とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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食蜂さんの大誤算 Ⅲ




放課後。本日も食蜂操祈【じょおうサマ】は不機嫌だった。
常盤台が誇る二人のレベル5の内の一人であり、
精神系最強の能力・心理掌握を持つ彼女を以ってしても、
己の精神を律する事が出来ない程、彼女はイライラしているのだ。
その原因となっているのは、もう一人の常盤台のレベル5・御坂美琴である。
食蜂は常盤台の校舎内ですれ違った美琴に一瞥しながら、心の中で毒づく。

(……何なのよぉ、あの幸福力に満ちた笑顔はぁ!?)

そう。たった今食蜂とすれ違った美琴は、それはもう見事な笑顔だったのだ。
実はこの後、「偶然通りかかった」という体で上条の高校を横切り、
そのまま上条をつかまえて下校デートにでも誘おうとしているのである。いつもの手である。
美琴が無意識に流している電磁バリアによって能力が防がれてしまう為、
その記憶を覗き見る事は出来ないが、そんな事をしなくても大体の事情が察してしまえるくらい、
美琴の浮かれきった気持ちは顔に出ていた。
認めたくはないが、その顔はかつて上条と接していた時の食蜂【じぶん】とソックリだったのだ。
しかしだからこそ、食蜂のイライラは募るばかりなのである。

(御坂さんったら、最近調子力が乗りすぎてるんじゃないのぉ!?
 いくら上条さんからの好感力が高いからって、彼女面するのはどうかと思うしぃ!
 もしかして彼の優しさを、誤解力で『自分が特別』とでも思ってんじゃないかしらぁ!?
 彼は女の子には誰にだって優しくしちゃうのにぃ!)

美琴は彼女面なんかしていないし、自分が上条の特別だとも思っていないが、
嫉妬に嫉妬を重ねてジェラシーのミルフィーユ状態になった食蜂には、そう見えるらしい。
ならば美琴よりも先に上条に手を出せば良いのではないか、と思う方も多いだろうが、
それが出来れば苦労はしないのだ。ある事情があって、食蜂は上条から認識されない状態にある。
なのでどれだけイライラしようとも、美琴が上条にベタベタするのを見ているしかないのだ。

(けど何もしないってのは、それはそれで不快力が上がっちゃうのよねぇ……
 でも御坂さんには私の能力は効かないしぃ、かと言って上条さんを洗脳する訳には―――)

そう考えた所で食蜂は名案を閃き、そして立ち上がった。

(そうだわぁ! 何も洗脳しなくてもいいんじゃなぁい!
 要は上条さんの意識から、御坂さんへの認識力を取り除いちゃえばいいんだからぁ!)

どうやら何かしらの悪巧みを思いついた食蜂は、すぐにタクシーを呼び、
美琴よりも先に上条への接触を試みる。
ちなみにタクシーを呼んだ理由は、走ったところで美琴を追い抜けない事を、
食蜂が誰よりも一番分かっているからである。
しかしそれだけ努力したところで、きっと食蜂の思惑通りにはならないだろう。
前にも言ったかも知れないが、だってここは上琴スレだから。


 ◇


さて。タクシーのおかげで美琴の先回りに成功した食蜂だが、
校門近くで上条が下校してくるのを待ちながら、彼女は悩んでいる。
そのテーマは、「上条さんに、どんな誤認識を植え付けようかしらぁ?」である。
食蜂の狙いは上条が美琴を目視しても、それを美琴を認識させないようにする事だ。
ならば一番手っ取り早いのは、美琴を全く認識出来なくなり、存在その物も忘れてしまう事である。
皮肉にも、今の食蜂と全く同じように。しかしそうなると、美琴はどう反応するだろうか。
美琴の方は当然ながら上条を認識出来る。
これは先程も述べたように、美琴には心理掌握が通用しない為に仕方なくだ。
だがそうなると、美琴は一方的に上条に無視される形となる。
すると美琴はイライラして、「何、堂々とスルーしてくれてんのよアンタはあああああ!!?」と、
電撃…下手をすれば超電磁砲の一発でもお見舞いするだろう。
美琴側からすれば、そこでいつものように上条が右手で受け止めて、
「じょ、冗談だよ冗談!」と顔を引きつけながら反応すると思っているからだ。
しかし上条側からすれば冗談ではない。美琴を認識出来なかったばっかりに、
電撃か超電磁砲は直撃してしまう。それは命の危険を意味している。
ちょっとしたイタズラ心で上条が死に瀕してしまっては、それはイタズラでは済まなくなる。
ギャグ系ラブコメから急に誰得なシリアス展開になってしまっては、元も子もないのだ。
なのであくまでも、美琴は認識しなくてはならない。
つまり要するに、美琴の存在その物を全く認識出来なくなるのは危険だが、
御坂美琴という人物を別の何かだと認識させてしまえばいいのである。となれば。

(……そうねぇ…なら、御坂さんをネコだと誤認しちゃうってのはどうかしらぁ?)

食蜂が選んだのは、ネコであった。
学園都市には意外とネコが多い。これなら上条が美琴を見ても、
「おっ、ネコだ」くらいの反応しかしないだろう。
そしてスルーされたと思って美琴が超電磁砲を撃ってきても、上条ならばとっさに右手で防ぐ筈だ。
なにしろここは喋るゴールデンレトリバーやら喋るシャチやらが存在する学園都市だ。
超電磁砲を撃ってくるネコがいても、まぁかなりビックリはするだろうが不自然ではない。
と、そんな事を考えていたら。

「ふぃ~…今日も補習で帰るのが遅くなって不幸だー、っと」

分かりやすく状況を説明してくれながら、校舎から出てくる上条を発見する。
幸い、まだ美琴も到着していない。周りに邪魔をしそうな者もいない。これはチャンスだ。
食蜂は上条に向けてリモコンを構え、テレビのチャンネルでも変えるかのようにボタンを押す。

(ふっふっふ~♪ これで上条さんはぁ、御坂さんを見てもネコにしか見えなくなったんだゾ☆)

満面の笑みでほくそ笑む食蜂。しかしこれが原因で、
最悪な事態を引き起こす事になるとは、今の食蜂には知る由もなかったのだった。


 ◇


「たったった…!」軽快な足音がこちらに近付いてくる。
どうやら美琴が走ってきているようだ。これで偶然通りかかったと言い張るのだから、
ツンデレさんは面倒くさい。それに気付かない上条も上条ではあるが。

「あ、あれー? いつの間にか、アイツの学校の近くまで来ちゃったわー!
 ちょろっと散歩してただけなのに偶然だわー!
 でも来ちゃったものは仕方ないし、アア、アイツに挨拶くらいしてこうかしらー!?
 べべべ、別に変な意味とかは全然そんなのは無いんだけど、
 知り合いの学校に来て何も言わないで帰るのは、逆に失礼だしー!?」

盛大に独り言をぶちまけながら何か言っているよ、このお嬢様。
食蜂は曲がり角の影からその様子を見て、歯軋りしながら美琴を睨む。
色々とツッコミを入れたいところではあるが、
ここで出て行ったら計画も台無しなので、我慢する食蜂である。
そして思いっきり予防線を張った【まえフリをした】美琴は、当然のように上条に話しかける。
すると上条は、美琴の方を振り向き一言。

「おっ、ネコだ」
「………………は?」

上条からの訳の分からない返事に、美琴は顔をキョトンとさせる。
曲がり角の影からこの様子を見ている食蜂は思った。『 計 画 通 り 』と。
そう、ここまでは食蜂の思惑通りだったのだ。ここまでは。
しかしこの後の美琴の反応と上条の行動で、それが大きく間違っていた事に気付かされる。
美琴は見る見る内に顔を真っ赤にさせ、予想の斜め上を行く言葉を口に出したのだ。

「だ、だだ、誰が仔ネコちゃんだってのよっ!!?
 い、いき、いききなり歯の浮くような事を言ってんじゃないわよ馬鹿っ!!!」

「お馬鹿さんはどっちかしらぁ!?」と食蜂は思った。
上条への想いが美琴の自分だけの現実に影響を与えている事は、食蜂も知ってはいたが、
それにしても何という自分に都合の良い思い違いなのだろうか。
だがこの直後、その思い違いを助長するかのような行動を上条が取る訳で。

「ん~、可愛いなお前」
「ふにゃっ!!?」

突然、上条が美琴【ネコ】の頭を撫で始めたのだ。しかもそれだけではない。

「うりうりうりうり~」
「にゃ、にゃにゃ…」

今度は、人差し指で顎をクリクリした。けれども更にそれだけではない。

「おりゃ~! こしょこしょこしょこしょ~!」
「はぁっ! んっ、くぅ! らめ、そこは……ふぅん! ら、めぇ!」

脇腹をコチョコチョしたりもしやがった。
何だこれ。学校の校門前で、突然巻き起こるアブノーマルなプレイ。
風紀委員や警備員に通報されたら、上条は一発でお縄となるだろう。
だが当の本人である上条は、あくまでもネコと戯れているつもりなので暢気である。

「にしてもホントに可愛いな…ウチに連れて行きたいけど、スフィンクスがいるからなぁ」
「ちゅ、ちゅれへかえりゅっへ……わ、わらひににゃにしゅるつもりらろっ!」

美琴はふにゃふにゃしてて何を言っているのか分からなかったので通訳すると、
「つ、つれてかえるって……わ、わたしになにするつもりなのっ!」と言ったようだ。
まぁ、どっちみち上条には「にゃーにゃー」としか聞こえていないが。
そしてあまりにもこの美琴【ネコ】がにゃーにゃーと騒ぐ【なく】ので、上条は顔を綻ばせる。

「おー、何だ何だ? 元気がいいな、お前。腹でも減ってんのかな?」

そう言うと、学生鞄からコッペパン(インデックスのおやつ用に購買部で買ったらしい)を取り出し、
それを小さく千切って食べさせようとする。
しかしそれが限界だった。美琴ではなく、食蜂のである。
これ以上エスカレートさせてしまったら、何の為に美琴をネコと誤認するようにしたのか分からない。
イチャイチャさせないように能力を使ったのに、
能力のせいでイチャイチャさせてしまったら、本末転倒も甚だしい。
なので食蜂は、再び上条にリモコンを向けて能力を解く。

「ほら、あ~ん……………ん?」

だがほんの数秒遅かった。食蜂が能力を解いたのは、
上条が千切ったコッペパンの欠片を摘んだ指ごと美琴の口の中に入れた直後だった。
そしてそのタイミングで目の前のネコが美琴に変わった上条は、

「うわわわわっ!!! み、みみ、みこ、美琴っ!!? いつからそこにいたんだよっ!!?」

と頭を混乱させる。対して美琴は、

「ふみゃ……にゃあああああああああぁぁぁぁ」

とトリップしすぎて完全にネコ化してしまうのであった。


 ◇


後日。食蜂は上条に、あの時と同じ効果の能力をかけた。
つまり、特定の人物をネコと認識するという能力である。
しかしあの時の反省を活かし、今回はその相手を美琴ではなく食蜂【じぶん】にしたのだ。
上条が自分を認識出来なくても、ネコとしてなら認識出来る。
そしてその結果どうなるかは、この前の美琴の一件で実験済みである。

…ところが。

「おっ、ネコだ」

と食蜂【ネコ】に向かって一言残すと、上条はそのままスタスタと通り過ぎて行った。

「何でなのよぉ!!!」










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