っていたのだが。

「あ…そ、その……それで、さ。俺も口移しでお薬とか飲ませた方がよござんすかね…?」
「ゲーッホゲホゲホゲホ!!! なっ! ななな、アン、アンタ何で覚えゲーーーッホ!!!」

美琴の熱が急激に上がったのは、言うまでもない。










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